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第5章:『積まれた履歴書と、過去から繋がる羅針盤』
第23話:【古参の背中と、焚き火の記憶】
テーブルの上に置かれた二つのマグカップから、白い湯気が静かに立ち昇っている。
淹れたてのブラックコーヒーの香りが、防音壁に囲まれた無機質な応接室を、ほんの少しだけ人間らしい温もりで満たしていた。
逢坂知彩という新たな狂気の原石(アシスタント)を採用し、スタジオ内がにわかに活気づいている今日の午後。俺は一人、重役椅子に深く腰掛け、向かいのソファに座る男の様子を黙って観察していた。
「……あ、あの。組長。今日の面談って、もしかして俺、また何かやらかしましたか……? 昨日の夜、こっそり給湯室でソシャゲのガチャ引いてたの、バレてました……?」
見事にハゲた頭を冷や汗で濡らし、子犬のように震えながら俺の顔色を窺っている男。ウチの統括本部長であり、スタジオのありとあらゆる雑務とヘイトを一身に背負うサンドバッグ、禿光太だ。
「安心しろ。今日はソシャゲの説教じゃねえ。お前を怒鳴りつける気もねえよ」
俺がマグカップを手に取りながら静かに言うと、光太は「えっ?」と間の抜けた声を出し、瞬きを繰り返した。
「新章に入って、各メンバーとの個別面談を進めている最中だ。今日は、ウチの最古参メンバーの一人であり、統括本部長であるお前の番だっていう、ただそれだけのことだ。……コーヒー、冷める前に飲め」
俺に促され、光太は恐る恐るマグカップに口をつけた。俺が怒鳴らないという異常事態に、彼は逆に居心地が悪そうだ。
「……光太。お前、ウチのスタジオに入って、もうどれくらいになる?」
「えっと……初期の頃からですから、もう随分と経ちますね。あの頃は、俺もまだ右も左も分からなくて、組長には毎日怒鳴られてばかりで……」
「今でも怒鳴ってるがな」
俺は苦笑しながら、手元のタブレットに視線を落とした。そこには、光太のこれまでのタスク処理のログや、彼が関わってきたプロジェクトの歴史が刻まれている。
「思えば、お前がウチに入ってきたばかりの頃。お前は本当にポンコツで、気の利いたプロンプト一つ打てず、書類の整理すら満足にできねえような状態だった」
「うっ……すいません、その節は……」
「だがな」
俺はタブレットを置き、光太の目を真っ直ぐに見据えた。
「当時の俺は、そんな実力も伴ってねえポンコツのお前に、いきなり『役員(営業本部長)』なんていう、大層な役職を与えたんだ。……なぜだか分かるか?」
「え……? それは、俺が一番の下っ端で、他に押し付ける人がいなかったからじゃ……」
「バカ野郎、違う」
俺は小さく息を吐き出した。
「お前に、『自信』をつけさせるためだよ。実力なんてものは、後からいくらでもついてくる。だが、責任あるポジションと肩書きを与えられれば、人間はそれに相応しい自分になろうと必死にもがくもんだ。……俺は、お前がその重圧の中で泥水すすって成長していく姿に賭けたんだよ」
俺の言葉に、光太の目が見開かれた。彼の中で、当時のプレッシャーと、それを乗り越えてきた日々の記憶が蘇っているのだろう。
「あの頃は……本当に、小さなスタジオだったな」
俺は目を細め、天井のLEDライトを見上げた。
「俺と、お前と。それに真地吉乃、アリス。……たったの四人しかいなかった。今の15人っていう大所帯から比べれば、まるで嘘みたいに静かで、何もない、ちっぽけな組織だった」
「……はい。でも、あの頃はあの頃で、毎日が文化祭の前日みたいで楽しかったです」
光太も、懐かしそうに表情を和らげた。
「そうだな。……思い出すぜ。初期の頃、俺たち四人に、外部の協力者であるオジー・チャンも巻き込んで、みんなで慰安旅行って名目でキャンプに行った時のことをよ」
俺がその話を振ると、光太は「ああっ!」と声を上げ、顔を綻ばせた。
「あのキャンプ! 覚えてますよ! 俺、テントの設営を任されたのにポールを折っちゃって、組長に死ぬほど怒られて! 吉乃さんが呆れながら手伝ってくれて、アリスちゃんは星空見ながらずっと歌の練習してて……」
