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トロツカ村
7 長老様のお館
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翌朝、ミーシャは小判型のホットケーキをたくさん焼いた。長老様へのお土産分を包んで、残りは朝食にした。ミーシャはロッコと湊のホットケーキに、はちみつをかけてくれた。甘くて美味しくて、口の中でシュワッととろけるようだった。
湊はいつもミーシャと出かけるのだが、今日はイワンと出かけた。長老様のお館まで歩いていくと、道行く村の小人達が村長であるイワンに挨拶する。
長老様はロッコより小さくて、白い髪と白いひげを生やしていた。
「初めまして。榊原湊と言います」
少し緊張した湊に、にっこり微笑んで座るように勧めた。手ずからミントのお茶を入れてくれる。
長老様は2人に語り出した。
「そもそもは200年前が始まりのようじゃ。月明りの森に黒髪、黒い瞳のオメガ女性が現れたのは。サツマという所から来たシマヅミヨという名前だったと記載されている」
200年前と言うと江戸時代か。薩摩藩のことかな。九州の人か。
「薩摩も昔の日本の地名です。その方も自分と同じ世界の人だと思います」
「200年前も満月の夜と書かれている。100年に1度の満月の夜に、異世界と通じるのだな」
「シマヅさんは、どうなったのですか?」
「隣の大国アスティアがドロティアから独立した立役者が青年アスティアなのだが、その人と結婚したようだ」
「幸せになったんですね」
「しかし、ドロティアからの独立戦争で亡くなったそうだ」
「じゃあ、元の世界には戻れなかったんですね」
「シマヅさんは元の世界では意にそまぬ結婚を強いられていたので自害しようとしたらしい。その拍子にこちらに来たようなので、元の世界に戻りたいという願望はなかったようだ」
湊もうん、と頷く。自分は自殺じゃなくて交通事故だけど、元の世界にはあまり戻りたくない。
「100年前に来たクロイワさんもアスティアの王と結婚したとおっしゃってましたよね。アスティアの王妃になる運命なんですかね」
「トロツカ村のそばにある人間の国がアスティアだからなのだろう。2人とも不思議な力を持っており、王の手助けができたようだ」
「僕は男だし、何の取柄もないから例外ですね」
湊はしょんぼりする。アスティアの王様が素敵な男性で、自分の事を好きになってくれたらと夢見る気持ちもあるが、男の自分には無理だろう。異世界転生するついでに女性に変われば良かったのに。
「男性だが、オメガだから、アルファの王とは番になることは可能じゃ」
湊はどきんとする。そういえば、こちらの世界に来てオメガと言われている。
「長老様、僕はオメガという存在があることは知識としては分かるのですが、前にいた世界では男女の区別のみでオメガやアルファはいなかったんです。確か3か月に1度ヒートというのが来て、抑制剤を飲まないと辛いことになるんですよね」
「医者殿が医療道具の買い付けの時に抑制剤も買っておくといっておった」
「僕の読んだ本では抑制剤は高価と聞いています」
「値段までは分からない。オメガは希少で一般的な薬ではないから、普通の薬より高いかもしれぬ」
「僕、皆さんに迷惑ばかりかけて。どうしたら恩返しできるでしょう」
うーんと長老様もイワンも首を傾げた。
「僕が女性で王妃になれるようだとトロツカ村に恩返しできたのに。つくづく自分が嫌になります」
湊は溜め息をつく。結局、お返し出来たことというと、着てきた制服をミーシャの布の研究に渡せたことくらいだ。
「湊さんがこちらの世界に来たことは、何か大きな意味があると思うので、細かい心配はしないでゆったりと過ごしておりなさい」
長老様が優しくおっしゃってくれる。イワンも頷いた。
しかし、そうは言ってもと湊がうかない顔をしていると、長老様が提案する。
「では、湊さんはここのわしらの館に来て、わしらの世話をすると言うのはどうだろう?」
「いいんですか?」
長老様のお館は広い。今は70歳の長老様と、65歳の副長老様の2人暮らしということであった。
「今は2人しかいないから寝室も空いているし。村長の家だと、ロッコもおるから、湊さんがヒートになった時に困るだろう」
湊は顔を赤らめる。ヒートの時は性欲が高まり自慰しまくってしまうのだっけ? ロッコやミーシャがいる中でそれはつらいな。こちらの長老様達のようにご年配の方達の方が気が楽かもしれない。
イワンも少し顔を赤らめる。ロッコには刺激が強すぎるかもしれない。
3人の中で湊が長老様のお館に引っ越しするのが、ほぼ決定となった。長老様は副長老様の部屋をノックし、副長老様にその旨説明した。
副長老様は長老様より少し背が高かった。髪は白いがくせ毛でふわふわしているので短くされていた。お髭は鼻の下に少したくわえられていた。
「副長老のジーナです。よろしくお願いします」
