動物園の飼育員さん、神様の手違いで死んだので、代わりに最強の魔物たちを育てることになりました~会話できるので、子育ては楽勝です〜

旅する書斎(☆ほしい)

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翌日、俺はベルンシュタイン公爵の屋敷を訪れていた。
王都の一等地にある、お城のように大きなお屋敷だ。
ルビ、コロ、ぷるんを連れてきている。
レオとクマ子、ツバサは、王城の庭園でお留守番だ。
さすがに全員連れて行くと、公爵家が壊れるかもしれないからな。

「ようこそお越しくださいました、ユウ様」

公爵が出迎えてくれた。
彼は早速、屋敷の裏手にある飼育小屋へと案内してくれた。
そこは、頑丈な石壁と鉄格子で囲まれた、厳重な施設だった。
中には、ダチョウとトカゲを合わせたような、奇妙な生き物が一羽いた。
コカトリスだ。
鶏のようなトサカがあり、尻尾は蛇のようになっている。
そして、その目は……閉じていた。
ずっと下を向いて、じっとしている。

「ご覧の通りです。ここ一週間、全く動こうとしません」
「餌も食べず、ただこうしてうつむいているだけなのです」
「以前は、元気に庭を走り回っていたのですが……」

公爵は心配そうに眉を寄せた。
俺は鉄格子の隙間から、コカトリスの様子を観察した。
羽のツヤは悪く、痩せている。
明らかに体調が悪そうだ。

「こんにちは。コカトリスさん」
「具合はどうですか?」

俺はスキルを使って話しかけた。
コカトリスは、ピクリと反応した。
ゆっくりと顔を上げ、閉じていた目を薄っすらと開けた。
その瞳は、濁っていた。

『……だれ……?』
『まぶしい……めが……いたい……』

「目が痛いんですか?」

『……うん。あけられない……』
『なにもみえない……こわい……』

コカトリスは、再び目を閉じてしまった。
なるほど、原因は目か。
石化の魔眼を持つコカトリスが、目を患うとは皮肉な話だ。
俺は公爵に向き直った。

「公爵様。この子の目が、何らかの理由で炎症を起こしています」
「最近、何か変わったことはありませんでしたか?」
「例えば、強い光を浴びたとか、変なものを食べたとか」

「目、ですか……?」
公爵は考え込んだ。
「そういえば……一週間前、部屋の模様替えをしまして」
「飼育小屋の床に、新しく『白亜の砂』を敷き詰めたのです」
「見た目が綺麗だと思いましてな」

「白亜の砂……」
俺は床を見た。
確かに、真っ白な砂が敷き詰められている。
太陽の光を反射して、キラキラと輝いていた。
……これだ。

「原因はそれです」
「白亜の砂が、太陽光を強く反射しすぎて、目を傷めてしまったんです」
「雪目(ゆきめ)のような状態ですね」
「人間でも、雪山でサングラスなしだと目をやられます。この子は特に目が敏感なんでしょう」

俺の指摘に、公爵はハッとした。

「な、なんと……! 良かれと思ってやったことが、仇になるとは……!」
「私は、なんてことを……!」

公爵は膝から崩れ落ちた。
飼い主の愛情が、知識不足で裏目に出ることはよくある。
自分を責める必要はない。これから直せばいいんだ。

「大丈夫です。すぐに砂を撤去して、土に戻しましょう」
「それから、しばらく部屋を薄暗くして、目を休ませてあげれば治ります」
「ぷるん、目薬を作ってくれるか?」

『はーい!』

ぷるんは、持ってきた薬草(俺が調合しておいた)を取り込み、目薬成分を含んだ粘液を作り出した。
俺はそれをコカトリスの目に、一滴ずつ垂らしてやった。

『……ん? つめたい……』
『……いたくない……』

コカトリスが、少しだけ楽そうに息を吐いた。

「これでもう大丈夫です。数日で元気になりますよ」

「おお……! ありがとうございます、ユウ様!」
「あなた様は、我が家の救世主です!」

公爵は涙を流して感謝した。
そして、その場で金貨五十枚を報酬として渡してきた。
診察しただけでこの金額。
貴族の金銭感覚はすごい。

この一件が広まると、俺の元には貴族からの依頼が殺到した。
「ユウ様に相談すれば、どんなペットの悩みも解決する」という噂が、尾ひれをつけて広まったのだ。
俺は、王城の一角を借りて、「動物相談室」を開くことになった。

