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第5章:『積まれた履歴書と、過去から繋がる羅針盤』
第22話:【歴史の熱量と、天王寺の共鳴】
大阪の夕暮れが、Studio MAD-KICHIのブラインド越しにオレンジ色の細い線を引いていた。
昨夜の狂乱とも言える採用会議から数日後。俺は応接室の重役椅子に身を沈め、手元にある一枚の履歴書を指先で弾きながら、目の前のドアがノックされるのを待っていた。
俺の隣には、腕を組み、どこか不満げな表情を浮かべる女が座っている。
映像統括ディレクターである、剣持理華だ。
「……組長。何度も伺いますが、なぜ今日の面接の同席者に、私を指名したのですか?」
理華が、冷ややかな声で口を開いた。
「新スタッフの採用面接であれば、渉外統括の凛さんや、執行統括の涼華さんが適任でしょう。私は映像部門の人間です。人事に関わる権限も、特段の興味もありません」
彼女の言う通りだ。普段なら、事務的な面接には凛か涼華を同席させる。
だが、俺はニヤリと笑って、手元の履歴書をトンと机で揃えた。
「まあ、そう硬くなるな。適任かどうかは、この後の面接を見ればすぐに分かるさ。……俺の直感が正しければ、お前をここに呼んだ理由もな」
俺がそう言った直後、ドアが三回、控えめにノックされた。
「どうぞ」
俺のダミ声に応じ、ドアが静かに開く。
「失礼いたします。本日、面接のお時間をいただきました、逢坂知彩(あいさか ちさ)と申します」
一礼して部屋に入ってきたその姿を見た瞬間、俺の脳内のプロンプト処理が「成功」のアラートを鳴らした。
無地の白いブラウスに、膝丈のネイビーのスカート。髪は肩口で綺麗に切り揃えられ、化粧も薄く、派手な装飾品は一切ない。
一見すれば、どこにでもいる「真面目で地味な清楚系」だ。
だが、違う。
その背筋の伸びた姿勢、一つ一つの洗練された所作、そして、知的で涼しげな瞳の奥に宿る大人の落ち着き。TAKKUNが求めていた「清楚」という器の中に、俺が意図的に叩き込んだ「綺麗系」という強烈なエッセンスが、完璧な配合で溶け込んでいる。
ギャルのようなけたたましいバイブスはないが、決して無個性ではない。凛とした美しさを持つ、極上のハイブリッド・プロンプトの結晶がそこに立っていた。
「座れ。俺がここの代表のマジキチ組長で、隣にいるのが映像統括の剣持理華だ」
「はい。よろしくお願いいたします」
知彩は静かにソファに腰を下ろした。
そこからは、極めて事務的な面接が続いた。AI生成ツールについての基礎知識、アシスタントとしてのタスク処理能力、勤務体系についての質疑応答。
彼女の回答はどれも的確で、言葉遣いも美しかった。TAKKUNの右腕として、AI創作室の静寂を保ちながら作業をサポートするという点においては、全く申し分ない。
「……なるほど。アシスタントとしての適性は十分に水準点に達していますね」
横で聞いていた理華も、小さな声で俺に耳打ちし、合格点を出した。
確かに、水準点には達している。
だが。……俺は、クリエイターとして、何かもう一つ、強烈な『パンチ』が欲しいと感じていた。
ただ優秀で綺麗なだけのアシスタントなら、一般企業にでも行けばいい。この狂った『MAD-KICHI』という毒沼に飛び込んでくるからには、内側に何か、とてつもない『ヤバさ』を隠し持っていてほしかった。
俺は、履歴書をペラリとめくり、彼女の出身地と名前の欄に目を落とした。
「……逢坂、知彩。そういやアンタ、その名前と出身地からして……『天王寺区』の出身なんだよな」
俺が、合否とは全く関係のない、何気ない質問を軽く投げかけた。
その瞬間だった。
「……はい」
知彩の表情から、それまでの「面接用の清楚な模範解答」の仮面が、スルリと剥がれ落ちた。