穏やかな、腰の低い方であった。トロツカ村の日々の事を綺麗に記載する祐筆係としての仕事を主にされていた。
今日はイワンの家に戻り、明日から長老のお館にお世話になることが決まった。
湊はいつもミーシャと出かけるのだが、今日はイワンと出かけた。長老様のお館まで歩いていくと、道行く村の小人達が村長であるイワンに挨拶する。
長老様はロッコより小さくて、白い髪と白いひげを生やしていた。
「初めまして。榊原湊と言います」
少し緊張した湊に、にっこり微笑んで座るように勧めた。手ずからミントのお茶を入れてくれる。
長老様は2人に語り出した。
「そもそもは200年前が始まりのようじゃ。月明りの森に黒髪、黒い瞳のオメガ女性が現れたのは。サツマという所から来たシマヅミヨという名前だったと記載されている」
200年前と言うと江戸時代か。薩摩藩のことかな。九州の人か。
「薩摩も昔の日本の地名です。その方も自分と同じ世界の人だと思います」
「200年前も満月の夜と書かれている。100年に1度の満月の夜に、異世界と通じるのだな」
「シマヅさんは、どうなったのですか?」
「隣の大国アスティアがドロティアから独立した立役者が青年アスティアなのだが、その人と結婚したようだ」
「幸せになったんですね」
「しかし、ドロティアからの独立戦争で亡くなったそうだ」
「じゃあ、元の世界には戻れなかったんですね」
「シマヅさんは元の世界では意にそまぬ結婚を強いられていたので自害しようとしたらしい。その拍子にこちらに来たようなので、元の世界に戻りたいという願望はなかったようだ」
湊もうん、と頷く。自分は自殺じゃなくて交通事故だけど、元の世界にはあまり戻りたくない。
「100年前に来たクロイワさんもアスティアの王と結婚したとおっしゃってましたよね。アスティアの王妃になる運命なんですかね」
「トロツカ村のそばにある人間の国がアスティアだからなのだろう。2人とも不思議な力を持っており、王の手助けができたようだ」
「僕は男だし、何の取柄もないから例外ですね」
湊はしょんぼりする。アスティアの王様が素敵な男性で、自分の事を好きになってくれたらと夢見る気持ちもあるが、男の自分には無理だろう。異世界転生するついでに女性に変われば良かったのに。
「男性だが、オメガだから、アルファの王とは番になることは可能じゃ」
湊はどきんとする。そういえば、こちらの世界に来てオメガと言われている。
「長老様、僕はオメガという存在があることは知識としては分かるのですが、前にいた世界では男女の区別のみでオメガやアルファはいなかったんです。確か3か月に1度ヒートというのが来て、抑制剤を飲まないと辛いことになるんですよね」
「医者殿が医療道具の買い付けの時に抑制剤も買っておくといっておった」
「僕の読んだ本では抑制剤は高価と聞いています」
「値段までは分からない。オメガは希少で一般的な薬ではないから、普通の薬より高いかもしれぬ」
「僕、皆さんに迷惑ばかりかけて。どうしたら恩返しできるでしょう」
うーんと長老様もイワンも首を傾げた。
「僕が女性で王妃になれるようだとトロツカ村に恩返しできたのに。つくづく自分が嫌になります」
湊は溜め息をつく。結局、お返し出来たことというと、着てきた制服をミーシャの布の研究に渡せたことくらいだ。
「湊さんがこちらの世界に来たことは、何か大きな意味があると思うので、細かい心配はしないでゆったりと過ごしておりなさい」
長老様が優しくおっしゃってくれる。イワンも頷いた。
しかし、そうは言ってもと湊がうかない顔をしていると、長老様が提案する。
「では、湊さんはここのわしらの館に来て、わしらの世話をすると言うのはどうだろう?」
「いいんですか?」
長老様のお館は広い。今は70歳の長老様と、65歳の副長老様の2人暮らしということであった。
「今は2人しかいないから寝室も空いているし。村長の家だと、ロッコもおるから、湊さんがヒートになった時に困るだろう」
湊は顔を赤らめる。ヒートの時は性欲が高まり自慰しまくってしまうのだっけ? ロッコやミーシャがいる中でそれはつらいな。こちらの長老様達のようにご年配の方達の方が気が楽かもしれない。
イワンも少し顔を赤らめる。ロッコには刺激が強すぎるかもしれない。
3人の中で湊が長老様のお館に引っ越しするのが、ほぼ決定となった。長老様は副長老様の部屋をノックし、副長老様にその旨説明した。
副長老様は長老様より少し背が高かった。髪は白いがくせ毛でふわふわしているので短くされていた。お髭は鼻の下に少したくわえられていた。
「副長老のジーナです。よろしくお願いします」
穏やかな、腰の低い方であった。トロツカ村の日々の事を綺麗に記載する祐筆係としての仕事を主にされていた。
今日はイワンの家に戻り、明日から長老のお館にお世話になることが決まった。
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