58 / 62
最終章≪それから≫
2.あなたは誰
しおりを挟む
目が覚めると、そこは多分、病室だった。
「花音、大丈夫か。おまえ、気を失ったんだよ」
翔平が、心配そうにわたしの顔を覗きこんで、そう言った。
「10時間くらい、起きなかったから、心配した。よかった、目覚めてくれて」
ほっとしたように、言う。
だから、あんなに長い夢を見たんだ、と思った。
とても長い夢を見ていたような気がする。
「花音、奏さん、来てるよ」
目が覚めたときから、部屋に兄がいることはわかっていた。
気配?匂い?
なぜだろう、わたしには、わかっていた。
「お兄ちゃん…」
顔を動かして、兄を見て、そう呼んだ。
いまはもう、この人が、わたしの兄ではないとわかっているけど、じゃあ、他にどう呼べばいいのだろう。
「花音…」
その人は、わたしが兄だと思い、一緒に暮らしていた人は、わたしの側に来て、わたしの名前を呼んだ。
以前と変わらない口調で。
「誰、なんですか?あなたは、誰?」
わたしは、言った。
他人の口調で。
***
翔平は、病室を出た。
二人で話した方がいいだろ、と言って。
ちゃんと話を聞きたくて、わたしは上体を起こそうとした。
長い時間、眠っていたせいか、力が入らない。
兄…だと思っていた人が、手伝ってくれて、楽に座れるように、背中の後ろに枕を置いてくれた。
ベッドの横に置かれた椅子に座って、わたしの顔を真っ直ぐ見て、その人は言った。
「嘘をついて、ごめん。オレの本当の名前は、成田薫」
「なりた…かおる、さん」
その名前には覚えがあった。
「…あの、お墓の?」
お父さんとお母さんの墓地と同じところにあったお墓。
わたしも花を添え、手を合わせた。
「じゃあ、あれが、お兄ちゃん…」
墓石に刻まれた名前の人がここにいるなら、その名前の下で眠っているのが、本物の結野奏、ということなんだろうと、自然に思った。
薫さんは、頷いて、言った。
「奏は3年前にシアトルで死んだんだ。脳腫瘍だった」
「3年も、前に?」
まだ、お父さんもお母さんも生きていた頃だ。
「お父さんたちは、知ってたんですか」
「知らない。戸籍上、死んだのは、成田薫で、結野奏は生きているから」
「どういうこと?」
「オレと奏は、名前を、身分を交換したんだ」
「交換した?なぜ?なんのために?」
そんなことが出来るの?
どうしてそんなことをしたの?
わたしの頭は疑問でいっぱいになる。
「とても長い話になるし、君には辛い話もあるかもしれない」
辛い話、という薫さんこそ、苦しそうな顔をしている。
もしかしたら、話したくないのかもしれない。
わたしは、聞かない方がいいのかもしれない。
でも、わたしはもう逃げたくない。
自分に起きたことは、知っておきたい。
「大丈夫、話して」
それから、その人…薫さんは、自分と、兄の話をした。
「花音、大丈夫か。おまえ、気を失ったんだよ」
翔平が、心配そうにわたしの顔を覗きこんで、そう言った。
「10時間くらい、起きなかったから、心配した。よかった、目覚めてくれて」
ほっとしたように、言う。
だから、あんなに長い夢を見たんだ、と思った。
とても長い夢を見ていたような気がする。
「花音、奏さん、来てるよ」
目が覚めたときから、部屋に兄がいることはわかっていた。
気配?匂い?
なぜだろう、わたしには、わかっていた。
「お兄ちゃん…」
顔を動かして、兄を見て、そう呼んだ。
いまはもう、この人が、わたしの兄ではないとわかっているけど、じゃあ、他にどう呼べばいいのだろう。
「花音…」
その人は、わたしが兄だと思い、一緒に暮らしていた人は、わたしの側に来て、わたしの名前を呼んだ。
以前と変わらない口調で。
「誰、なんですか?あなたは、誰?」
わたしは、言った。
他人の口調で。
***
翔平は、病室を出た。
二人で話した方がいいだろ、と言って。
ちゃんと話を聞きたくて、わたしは上体を起こそうとした。
長い時間、眠っていたせいか、力が入らない。
兄…だと思っていた人が、手伝ってくれて、楽に座れるように、背中の後ろに枕を置いてくれた。
ベッドの横に置かれた椅子に座って、わたしの顔を真っ直ぐ見て、その人は言った。
「嘘をついて、ごめん。オレの本当の名前は、成田薫」
「なりた…かおる、さん」
その名前には覚えがあった。
「…あの、お墓の?」
お父さんとお母さんの墓地と同じところにあったお墓。
わたしも花を添え、手を合わせた。
「じゃあ、あれが、お兄ちゃん…」
墓石に刻まれた名前の人がここにいるなら、その名前の下で眠っているのが、本物の結野奏、ということなんだろうと、自然に思った。
薫さんは、頷いて、言った。
「奏は3年前にシアトルで死んだんだ。脳腫瘍だった」
「3年も、前に?」
まだ、お父さんもお母さんも生きていた頃だ。
「お父さんたちは、知ってたんですか」
「知らない。戸籍上、死んだのは、成田薫で、結野奏は生きているから」
「どういうこと?」
「オレと奏は、名前を、身分を交換したんだ」
「交換した?なぜ?なんのために?」
そんなことが出来るの?
どうしてそんなことをしたの?
わたしの頭は疑問でいっぱいになる。
「とても長い話になるし、君には辛い話もあるかもしれない」
辛い話、という薫さんこそ、苦しそうな顔をしている。
もしかしたら、話したくないのかもしれない。
わたしは、聞かない方がいいのかもしれない。
でも、わたしはもう逃げたくない。
自分に起きたことは、知っておきたい。
「大丈夫、話して」
それから、その人…薫さんは、自分と、兄の話をした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
168
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる