私を襲った獣は、人ならざるものでした。〜溺れるほどの愛に、身を任せようと思います〜

こころ ゆい

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3.紅月と天 (※誤字。身長200→2の間違いです。すみません。)

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 どのくらい経ったのだろう。

 桜子は、ふわふわ揺れるあたたかな腕に、言い知らぬ安心感を抱いてーー。
 いつの間にか眠っていた。

「....着いたぞ。....起きられるか?」
「...ん~」

 夢の中を揺蕩たゆたっていた桜子は、自分に話しかける柔らかな声も、夢うつつで聞いていた。

「...起きぬ、か。ふっ、無防備な寝顔だな」

 しばらくむにゃむにゃと動いていたが、結局目を開けない彼女に、力強い腕の主は微笑んだ。

 今、彼がたたずむのは青い芝生が一面を覆う場所。
 そこかしこに、綺麗な花が咲いている。

 空は分厚い雲が覆っているが、少し向こうを見遣れば雲の切れ間から緋色ひいろの月がのぞいていた。

 昼間のようで、昼間ではない。
 そんな奇妙な空間だったが、暗さはなく、むしろ明るく感じるーー。

「....誰か来るな」
 
 音も何もしないはずなのに、そう呟く男の目の前には、あかと黒で塗られた頑丈な門。
 その向こうには、あかい壁、みどりの屋根、金の飾りと豪華絢爛ごうかけんらん御殿ごてんがあった。
 昔話に出てくる竜宮城りゅうぐうじょうのような見た目だ。

 だが、とてつもなく広く、大きいもので。
 奥にもいくつもの似た建物が渡り廊下で繋がっているのが見えた。

 と、そこへようやく足音が近づいてきた。

 タタタ....シュッ。.....トン。

紅月こうづき様。お戻りになられたのですね。...心配しておりました」

 白髭しろひげ、後ろでひとつにゆわえた白髪はくはつ狐目きつねめの一見初老の男性が、身軽な動きで駆け寄ってきて、飛んだかと思うと門を難なく飛び越え、桜子を抱える男のそばに降り立った。まるで、門を開ける時間も惜しいというほどの素早さだ。

 男性は体格が良く、普通の人間と比べると明らかに大きい。年齢を重ねた見た目に反して、ゆうに2メートルは超える身長だった。
 その立派な体躯たいくに、同じく袴に似たグレーの服を着て、足元はやはり草履というスタイルで。男性は片膝をつき、うやうやしく男に声をかける。

「....てんか。うむ。すまぬな」

 『紅月こうづき』と呼ばれた桜子を抱く男は、『天』を一瞥いちべつしてからコクリ頷く。

「一体何が.....と。....あの....その女性は?」

 歩き始める紅月の後に続きながら、尋ねようとする言葉はすぐに引っ込み、まじまじと紅月の腕の中を見つめた。

「ああ。.....我が『待ち人』だ」

「........っ」

 天は息を呑んだ。
 あまりに紅月が嬉しそうに頬をゆるめ、柔らかに微笑むものだから。青天せいてん霹靂へきれきだと言わんばかりに目を見開いてしまう。

 同じほどの背丈である二人は、視線の高さも同じ。
 視線が交わり、しばし沈黙が落ちた。

「....ん?どうした?」

 天の様子に、紅月は足を止め首を傾げる。

「あ、い、いえ。....では、ついに見つけたのでございますね」

 ハッとした様子で頭を下げて、天は続けた。

「そうだ」

 キィと、紅月がさらに距離を詰めて門の前に立てば、ひとりでに門が開いた。
 それを当然のこととして、二人は門をくぐって中に入っていった。

「....では、先ほど突然走って出て行かれたのは」
「ああ、匂いを追っていた」
左様さようで」

 納得の表情を見せた天は顎鬚あごひげを撫でながら、ひとつ頷く。

 ザッザッ、と足を進めて、門から遠いはずの御殿まであっという間に辿り着くと、サッと両側に数十名もの影が並んだ。皆、紅月や天と似た服を着ているが、白い前掛まえかけのようなものを身につけていた。

「お帰りなさいませ、紅月様」

 頭を下げ、声を揃えて出迎える。

「うむ。今帰った。...おい」
「はっ」

 一言ですぐに察して、天は紅月のそばを離れていく。

 そして、桜子を抱えたまま、紅月は御殿の中へと足を踏み入れていったーー。
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