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青は藍より出でて藍より青し

擬宝珠水仙〔1〕

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有島優吾ありしまゆうごがはじめて彼を見たのは、通学途中だった。
彼は、普通の神経の高校生なら、まず間違いなく避けて通るであろう一団の真ん中にいた。
同じ制服姿の男を3人、従えるように歩いている彼にすれ違った瞬間に興味を引かれた。
ただ純粋に綺麗だと思って見惚れたと言った方が正しいかもしれない。
呆けたように後ろ姿が小さくなるまで見送って、あの人を描きたい、そう思った。

次に会ったのは、夜のクラブだった。
一人で、つまらなそうに酒を飲んでるところを、優吾は少し離れたところから熱い眼差しで見つめていた。
自分を連れて来た、そのクラブの常連だというクラスメートに「あの綺麗な人を知ってるか」と聞くと、クラスメートは露骨に嫌な顔をした。
「知ってるもなにも。あの人有名だぜ」
「やっぱり?だよね、あんなに綺麗な人、ちょっといないもんね」
クラスメートは呆れたように顔を顰めた。
「そういう意味じゃない。ヤクザの跡継ぎだよ、あの人。名前は確か綾瀬尚紀…」
「ヤクザ?」
「そうヤクザ。間違っても近付くなよ」

あの人がヤクザ?と、優吾は純粋に驚いた。
ヤクザなんて映画でしか見たことがないが、全然イメージと違う。
でも彼の一種異様な近づき難い迫力はそのせいかもしれない。
「でもオレ、あの人を描きたい。どうしても」
クラスメートは首を捻った。
有島優吾が、高校生ながら買い手がつくほどの画才を持つことは、優吾が財閥、有島コンツェルンの御曹司だということと同じくらい有名な話だが、確か優吾は人物画は描かないはずだった。
芸術家は気紛れだから、それはいい。でも。
「やめとけよ。絶対に関わっちゃいけない人間が世の中にはいるんだ」
クラスメートは慎重に彼に進言した。

ところが優吾は次の日から綾瀬を追いかけはじめた。
学校の帰り道を待ち伏せして隠れて後をつける。
ストーカーと変わらない。
当然、綾瀬の家の前で不審人物として組員に捕まった。
けれど変に度胸の据わった男で、自分は綾瀬さんに憧れているのでこの組に世話になりたいと思っている、と脅えた様子も見せず言ってのけた。

自室で顛末を聞いて、綾瀬は面倒そうに優吾と体面した。
居間のソファーに畏まって座っていたのは有名私立高の制服を着た、大柄な身体に似合わない子供っぽさの残る顔の、まだ少年と呼んだ方が相応しいような男だった。

「おまえがストーカーか。馬鹿だな。そういうことは相手を考えてしろ」
興味のなさそうな声で綾瀬は言った。
組に入りたいと言ってくる奇特な男は数知れないほどいるが、基本的に飛び込みは相手にしない。
だが目の前の、毛並みの良さそうな高校生はそういう類ではないらしい。
得体が知れないが、興味もない。

「今回だけは見逃してやる。とっとと帰るんだな」
「ここで一緒に生活させてください。下働きでもなんでも!オレ、します」
「おまえ…救いようのない馬鹿だな」
そんな会話をしているうちに葉月がやってきて、綾瀬に何事か耳打ちした。
綾瀬は若干表情を変えて、優吾に「好きにしろ」と言った。



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