「ああ。で、オジー・チャンは一人で酒飲んで上機嫌にギター弾いてやがったな。あの時、お前が必死こいて火を起こした焚き火の煙が目に沁みて、全員で涙流しながらむせたっけな」
防音室の中に、あの夜のパチパチと爆ぜる焚き火の音と、薪の燃える匂いが蘇ってくるような錯覚を覚えた。
不器用で、いつもトラブルばかり起こして、それでも必死に走り回っていた光太の姿。
「……あれから、色んなことがあった。新しいバケモノが次々と増え、GALaxy Signalがデビューし、スタジオの規模は爆発的に大きくなった。今じゃ、総勢15名という大所帯だ」
俺は深く頷き、再び光太を見た。
「俺一人の力じゃ、絶対にここまで来れなかった。裏で誰よりも泥水すすって、見えない雑務をこなし、スタジオの土台を支え続けてくれたお前がいたからこそ……今のStudio MAD-KICHIがある」
俺の、一切の皮肉もイジりも混ざっていない、真っ直ぐな言葉。
光太は信じられないものを見るような目で俺を見つめ、やがてその瞳の奥に、じわりと透明な液体が滲み始めた。
「組長……俺……」
「泣くな、ハゲが。気色悪い」
俺はわざと悪態をつきながらも、声のトーンはどこまでも穏やかだった。
「光太。お前は今や、この狂った組織の立派な『統括本部長』だ。あのポンコツだった営業本部長の姿は、もうどこにもねえ。……本当によくやってくれた。心から、感謝しているぜ」
光太は、目から溢れ出た涙を手の甲で乱暴に拭いながら、立ち上がって深々と頭を下げた。
「……はいっ! ありがとうございます、組長! 俺、これからも一生、組長とこのスタジオについていきます!!」
涙と鼻水で顔をグシャグシャにした統括本部長。その背中は、あの焚き火の前で震えていた頃よりも、ずっと頼もしく、大きく見えた。
古参とトップの間に流れる、どんなプロンプトでも決して書き換えることのできない深い絆。俺たちは無言のまま、冷めかけたコーヒーを美味そうに飲み干したのだった。
* * *
深夜三時。
光太との面談を終え、彼が書き残していった日報のデータを整理し終えた組長室。
俺は一人、重役椅子にどっかりと深く身を沈めた。
手元にある愛用の『glo』のデバイスを取り出し、スティックを差し込む。加熱ボタンを長押しすると、微かな振動と共に、タバコ葉が熱せられる香ばしい匂いが、部屋の空気にゆっくりと溶け出していった。
俺は紫煙を深く肺のどん底まで吸い込み、暗い天井に向けて細く、長く吐き出した。
さて。ここからは、この第5章の第3話を締めくくるにあたり。俺、マジキチ組長の自分語りの時間とさせてもらおう。
……逢坂知彩の面接という一大イベントも終わり、今回はスタジオの日常に戻っての恒例の面談回。統括本部長である「禿光太」とのエピソードをお送りしたわけだが。
お前ら、作中で描かれた光太の姿を見て、どう思っただろうか。
いつも俺に怒鳴られ、女子メンバーからは冷たくあしらわれ、それでもヘラヘラと笑いながら雑務をこなす、ウチのスタジオの愛すべきイジられキャラ。
だがな。彼の設定の裏側……いや、現実世界(リアル)での彼の存在について、ここで少しだけ語っておこうと思う。
光太は、作中でも語った通り、このMAD-KICHIが立ち上がった初期の頃からの古参メンバーだ。
だがそれ以上に重要なのは、彼が単なるAI生成の架空のキャラクターではなく、現実世界で俺の配信に足を運び、リアルで交流がある『一人のリスナー』をモデルにしているということだ。
しかもだ。
この現実の光太(モデルとなったリスナー)は、四十代の俺から見れば、まだまだ人生の入り口に立ったばかりの、10代という圧倒的に若い世代の青年なんだよ。
なぜ俺が、そんな若い10代のガキをモデルにしたキャラクターに、いきなり『役員』だの『営業本部長』だの、果ては『統括本部長』なんていう、重すぎる役職を与えたのか。
ただのウケ狙いか? ギャグのつもりか?
