妖怪たちに愛されすぎる優しい和菓子職人 2

及川証 (アカシ)

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1.賑やか

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 「吉ちゃーん……仕事行きたくなーい」

「会社のおえらいさんがそんなこと言わないでおくれ。皆困ってしまうよ」

 吉兵衛を膝枕に白髪の土蜘蛛。白蜘蛛は甘え倒す。

「吉ちゃんが近いのが悪いんだー」

「なら同居、やめますか?」

 「ニッコリ」と笑みを浮かべながら吉兵衛の母、香澄の手伝いをしている百々目鬼、紅目がキッチンから2人を見る。

 明らかな挑発に白蜘蛛は吉兵衛の腹に顔をうずめた。

「えーん、ギョロ目がいじめるー」

 そんな白蜘蛛の頭を吉兵衛は苦笑しながら「よしよし」と撫でる。

 触り心地のいいシルクのような手触りの髪。

 妖怪特有の低い体温が何とも言えない触り心地。

 正直いつまでも撫でていたいくらいではあるが、童を送り出すのも親としてすべきことと吉兵衛は白蜘蛛の肩を優しく叩く。

「白蜘蛛。お前さんの働いてる立派な姿。私によーく見せてはくれないのかい?」

 甘える白蜘蛛がピタリと止まる。

「灯し火だって立派な姿を見せてくれているよ?」

 そう言ってテレビを指さした。

 そこには火車かしゃ、灯し火の姿が大きく取り上げられていた。

 朝のニュース。つまりリアルタイムでの放送。

 テレビの中でアナウンサーの質問に屈託のない笑みを見せ。

 芸名、焔緋火車えんぴかしゃの名で呼ばれ質問される

《朝弱い方なんですか?》

《そうなんっス。気がついたら夕方!なんてこともあるっスね》

 恥ずかしそうに頬をかきながら言う灯し火にさらに質問が飛ぶ。

《そんな朝の弱い焔緋さんは起きなければならないとき、どうやってるんですか?》

《そうっスね。好きな人を思い浮かべるっス》

 《好きな人?》アナウンサーは疑問半分、その人物に対する興味半分で食い気味に焔緋を見ると、とろりとした甘い表情で口を開いた。

《その人は優しくてあったかくて……ずっと、ずーっと一緒にいたい人っス。そのためにはあっしはもっといい男にならないといけない。完璧な男になって振り向いてもらわなきゃ》

 そんな女が赤面するようなセリフと表情が画面に映る。

「朝から熱烈だね」

 寝癖をつけたまま朝食のパンをかじりながら言うのは吉兵衛の弟慎之介。

「朝から甘ったるいわね」

 と香澄が言いながら吉兵衛を見る。

「顔から火が出る思いだよ……」

 ニヤニヤと笑みを浮かべる弟と母に吉兵衛は居心地が悪い気持ちになる。

「……仕事行ってくる」

 のそりと重い身体を動かし白蜘蛛は自身の服を糸で編み着ていく。

「おや、行く気になったのかい?」

「吉ちゃんにとっていい男になりたいからねー」

 そう言って白蜘蛛は吉兵衛の唇に自信の唇を合わせる。

 「チュッ」と軽い音が響き顔を離した白蜘蛛は鞄を持つ。

「帰ってきたら褒めてよ!」

「ちゃーんと頑張ったらね」

 吉兵衛の言葉に満足そうに笑みを浮かべ「いってきまーす」と白蜘蛛はリビングを出た。

 「マセガキが」と紅目のつぶやきが本人がいない部屋に響く。

「母さん、俺にもブラックコーヒーちょうだい」

 そう言って慎之介は空になったマグカップを香澄に差し出した。

吉兵衛は、テレビに映る愛しい一匹を嬉しそうにニコニコと眺める。

 そんな中、バイクの音が近づいてきた。
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