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16 奇襲

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 私が何も言えずにいたから少しの間、沈黙が訪れた。
「ごめん、変なことを言って」
 アーサー様を見たら、顔を赤くしていた。
「そろそろ移動しようか。十分に休んだし」
 アーサー様がオールを持った瞬間だった。岸から何かが飛んできた。
「危ない!」
 アーサー様はオールを投げ捨てて、シールドを張ってくれたけれど。岸から飛んできたものの勢いで、私の身体は湖に振り落とされてしまった。
「エレノア嬢!!」
 落ちる瞬間、アーサー様の声を聞いた気がする。私の意識は水の中でどんどん遠くなっていき、遂には気を失ってしまった。







「リー、・・・・・・エリー、エリーったら」
 身体を揺すぶられている。
「起きてよ、エリー。エリー!」
 揺れが気持ち悪くてたまらない。
「・・・・・・ゆすら、ない、で」
 重いまぶたをゆっくり、ゆっくりと開ける。目の前にはベッキーがいて、彼女は涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。
「エリー! ああ、良かった」
 ベッキーが私の身体に覆いかぶさり、声をあげて泣いた。

 私の身体はびしょ濡れだった。幸い、毛布をかけてもらっていたことと近くで焚き火のおかげで寒くはなかった。
 周囲を観察してみたら、大勢の人がいてひどく慌ただしかった。制服を来た男の人達が何かを取り囲んでいる。
 ーーあれは、警察だわ。

 取り囲む警官と離れたところで、びしょ濡れになったアーサー様と、同じく濡れたイアンが警官と話していた。
「アーサー、エレノア嬢が目を覚ましたよ!」
 ライオネル伯爵が大声をあげるとアーサー様は駆け寄ってきた。
「エレノア嬢、良かったよ。医者はもうすぐ来るそうだから安心して」
「はい」
 一体、何があってどうなっているのだろう。状況がよく飲み込めない。

「寒くない? 痛いところは?」
「焚き火のおかげでそんなに寒くないです。痛くは、・・・・・・ないと思います」
「レベッカ嬢、ちょっと離れてあげて」
 伯爵がベッキーの身体を支えてくれたおかげで、私は起き上がることができた。
 身体を動かしてみても特別痛いところはない。
「大丈夫です」
 アーサー様が不安そうな顔をして私を見ていたから、私は彼を安心させるために笑った。

「あの、何があったんですか」
 私の問いにアーサー様が答えようと口を開いた時、ヒステリックな女の喚き声がした。
「私は悪くないって言ってるでしょう!」
 警察が取り囲んでいるところからだった。
「この期に及んで何を言うかと思えば!」
 警官の一人がそう怒鳴ると、女は暴れ始めた。そのせいで取り囲んでいた警察の輪が乱れた。
 ーーミランダ!?

 彼女は警官たちに取り押さえられながらも顔を出してこっちを見てきた。
「お前は悪役のくせに! 何で私より幸せになってんのよ!! ふざけんな!」
 ミランダは目をひん剥いて私を見つめて、怒鳴りつけてきた。彼女の異常な形相に思わず身を捩ると、ベッキーが私を守るかのように抱きしめてくれた。

「さっきからお前は何をわけのわからないことを言っているんだ!」
「うるさい! モブが私に意見するな! 私はこのゲームのヒロイン、ミランダ・サリューナよ。ケインのエンディングを迎えたから私は第二王子妃になるはずだった。なのに、なのにっ、あの女のせいでっ・・・・・・」
 ーーそう。あなたも、私と同じ転生者だったのね。

「お前がいけないんだ! ゲームのシナリオ通りにしたのに。それなのに・・・・・・。何でケインは、・・・・・・第一王妃様は私を王太子妃にしようと推してくれないの」
 ゲームのシナリオは卒業パーティでエレノアとの婚約破棄をしたケインがミランダとの永遠の愛を誓うところで終わる。
 ーーその後の二人の人生はゲームで描かれていないから、あなたには想像ができなかったのね。

「お前が何かやったんだ! お前が!」
「違うわ」
 私は大きな声ではっきりと言った。

「違う。私のせいじゃない。ケイン様のせいでも、第二王妃様のせいでもない」
「何ですって!」
「ミランダ、あなたのせいよ? 少し考えたら分かることじゃない? 男爵令嬢が第二王子であるケイン様と結ばれてその伴侶になることの難しさが」
「黙れ!」
「男爵令嬢のあなたがケイン様の伴侶になるには、途方もない労力がかかるの。あなたはそのための努力をしていない。・・・・・・ううん。むしろ、マイナスになることしかしていないわ」
「黙れったら!」
「それに、ゲームはもう終わったはずだから。あなたの望む主人公補正なんてないと思うの」
「黙れえぇぇぇ!!」
 ミランダはより激しく、めちゃくちゃに暴れ始めた。
「おい、取り押さえろ!」
 警官は暴れるミランダの顔を地面に押さえつけた。
「午後4時10分、王族、並びに高位貴族に対する殺人未遂の疑いで逮捕する!」
 ミランダは手錠を嵌められ、胴体を縄で括られた上で檻のような乗り物に乗せられた。
 彼女は輸送されていく間も、鬼のような形相で喚き散らして私を睨みつけていた。
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