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俺はドリンさんから渡された、重厚な封筒を手にしていた。
封筒には、金色の糸で刺繍が施されている。
中央には、獅子と鷲を組み合わせたような、立派な紋章が刻印されていた。
これが、王家の紋章というやつらしい。
「国王陛下が、俺に会いたい……ですか?」
俺が聞き返すと、ドリンさんは深く頷いた。
その顔色は、ここ数日で一番悪いように見える。
胃薬の小瓶を、命綱のように握りしめている。
「そうだ。お主の活躍……いや、『騒動』の報告は、王都にも届いている」
「グリフォンを手なずけ、ワイバーンを保護し、黒ダイヤモンドの熊を従える男」
「そんな規格外の存在を、国が放っておくわけがない」
ドリンさんは、絞り出すような声で言った。
「なるほど。王様も、動物がお好きなんですね」
俺は、ポンと手を叩いた。
そうに違いない。
国を治める王様だ。
きっと、王宮には立派な庭園や、珍しい動物を集めた動物園があるはずだ。
そこでの飼育方法や、動物たちの健康管理について相談したいのだろう。
前世でも、他園の動物園からアドバイスを求められることはよくあった。
これは、飼育員として光栄なことだ。
「分かりました。喜んでお受けします」
「うちの子たちも連れて行って、いいんですよね?」
「……ああ。むしろ、置いていかれる方が怖い」
「もし、お主がいない間に、彼らが寂しがって暴れでもしたら……」
「アリストンは地図から消滅するだろうからな」
ドリンさんは、遠い目をして呟いた。
何を大げさなことを言っているんだろう。
みんな、お留守番くらいちゃんとできるいい子たちなのに。
でも、せっかくの遠出だ。
家族旅行みたいで楽しいかもしれない。
「よし、みんな! 王都に行くぞ!」
「王様が、みんなに会いたいって言ってる!」
俺が別館の前で声を上げると、中庭でくつろいでいたみんなが一斉に顔を上げた。
『おうと? おうとって、なに?』
ルビが首を傾げる。
『ひろいところ? おいしいもの、ある?』
コロが尻尾を振る。
『ごしゅじんさま、王都といえば、流行の最先端ですよね!』
『わたしのこの美しい毛並みを、都会の人に見せつけるチャンスです!』
クマ子が、ピカピカの体をくねらせて興奮している。
『おでかけ……? わたし、とんでいきたい……』
ツバサが、空を見上げて目を輝かせている。
『(ぷるぷる!)』
ぷるんも、俺の頭の上で賛成のダンスを踊っている。
どうやら、みんな乗り気のようだ。
俺はさっそく、旅行の準備を始めることにした。
まずは、食料の確保だ。
王都までは、馬車で数日の道のりらしい。
その間、みんながお腹を空かせないように、大量のお弁当を作らなければならない。
「ガンツさんの鍋と包丁が、火を噴くぜ」
俺は市場へ走り、いつもの倍以上の肉と野菜、果物を買い込んだ。
馴染みの店主さんたちが、「また宴会かい?」と笑顔でオマケしてくれる。
別館に戻り、調理開始だ。
ルビに火加減を頼み、ガンツさん特製の漆黒の鍋で、大量のシチューを煮込む。
肉は、食べやすいように一口サイズにカットして、香草と一緒に焼き上げる。
パンもたくさん焼いた。
中には、甘い木の実のジャムをたっぷりと詰めてある。
「いいにおいー! つまみぐい、したい!」
ルビが鍋の周りをうろうろしている。
「ダメだぞ。これは明日からの分だ」
「我慢できたら、後でプリンを作ってやるからな」
『プリン! やった! わたし、いい子にする!』
準備は着々と進んだ。
その夜、俺は騎士団の隊長さんと打ち合わせをした。
彼らは、俺たちの護衛として王都まで同行してくれるそうだ。
隊長さんは、名前をベルドというらしい。
先日、空の鬼ごっこを見て引退を決意しかけていた人だ。
なんとか思いとどまってくれたようで、よかった。
「ユウ殿。馬車は、王家御用達の最高級品を用意させてもらいました」
「大型の魔獣用貨車も連結してあります」
「クマ子殿やツバサ殿も、快適に過ごせるはずです」
ベルドさんは、すごく丁寧な口調で説明してくれた。
俺のようなただの飼育員に、そんなに気を使わなくてもいいのに。
「ありがとうございます。助かります」
「でも、そんなに仰々しくしなくても、みんな歩くのは好きですよ?」
