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青は藍より出でて藍より青し

季節が変わるとき〔1〕

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葉月の父親、相川雄二あいかわゆうじは桐生捷三の右腕で、自身では相川組という組を構えていた。
葉月は父親がヤクザの親分だったことに不満を持ったことはない。
外では武道派で知られた相川も、家ではただの子煩悩な父親だった。
葉月は子供の頃から父親を尊敬していたし、父親が命を張って守っている代紋を、やがては自分も守る男になるのだと信じて疑わなかった。
けれど父親の方は、早くから葉月に別の資質があることを見抜いていたのか、おまえは堅気として生きろと言って、葉月を大学に行かせた。
ヤクザはオレ一代で十分だ。
それが父親の口癖だった。

葉月が有名私立大学の法学部に合格したことを喜んで、好きだった冷酒を一人手酌で飲んでいた姿を今も葉月は思い出す。
父親が狙撃されて死亡したのは、それから間もなくのことだった。
相川組は、若頭の坂東ばんどうが継いだ。
葉月と、葉月の母親に学費や生活の心配は必要なかったが、桐生が後ろ盾を申し出て、以来、葉月は桐生の家に居候している。
「尚紀の話し相手になってやってくれ」
桐生にそう頼まれて承諾したのは、父親の仇を、桐生が取ってくれたことが大きい。

葉月が桐生の屋敷に来たとき、綾瀬は中学生だった。
はっとするほど顔立ちの美しい、無口で大人びた少年だった。
けれど葉月は綾瀬を一目見て、彼が生まれてきた場所を間違っていないと感じた。
綾瀬には、凡人とは違う、人を惹きつける魅力があった。
この人はいづれ人の上に立ち、支配し、崇められ、君臨する人だと、葉月はごく自然にそう理解した。

ところが綾瀬自身は、自分の宿命を拒んでいた。
背負わされた荷が重過ぎるのだろうかと、葉月は思った。
そうではなく、綾瀬は、自分に流れる血を憎悪しているようだった。
綾瀬自身がどんなに拒んでも、抗えない極道の血を。

華奢な身体に大きなストレスを抱えた綾瀬は、パニック症候群という病気をかかえていた。
興奮すると突然呼吸が出来なくなる。
精神科の医者には、精神の自殺行為だと言われた。
桐生の屋敷にいる人間は、綾瀬を興奮させないように腫れ物を扱うように彼に接した。
けれど綾瀬のそれは、内面から津波のように起きるもので、誰にもどうしようもなかった。



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