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18-1 教会にて
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書斎のドアをノックして許可を得てから入室する。
リコリスは机の上に山積みの書類を片付けていた。
「グレッグはどうしたんだ?」
リコリスの父は書類から目を離さずアタシに尋ねてきた。
「パトリシアとともに行ってしまいました」
アタシが答えると、リコリスの父のペンを持つ手がピタリと止まった。
「あの子は気が利かないな」
彼は相変わらずアタシを見ずにそう呟いた。
「そう思うようになったのは、最近のリコリスの成長が目覚ましいからだろうか」
ーーあら? パトリシアの魅了が弱まってないかしら?
最近はアタシに対する態度を軟化させてはいたものの、相変わらずリコリスの父はパトリシアを盲目的に溺愛していた。アタシよりパトリシアを優先するのは当然だったし、彼女を批判するなんてあり得ないことだった。
「まあ、どうしてそんなことを? パトリシアは天真爛漫で可愛らしい子ですよ」
アタシは彼の心境を確かめてみるために、心にもないことを口にした。
「わしもそう思っていたがな。あの子はもう17だ。そろそろ最低限のマナーを守れるようになって欲しいんだよ。せめて、部屋の入室の際にはノックをして名を名乗って欲しい」
「それはよくないですね。私からも言っておきます」
「ああ。頼むよ」
そう言ってリコリスの父はペンを机の上に置いてアタシを見た。
「ああ、すまなかった。年寄りの愚痴を聞くためにここへ来たのではないだろう? 何か用事があるのではないか」
「ええ。久しぶりに教会へ行きたいと思っているので、外出の許可をいただきたいんです」
「いいだろう。ついでに献金をしてきなさい」
「はい」
「話はそれだけか?」
「もう一つ。お父様はパトリシアを教会の孤児院から連れて来たんですよね?」
「ああ。それがどうした?」
「パトリシアの近況を教会の方々に伝えようかと思って。お世話になった方もいるはずですから」
「ああ。そうだな。うちで元気にやっていると伝えてくれ。それから教会とは別に孤児院宛の献金をしなさい」
「はい、お父様」
リコリスの父は執事を呼ぶとアタシに教会への献金を渡すように指示した。
アタシは執事からお金を受け取るとローラを呼んで自分の部屋へ戻った。
「教会へ行くから着替えたいの。慈善活動をするつもりだから動きやすい服装がいいわ」
「かしこまりました」
ローラは私の指示通り動きやすくて落ち着いた服を持ってきた。
「アクセサリーはどうしましょう?」
「つけなくていいわ。ただ、地味にならないように髪留めを上手く使って欲しい」
「分かりました」
ローラはアタシの髪をポニーテールにすると、シルクとレースのリボンで髪を結んだ。
鏡を見て全体のバランスを見る。
貴族のお嬢様にしては地味だけど、その代わりに誠実で清廉な印象が全面に出ている。
準備は整った。教会へ行こう。
※
アタシは馬車に乗って教会へ出向いた。そして、教会の前に着くと流石のアタシも緊張した。
ーーこの世界の聖職者たちも、特別な力を持っているものなのかしら?
教会はサキュバスであるアタシにとって気持ちのいい場所ではない。早く用事を終わらせて帰ろう。
教会の前に着くとアタシは馬車から降りた。近くにいた若いシスターに献金をしに来た旨を伝えると名前を尋ねられた。
「リコリス・ホールデンです」
アタシが答えると、若いシスターは献金を受け取り、アタシを祈祷室へと連れて行った。神に献金したことを報告して、祈りを捧げろということらしい。
アタシとリコリスは神に祈った。
『神様、グレッグを助けてあげて下さい。私のことを好きにならなくてもいいんです。いや、好きになってもらえるならそうして欲しいんですけど・・・・・・。ああ、それは置いておいて。とにかく、彼には自分の意思で誰かを好きになって欲しいんです。彼はとってもいい人だから。助けてあげてください』
ーーこの世界の神様。どうか聖職者にアタシを見逃すように伝えておいてください。アタシは多分、そんなに悪いサキュバスじゃないです。この世界に来てまだ誰とも寝てないし、寝る予定もないです。
『ちょっと、アマリリスさん! 何言ってるんですか!? 神様に失礼ですよ!』
ーーアタシはこんな口うるさい小娘を助けてあげてるんです。アタシはただ顔と身の振り方と性格の悪いパトリシアを成敗したいだけなんです。あの人の物を欲しがる身の程知らずの女が生理的に受け付けないだけなんです。だから、聖職者にアタシがサキュバスだってことをチクらないでください。
『そんなお願いをされても神様は困るだけです』
リコリスがそう言った時に、祈祷室の扉が開いた。
リコリスは机の上に山積みの書類を片付けていた。
「グレッグはどうしたんだ?」
リコリスの父は書類から目を離さずアタシに尋ねてきた。
「パトリシアとともに行ってしまいました」
アタシが答えると、リコリスの父のペンを持つ手がピタリと止まった。
「あの子は気が利かないな」
彼は相変わらずアタシを見ずにそう呟いた。
「そう思うようになったのは、最近のリコリスの成長が目覚ましいからだろうか」
ーーあら? パトリシアの魅了が弱まってないかしら?