「い、いえ! それは困ります!」
「伝説の魔獣たちが、街道をぞろぞろと歩いていたら、他の旅人が心停止します!」
「どうか、馬車の中にお入りください! お願いします!」
ベルドさんが必死な顔で頼み込んでくるので、俺は了承した。
周りの騎士さんたちも、なぜか全員、俺の顔色をうかがっている。
どうやら、俺たちのことをVIP待遇してくれるようだ。
ありがたいことだ。
翌朝。
別館の前には、見たこともないような豪華な馬車が止まっていた。
白塗りの車体に、金の装飾が施されている。
それを引く馬たちも、立派な毛並みをした白馬だ。
その後ろには、クマ子たちが乗れるような、屋根なしの広い台車がつながれている。
ふかふかの藁と、高級そうな布が敷き詰められていた。
「うわあ、すごいですね。王様って、お金持ちなんだなあ」
俺が感心していると、ドリンさんが見送りに来てくれた。
彼は、俺の手を両手でがっしりと握りしめた。
「ユウ殿。頼むから、道中は大人しくしていてくれ」
「王都に着いても、決して、決して粗相のないように」
「わしの寿命と、胃袋のために、頼んだぞ……」
「任せてください。俺は、礼儀作法には自信があります」
「動物園でも、来園者への挨拶は基本でしたから」
俺が爽やかに答えると、ドリンさんはなぜか泣きそうな顔をした。
そして、ガレンさんとリーゼさんも駆けつけてくれた。
「ユウさん! 気をつけて!」
「お土産話、期待してますからね!」
「あ、もし王都で『ドラゴンの牙』とか手に入ったら、また見せてください……」
二人とも、すっかり俺たちの扱いに慣れたようだ。
俺はみんなに手を振り返し、馬車に乗り込んだ。
クマ子とツバサは、後ろの台車に嬉しそうに乗り込んでいる。
ルビとコロ、ぷるんは、俺と一緒に前の馬車だ。
「出発!」
ベルドさんの号令とともに、馬車がゆっくりと動き出した。
車輪が石畳を転がる音が、心地よく響く。
窓の外を流れるアリストンの町並みが、だんだん遠ざかっていく。
こうして、俺たちの王都への旅が始まった。
どんな珍しい動物に会えるのか、今から楽しみで仕方がない。
俺は、膝の上で丸くなったコロの頭を撫でながら、期待に胸を膨らませていた。
封筒には、金色の糸で刺繍が施されている。
中央には、獅子と鷲を組み合わせたような、立派な紋章が刻印されていた。
これが、王家の紋章というやつらしい。
「国王陛下が、俺に会いたい……ですか?」
俺が聞き返すと、ドリンさんは深く頷いた。
その顔色は、ここ数日で一番悪いように見える。
胃薬の小瓶を、命綱のように握りしめている。
「そうだ。お主の活躍……いや、『騒動』の報告は、王都にも届いている」
「グリフォンを手なずけ、ワイバーンを保護し、黒ダイヤモンドの熊を従える男」
「そんな規格外の存在を、国が放っておくわけがない」
ドリンさんは、絞り出すような声で言った。
「なるほど。王様も、動物がお好きなんですね」
俺は、ポンと手を叩いた。
そうに違いない。
国を治める王様だ。
きっと、王宮には立派な庭園や、珍しい動物を集めた動物園があるはずだ。
そこでの飼育方法や、動物たちの健康管理について相談したいのだろう。
前世でも、他園の動物園からアドバイスを求められることはよくあった。
これは、飼育員として光栄なことだ。
「分かりました。喜んでお受けします」
「うちの子たちも連れて行って、いいんですよね?」
「……ああ。むしろ、置いていかれる方が怖い」
「もし、お主がいない間に、彼らが寂しがって暴れでもしたら……」
「アリストンは地図から消滅するだろうからな」
ドリンさんは、遠い目をして呟いた。
何を大げさなことを言っているんだろう。
みんな、お留守番くらいちゃんとできるいい子たちなのに。
でも、せっかくの遠出だ。
家族旅行みたいで楽しいかもしれない。
「よし、みんな! 王都に行くぞ!」
「王様が、みんなに会いたいって言ってる!」
俺が別館の前で声を上げると、中庭でくつろいでいたみんなが一斉に顔を上げた。
『おうと? おうとって、なに?』
ルビが首を傾げる。
『ひろいところ? おいしいもの、ある?』
コロが尻尾を振る。
『ごしゅじんさま、王都といえば、流行の最先端ですよね!』
『わたしのこの美しい毛並みを、都会の人に見せつけるチャンスです!』
