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第89話 ミドリ、立ち上がる

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 その頃、おじいさんたちが向かっているバリードレでは、黒のメンバーたちが拠点の屋敷で会議をしていた。

 かつてマリをリーダーに悪事を働いていた「黒」は、哲夫と和代の孫、みどりを新しいリーダーにして生まれ変わっていた。

 新しいリーダーのみどりは、セーブデータを返してもらった社長の恩に報いるため、メンバー全員に他のプレイヤーを襲うことを禁止した。

 しかし、その方針に反対したメンバーは多く、ほとんどのメンバーが離脱していった。

 みどりたちはそれによって新しく起こっているトラブルについて会議をしていた。

「みんな、噂は聞いていると思うけど、黒を辞めていったメンバーたちが以前よりもひどく窃盗、プレイヤー殺し、詐欺さぎを働いている」

 すると黒のメンバーが次々と声を上げた。

「あいつらは辞めても『黒』を名乗っている上に黒い飾り羽も捨てていません。我々の立場がありません」

「最近SNSで『黒』の評判が悪く、いわれのない誹謗中傷を受けました……」

「あいつらどんどん外部から強いメンバーを集めて勢力を増しています」

「このゲームの嫌われ者たちをどんどん集めています」

 それを聞いた翠はメンバーに言った。

「わたしたちは生まれ変わった。だから『黒』のイメージを悪くするやからは排除するべきだと思うの」

「「はい」」

 黒のメンバーが翠の言葉に返事をすると、1人の魔法使いが声をあげた。

僭越せんえつながら翠様。現在、我々黒のメンバーは17名。敵は200名を越えていると聞きます。個々の実力は高いとしても……」

「もちろん分かっているわ。でも、あなたは魔法攻撃力が1万を超えるでしょ。それに経験豊富」

「は、はい……」

 すると、翠は立ち上がってメンバーに問いかけた。

「みんな、汚い事をしてるあいつらと同じと思われるのは嫌でしょう。それに悪事を働く奴らを倒して社長の恩に報いるべき。そうでしょう?」

「「はい!!」」

 黒のメンバーは一斉に声を上げた。

 翠はメンバーを見渡すと魔術武闘家に尋ねた。

「マサ、あいつらの拠点はどうだった?」

 するとタマシリと戦った魔術武闘家が立ち上がった。

「ここ何日か偵察ていさつしてたんだけど、シャームから抜ける洞窟の近くにある、山の谷間たにあいをアジトにしてるみたい」

「そこが拠点で間違い無さそう?」

「そうだね。山の上から見てたんだけど、盗んだモノとかもメンバーに分けてた。特に深夜に人が集まってて昼間は手薄てうすだな」

「地形はどう?」

「ざっくり言うと、山に囲まれた広場にリーダーと仲間たちが居て、そこから放射状に5つの通路が伸びて外につながってる」

「逆に言うと、広場に侵入できる入り口が5つあるということね」

「そうだね。ここから一番近い入り口は洞窟近くの入り口かな」

「そう。リーダーはどんな奴だか分かった?」

「おれの目が間違いなかったら、イークラトの殺し屋、ベンドレだな」

「……ふふっ。それは面白いことになりそうね。あいつ行き場をなくして、こんな事してるなんてね」

「まぁな。でもベンドレはバカ強ぇ。それに装備が上等そうな奴らも何人も居たぜ」

「それは、ますます楽しみね」

 翠は席から立ち上がると、メンバーに向かって大きな声で言った。

「今から『黒』の名を語る恥晒はじさらしのアジトを壊滅かいめつさせる! 準備して!」

「「はい!!」」

 黒のメンバーは戦闘準備を整え始めた。


 ー シャームから抜ける洞窟近く ー

 ブー……ン

 翠が率いる黒のメンバー17名は、分裂した黒のメンバーが集まっているアジトへの入り口へ転移してきた。

 すると翠は、入り口付近に十数名のプレイヤーがいるのを見つけた。

「あれが広場への入り口ね。正面から正々堂々と行くわよ」

「「はい」」

 17名は歩いて入り口へ向かうと、入り口を守っているプレイヤーたちが驚いて声をあげた。

「やべぇ! 翠さんだ!」
「とうとう来たぞ」
「防衛隊長に知らせろ!」

 慌てふためくプレイヤーたちに翠は大声で言った。

「あなたたち、『黒』を名乗るのをやめて大人しくすれば許してあげるわ」

 すると入り口にを守っているプレイヤーが言った。

「うるせー! 今は何やってもベンドレ様が守ってくれる! ベンドレ様に歯向はむかうのか!?」

 すると翠は弓を構えた。

「やべぇ! 逃げろ!」

 プレイヤーたちは奥へ逃げ込むと、すぐに入れ替わるように5人の騎士たちが現れた。

 するとその5人の騎士を見た魔術武闘家のマサが翠に言った。

「翠さん、あいつらの1人はオロチの剣っすね」

「そう。強そうね」

「それに、他の奴らもガチャのレア防具や武器で揃えてるな」

「相手に不足は無さそうね」

「はは。そうっすね。けっこうヤバそうっすけど」

 翠は弓をひくとオロチの剣のプレイヤーを狙った。

 ヒュッ……、ズドッ!

