希望の黒 〜狼の館から連れ出せ〜

番傘と折りたたみ傘

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守りたい

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 聖司兄さんが俺たちの元に近づいてくる。

 彰を守らないと!

 大地へ彰を託すように押し付け立ち上がる。冷たいその瞳と表情に怖気付きたくなるが、苛立ちを思い出し言い放った。

「聖司兄さん、俺は反対だ。別に構わないだろ」

「いけません。これでは計画に差し支えます」

 そんな計画なんて俺が壊してやる! だが、その前に彰に対しての態度を少しでも緩やかにして貰わないと……壊れてしまう。

「このままだと、壊れちまう」

「壊れてなんぼです。壊れれば壊れるほど良い贄となります」

 くそ、何でこんなにも生贄にこだわるんだ。壊れた彰なんて見たくない! 聖司兄さんは見たことが無いのか……。彰の笑顔を……可愛いのに!!

 聖司兄さんの視線が俺から彰に移った。その視線から震える彰を隠そうと大地が抱き寄せている。

「大地、お前も歯向かうのですか」

 その言葉に大地も苛立ちを隠せないようだ。

「聖司兄さんの言ってる事は分かる。でも、俺は海斗の意見に賛成だ。お願いだ、もう少しだけ慈悲をあげてよ」

「そうは行きません。私が良くても、あの人が良いと言わないでしょ。とりあえず、子羊ちゃんは私達に捕まりました。4Pでもしましょうか」

 は? 何でそうなる。追い詰められて今にも壊れてしまいそうな彰を三人で犯すって言うのか。そんな事したら、本当に壊れちまう。

 ついつい彰の方を見てしまったのが悪かった。
 やっと落ち着いていたのに、俺達を見て顔が恐怖に彩られていく。光が消え虚に逆戻りしていく瞳。絶望に追い詰められていく彰がそこにいた。

 彰が急に大地の腕の中から出て、俺達から離れる様に二、三歩下がった。それに伴い聖司兄さんが進み出て、彰へ手を伸ばしていく。その手から自分を守ろうとしているのか彰が自身を抱き締めた。

 一気に色々と起こり、何が起ったのか一瞬分からなかったが、誤解されている事に気づいた。彰は俺や大地にも襲われると思っている。そんな事しない……彰を壊すくらいなら、やってやる! 
 俺の気配に気付いたのか視線を寄越した大地と、一瞬でアイコンタクトを取った。頷く大地に、声を張り上げた。

「大地、行け!」

 俺の声と共に立ち上がり駆け出した大地は、彰を聖司兄さんの前から掻っ攫って駆けて行った。

 大地を追いかけて行こうとした聖司兄さんに、右ストレートを繰り出したが瞬時にかわされた。
 カウンターで左フックが飛んでくるのをギリギリの所でかわした。

「全く、貴方達には手が焼けます。」

「だとしたら、最悪な弟を思った兄は可哀想だな!」

「そんな事ありませんよ。手が掛かるほど可愛いって言うじゃないですか」

「そんなこと言うな……寒気がする」

「海斗……今更何を言っても許してくれるとは思っていません。それでも、私達は申し訳ないと思っています」

「本当に今更だな! 今、あの子の側に行かせる事はできない! 足止めさせてもらう!」

「そうですか。それならば容赦しません。海斗、あなたの為です」

「俺の為だと! それなら、あきちゃんを自由にしろってんだ!」

 苛立ちを隠せず怒りに任せた右フックは簡単に読まれかわされてしまった。カウンターが飛んできて、腹に一撃を受けてしまった。

「ぐっ!」

 腹を抱えて蹲った。苦しい、呼吸が出来ない。

「海斗、すみません。ここで大人しく眠っていて下さい」

 意識が混濁してくる。ここで、意識を失う訳にはいかないのに……。格闘で聖司兄さんには敵わない。ここに刀があれば対等にやれるのに……大地……彰を……守……。


 夕闇に染まった空の下。俺は、彰の家の庭の真ん中で立っていた。ふと、いつも彰をみているマンションを見上げたが誰も居ない。俺は、夢を見ているのだろうか……。
 庭に置かれている椅子に彰が座っている。彰の瞳から零れ落ちる涙をみて、近づき背後からそっと抱き締めた。

「大丈夫だよ。どうなろうとも俺が絶対に助けてあげるから」

 俺の言葉に彰がそっと振り向いた。その表情は悲しげなのにとても綺麗だった。
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