彼女の涼しげだった瞳が、突如としてギラギラとした尋常ではない熱を帯び、前のめりに身を乗り出してきたのだ。
「名字は確かに、天王寺にある『逢坂(おうさか)』と同じ漢字を書きます。ただ、私の名字の読みは『あいさか』ですが……しかし、代々があの土地に住んでいることから、その地名とは非常に深い、歴史的ルーツと関係があるんです!」
突然、彼女の口調が早くなり、声のボリュームが一段階上がった。
隣で理華が「え?」と驚いたように目を見開くが、知彩はもう止まらなかった。
「ご存知ですか? あの『逢坂』という地名、そしてその周辺の坂道は、古くは四天王寺西門から真っ直ぐ西へ向かう参道の一部であり、夕陽丘と呼ばれるエリアの重要な交通の要所でした! 古代から中世にかけて、あの場所は……」
そこから数分間。
知彩の口から、天王寺区の歴史、地名の由来、古地図の変遷、さらには寺社仏閣の配置に至るまで、圧倒的な熱量と怒涛の早口による『天王寺歴史講義』が、マシンガンのように撃ち放たれた。
その姿は、先ほどまでの「清楚で静かなアシスタント」とは完全に別人の、好きなものに対して我を忘れて熱狂する『重度のオタク』そのものだった。
「……ハッ!」
一通り語り尽くした後、知彩は自分の置かれている状況(ここが採用面接の場であること)を思い出し、顔を真っ赤にして口元を押さえた。
「す、すいません……! 私、ついこういう歴史やルーツの話になると、我を忘れて熱が入ってしまいまして……申し訳ありません!」
知彩は深く頭を下げ、完全に「やらかした」という絶望の表情を浮かべた。
だが。
「ハッハッハッハッ!!」
俺は応接室に響き渡るほどの、腹の底からの大爆笑を爆発させた。
「いや、謝る必要はねえ! 大いに結構だ! 最高じゃねえか!!」
俺が膝を叩いて笑うと、知彩と理華が呆然とした顔でこちらを見た。
「好きなものに対して、我を忘れてそこまで熱く語れる。その『狂った熱量』こそが、俺が最後に求めていた強烈なパンチだ! お前、最高に面白い女だな!」
俺は笑い飛ばしながら、隣でポカンとしている理華の肩をバンと叩いた。
「ちなみに、知彩。俺の横にいる彼女、剣持理華だが。……彼女も、アンタと全く同じ『天王寺区』の出身で、しかも実家が古い歴史を持つ剣術道場なんだぜ」
俺がその事実を明かした瞬間。
「えっ……!?」
知彩の顔が、バッと理華の方を向いた。その瞳には、再びあのギラギラとしたオタク特有の好奇心の炎が灯っている。
「て、天王寺区のご出身で、剣術道場……! そ、それって、もしかしてあのエリアにあったとされる、江戸期から続く……!?」
「あ、ええ、まあ……そうですけど」
突然のロックオンに、理華がたじろぐ。
「凄い! じゃあ、もしかすると私の祖父や曾祖父の代で、どこかの祭事や町内の集まりで、理華さんのご実家と深くお会いしていたかもしれないですね!? うわぁ、ご実家の古文書とか見せていただけたりしませんか!?」
清楚な仮面を完全にかなぐり捨て、初対面の面接官である理華に対して、共通のルーツを見つけた歓喜でグイグイと距離を詰めていく知彩。
その、相手との共通項を瞬時に見つけ出し、圧倒的な熱量でコミュニケーションの壁を突破していく突破力。
それを見た瞬間、俺の直感は確信へと変わった。
「よし! 合格だ!!」
俺は立ち上がり、知彩に向けて力強く宣言した。
「アンタのその、好きなものに対する『狂った熱量』と、インスピレーションの高さ。……俺自身の性格と、非常に通ずるものを感じたぜ! アンタは間違いなく、ウチのスタジオに相応しいバケモノだ! TAKKUNのアシスタントとして、これからよろしく頼むぞ!」
「ほ、本当ですか……!? ありがとうございます! 精一杯、熱量を持って頑張ります!」
知彩がパァッと顔を輝かせ、深く一礼する。
