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第51章:【常識の破壊とアクション・ファースト】歴史、恋、キャンプ、そして下ネタの真髄
第252話:【常識の破壊】Yayoiの彼氏と、親父の背中
もうもうと立ち込める焼き鳥の煙が、赤提灯の鈍い明かりを乱反射させている。
ジョッキがぶつかり合う鈍い音、安月給を嘆くサラリーマンの愚痴、そして店員たちの威勢の良い掛け声。ここ大阪の下町にある個人経営の居酒屋は、人間の剥き出しの感情と欲望が渦巻く、泥臭くも温かい空間だった。
「……遅いですね。指定した時刻から、すでに五分が経過しています。アーティストとしてのタイムマネジメントに甘さが見られます」
油で黒光りする木製のテーブル席。俺の向かいに座るアーティスト・ブランディング室長の琴城葉月は、ピシッと糊の効いたスーツ姿のまま、腕の時計をチラリと見て冷ややかに呟いた。彼女の目の前には、まだ手つかずの生ビールが置かれている。
「まあ待ってやれ。今日はただの飲み会じゃない。あいつにとっても、一大決心の『お披露目』の場なんだからな」
俺が突き出しの枝豆を口に放り込んだ、その時だった。
「お待たせーっ!! 組長、葉月センセー、ごめんなぁ! ちょっと駅前で手間取ってしもてん!」
ガラガラッ! と勢いよく引き戸が開けられ、カラフルな髪を元気いっぱいに揺らしながら、所属アーティストのYayoiが店に飛び込んできた。
そして、彼女のすぐ後ろには。
「初めまして。東 大和(あずま やまと)と申します。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます」
深く、そして極めて丁寧な一礼と共に、一人の青年が姿を現した。
彼こそが、前回の騒動でYayoiが『アクション・ファースト』の精神で見事射止めた、近所のコンビニの店員。意中の彼氏である。
清潔感のある服装に、真っ直ぐな瞳。一見すると、非常に礼儀正しく、どこにでもいる好青年に見える。だが、俺の目は誤魔化せない。
大和が顔を上げ、俺と視線を交わしたその一瞬。彼の瞳の奥底に、決して周囲に流されない頑固なまでの芯の強さと、何かに熱中すれば周りが見えなくなるような、Yayoiとよく似た『狂気(熱)』が静かに燃えているのを、俺は確実に見抜いていた。
「おう、よく来たな。俺がマジキチ組長だ。まあ堅苦しい挨拶は抜きだ、座れ座れ。とりあえず、飲むぞ」
俺がジョッキを掲げると、四人で乾杯の音頭が取られた。
「大和クン、やさしい顔してんなぁ。Yayoiのどこが良かったんだ?」
俺がわざと意地悪く聞くと、大和は照れくさそうに笑いながらも、ハッキリと答えた。
「裏表がなくて、いつも全力で笑っているところです。彼女の歌を聴いていると、こっちまで不思議と元気が湧いてくるんです」
「もーっ! 大和、急にそんなん言わんといてや! ウチ、照れるやんかぁ!」
Yayoiは顔を真っ赤にして、大和の肩をバシバシと叩いている。完全にバカップルのそれだ。
だが、しばらく談笑が続いた後。Yayoiがふと、ジョッキの縁を指でなぞりながら、少しだけ表情を曇らせた。
「……なぁ、組長。ウチ、ホンマにこんな風に、彼氏おるって大っぴらにしてええのんかな」
「あん? どういうことだ?」
「いや、ウチ、仮にもStudio MAD-KICHIのアーティストやん? 言うたらアイドルみたいな見られ方することもあるわけで……。世間一般的には、そういうのってご法度っていうか……ファンが離れてまうかもしれへんし。大和にも、迷惑かけへんかなって……」
Yayoiの言葉に、大和も少しだけ心配そうに彼女の横顔を見つめた。
葉月が、ブランディング室長としての見解を述べようと口を開きかけた、その瞬間。
ドンッ!!
