チェリークール

フジキフジコ

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【番外編】恋かもしれない(高校生編Ⅱ)

1.放課後の生徒会室

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「雅治、いる?」
放課後、生徒会室に雅治を訪ねて名取晶が来た。
一週間後に卒業式を控えて生徒会は多忙だったが、生徒会副会長の青山覚は、喜んで晶を招き入れた。

「雅治なら今日は剣道部のほうだよ。来週卒業する先輩たちが見えていて、最後の手合わせだって。ここで待ってるといいよ。さ、入って」
覚は自身の仕事を中断し、晶を部屋の片隅にある来客スペースのソファに座らせ、お茶とお菓子を用意した。

「これは代官山シェ・リュウのプティ・フール・シックだよ。紅茶はフォートム・アンド・メイソンのアールグレイクラシックにしてみた。トップノートの香りを楽しんでね」
「ふーん、よく知らないけど旨そうだな」
「で、雅治とは順調?どこまですすんだの?晶」
晶の横に座って、覚は興味津々といったふうに、顔を覗きこんで尋ねる。

「おまえ、馴れ馴れしいな。なんで名前で呼ぶんだよ。ダチでもねえのに」
クッキーを頬張りながら、晶が文句を言った。

「いいじゃん、雅治だって晶って呼んでるでしょ。それより、二人はもう、セックスしたの?」
「してねえよ」
「うそ、マジで?もうとっくにしたかと思った」
「雅治は男としたことないんだ。そんな簡単なことじゃない」

そういえば雅治から、晶に、自分とする前に他の男で練習しろと言われたと聞いたが、趣味の悪い冗談じゃなかったのか。

覚は秘境の珍獣を見るような目で、晶を見た。
「雅治が男と経験がないから、嫌なの?痛いから?」

晶は香りを楽しむというよりは、焼き菓子を流し込むように紅茶をごくごく飲みながら、上目遣いに覚を見た。
「痛いのは嫌に決まってる。だけどそれより、最中にやっぱりできないって言われたら、オレでも傷つく」

なるほど、それが本音だったのか。
なんて言うか、健気でかわいいじゃないか。
晶を見る覚の目は、秘境の珍獣を見る目から、森の小動物を見るような目に変わった。
そういえば、クッキーを頬張る顔がリスに似ている。

「オレ、そろそろ行くな」
「え、もう行っちゃの?雅治、まだ終わらないと思うけど」
「道場に行って、練習見るからいい。雅治の道着姿、めっちゃカッコいいから。あ、そうだ。写真撮ってネタにしよ」
「ネタ?」
晶が可笑しそうに笑う。
その艶を含んだ色っぽい笑顔に意味を理解して、覚は赤面した。

生徒会室の入り口まで晶を送ると、晶は「ごちそうさん。美味かったぜ。名前で呼ぶこと、許してやるよ、」と言って、背伸びするように覚の左頬にキスした。

「あ、晶!」
「お菓子のお礼だよ」
覚は左頬に指で触れながら、晶の後ろ姿を見送った。

名取晶、おそろしい子。
あれは魔性の男だ。
覚はすっかり魅力されていることを自覚した。



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