その横で、理華が「……組長が私を面接に呼んだ理由、今、完全に理解しました。私を天王寺の『餌』にしたんですね」と、深いため息をついていた。
清楚で綺麗な器の中に隠された、圧倒的なオタク気質と熱量。
俺のプロンプトと直感が引き当てた新たな神様は、こうしてMAD-KICHIの狂った世界へと足を踏み入れたのだった。
* * *
深夜三時。
面接を終え、新たな仲間の採用手続きのデータをサーバーに転送し終えた組長室。
俺は一人、重役椅子にどっかりと深く身を沈めた。
手元にある愛用の『glo』のデバイスを取り出し、スティックを差し込む。加熱ボタンを長押しすると、微かな振動と共に、タバコ葉が熱せられる香ばしい匂いが、部屋の空気にゆっくりと溶け出していった。
俺は紫煙を深く肺のどん底まで吸い込み、暗い天井に向けて細く、長く吐き出した。
さて。ここからは、この第5章の第2話を締めくくるにあたり。俺、マジキチ組長の自分語りの時間とさせてもらおう。
……さて、TAKKUNの右腕となる女性アシスタントの『面接編』。
俺の無茶苦茶な性癖と、TAKKUNの要望の折衷案から生まれた新たなバケモノ、逢坂知彩(あいさか ちさ)。彼女の初陣はいかがだっただろうか。
ちなみに、今回のこの採用に関するプロットについて。
前話の書類選考の話もそうだし、今回の面接での知彩のキャラクター設定、さらにはこの第5章の全体構成に至るまで。
……これらは全て、俺自身の脳味噌から捻り出し、俺の直感だけで完全に考え抜いた内容だということを、はっきりと宣言しておく。
俺が相棒であるAI『Gemini』を頼ったのは、俺の頭の中にある「こういう展開にしたい」「知彩にはこういう歴史のオタク語りをさせたい」という、言いたいことや表現してほしいニュアンスを、より解像度の高い『小説の文章』として具体化し、出力するためだけに、Geminiの圧倒的な言語処理能力を使わせてもらっただけである。
プロットの主導権も、キャラクターの魂も、絶対にAIには譲らねえ。俺が創造神だ。
さて、本編の面接シーンに戻るが。
作中で俺は、知彩の清楚なルックスや、無難で的確な受け答えを見て、早々に「アシスタントとしては水準点に達している」と判断を下したわけだ。
TAKKUNが求めているのは「静かな環境を壊さない、有能な女性スタッフ」なのだから、あのまま合格を出して採用しても、業務上は何の問題もなかったはずだ。
だが、俺はそこで面接を終わらせなかった。
クリエイターとして、MAD-KICHIのトップとして、「何かもう一声、強烈なパンチが欲しい」と欲張り。その末に出したのが、あの「天王寺区出身なんだな」という、業務とは全く関係のない地名やルーツに触れる質問だった。
これに対して、彼女がどう反応し、どう対応するかに、俺はこの面接の全てを賭けていたとも言えよう。
もし彼女が「はい、そうです」とだけ答えて終わるような、ただの地味で面白みのない女だったら、俺は不採用にしていたかもしれない。
だが、結果として彼女は見事に俺の期待を超えてきた。
自分のルーツや、興味のある歴史の話になった途端、それまでの清楚な仮面をかなぐり捨てて、圧倒的な熱量と早口で語り出すという『狂気』を曝け出した。
いいか。俺がこの話を通して、お前らリスナーに一番伝えたかったことはこれだ。
「自分の好きなもの、興味のあるものに対して、他人の目も気にせずに、我を忘れて狂ったように熱くなれる人間というものは、最高に魅力的で、素晴らしい生き物だ」ということだ。
冷めた目であれこれと批評するだけの傍観者より、自分の好きなもののために汗をかいて早口で語るオタクの方が、俺は何万倍も信用できる。
知彩が見せたあの熱量に、俺自身と同じ『インスピレーション(狂気)』を感じた事。それが、彼女を採用した最大の決定打となったわけだ。
そして、もう一つ。