「次の方、どうぞー」

俺が呼ぶと、派手なドレスを着た貴婦人が入ってきた。
連れているのは、三つの首を持つ犬、ケルベロスだ。
ただし、まだ子犬サイズで可愛らしい。

「ユウ様! 聞いてくださいまし!」
「うちのケルちゃんたちが、毎日喧嘩ばかりするんですの!」
「特に、真ん中の首の子が、両端の子に噛み付いて……」

貴婦人は困り果てた顔をしている。
俺はケルベロスを見た。
三つの首が、それぞれ違う方向を向いて唸っている。

『俺にも肉よこせよ!』
『うるせえ! お前ばっかり昨日食っただろ!』
『僕もお腹すいた……』

三つの首が、それぞれ勝手なことを言っている。
俺はすぐにピンときた。

「あの、奥様。ご飯をあげる時、どうやってあげてますか?」

「え? 一つの大きなお皿に、山盛りにしてあげてますけど」

「それが原因ですね」
「三つの首があっても、胃袋は一つかもしれませんが、食欲や好みは別々なんです」
「一つの皿だと、食べるスピードが違うので、取り合いになって喧嘩になるんですよ」

「ええっ!? そうなんですの!?」

「はい。お皿を三つに分けて、それぞれの首の前に置いてあげてください」
「そうすれば、自分の分を安心して食べられるので、喧嘩はなくなります」

俺のアドバイス通りに、その場で皿を三つに分けて餌を与えてみた。
すると、ケルベロスたちはピタリと喧嘩を止め、それぞれの皿で夢中になって食べ始めた。

『うまうま! これ俺の!』
『誰も取らないから安心だ!』
『ゆっくり食べられるね』

「まあ……! 嘘みたいに大人しいわ!」
「ユウ様、すごいですわ! まさに魔法です!」

貴婦人は大喜びで帰っていった。
その後も、奇妙な依頼が続いた。

「うちのマンドラゴラが、夜泣きをして眠れません」
→「土が固すぎて根が伸ばせないみたいです。腐葉土を混ぜてふかふかにしてあげてください」

「飼っているクラーケンが、池の水を全部抜いてしまいます」
→「狭くてストレスが溜まってますね。もっと広い湖に移すか、毎日遊んであげてください」

「火の精霊(サラマンダー)が、暖炉から出てきません」
→「薪の種類が気に入らないそうです。カシの木に変えてあげてください」

俺は、次々と持ち込まれる難問(?)を、スキルと飼育知識であっさりと解決していった。
相談室には行列ができ、予約は一ヶ月先まで埋まった。
俺の名声は王都中に轟き、「聖獣使い」に加えて「神のカウンセラー」という二つ名までついてしまった。

そんなある日、相談室のドアが控えめにノックされた。
入ってきたのは、見知らぬ少年だった。
ボロボロの服を着て、痩せこけている。
貴族の依頼人ばかり見ていたので、少し驚いた。

「あ、あの……。ここは、動物のお医者さんですか?」

少年は、胸に何かを大事そうに抱えていた。
それは、泥だらけの小さなネズミ……いや、ただのネズミではない。
耳が大きく、尻尾が稲妻の形をしている。
雷獣(サンダーラット)の子供だ。

「お金はないんです……。でも、この子が死にそうで……」
「お願いします! 助けてください!」

少年は必死な目で俺に訴えかけてきた。
貴族たちのペット相談とは違う、切実な命の叫びだ。
俺は椅子から立ち上がった。

「お金なんていらないよ」
「見せてごらん。俺が絶対に助けてやる」

俺は少年からサンダーラットを受け取った。
体は冷たく、呼吸も浅い。
かなり危険な状態だ。
だが、まだ間に合う。

「ルビ! お湯を沸かしてくれ!」
「ぷるん、栄養剤だ!」
「コロ、毛布を持ってきてくれ!」

『了解!』

俺たちのチームワークが光る。
貴族の悩み相談もいいが、こういう小さな命を救うことこそが、飼育員の本分だ。
俺は全力を尽くして、治療に当たった。

数時間後。
サンダーラットは一命を取り留め、少年の腕の中で元気に鳴いた。
『チュウ!』
少年は泣きながら俺に感謝した。
その笑顔を見て、俺は思った。
この世界に来てよかった、と。
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感想 7

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みんなの感想(7件)

しの
2025.11.28 しの

読み飛ばしていたら申し訳ないのですが、20話に出てくるソラというのは誰のことなのでしょうか?
ぷるんはどこへ?

解除
gamu
2025.11.27 gamu

設定が面白くて、めっちゃ楽しくって、更新が待ち遠しいです( * ॑꒳ ॑*)
語彙力がない感想で申し訳ないですが、急に寒くなったので風邪などにご注意くださいませ🍀.*

解除
太郎花
2025.11.25 太郎花

ぷるんは改名したのかな?

解除

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