青は藍より出でて藍より青し

フジキフジコ

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瑠璃も玻璃も照らせば光る

6.尾行

桐生邸から綾瀬と一緒に乗ったベンツは、白のマーク2に尾行されていた。

新宿の事務所で綾瀬と運転していた舎弟を降ろし、篤郎は自分で車を運転して、そこからほど近い、自身が代表をしている会社の事務所に向かった。
マーク2の追尾は続いていた。

どうやらニ課は自分をターゲットに決めたらしい。
電話をかけたかったが、運転しながらそれをしては、それだけのことでも引っ張られかねない。

篤郎は事務所に着いてから電話をかけた。
相手は真琴だった。

「真琴さん、残念だけど、今夜のデートはキャンセルだ」
『それはいいけど、なにかあったの』
「警察に張られてる。どうやらオレから証拠を引き出すつもりらしいよ」
電話の向こうで真琴が笑った気配がした。
『君に弱みなんか、あったっけ』
「そんなもの、持った覚えはないね。妻も子供もいない、家族とはとっくの昔に絶縁しているオレを、どうやって落とすつもりなんだろう」
『僕は政治家として、税金の無駄使いを正すべきかな』
「真琴さんは、なにもしないでいい。君が動いて、裏社会と黒い交際なんて言われるのは心外だからね」

篤郎の口調から、深刻な事態を察したのか真琴は心配そうに『篤郎君、大丈夫?』と聞いた。
「ちょっとムカついてるんだよ。急いで会わなくちゃいけない人間が一人、いや二人いるんだ。よりによって、こんなときに張り込まれるとはね。サイアクだ」
『警察に知られたくない密会はね、相手を先にホテルの部屋で待たせておいて、あとから行けばいい。魅力的な女の子に出迎えさせてね』
「ナイスアイデアだ。真琴さん、それ使ったことがあるんじゃないの」
『僕もマスコミにはよく追いかけ回されるからね。とにかく、しっかり綾瀬を守ってくれないと困るよ』
篤郎は笑った。

「ねえ真琴さん、仮に、今のオレに弱みがあるとしたら、それは君かもしれないね」
『僕が、君の弱み?』
「うん。真琴さん、愛してる。今回のことにけりがついたら、また抱かせてくれる?」
『君からそんな言葉を聞くなんて、信じられない。本当か嘘か、今度会ったときに見抜いてあげるよ』
「楽しみにしてるよ」

電話を切ってから篤郎は自分の胸に確かめた。
真琴に言った言葉は本当なのか、そうではないのか。

なんとなく気があってベッドを共にした女にもその程度のリップサービスは言えたけれど、そう言ってこんなふうに胸が疼いたのは久しぶりだ。

胸の疼きは、あの夏のことを思い出させる。
松本に話したあの事件には、本当は別の側面があった。

浩平を、許せなかった。
衝動的に殴ると、浩平は言った。
「なんで怒るんだ。キャバクラで働く女だぜ、ビッチに決まってる」
自分が殴ったせいで床に倒れた浩平を、今度は足で強く蹴った。
自分の怒りが正義感やモラルのせいではないと、篤郎はわかっていた。
正直言って、そんな女のことなんかどうでもよかった。
ただ許せなかったのだ、浩平の裏切りが。

チームは、浩平たちの軽はずみな行為のせいで、リーグ戦に出ることが出来なくなった。
告訴されれば、廃部だってありえた。
何のためにそれまで3年間、まるで軍隊のように厳しい縦社会の大学の部活動に耐えられたのか。
すべてはレギューラーになって、試合に出るためだ。
その試合を、ふいにされた。

浩平を何度となく、もはや機械的に殴りながら、篤郎は無理矢理そう理由を作っていた。

けれど本当は怒りの根はもっと単純で個人的なくだらないものだった。
浩平を、愛していた。
気持ちを伝えるつもりはなかった。
それほど強い想いでもない。
とても淡い、憧れのような想いだった。

それが恋と呼べるものなのかどうかすら、考えたことはなかった。
むしろ、篤郎は意識的にそれを考えないようにしていた。
自分の恋愛対象が同性であることを認めたくなかったわけではない。
そのことについては篤郎は違う、と言える自信があった。

バスケット中心の学生生活ではあったが、女の子との肉体関係を含めた交際は何度か経験していた。
たとえ、バスケに向ける情熱には足りなかったとしても、それに無理や偽りはなかった。
篤郎が認めたくなったもの、それは。

浩平が気を失ってぐったりしてから、篤郎はやっと我に返った。
浩平を腕に抱いて、一度だけ抱きしめた。

気を失っていても、傷だらけの顔は痛みのため苦悶を浮かべていた。
浩平の面影が、少しだけ綾瀬に似ていると気づいたのはそのときだった。



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