俺が意図的に理華を面接に同席させ、彼女が理華と同じ「天王寺区」という共通点を見つけた時の、あの相手への接し方だ。
初対面の面接官である理華に対して、共通のルーツを見つけただけで、怯むことなく一気に距離を詰め、歓喜の表情で語りかける。
あれは、単なるオタクの暴走じゃない。相手の懐に飛び込むための、極めて高度な『コミュニケーション力』が問われるところでもあるのだ。それを彼女は、圧倒的な熱量で難なく、そして自然にこなしてみせた。
(まあ、理華は完全に巻き込み事故を食らって呆れていたがな! ハッハッハ!)。
……実はな。
現実世界(リアル)の俺も、この知彩と全く同じような性格をしているんだ。
普段は社会の仮面を被っていても、自分の好きなこと(歴史、機材、AI、バケモノたち)の話になると、途端にスイッチが入って我を忘れて熱く語り出してしまう。
そして、初対面の相手でも、何か一つでも「共通点」を見つければ、嬉しくなって一気に心の距離を詰めてしまう。
そういう意味で、この「逢坂知彩」というキャラクターは、これまでのバケモノたちとは少し違うベクトルで。
俺、マジキチ組長という人間の「内面的な性格」や「オタク気質」を、今後最も色濃く表していく、俺の分身のような存在になっていくかもしれないな。
TAKKUNの右腕として、そしてMAD-KICHIの新たな狂気の起爆剤として。
採用された逢坂知彩が、今後どんな活躍を見せてくれるのか。俺自身が一番、これからの展開に期待しているぜ。
さあ、新しい神様のお出ましだ。スタジオの熱気は、さらに加速していくぞ!!
昨夜の狂乱とも言える採用会議から数日後。俺は応接室の重役椅子に身を沈め、手元にある一枚の履歴書を指先で弾きながら、目の前のドアがノックされるのを待っていた。
俺の隣には、腕を組み、どこか不満げな表情を浮かべる女が座っている。
映像統括ディレクターである、剣持理華だ。
「……組長。何度も伺いますが、なぜ今日の面接の同席者に、私を指名したのですか?」
理華が、冷ややかな声で口を開いた。
「新スタッフの採用面接であれば、渉外統括の凛さんや、執行統括の涼華さんが適任でしょう。私は映像部門の人間です。人事に関わる権限も、特段の興味もありません」
彼女の言う通りだ。普段なら、事務的な面接には凛か涼華を同席させる。
だが、俺はニヤリと笑って、手元の履歴書をトンと机で揃えた。
「まあ、そう硬くなるな。適任かどうかは、この後の面接を見ればすぐに分かるさ。……俺の直感が正しければ、お前をここに呼んだ理由もな」
俺がそう言った直後、ドアが三回、控えめにノックされた。
「どうぞ」
俺のダミ声に応じ、ドアが静かに開く。
「失礼いたします。本日、面接のお時間をいただきました、逢坂知彩(あいさか ちさ)と申します」
一礼して部屋に入ってきたその姿を見た瞬間、俺の脳内のプロンプト処理が「成功」のアラートを鳴らした。
無地の白いブラウスに、膝丈のネイビーのスカート。髪は肩口で綺麗に切り揃えられ、化粧も薄く、派手な装飾品は一切ない。
一見すれば、どこにでもいる「真面目で地味な清楚系」だ。
だが、違う。
その背筋の伸びた姿勢、一つ一つの洗練された所作、そして、知的で涼しげな瞳の奥に宿る大人の落ち着き。TAKKUNが求めていた「清楚」という器の中に、俺が意図的に叩き込んだ「綺麗系」という強烈なエッセンスが、完璧な配合で溶け込んでいる。
ギャルのようなけたたましいバイブスはないが、決して無個性ではない。凛とした美しさを持つ、極上のハイブリッド・プロンプトの結晶がそこに立っていた。
「座れ。俺がここの代表のマジキチ組長で、隣にいるのが映像統括の剣持理華だ」
「はい。よろしくお願いいたします」
知彩は静かにソファに腰を下ろした。