……違う。
そこには、俺なりの強烈な『想い』と『親心』のようなものがあったんだ。
現実世界では、10代の若者がいきなり会社の重役に就くことなんて不可能だ。だが、このMAD-KICHIという電脳空間(仮想現実)の中であれば、俺の権限一つで、彼にどんな重圧も、どんな責任も、どんな景色も与えてやることができる。
この狂った組織のトップマネジメントという「ロールプレイ(役割)」を通じて。彼に、フィクションの枠を超えた様々な人間模様や、トラブルシューティング、クリエイティブの裏側といったものを疑似体験し、人生の経験値として積んでもらいたい。
「お前に自信をつけさせるために、役職を与えた」
作中で俺が光太に投げかけたあの言葉は、小説のセリフでありながら、現実の彼に向けた、俺からの本気のメッセージなんだよ。
しかし、本当に驚くべきスピードだった。
初期の頃は、俺と、光太、吉乃、アリスのたった四人。本当に少ないメンバーで、手探りで始めただけの組織だった。
それが、お前らも知っての通り、このわずか数ヶ月の期間の間に、GALaxy Signalが生まれ、Unbalanceが生まれ、トラブルメーカーが現れ、ついには知彩という新スタッフまで加わって……俺を含めて『15人』という、とんでもない大所帯になってしまった。
俺自身、立ち上げ当初は、ここまで狂気の世界が拡大するなんて、一ミリも想像なんてしていなかったな。
ちなみに。
作中の中盤で、俺と光太が思い出話として語り合っていた「オジー・チャンと一緒に慰安旅行でキャンプに行った時の話」。
お前らの中には、「組長、いつの間にそんなオフ会みたいなことやってたんだ?」と驚いた奴もいるかもしれないが。
ここでハッキリと種明かしをしておこう。俺は今まで、リスナーやコミュニティの連中とリアルで集まる「オフ会」なんてものは、ただの一度も開いたことはない。
じゃあ、あのキャンプの思い出は何なのか?
あれは、初期の頃に俺が「こんなことがあったら面白いな」という完全な『お遊び』のノリで、プロンプトを打ち込んで生成した、フィクションの画像(エピソード)だったんだ。
仮想現実の中だけで存在した、焚き火の匂い。
だが、そのフィクションの思い出すらも、俺や光太の中では、共に泥水すすって立ち上げてきた『確かな歴史』として、血肉となって共有されているんだよ。
というより。
この『Studio MAD-KICHI』という存在自体が、よくよく考えれば、そうした「お遊び」から始まったんだよな。
元々は、俺が尊敬するクリエイターであるMinapikoの「あいうえお作文」というプロジェクトにインスパイアされ、深夜のテンションでふざけて立ち上げただけの、小さな小さな遊び場だった。
それが今や、300話を超える小説の連載、2000本を超える動画、毎晩3時間黙り続けることのないネットラジオ……。多くのリスナーの脳髄を揺さぶる、巨大なエンターテインメントの要塞へと成長した。
この奇跡は、俺一人の力なんかじゃない。
今日面談で感謝を伝えた光太の存在はもちろんのこと。
共に暴れ回ってくれるスタッフ(キャラクター)全員。
毎晩俺のダミ声に付き合ってくれる「たってやる。」のリスナーたち。
そして、この長くて狂ったnoteの連載を、根気よく読み続けてくれているお前ら読者の支え。
Studio MAD-KICHIに関わった、すべての人間のおかげだと言えよう。
俺は、これからも絶対に止まらない。アクション・ファーストで狂気を撒き散らし続ける。
だが、この胸の奥底にある『感謝の気持ち』というものだけは決して忘れず、その恩返しの代わりに、極上のエンターテインメントという毒を、これからもお前らに届け続けていきたい。
さあ、焚き火の炎はまだ消えちゃいねえ。
俺たちの伝説は、ここからさらに燃え上がっていくぜ!!