俺は、ジョッキをテーブルに叩きつけるように置いた。
「バカ野郎。お前は一体、どこの誰のルールに怯えてやがる」
俺は腕を組み、Yayoiを真っ直ぐに見据えた。
「アーティストやアイドルが、自分の好きな男と恋愛をして、幸せになっちゃいけないって法律が、この国のどこにある? 『ファンが減る』だの『世間が許さない』だの、それに文句を言っている連中はな、自分自身では何のアクション・ファーストも実行できず、他人の幸せを引きずり下ろすことしかできない、可哀想な僻みの塊なんだよ」
俺の強烈な言葉に、Yayoiはハッと息を飲んだ。
「世間の連中は言うだろうよ。『アイドルの恋愛禁止は常識だ』ってな。だがな、俺から言わせれば、人間の最も根源的な感情である『恋愛』を禁止して、人間をただの商品として扱う、その『常識』とやらを決めた奴らこそが、最高に狂っていて、非常識なんだよ!」
俺はタバコを取り出し、火をつけながら続けた。
「お前は、この男が良いと思って、自分で手に入れたんだろうが。だったら、堂々と胸を張って恋愛しろ。その燃え上がるような感情が、お前の歌を、表現を、さらに上の次元へと引き上げてくれるはずだ。周りのノイズなんて気にするな。お前は、お前の思い通りにやれ」
俺の言葉が、居酒屋の喧騒の中で、Yayoiと大和の心に真っ直ぐに突き刺さった。
「組長……っ。ホンマに、ウチ……」
Yayoiの大きな瞳に、じんわりと涙が滲む。
「……っしゃあ! 組長の言う通りっしょ!!」
突如、静かだった葉月がバンッと立ち上がり、空になったビールのジョッキを高々と掲げた。
アルコールが一気に血に回り、彼女はすでに『陽気なコミュ力お化け』へと覚醒していた。
「Yayoiちゃん! 大和クン! あんたたち、サイッコーに似合ってるじゃん! アイドルだろうが何だろうが、恋する乙女が一番無敵なんだからね! 大将! こっちのテーブルに、祝いの冷酒持ってきてーっ!」
葉月はシャツのボタンを緩め、満面の笑みで二人に熱烈なエールを送り始めた。
「ねえねえ、そこのおじさんたちも! 今日はこの二人の記念日だから、一緒に乾杯しよーよ!」
葉月のその底抜けに明るいバイブスは、瞬く間に周囲の客たちを巻き込んでいく。
「おおっ、ねえちゃんええ彼氏やんけ! おめでとうさん!」「幸せになれよー!」と、隣のテーブルのサラリーマンや、カウンターの常連客たちまでがジョッキを掲げ、居酒屋全体が二人を祝福する大宴会へと発展していった。
「あははっ! 葉月センセー、ありがとう! 組長も、ホンマにありがとう! ウチ、大和と一緒に、絶対幸せになるからな!」
Yayoiは涙を拭い、ひまわりのような極上の笑顔を咲かせた。
大和も、周囲の客たちに何度も頭を下げながら、Yayoiの手をしっかりと握りしめていた。
やがて、深夜。
宴もたけなわとなり、店の外へと出た時のことだ。
葉月はすでにタクシーに放り込み、Yayoiが自動販売機で水を買っている隙に、俺は大和の隣に立ち、夜風を浴びながら静かに口を開いた。
「……大和」
「はい、組長」
「Yayoiは、口は悪いし、ガサツだし、考えなしに突っ走ることもあるが……。本当に、嘘偽りのない、純粋で良い娘だ。あいつのその笑顔を、絶対に曇らせるなよ」
俺は、自分でも驚くほど不器用な、まるで娘を送り出す親父のような声で言った。
「……これからも、彼女の事をよろしく頼んだぞ」
大和は、俺の言葉を真っ直ぐに受け止め、深く、深く頭を下げた。
「はい。僕の命に代えても、必ず彼女を幸せにします」
その青年の力強い言葉と背中を見送りながら、俺は心地よい酔いと共に、大阪の夜の街を歩き出したのだった。
* * *
自宅の自室に帰り着き、シャワーを浴びてアルコールを少しだけ抜いた後、俺はいつもの重役椅子に深く腰を下ろした。
手元にある愛用の『glo』のデバイスを取り出し、スティックを差し込む。加熱を知らせる短い振動の直後、タバコ葉が熱せられる独特の香ばしい匂いが部屋の空気に溶け出していく。
