72 / 99
瑠璃も玻璃も照らせば光る
5.極道
綾瀬の部屋から居間に行くと、若松が渋い顔でソファに腰かけていた。
「おう、篤郎。どうだった三代目は」
「はあ、すげえ機嫌悪いんですけど、なにかあったんですか」
若松は頷きながら、タバコに火をつけた。
「昨夜なあ、日渡組の組長が来たんだよ」
「日渡組、ですか。あそこは今、大変なんじゃないですか」
若松は溜息と一緒に、白い煙を吐き出した。
「大変どころじゃねえ、最悪だ。日渡は、小林敬三のタマを獲るつもりだ」
「小林組の組長の?」
「つきましては、本家にご迷惑がかかりませんよう、どうか破門してくださいまし、というのが用向きだっわけだ」
「それで三代目はどうしたんです?破門、したんでしょうね」
若松はまだ吸い始めたばかりのタバコを、灰皿に押し付けて火を消した。
「三代目は烈火のごとく激怒した。てめえら、いつまで前時代的な任侠気取ってんだ、クソ野郎。そのバカでかい頭の中に少しでも脳ミソあるのか、タコが。メンツだ仁義だと題目唱えるヒマがあるなら、シノギ立て直すことを考えろマヌケ。とまあ、口汚く罵りながら、日渡を殴るわ蹴るわと暴れまくった」
「綾瀬が?まさか」
聞いたことが信じられなくて、つい、呼び捨てにしてしまった。
普段なら一発頭を叩かれるところだが、若松は気づかなかったのか、また気の重そうなため息を吐いた。
「だがよ、結局破門はしなかったんだよ。やりたきゃ勝手にヤレ、オレは聞いてない、なんて言ってなあ」
青竜会傘下の日渡組は、ここ数年、シノギの場所争いを発端に享和会系の小林組と揉めている。
しかし殺しまでいくとなると、迷惑だなと篤郎は思った。
「それで、あや…三代目は荒れてるわけですか。オレはてっきり高谷さんの方でなにかあったのかと思いました」
「高谷からは電話があったぞ。三代目からすぐに戻って来いと言われた、ってな。だが、高谷はもうしばらく関西を離れるわけにはいかねえ」
綾瀬は人を動かすことにかけて天才的な才能がある。
なのに、綾瀬が大切に思う人間ほど、綾瀬の思惑通りには動かない。
「なあ、篤郎。それにしてもなんだなあ、やっぱり血は争えないと思わねえか。昨日の三代目のタンカはそりゃあ見事だったぜ。あの日渡が、震えあがっていたくれえだ。三代目のことを金儲けの才能しかない経済ヤクザだと舐めてる連中に、見せてやりたかったぜ。あの人はやっぱり、本物の極道なんだなあ」
困った表情を作りながら、どことなく若松が嬉しそうに見えた理由はこれか、と篤郎は納得した。
若松の話はだいたい大袈裟に語られるので昨夜の綾瀬の武勇伝も話半分に聞いたが、綾瀬が相当怒ったというのは本当なのだろう。
すっかり髪が白くなり、知り合った頃に比べ一回りも小さくなったように見える綾瀬の父親代わりの老人を、温かい気持ちで篤郎は見つめた。
「しかし、日渡組のことは面倒ですね。近いうちに、死体が一つ転がる」
若松は日渡組の騒動にはあまり興味がなさそうだった。
肩をすくめて「ウチには関係ねえなあ」と呟いて欠伸した。
篤郎は、死体が一つ、ともう一度口の中で繰り返した。
「おう、篤郎。どうだった三代目は」
「はあ、すげえ機嫌悪いんですけど、なにかあったんですか」
若松は頷きながら、タバコに火をつけた。
「昨夜なあ、日渡組の組長が来たんだよ」
「日渡組、ですか。あそこは今、大変なんじゃないですか」
若松は溜息と一緒に、白い煙を吐き出した。
「大変どころじゃねえ、最悪だ。日渡は、小林敬三のタマを獲るつもりだ」
「小林組の組長の?」
「つきましては、本家にご迷惑がかかりませんよう、どうか破門してくださいまし、というのが用向きだっわけだ」
「それで三代目はどうしたんです?破門、したんでしょうね」
若松はまだ吸い始めたばかりのタバコを、灰皿に押し付けて火を消した。
「三代目は烈火のごとく激怒した。てめえら、いつまで前時代的な任侠気取ってんだ、クソ野郎。そのバカでかい頭の中に少しでも脳ミソあるのか、タコが。メンツだ仁義だと題目唱えるヒマがあるなら、シノギ立て直すことを考えろマヌケ。とまあ、口汚く罵りながら、日渡を殴るわ蹴るわと暴れまくった」
「綾瀬が?まさか」
聞いたことが信じられなくて、つい、呼び捨てにしてしまった。
普段なら一発頭を叩かれるところだが、若松は気づかなかったのか、また気の重そうなため息を吐いた。
「だがよ、結局破門はしなかったんだよ。やりたきゃ勝手にヤレ、オレは聞いてない、なんて言ってなあ」
青竜会傘下の日渡組は、ここ数年、シノギの場所争いを発端に享和会系の小林組と揉めている。
しかし殺しまでいくとなると、迷惑だなと篤郎は思った。
「それで、あや…三代目は荒れてるわけですか。オレはてっきり高谷さんの方でなにかあったのかと思いました」
「高谷からは電話があったぞ。三代目からすぐに戻って来いと言われた、ってな。だが、高谷はもうしばらく関西を離れるわけにはいかねえ」
綾瀬は人を動かすことにかけて天才的な才能がある。
なのに、綾瀬が大切に思う人間ほど、綾瀬の思惑通りには動かない。
「なあ、篤郎。それにしてもなんだなあ、やっぱり血は争えないと思わねえか。昨日の三代目のタンカはそりゃあ見事だったぜ。あの日渡が、震えあがっていたくれえだ。三代目のことを金儲けの才能しかない経済ヤクザだと舐めてる連中に、見せてやりたかったぜ。あの人はやっぱり、本物の極道なんだなあ」
困った表情を作りながら、どことなく若松が嬉しそうに見えた理由はこれか、と篤郎は納得した。
若松の話はだいたい大袈裟に語られるので昨夜の綾瀬の武勇伝も話半分に聞いたが、綾瀬が相当怒ったというのは本当なのだろう。
すっかり髪が白くなり、知り合った頃に比べ一回りも小さくなったように見える綾瀬の父親代わりの老人を、温かい気持ちで篤郎は見つめた。
「しかし、日渡組のことは面倒ですね。近いうちに、死体が一つ転がる」
若松は日渡組の騒動にはあまり興味がなさそうだった。
肩をすくめて「ウチには関係ねえなあ」と呟いて欠伸した。
篤郎は、死体が一つ、ともう一度口の中で繰り返した。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話
ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生
Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158
ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/
fujossy https://fujossy.jp/books/31185