 翠の矢は一直線にオロチの剣のプレイヤーにヘッドショットを決めた。

 しかし、オロチの剣のプレイヤーはニヤリと笑うと翠に言った。

「おいおい、弓使い。なめてんのか?」

 すると騎士たち5人はゆっくりと歩いて近づいて来た。

 翠はオロチの剣のプレイヤーをにらみつけながら言った。

「ずいぶんと頑丈がんじょうそうね」

「おい、弓追使い。あまり調子に乗るなよ」

 するとオロチの剣の騎士はなんと武器をオロチの大弓に切り替えた。

 それに驚いた翠は素早くバックステップで離れた。

「隠していたか!」

 翠がバックステップしながら矢を放つと、盾を装備したやりの騎士が前に出て矢を弾き返した。

 カンッ

 その瞬間、オロチの大弓から翠に向かって矢が放たれた。

 ゴォーン

 ……ズド……ド……ド

「うっ!」

 ズザァァア

 翠は何本か矢を受けてしまい、後へ下がった。

「翠さん!」

 魔術武闘家のマサが走り込むと、敵のやりの騎士がマサを狙った。

 ガキン!!

 するとそこへ、翠の仲間のやりの騎士が間に入って敵のやりを弾いた。

「させません!」

 翠の仲間の槍の騎士は、袴姿はかますがた薙刀なぎなたのような槍を装備した女性の騎士だった。

 盾を持たないその騎士は薙刀を地面に立てると大声で名乗りを上げた。

「我こそは、翠様率いる誇り高き黒のメンバー、イチ! 尋常じんじょうに勝負しろ!」

 それを聞いた敵の槍の騎士は、槍を地面に突き立てて盾を下げると名乗りを上げた。

「私は、ベンドレ様にお使えする槍の騎士、ライラ。その勝負、受けよう!」

 槍の騎士は兜を上げると、なんとこちらも女性の騎士だった。

 周りに居たプレイヤーたちは2人を残して下がると、2人を囲むようにして見守った。


 イチとライラは軽く一礼すると、薙刀なぎなたと槍を構えて対峙たいじした。

 ライラは槍を下段に構えると息を整え、イチに突撃した。

 ダダダダダダダッ!

 イチはそれを見て後ろへ下がりながら槍を払うと、なんとライラは踏み込んで回し蹴りを繰り出した。

 ドゴッ!

「くっ!」

 イチは意表を突かれたが、回転しながら受け身を取って立ち上がると、ライラから距離を取って詠唱を始めた。

「地の力を司りし精霊よ、我は大いなる大地に祈りを捧げる者。母なる大地を尊びて嘆願する。我にその偉大な力を与えたまえ!」

 すると、巨大な岩の塊が現れてライラへ向かって飛んで行った。

 ブワッ!!

「ふっ、こんな子供だまし……」

 ライラは即座に盾で岩を粉砕すると、

 ズバッ!

 なんと、イチの薙刀がライラの足を斬りつけた。

「くっ! 死角を狙ってきたか!」

 さらにイチは、そのまま突っ込んで薙刀の石突いしづき(柄の底)でライラの腹を突いた。

 ドスッ!

「ぐあっ!」

 イチはバックステップで距離を取ると、一気に薙刀を突き出した。

「トドメ!!」


 ゴォーン!!

 ズドドドドドドドド!

「うぐっ!」

 なんとその瞬間、オロチの大弓の騎士がイチに矢を放ち、8本の矢は全てイチに命中して吹き飛んだ。

 ズザァァァ……

 イチは即座に構え直したが、そこへライラの槍が一直線に刺さった。

 ズドッ!

「くっ! ライラ、あなたこんな勝ち方して恥ずかしくないの」

「イチ、すまん。勝たなくてはならない」

「くそぉ!」

 イチは悔しさをにじませながら消滅していった。


 ヒュッ、ヒュッ……ドドッ!

「っつ!」

 その瞬間、翠の矢がライラの頭に正確なヘッドショットを決めた。

 ライラは槍を地面に突き立てると笑いながら呟いた。

「まぁ、こうなるよね」

 そして、静かに消滅していった。
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