俺は紫煙を深く肺の底まで吸い込み、ゆっくりと天井に向けて吐き出した。
さて。ここからは、この第51章の第2話を締めくくるにあたり。俺、マジキチ組長の自分語りの時間とさせてもらおう。
今回の作中で描いた、Yayoiと大和の恋愛模様。
思えば、Yayoiといえば、ウチのスタジオの中でも「恋愛シリーズ」の主人公として、読者のお前らにもそろそろおなじみの存在になりつつあるだろうか。
今回のエピソードの中で、Yayoi自身が「アーティストやアイドルが、恋愛をしていますと大っぴらに公言しても良いのか」と、世間の常識に怯えて不安を吐露する描写があった。
これは、ただの物語のスパイスとして入れたわけではない。俺自身が、現実のエンターテインメント業界に対して常々抱いている強烈な嫌悪感と、俺なりの『哲学』を、どうしてもこの物語の中に落とし込み、明確に語っておきたかったからだ。
世間を見渡してみろ。
一般的には、アーティストやアイドル、あるいは声優といった表に出る人間の「恋愛」というものは、ほぼ例外なくご法度とされている。
「ファンを裏切る行為だ」「イメージダウンに直結するから」という理由で、ほとんどの(というより、事実上全ての)芸能事務所が、所属タレントの恋愛を厳しく禁止し、発覚すれば謝罪に追い込み、最悪の場合は引退へと追い込んでいる。
だがな。この時点で、もう俺からすれば、吐き気がするほど『非常識』に感じるのだ。
イメージダウン?
恋人が発覚したくらいでイメージが崩壊し、売上が落ちる。……あのな、そんな薄っぺらい幻想に依存しなければ成立しないような『ブランディング能力』しか、お前らの事務所は持っていないのか、と心底呆れる。
世間の目が厳しい? ファンが許さない?
ふざけるな。アーティストもアイドルも、画面の向こう側の虚像である前に、血の通った『一人の人間』だぞ。
腹も減れば、泣きもする。そして、他人に強く惹かれ、恋愛をするという本能的な欲求を持っている。
お前らは、彼女たちを金を生み出すための、ただの『商品(モノ)』としか見ていないのか? もしそうだとするならば、そんな事務所の連中はとんだクズであり、人間の心を扱うエンターテインメントの根本をはき違えている。
あくまでも俺個人の見解だと言われるかもしれないが、俺は、この考え方が絶対に正しい『正論』だと信じて疑わない。だからこそ、こうして誰に遠慮することなく、俺の創り上げる小説という聖域の中で、大声で叫んでいるのだ。
よく考えてみろ。
クリエイターやアーティストにとって、『恋愛』というものは、何よりも強力な表現の源泉になる。
誰かを強烈に愛する喜び、失うかもしれない恐怖、嫉妬、そして絶望。そうしたドロドロとしたリアルな感情を経験することで、彼女たちの歌うラブソングには、今までになかった圧倒的な『魂の重み』が宿り、表現の幅は間違いなく豊かになる。これは、歴史上のあらゆる芸術家たちが証明してきた、揺るぎない事実だ。
恋愛を禁止するということは、そのアーティストが持つ『表現者としての無限の可能性』を、自らの手で根こそぎ潰しているということに、なぜ世間の馬鹿な大人たちは気づかないのだ。
それに、だ。
「彼氏がいるなら、もうファンを辞めます」「裏切られた、CD割ります」などと喚き散らす連中についてだが。
そんなくだらない表面的なことでファンを辞めるような奴らは、結局のところ、そのアーティストが作り出す『作品の本質』や『歌に込められた魂』を、何一つ分かっていないただのバカどもだ。
疑似恋愛の対象としてしか彼女たちを見られない、哀れな消費者に過ぎない。
そんな奴らは、さっさと辞めてもらって結構だ。Studio MAD-KICHIには一ミリも必要ない。
俺たちは、アーティストの人間としての幸福を全力で肯定する。