そこからは、極めて事務的な面接が続いた。AI生成ツールについての基礎知識、アシスタントとしてのタスク処理能力、勤務体系についての質疑応答。
彼女の回答はどれも的確で、言葉遣いも美しかった。TAKKUNの右腕として、AI創作室の静寂を保ちながら作業をサポートするという点においては、全く申し分ない。
「……なるほど。アシスタントとしての適性は十分に水準点に達していますね」
横で聞いていた理華も、小さな声で俺に耳打ちし、合格点を出した。
確かに、水準点には達している。
だが。……俺は、クリエイターとして、何かもう一つ、強烈な『パンチ』が欲しいと感じていた。
ただ優秀で綺麗なだけのアシスタントなら、一般企業にでも行けばいい。この狂った『MAD-KICHI』という毒沼に飛び込んでくるからには、内側に何か、とてつもない『ヤバさ』を隠し持っていてほしかった。
俺は、履歴書をペラリとめくり、彼女の出身地と名前の欄に目を落とした。
「……逢坂、知彩。そういやアンタ、その名前と出身地からして……『天王寺区』の出身なんだよな」
俺が、合否とは全く関係のない、何気ない質問を軽く投げかけた。
その瞬間だった。
「……はい」
知彩の表情から、それまでの「面接用の清楚な模範解答」の仮面が、スルリと剥がれ落ちた。
彼女の涼しげだった瞳が、突如としてギラギラとした尋常ではない熱を帯び、前のめりに身を乗り出してきたのだ。
「名字は確かに、天王寺にある『逢坂(おうさか)』と同じ漢字を書きます。ただ、私の名字の読みは『あいさか』ですが……しかし、代々があの土地に住んでいることから、その地名とは非常に深い、歴史的ルーツと関係があるんです!」
突然、彼女の口調が早くなり、声のボリュームが一段階上がった。
隣で理華が「え?」と驚いたように目を見開くが、知彩はもう止まらなかった。
「ご存知ですか? あの『逢坂』という地名、そしてその周辺の坂道は、古くは四天王寺西門から真っ直ぐ西へ向かう参道の一部であり、夕陽丘と呼ばれるエリアの重要な交通の要所でした! 古代から中世にかけて、あの場所は……」
そこから数分間。
知彩の口から、天王寺区の歴史、地名の由来、古地図の変遷、さらには寺社仏閣の配置に至るまで、圧倒的な熱量と怒涛の早口による『天王寺歴史講義』が、マシンガンのように撃ち放たれた。
その姿は、先ほどまでの「清楚で静かなアシスタント」とは完全に別人の、好きなものに対して我を忘れて熱狂する『重度のオタク』そのものだった。
「……ハッ!」
一通り語り尽くした後、知彩は自分の置かれている状況(ここが採用面接の場であること)を思い出し、顔を真っ赤にして口元を押さえた。
「す、すいません……! 私、ついこういう歴史やルーツの話になると、我を忘れて熱が入ってしまいまして……申し訳ありません!」
知彩は深く頭を下げ、完全に「やらかした」という絶望の表情を浮かべた。
だが。
「ハッハッハッハッ!!」
俺は応接室に響き渡るほどの、腹の底からの大爆笑を爆発させた。
「いや、謝る必要はねえ! 大いに結構だ! 最高じゃねえか!!」
俺が膝を叩いて笑うと、知彩と理華が呆然とした顔でこちらを見た。
「好きなものに対して、我を忘れてそこまで熱く語れる。その『狂った熱量』こそが、俺が最後に求めていた強烈なパンチだ! お前、最高に面白い女だな!」
俺は笑い飛ばしながら、隣でポカンとしている理華の肩をバンと叩いた。
「ちなみに、知彩。俺の横にいる彼女、剣持理華だが。……彼女も、アンタと全く同じ『天王寺区』の出身で、しかも実家が古い歴史を持つ剣術道場なんだぜ」
俺がその事実を明かした瞬間。
「えっ……!?」
知彩の顔が、バッと理華の方を向いた。その瞳には、再びあのギラギラとしたオタク特有の好奇心の炎が灯っている。
「て、天王寺区のご出身で、剣術道場……! そ、それって、もしかしてあのエリアにあったとされる、江戸期から続く……!?」