淹れたてのブラックコーヒーの香りが、防音壁に囲まれた無機質な応接室を、ほんの少しだけ人間らしい温もりで満たしていた。
逢坂知彩という新たな狂気の原石(アシスタント)を採用し、スタジオ内がにわかに活気づいている今日の午後。俺は一人、重役椅子に深く腰掛け、向かいのソファに座る男の様子を黙って観察していた。
「……あ、あの。組長。今日の面談って、もしかして俺、また何かやらかしましたか……? 昨日の夜、こっそり給湯室でソシャゲのガチャ引いてたの、バレてました……?」
見事にハゲた頭を冷や汗で濡らし、子犬のように震えながら俺の顔色を窺っている男。ウチの統括本部長であり、スタジオのありとあらゆる雑務とヘイトを一身に背負うサンドバッグ、禿光太だ。
「安心しろ。今日はソシャゲの説教じゃねえ。お前を怒鳴りつける気もねえよ」
俺がマグカップを手に取りながら静かに言うと、光太は「えっ?」と間の抜けた声を出し、瞬きを繰り返した。
「新章に入って、各メンバーとの個別面談を進めている最中だ。今日は、ウチの最古参メンバーの一人であり、統括本部長であるお前の番だっていう、ただそれだけのことだ。……コーヒー、冷める前に飲め」
俺に促され、光太は恐る恐るマグカップに口をつけた。俺が怒鳴らないという異常事態に、彼は逆に居心地が悪そうだ。
「……光太。お前、ウチのスタジオに入って、もうどれくらいになる?」
「えっと……初期の頃からですから、もう随分と経ちますね。あの頃は、俺もまだ右も左も分からなくて、組長には毎日怒鳴られてばかりで……」
「今でも怒鳴ってるがな」
俺は苦笑しながら、手元のタブレットに視線を落とした。そこには、光太のこれまでのタスク処理のログや、彼が関わってきたプロジェクトの歴史が刻まれている。
「思えば、お前がウチに入ってきたばかりの頃。お前は本当にポンコツで、気の利いたプロンプト一つ打てず、書類の整理すら満足にできねえような状態だった」
「うっ……すいません、その節は……」
「だがな」
俺はタブレットを置き、光太の目を真っ直ぐに見据えた。
「当時の俺は、そんな実力も伴ってねえポンコツのお前に、いきなり『役員(営業本部長)』なんていう、大層な役職を与えたんだ。……なぜだか分かるか?」
「え……? それは、俺が一番の下っ端で、他に押し付ける人がいなかったからじゃ……」
「バカ野郎、違う」
俺は小さく息を吐き出した。
「お前に、『自信』をつけさせるためだよ。実力なんてものは、後からいくらでもついてくる。だが、責任あるポジションと肩書きを与えられれば、人間はそれに相応しい自分になろうと必死にもがくもんだ。……俺は、お前がその重圧の中で泥水すすって成長していく姿に賭けたんだよ」
俺の言葉に、光太の目が見開かれた。彼の中で、当時のプレッシャーと、それを乗り越えてきた日々の記憶が蘇っているのだろう。
「あの頃は……本当に、小さなスタジオだったな」
俺は目を細め、天井のLEDライトを見上げた。
「俺と、お前と。それに真地吉乃、アリス。……たったの四人しかいなかった。今の15人っていう大所帯から比べれば、まるで嘘みたいに静かで、何もない、ちっぽけな組織だった」
「……はい。でも、あの頃はあの頃で、毎日が文化祭の前日みたいで楽しかったです」
光太も、懐かしそうに表情を和らげた。
「そうだな。……思い出すぜ。初期の頃、俺たち四人に、外部の協力者であるオジー・チャンも巻き込んで、みんなで慰安旅行って名目でキャンプに行った時のことをよ」
俺がその話を振ると、光太は「ああっ!」と声を上げ、顔を綻ばせた。
「あのキャンプ! 覚えてますよ! 俺、テントの設営を任されたのにポールを折っちゃって、組長に死ぬほど怒られて! 吉乃さんが呆れながら手伝ってくれて、アリスちゃんは星空見ながらずっと歌の練習してて……」