恋をして、泣いて、笑って、傷ついて、そのすべての感情をアクション・ファーストでエンターテインメントに昇華させる。
常識というものは一体、どこの誰の基準で決めたというのか。そんな窮屈な鎖は、俺たちがプロンプトと狂気で引きちぎってやる。
Yayoi、大和。
お前らは誰に恥じることもなく、堂々と愛し合い、そしてその熱量で世界を震わせろ。
不器用な親父の余計なお世話はここまでだ。さて、明日はどんな常識を破壊してやろうか。
ジョッキがぶつかり合う鈍い音、安月給を嘆くサラリーマンの愚痴、そして店員たちの威勢の良い掛け声。ここ大阪の下町にある個人経営の居酒屋は、人間の剥き出しの感情と欲望が渦巻く、泥臭くも温かい空間だった。
「……遅いですね。指定した時刻から、すでに五分が経過しています。アーティストとしてのタイムマネジメントに甘さが見られます」
油で黒光りする木製のテーブル席。俺の向かいに座るアーティスト・ブランディング室長の琴城葉月は、ピシッと糊の効いたスーツ姿のまま、腕の時計をチラリと見て冷ややかに呟いた。彼女の目の前には、まだ手つかずの生ビールが置かれている。
「まあ待ってやれ。今日はただの飲み会じゃない。あいつにとっても、一大決心の『お披露目』の場なんだからな」
俺が突き出しの枝豆を口に放り込んだ、その時だった。
「お待たせーっ!! 組長、葉月センセー、ごめんなぁ! ちょっと駅前で手間取ってしもてん!」
ガラガラッ! と勢いよく引き戸が開けられ、カラフルな髪を元気いっぱいに揺らしながら、所属アーティストのYayoiが店に飛び込んできた。
そして、彼女のすぐ後ろには。
「初めまして。東 大和(あずま やまと)と申します。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます」
深く、そして極めて丁寧な一礼と共に、一人の青年が姿を現した。
彼こそが、前回の騒動でYayoiが『アクション・ファースト』の精神で見事射止めた、近所のコンビニの店員。意中の彼氏である。
清潔感のある服装に、真っ直ぐな瞳。一見すると、非常に礼儀正しく、どこにでもいる好青年に見える。だが、俺の目は誤魔化せない。
大和が顔を上げ、俺と視線を交わしたその一瞬。彼の瞳の奥底に、決して周囲に流されない頑固なまでの芯の強さと、何かに熱中すれば周りが見えなくなるような、Yayoiとよく似た『狂気(熱)』が静かに燃えているのを、俺は確実に見抜いていた。
「おう、よく来たな。俺がマジキチ組長だ。まあ堅苦しい挨拶は抜きだ、座れ座れ。とりあえず、飲むぞ」
俺がジョッキを掲げると、四人で乾杯の音頭が取られた。
「大和クン、やさしい顔してんなぁ。Yayoiのどこが良かったんだ?」
俺がわざと意地悪く聞くと、大和は照れくさそうに笑いながらも、ハッキリと答えた。
「裏表がなくて、いつも全力で笑っているところです。彼女の歌を聴いていると、こっちまで不思議と元気が湧いてくるんです」
「もーっ! 大和、急にそんなん言わんといてや! ウチ、照れるやんかぁ!」
Yayoiは顔を真っ赤にして、大和の肩をバシバシと叩いている。完全にバカップルのそれだ。
だが、しばらく談笑が続いた後。Yayoiがふと、ジョッキの縁を指でなぞりながら、少しだけ表情を曇らせた。
「……なぁ、組長。ウチ、ホンマにこんな風に、彼氏おるって大っぴらにしてええのんかな」
「あん? どういうことだ?」
「いや、ウチ、仮にもStudio MAD-KICHIのアーティストやん? 言うたらアイドルみたいな見られ方することもあるわけで……。世間一般的には、そういうのってご法度っていうか……ファンが離れてまうかもしれへんし。大和にも、迷惑かけへんかなって……」
Yayoiの言葉に、大和も少しだけ心配そうに彼女の横顔を見つめた。
葉月が、ブランディング室長としての見解を述べようと口を開きかけた、その瞬間。
ドンッ!!