「あ、ええ、まあ……そうですけど」
突然のロックオンに、理華がたじろぐ。
「凄い! じゃあ、もしかすると私の祖父や曾祖父の代で、どこかの祭事や町内の集まりで、理華さんのご実家と深くお会いしていたかもしれないですね!? うわぁ、ご実家の古文書とか見せていただけたりしませんか!?」
清楚な仮面を完全にかなぐり捨て、初対面の面接官である理華に対して、共通のルーツを見つけた歓喜でグイグイと距離を詰めていく知彩。
その、相手との共通項を瞬時に見つけ出し、圧倒的な熱量でコミュニケーションの壁を突破していく突破力。
それを見た瞬間、俺の直感は確信へと変わった。
「よし! 合格だ!!」
俺は立ち上がり、知彩に向けて力強く宣言した。
「アンタのその、好きなものに対する『狂った熱量』と、インスピレーションの高さ。……俺自身の性格と、非常に通ずるものを感じたぜ! アンタは間違いなく、ウチのスタジオに相応しいバケモノだ! TAKKUNのアシスタントとして、これからよろしく頼むぞ!」
「ほ、本当ですか……!? ありがとうございます! 精一杯、熱量を持って頑張ります!」
知彩がパァッと顔を輝かせ、深く一礼する。
その横で、理華が「……組長が私を面接に呼んだ理由、今、完全に理解しました。私を天王寺の『餌』にしたんですね」と、深いため息をついていた。
清楚で綺麗な器の中に隠された、圧倒的なオタク気質と熱量。
俺のプロンプトと直感が引き当てた新たな神様は、こうしてMAD-KICHIの狂った世界へと足を踏み入れたのだった。
* * *
深夜三時。
面接を終え、新たな仲間の採用手続きのデータをサーバーに転送し終えた組長室。
俺は一人、重役椅子にどっかりと深く身を沈めた。
手元にある愛用の『glo』のデバイスを取り出し、スティックを差し込む。加熱ボタンを長押しすると、微かな振動と共に、タバコ葉が熱せられる香ばしい匂いが、部屋の空気にゆっくりと溶け出していった。
俺は紫煙を深く肺のどん底まで吸い込み、暗い天井に向けて細く、長く吐き出した。
さて。ここからは、この第5章の第2話を締めくくるにあたり。俺、マジキチ組長の自分語りの時間とさせてもらおう。
……さて、TAKKUNの右腕となる女性アシスタントの『面接編』。
俺の無茶苦茶な性癖と、TAKKUNの要望の折衷案から生まれた新たなバケモノ、逢坂知彩(あいさか ちさ)。彼女の初陣はいかがだっただろうか。
ちなみに、今回のこの採用に関するプロットについて。
前話の書類選考の話もそうだし、今回の面接での知彩のキャラクター設定、さらにはこの第5章の全体構成に至るまで。
……これらは全て、俺自身の脳味噌から捻り出し、俺の直感だけで完全に考え抜いた内容だということを、はっきりと宣言しておく。
俺が相棒であるAI『Gemini』を頼ったのは、俺の頭の中にある「こういう展開にしたい」「知彩にはこういう歴史のオタク語りをさせたい」という、言いたいことや表現してほしいニュアンスを、より解像度の高い『小説の文章』として具体化し、出力するためだけに、Geminiの圧倒的な言語処理能力を使わせてもらっただけである。
プロットの主導権も、キャラクターの魂も、絶対にAIには譲らねえ。俺が創造神だ。
さて、本編の面接シーンに戻るが。
作中で俺は、知彩の清楚なルックスや、無難で的確な受け答えを見て、早々に「アシスタントとしては水準点に達している」と判断を下したわけだ。
TAKKUNが求めているのは「静かな環境を壊さない、有能な女性スタッフ」なのだから、あのまま合格を出して採用しても、業務上は何の問題もなかったはずだ。
だが、俺はそこで面接を終わらせなかった。
クリエイターとして、MAD-KICHIのトップとして、「何かもう一声、強烈なパンチが欲しい」と欲張り。その末に出したのが、あの「天王寺区出身なんだな」という、業務とは全く関係のない地名やルーツに触れる質問だった。