最近はアタシに対する態度を軟化させてはいたものの、相変わらずリコリスの父はパトリシアを盲目的に溺愛していた。アタシよりパトリシアを優先するのは当然だったし、彼女を批判するなんてあり得ないことだった。
「まあ、どうしてそんなことを? パトリシアは天真爛漫で可愛らしい子ですよ」
アタシは彼の心境を確かめてみるために、心にもないことを口にした。
「わしもそう思っていたがな。あの子はもう17だ。そろそろ最低限のマナーを守れるようになって欲しいんだよ。せめて、部屋の入室の際にはノックをして名を名乗って欲しい」
「それはよくないですね。私からも言っておきます」
「ああ。頼むよ」
そう言ってリコリスの父はペンを机の上に置いてアタシを見た。
「ああ、すまなかった。年寄りの愚痴を聞くためにここへ来たのではないだろう? 何か用事があるのではないか」
「ええ。久しぶりに教会へ行きたいと思っているので、外出の許可をいただきたいんです」
「いいだろう。ついでに献金をしてきなさい」
「はい」
「話はそれだけか?」
「もう一つ。お父様はパトリシアを教会の孤児院から連れて来たんですよね?」
「ああ。それがどうした?」
「パトリシアの近況を教会の方々に伝えようかと思って。お世話になった方もいるはずですから」
「ああ。そうだな。うちで元気にやっていると伝えてくれ。それから教会とは別に孤児院宛の献金をしなさい」
「はい、お父様」
リコリスの父は執事を呼ぶとアタシに教会への献金を渡すように指示した。
アタシは執事からお金を受け取るとローラを呼んで自分の部屋へ戻った。
「教会へ行くから着替えたいの。慈善活動をするつもりだから動きやすい服装がいいわ」
「かしこまりました」
ローラは私の指示通り動きやすくて落ち着いた服を持ってきた。
「アクセサリーはどうしましょう?」
「つけなくていいわ。ただ、地味にならないように髪留めを上手く使って欲しい」
「分かりました」
ローラはアタシの髪をポニーテールにすると、シルクとレースのリボンで髪を結んだ。
鏡を見て全体のバランスを見る。
貴族のお嬢様にしては地味だけど、その代わりに誠実で清廉な印象が全面に出ている。
準備は整った。教会へ行こう。
※
アタシは馬車に乗って教会へ出向いた。そして、教会の前に着くと流石のアタシも緊張した。
ーーこの世界の聖職者たちも、特別な力を持っているものなのかしら?
教会はサキュバスであるアタシにとって気持ちのいい場所ではない。早く用事を終わらせて帰ろう。
教会の前に着くとアタシは馬車から降りた。近くにいた若いシスターに献金をしに来た旨を伝えると名前を尋ねられた。
「リコリス・ホールデンです」
アタシが答えると、若いシスターは献金を受け取り、アタシを祈祷室へと連れて行った。神に献金したことを報告して、祈りを捧げろということらしい。
アタシとリコリスは神に祈った。
『神様、グレッグを助けてあげて下さい。私のことを好きにならなくてもいいんです。いや、好きになってもらえるならそうして欲しいんですけど・・・・・・。ああ、それは置いておいて。とにかく、彼には自分の意思で誰かを好きになって欲しいんです。彼はとってもいい人だから。助けてあげてください』
ーーこの世界の神様。どうか聖職者にアタシを見逃すように伝えておいてください。アタシは多分、そんなに悪いサキュバスじゃないです。この世界に来てまだ誰とも寝てないし、寝る予定もないです。
『ちょっと、アマリリスさん! 何言ってるんですか!? 神様に失礼ですよ!』
ーーアタシはこんな口うるさい小娘を助けてあげてるんです。アタシはただ顔と身の振り方と性格の悪いパトリシアを成敗したいだけなんです。あの人の物を欲しがる身の程知らずの女が生理的に受け付けないだけなんです。だから、聖職者にアタシがサキュバスだってことをチクらないでください。
『そんなお願いをされても神様は困るだけです』
リコリスがそう言った時に、祈祷室の扉が開いた。
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