俺は、ジョッキをテーブルに叩きつけるように置いた。
「バカ野郎。お前は一体、どこの誰のルールに怯えてやがる」
俺は腕を組み、Yayoiを真っ直ぐに見据えた。
「アーティストやアイドルが、自分の好きな男と恋愛をして、幸せになっちゃいけないって法律が、この国のどこにある? 『ファンが減る』だの『世間が許さない』だの、それに文句を言っている連中はな、自分自身では何のアクション・ファーストも実行できず、他人の幸せを引きずり下ろすことしかできない、可哀想な僻みの塊なんだよ」
俺の強烈な言葉に、Yayoiはハッと息を飲んだ。
「世間の連中は言うだろうよ。『アイドルの恋愛禁止は常識だ』ってな。だがな、俺から言わせれば、人間の最も根源的な感情である『恋愛』を禁止して、人間をただの商品として扱う、その『常識』とやらを決めた奴らこそが、最高に狂っていて、非常識なんだよ!」
俺はタバコを取り出し、火をつけながら続けた。
「お前は、この男が良いと思って、自分で手に入れたんだろうが。だったら、堂々と胸を張って恋愛しろ。その燃え上がるような感情が、お前の歌を、表現を、さらに上の次元へと引き上げてくれるはずだ。周りのノイズなんて気にするな。お前は、お前の思い通りにやれ」
俺の言葉が、居酒屋の喧騒の中で、Yayoiと大和の心に真っ直ぐに突き刺さった。
「組長……っ。ホンマに、ウチ……」
Yayoiの大きな瞳に、じんわりと涙が滲む。
「……っしゃあ! 組長の言う通りっしょ!!」
突如、静かだった葉月がバンッと立ち上がり、空になったビールのジョッキを高々と掲げた。
アルコールが一気に血に回り、彼女はすでに『陽気なコミュ力お化け』へと覚醒していた。
「Yayoiちゃん! 大和クン! あんたたち、サイッコーに似合ってるじゃん! アイドルだろうが何だろうが、恋する乙女が一番無敵なんだからね! 大将! こっちのテーブルに、祝いの冷酒持ってきてーっ!」
葉月はシャツのボタンを緩め、満面の笑みで二人に熱烈なエールを送り始めた。
「ねえねえ、そこのおじさんたちも! 今日はこの二人の記念日だから、一緒に乾杯しよーよ!」
葉月のその底抜けに明るいバイブスは、瞬く間に周囲の客たちを巻き込んでいく。
「おおっ、ねえちゃんええ彼氏やんけ! おめでとうさん!」「幸せになれよー!」と、隣のテーブルのサラリーマンや、カウンターの常連客たちまでがジョッキを掲げ、居酒屋全体が二人を祝福する大宴会へと発展していった。
「あははっ! 葉月センセー、ありがとう! 組長も、ホンマにありがとう! ウチ、大和と一緒に、絶対幸せになるからな!」
Yayoiは涙を拭い、ひまわりのような極上の笑顔を咲かせた。
大和も、周囲の客たちに何度も頭を下げながら、Yayoiの手をしっかりと握りしめていた。
やがて、深夜。
宴もたけなわとなり、店の外へと出た時のことだ。
葉月はすでにタクシーに放り込み、Yayoiが自動販売機で水を買っている隙に、俺は大和の隣に立ち、夜風を浴びながら静かに口を開いた。
「……大和」
「はい、組長」
「Yayoiは、口は悪いし、ガサツだし、考えなしに突っ走ることもあるが……。本当に、嘘偽りのない、純粋で良い娘だ。あいつのその笑顔を、絶対に曇らせるなよ」
俺は、自分でも驚くほど不器用な、まるで娘を送り出す親父のような声で言った。
「……これからも、彼女の事をよろしく頼んだぞ」
大和は、俺の言葉を真っ直ぐに受け止め、深く、深く頭を下げた。
「はい。僕の命に代えても、必ず彼女を幸せにします」
その青年の力強い言葉と背中を見送りながら、俺は心地よい酔いと共に、大阪の夜の街を歩き出したのだった。
* * *
自宅の自室に帰り着き、シャワーを浴びてアルコールを少しだけ抜いた後、俺はいつもの重役椅子に深く腰を下ろした。
手元にある愛用の『glo』のデバイスを取り出し、スティックを差し込む。加熱を知らせる短い振動の直後、タバコ葉が熱せられる独特の香ばしい匂いが部屋の空気に溶け出していく。
俺は紫煙を深く肺の底まで吸い込み、ゆっくりと天井に向けて吐き出した。
さて。ここからは、この第51章の第2話を締めくくるにあたり。俺、マジキチ組長の自分語りの時間とさせてもらおう。