「ああ。で、オジー・チャンは一人で酒飲んで上機嫌にギター弾いてやがったな。あの時、お前が必死こいて火を起こした焚き火の煙が目に沁みて、全員で涙流しながらむせたっけな」
防音室の中に、あの夜のパチパチと爆ぜる焚き火の音と、薪の燃える匂いが蘇ってくるような錯覚を覚えた。
不器用で、いつもトラブルばかり起こして、それでも必死に走り回っていた光太の姿。
「……あれから、色んなことがあった。新しいバケモノが次々と増え、GALaxy Signalがデビューし、スタジオの規模は爆発的に大きくなった。今じゃ、総勢15名という大所帯だ」
俺は深く頷き、再び光太を見た。
「俺一人の力じゃ、絶対にここまで来れなかった。裏で誰よりも泥水すすって、見えない雑務をこなし、スタジオの土台を支え続けてくれたお前がいたからこそ……今のStudio MAD-KICHIがある」
俺の、一切の皮肉もイジりも混ざっていない、真っ直ぐな言葉。
光太は信じられないものを見るような目で俺を見つめ、やがてその瞳の奥に、じわりと透明な液体が滲み始めた。
「組長……俺……」
「泣くな、ハゲが。気色悪い」
俺はわざと悪態をつきながらも、声のトーンはどこまでも穏やかだった。
「光太。お前は今や、この狂った組織の立派な『統括本部長』だ。あのポンコツだった営業本部長の姿は、もうどこにもねえ。……本当によくやってくれた。心から、感謝しているぜ」
光太は、目から溢れ出た涙を手の甲で乱暴に拭いながら、立ち上がって深々と頭を下げた。
「……はいっ! ありがとうございます、組長! 俺、これからも一生、組長とこのスタジオについていきます!!」
涙と鼻水で顔をグシャグシャにした統括本部長。その背中は、あの焚き火の前で震えていた頃よりも、ずっと頼もしく、大きく見えた。
古参とトップの間に流れる、どんなプロンプトでも決して書き換えることのできない深い絆。俺たちは無言のまま、冷めかけたコーヒーを美味そうに飲み干したのだった。
* * *
深夜三時。
光太との面談を終え、彼が書き残していった日報のデータを整理し終えた組長室。
俺は一人、重役椅子にどっかりと深く身を沈めた。
手元にある愛用の『glo』のデバイスを取り出し、スティックを差し込む。加熱ボタンを長押しすると、微かな振動と共に、タバコ葉が熱せられる香ばしい匂いが、部屋の空気にゆっくりと溶け出していった。
俺は紫煙を深く肺のどん底まで吸い込み、暗い天井に向けて細く、長く吐き出した。
さて。ここからは、この第5章の第3話を締めくくるにあたり。俺、マジキチ組長の自分語りの時間とさせてもらおう。
……逢坂知彩の面接という一大イベントも終わり、今回はスタジオの日常に戻っての恒例の面談回。統括本部長である「禿光太」とのエピソードをお送りしたわけだが。
お前ら、作中で描かれた光太の姿を見て、どう思っただろうか。
いつも俺に怒鳴られ、女子メンバーからは冷たくあしらわれ、それでもヘラヘラと笑いながら雑務をこなす、ウチのスタジオの愛すべきイジられキャラ。
だがな。彼の設定の裏側……いや、現実世界(リアル)での彼の存在について、ここで少しだけ語っておこうと思う。
光太は、作中でも語った通り、このMAD-KICHIが立ち上がった初期の頃からの古参メンバーだ。
だがそれ以上に重要なのは、彼が単なるAI生成の架空のキャラクターではなく、現実世界で俺の配信に足を運び、リアルで交流がある『一人のリスナー』をモデルにしているということだ。
しかもだ。
この現実の光太(モデルとなったリスナー)は、四十代の俺から見れば、まだまだ人生の入り口に立ったばかりの、10代という圧倒的に若い世代の青年なんだよ。
なぜ俺が、そんな若い10代のガキをモデルにしたキャラクターに、いきなり『役員』だの『営業本部長』だの、果ては『統括本部長』なんていう、重すぎる役職を与えたのか。
ただのウケ狙いか? ギャグのつもりか?