クマ子が、ピカピカの体をくねらせて興奮している。
『おでかけ……? わたし、とんでいきたい……』
ツバサが、空を見上げて目を輝かせている。
『(ぷるぷる!)』
ぷるんも、俺の頭の上で賛成のダンスを踊っている。
どうやら、みんな乗り気のようだ。
俺はさっそく、旅行の準備を始めることにした。
まずは、食料の確保だ。
王都までは、馬車で数日の道のりらしい。
その間、みんながお腹を空かせないように、大量のお弁当を作らなければならない。
「ガンツさんの鍋と包丁が、火を噴くぜ」
俺は市場へ走り、いつもの倍以上の肉と野菜、果物を買い込んだ。
馴染みの店主さんたちが、「また宴会かい?」と笑顔でオマケしてくれる。
別館に戻り、調理開始だ。
ルビに火加減を頼み、ガンツさん特製の漆黒の鍋で、大量のシチューを煮込む。
肉は、食べやすいように一口サイズにカットして、香草と一緒に焼き上げる。
パンもたくさん焼いた。
中には、甘い木の実のジャムをたっぷりと詰めてある。
「いいにおいー! つまみぐい、したい!」
ルビが鍋の周りをうろうろしている。
「ダメだぞ。これは明日からの分だ」
「我慢できたら、後でプリンを作ってやるからな」
『プリン! やった! わたし、いい子にする!』
準備は着々と進んだ。
その夜、俺は騎士団の隊長さんと打ち合わせをした。
彼らは、俺たちの護衛として王都まで同行してくれるそうだ。
隊長さんは、名前をベルドというらしい。
先日、空の鬼ごっこを見て引退を決意しかけていた人だ。
なんとか思いとどまってくれたようで、よかった。
「ユウ殿。馬車は、王家御用達の最高級品を用意させてもらいました」
「大型の魔獣用貨車も連結してあります」
「クマ子殿やツバサ殿も、快適に過ごせるはずです」
ベルドさんは、すごく丁寧な口調で説明してくれた。
俺のようなただの飼育員に、そんなに気を使わなくてもいいのに。
「ありがとうございます。助かります」
「でも、そんなに仰々しくしなくても、みんな歩くのは好きですよ?」
「い、いえ! それは困ります!」
「伝説の魔獣たちが、街道をぞろぞろと歩いていたら、他の旅人が心停止します!」
「どうか、馬車の中にお入りください! お願いします!」
ベルドさんが必死な顔で頼み込んでくるので、俺は了承した。
周りの騎士さんたちも、なぜか全員、俺の顔色をうかがっている。
どうやら、俺たちのことをVIP待遇してくれるようだ。
ありがたいことだ。
翌朝。
別館の前には、見たこともないような豪華な馬車が止まっていた。
白塗りの車体に、金の装飾が施されている。
それを引く馬たちも、立派な毛並みをした白馬だ。
その後ろには、クマ子たちが乗れるような、屋根なしの広い台車がつながれている。
ふかふかの藁と、高級そうな布が敷き詰められていた。
「うわあ、すごいですね。王様って、お金持ちなんだなあ」
俺が感心していると、ドリンさんが見送りに来てくれた。
彼は、俺の手を両手でがっしりと握りしめた。
「ユウ殿。頼むから、道中は大人しくしていてくれ」
「王都に着いても、決して、決して粗相のないように」
「わしの寿命と、胃袋のために、頼んだぞ……」
「任せてください。俺は、礼儀作法には自信があります」
「動物園でも、来園者への挨拶は基本でしたから」
俺が爽やかに答えると、ドリンさんはなぜか泣きそうな顔をした。
そして、ガレンさんとリーゼさんも駆けつけてくれた。
「ユウさん! 気をつけて!」
「お土産話、期待してますからね!」
「あ、もし王都で『ドラゴンの牙』とか手に入ったら、また見せてください……」
二人とも、すっかり俺たちの扱いに慣れたようだ。
俺はみんなに手を振り返し、馬車に乗り込んだ。
クマ子とツバサは、後ろの台車に嬉しそうに乗り込んでいる。
ルビとコロ、ぷるんは、俺と一緒に前の馬車だ。
「出発!」
ベルドさんの号令とともに、馬車がゆっくりと動き出した。
車輪が石畳を転がる音が、心地よく響く。
窓の外を流れるアリストンの町並みが、だんだん遠ざかっていく。
こうして、俺たちの王都への旅が始まった。
どんな珍しい動物に会えるのか、今から楽しみで仕方がない。
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