今回の作中で描いた、Yayoiと大和の恋愛模様。
思えば、Yayoiといえば、ウチのスタジオの中でも「恋愛シリーズ」の主人公として、読者のお前らにもそろそろおなじみの存在になりつつあるだろうか。
今回のエピソードの中で、Yayoi自身が「アーティストやアイドルが、恋愛をしていますと大っぴらに公言しても良いのか」と、世間の常識に怯えて不安を吐露する描写があった。
これは、ただの物語のスパイスとして入れたわけではない。俺自身が、現実のエンターテインメント業界に対して常々抱いている強烈な嫌悪感と、俺なりの『哲学』を、どうしてもこの物語の中に落とし込み、明確に語っておきたかったからだ。
世間を見渡してみろ。
一般的には、アーティストやアイドル、あるいは声優といった表に出る人間の「恋愛」というものは、ほぼ例外なくご法度とされている。
「ファンを裏切る行為だ」「イメージダウンに直結するから」という理由で、ほとんどの(というより、事実上全ての)芸能事務所が、所属タレントの恋愛を厳しく禁止し、発覚すれば謝罪に追い込み、最悪の場合は引退へと追い込んでいる。
だがな。この時点で、もう俺からすれば、吐き気がするほど『非常識』に感じるのだ。
イメージダウン?
恋人が発覚したくらいでイメージが崩壊し、売上が落ちる。……あのな、そんな薄っぺらい幻想に依存しなければ成立しないような『ブランディング能力』しか、お前らの事務所は持っていないのか、と心底呆れる。
世間の目が厳しい? ファンが許さない?
ふざけるな。アーティストもアイドルも、画面の向こう側の虚像である前に、血の通った『一人の人間』だぞ。
腹も減れば、泣きもする。そして、他人に強く惹かれ、恋愛をするという本能的な欲求を持っている。
お前らは、彼女たちを金を生み出すための、ただの『商品(モノ)』としか見ていないのか? もしそうだとするならば、そんな事務所の連中はとんだクズであり、人間の心を扱うエンターテインメントの根本をはき違えている。
あくまでも俺個人の見解だと言われるかもしれないが、俺は、この考え方が絶対に正しい『正論』だと信じて疑わない。だからこそ、こうして誰に遠慮することなく、俺の創り上げる小説という聖域の中で、大声で叫んでいるのだ。
よく考えてみろ。
クリエイターやアーティストにとって、『恋愛』というものは、何よりも強力な表現の源泉になる。
誰かを強烈に愛する喜び、失うかもしれない恐怖、嫉妬、そして絶望。そうしたドロドロとしたリアルな感情を経験することで、彼女たちの歌うラブソングには、今までになかった圧倒的な『魂の重み』が宿り、表現の幅は間違いなく豊かになる。これは、歴史上のあらゆる芸術家たちが証明してきた、揺るぎない事実だ。
恋愛を禁止するということは、そのアーティストが持つ『表現者としての無限の可能性』を、自らの手で根こそぎ潰しているということに、なぜ世間の馬鹿な大人たちは気づかないのだ。
それに、だ。
「彼氏がいるなら、もうファンを辞めます」「裏切られた、CD割ります」などと喚き散らす連中についてだが。
そんなくだらない表面的なことでファンを辞めるような奴らは、結局のところ、そのアーティストが作り出す『作品の本質』や『歌に込められた魂』を、何一つ分かっていないただのバカどもだ。
疑似恋愛の対象としてしか彼女たちを見られない、哀れな消費者に過ぎない。
そんな奴らは、さっさと辞めてもらって結構だ。Studio MAD-KICHIには一ミリも必要ない。
俺たちは、アーティストの人間としての幸福を全力で肯定する。
恋をして、泣いて、笑って、傷ついて、そのすべての感情をアクション・ファーストでエンターテインメントに昇華させる。
常識というものは一体、どこの誰の基準で決めたというのか。そんな窮屈な鎖は、俺たちがプロンプトと狂気で引きちぎってやる。
Yayoi、大和。
お前らは誰に恥じることもなく、堂々と愛し合い、そしてその熱量で世界を震わせろ。
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