……違う。
そこには、俺なりの強烈な『想い』と『親心』のようなものがあったんだ。
現実世界では、10代の若者がいきなり会社の重役に就くことなんて不可能だ。だが、このMAD-KICHIという電脳空間(仮想現実)の中であれば、俺の権限一つで、彼にどんな重圧も、どんな責任も、どんな景色も与えてやることができる。
この狂った組織のトップマネジメントという「ロールプレイ(役割)」を通じて。彼に、フィクションの枠を超えた様々な人間模様や、トラブルシューティング、クリエイティブの裏側といったものを疑似体験し、人生の経験値として積んでもらいたい。
「お前に自信をつけさせるために、役職を与えた」
作中で俺が光太に投げかけたあの言葉は、小説のセリフでありながら、現実の彼に向けた、俺からの本気のメッセージなんだよ。
しかし、本当に驚くべきスピードだった。
初期の頃は、俺と、光太、吉乃、アリスのたった四人。本当に少ないメンバーで、手探りで始めただけの組織だった。
それが、お前らも知っての通り、このわずか数ヶ月の期間の間に、GALaxy Signalが生まれ、Unbalanceが生まれ、トラブルメーカーが現れ、ついには知彩という新スタッフまで加わって……俺を含めて『15人』という、とんでもない大所帯になってしまった。
俺自身、立ち上げ当初は、ここまで狂気の世界が拡大するなんて、一ミリも想像なんてしていなかったな。
ちなみに。
作中の中盤で、俺と光太が思い出話として語り合っていた「オジー・チャンと一緒に慰安旅行でキャンプに行った時の話」。
お前らの中には、「組長、いつの間にそんなオフ会みたいなことやってたんだ?」と驚いた奴もいるかもしれないが。
ここでハッキリと種明かしをしておこう。俺は今まで、リスナーやコミュニティの連中とリアルで集まる「オフ会」なんてものは、ただの一度も開いたことはない。
じゃあ、あのキャンプの思い出は何なのか?
あれは、初期の頃に俺が「こんなことがあったら面白いな」という完全な『お遊び』のノリで、プロンプトを打ち込んで生成した、フィクションの画像(エピソード)だったんだ。
仮想現実の中だけで存在した、焚き火の匂い。
だが、そのフィクションの思い出すらも、俺や光太の中では、共に泥水すすって立ち上げてきた『確かな歴史』として、血肉となって共有されているんだよ。
というより。
この『Studio MAD-KICHI』という存在自体が、よくよく考えれば、そうした「お遊び」から始まったんだよな。
元々は、俺が尊敬するクリエイターであるMinapikoの「あいうえお作文」というプロジェクトにインスパイアされ、深夜のテンションでふざけて立ち上げただけの、小さな小さな遊び場だった。
それが今や、300話を超える小説の連載、2000本を超える動画、毎晩3時間黙り続けることのないネットラジオ……。多くのリスナーの脳髄を揺さぶる、巨大なエンターテインメントの要塞へと成長した。
この奇跡は、俺一人の力なんかじゃない。
今日面談で感謝を伝えた光太の存在はもちろんのこと。
共に暴れ回ってくれるスタッフ(キャラクター)全員。
毎晩俺のダミ声に付き合ってくれる「たってやる。」のリスナーたち。
そして、この長くて狂ったnoteの連載を、根気よく読み続けてくれているお前ら読者の支え。
Studio MAD-KICHIに関わった、すべての人間のおかげだと言えよう。
俺は、これからも絶対に止まらない。アクション・ファーストで狂気を撒き散らし続ける。
だが、この胸の奥底にある『感謝の気持ち』というものだけは決して忘れず、その恩返しの代わりに、極上のエンターテインメントという毒を、これからもお前らに届け続けていきたい。
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