これに対して、彼女がどう反応し、どう対応するかに、俺はこの面接の全てを賭けていたとも言えよう。
もし彼女が「はい、そうです」とだけ答えて終わるような、ただの地味で面白みのない女だったら、俺は不採用にしていたかもしれない。
だが、結果として彼女は見事に俺の期待を超えてきた。
自分のルーツや、興味のある歴史の話になった途端、それまでの清楚な仮面をかなぐり捨てて、圧倒的な熱量と早口で語り出すという『狂気』を曝け出した。
いいか。俺がこの話を通して、お前らリスナーに一番伝えたかったことはこれだ。
「自分の好きなもの、興味のあるものに対して、他人の目も気にせずに、我を忘れて狂ったように熱くなれる人間というものは、最高に魅力的で、素晴らしい生き物だ」ということだ。
冷めた目であれこれと批評するだけの傍観者より、自分の好きなもののために汗をかいて早口で語るオタクの方が、俺は何万倍も信用できる。
知彩が見せたあの熱量に、俺自身と同じ『インスピレーション(狂気)』を感じた事。それが、彼女を採用した最大の決定打となったわけだ。
そして、もう一つ。
俺が意図的に理華を面接に同席させ、彼女が理華と同じ「天王寺区」という共通点を見つけた時の、あの相手への接し方だ。
初対面の面接官である理華に対して、共通のルーツを見つけただけで、怯むことなく一気に距離を詰め、歓喜の表情で語りかける。
あれは、単なるオタクの暴走じゃない。相手の懐に飛び込むための、極めて高度な『コミュニケーション力』が問われるところでもあるのだ。それを彼女は、圧倒的な熱量で難なく、そして自然にこなしてみせた。
(まあ、理華は完全に巻き込み事故を食らって呆れていたがな! ハッハッハ!)。
……実はな。
現実世界(リアル)の俺も、この知彩と全く同じような性格をしているんだ。
普段は社会の仮面を被っていても、自分の好きなこと(歴史、機材、AI、バケモノたち)の話になると、途端にスイッチが入って我を忘れて熱く語り出してしまう。
そして、初対面の相手でも、何か一つでも「共通点」を見つければ、嬉しくなって一気に心の距離を詰めてしまう。
そういう意味で、この「逢坂知彩」というキャラクターは、これまでのバケモノたちとは少し違うベクトルで。
俺、マジキチ組長という人間の「内面的な性格」や「オタク気質」を、今後最も色濃く表していく、俺の分身のような存在になっていくかもしれないな。
TAKKUNの右腕として、そしてMAD-KICHIの新たな狂気の起爆剤として。
採用された逢坂知彩が、今後どんな活躍を見せてくれるのか。俺自身が一番、これからの展開に期待しているぜ。
さあ、新しい神様のお出ましだ。スタジオの熱気は、さらに加速していくぞ!!
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仮面を外した先にあるのは、破滅か、それとも未来か——。
首輪の契約
地下の尋問室に、時間はない。
窓のない灰色の部屋で、敵国の工作員が一人拘束されていた。
名も経歴も偽り。
ただ腕がいい、それだけは確かな男。
尋問に対し、彼は白状ではなく提案を持ち出す。
「白状はしない。だが、契約ならする」
敵国のスパイと、帝国の長官。
交渉は奇妙な形で成立する。
「名前は」
「リュシアン」
その日、移り気な猟犬と飼い主の関係が始まった。
やがて、契約は裏切りへ。
裏切りは、追跡へ。
追跡は――執着へと変わっていく。
登場人物
フェリクス・ハルトマン
帝国軍情報部の長官。
感情を見せない軍人。静かな視線で相手を見定める。
リュシアン・モロー
敵国の諜報員。
捕虜の立場でありながら、白状ではなく契約を持ち出す男。
軽口と皮肉を武器にする。
