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可愛いあの子に好かれたい

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 彰は抵抗せずにずっと抱かれていてくれた。温かさがまだここに彰がいる事を教えてくれている。

 このまま居たい。だが、そうもいかない。もうそろそろ誰か来てもおかしくない時間になる。次は確か聖司兄さんだ。その前に彰が逃げれる場所を増やさなければ。そしてできれば、この屋敷から出れるようにしなければならない。

 そっと腕が緩め、彰を自由にした。突き飛ばされるか又は一目散に逃げるかなぁと思っていたが、彰は俺の顔をじっと見ているだけで俺の腕の中に居たままだった。

 もう少し触れても良いのかなと思い、右手でそっと彰の頬に触れた。それから、唇へと触れるだけのキスを落とした。ふんわりと柔らかな唇とのキスはとても素敵だった。

 泣かない様に一生懸命に笑った。

「もう、行くよ。また、ちょっかい出したら怒られちまう。」

 戸惑っている彰から離れ、湯船からあがった。

 脱ぎ捨てたスーツ類と彰が着ていたワンピースを抱えて、彰に背を向ける。

 行きたくない、彰と一緒に居たい。そんな思いを封じ込めて、彰に嫌われるように振り向き、いやらしく笑った。

「まぁ、しっかりあきちゃんのアフターしたから、完璧に怒られるけどな! 意識がなかったのが、残念だった。絶対、喘ぎ声最高だっただろうにな。次は、意識ある時にヤらせてね!」

 彰の表情が戸惑いから嫌悪に変わった。 

 そんな顔見たくない。それでも、彰の枷になる訳にはいかないのだ。今更かも知れないが、良太兄さんに好意がバレれば利用される可能性がある。隠さなければならない。

「うるせぇ! 滅びろ!」

 彰が近くにあった洗面器を投げて来た。真っ直ぐ俺の顔面に向かってきた為、横に避けた。うまく避けれたから良かったが、彰の行動力には驚かされてばっかりだ。


 逃げる様に、大浴場から出て脱衣場に入った。

 どうせ俺のじゃないと、洗濯カゴに濡れたスーツ類を放り投げた。彰が着ていたワンピースのポケットを探ると中から丸い鏡が出てきた。

 彰が気づく様に廊下入り口前に、大地が置いて行った鏡……。
 それを見て少し嫉妬してしまう。彰は馬鹿じゃない。少し考えればこれは大地が置いていった事に気付いただろう。

 彰は俺より先に大地を好きになったのだろうか。誰よりも先に好かれたいと思ってしまい、頭を振って馬鹿な思いを跳ね除けた。嫉妬してどうする。そんなの彰次第だろう。

 ワンピースは洗濯カゴに入れ、鏡を手に脱衣場にある鍵付きの棚へと向かう。
 海と書かれている名札が貼られている棚の扉を開いた。その中には俺の私服とバスタオルだけが入っている筈だった。私服の代わりに先程と同じのスーツ類が数着入っていた。
 用意周到だなと思いげんなりしながら、バスタオルを取り身体を拭いた。

 仕方なしに下着とスーツを着た。

 そうだ、彰の服はどこだ? 全ての部屋に彰の着替えが置いてあると言っていたが……。

 全て棚を見てみる事にした。

 良から始まり、聖、拓、海、大、幸と続き、空欄だった棚に贄と書かれていた名札あった。
 まさかと思い開くと案の定、彰用の白いワンピース数枚と真っ白のバスタオルが入っていた。

 苛立ちを覚えながらも、ワンピースとバスタオルを手に取り乱暴に扉を閉めた。
 もう一度、扉に貼られている名札を見た。何回見ても贄と書かれている。

 彰の名前は贄なんかじゃない。ちゃんとした名前があるのに! 

 苛立ちを抑えられず乱暴に名札を剥ぎ取り、ぐちゃぐちゃに握りしめゴミ箱に投げ捨てた。

 苛立ちが収まってその事にハッとして気づいた俺は、溜息をついた。

 好きな子が馬鹿にされて苛立つなんて……俺は子どもか。どうも、彰のことになると抑えがきかなくなる。もう少し冷静にならなければ……。

 ワンピースのポケットに鏡を入れ、着替え用にあるベンチの上にバスタオルと共に置いた。

 あ、懐中時計を忘れてた……。

 洗濯カゴに入れたスーツの中から懐中時計を取り出し、バスタオルとワンピースの間に置いた。
 これなら気付くだろう。俺が置いたって分かってくれるだろうか。

 俺の事も好いてくれるだろうかと淡い期待を抱きながら、彰が風呂場から出てくる前に脱衣場を後にした。

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