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17-1 その後の顛末
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シリナ湖の出来事から1ヶ月が過ぎた。
ミランダ・サリューナは、王族及び高位貴族に対する殺人未遂の罪、並びに平時に使用を禁止されている魔法を使った罪で極寒の地にある監獄に生涯幽閉されることとなった。
ミランダがやったことに対して罰が軽いとの声もあった。しかし、司法部は、彼女は精神に異常をきたし錯乱していたと判断したようだ。
この判決に対して、司法部は貴族に対しては弱腰だと批判があったけれど。
「あの監獄に行くくらいなら、死んだ方がマシだと思うけど」
ローズ王女殿下はお茶を飲みながらそう言った。
「私もそう思いますわ」
極寒の監獄は、満足に暖を取ることもできず、食料の調達も滅多にないらしい。おまけに暗くて汚くて隙間風が常に入ってくると聞いた。
貴族としての贅沢な暮らしをしてきた人間なら。・・・・・・いや。例え前世の特別に裕福とはいえない中流家庭の私だったとしても、そんな場所は耐えられないだろう。
「それにしても、ミランダの両親がかわいそうです」
ミランダの両親とは、学生時代に会ったことがある。彼らはミランダとは違って素朴で穏やかで優しそうな人達だった。
ミランダがあんなことをしなければあの両親は今も男爵夫妻で、小さいけれど領土を持つ貴族だったのに。
「爵位と領土は失ってしまったけれど。ミランダと同じ監獄送りにならなかったからいいじゃない」
王女殿下は言った。
ミランダは王族に対する殺人未遂を犯したわけだから、その家族と親戚たちは監獄送りになるか最悪、死刑になってもおかしくなかった。
でも、ミランダの両親は領民たちにとても愛されていたらしい。「サリューナ男爵夫妻は優れた名君であり、今回の事件とは全く関与していないから恩情を与えてほしい」と領民たちが署名運動を行ったのだ。結果、サリューナ男爵領の全ての領民たちと、隣接する地域の領民たちの名前の書かれた嘆願書が司法部に届けられた。
「知ってる? サリューナ男爵夫妻の罰が軽くなったのは、お兄様のおかげだって」
「どういうことでしょう?」
「お兄様が嘆願書のことを知って司法部に意見したのよ。『本当に男爵夫妻が今回の事件に関与していないのなら、罰をなるべく軽くするべきだ。そうしないと領民たちが暴動に発展するかもしれないから』って」
「アーサー様は、やっぱりお優しい方ですね」
アーサー様は分かっているはずだ。田舎の男爵領の人々が暴動を起こす可能性は低いことを。例え起こったとしても、軍隊を派遣すれば数日も経たずに鎮圧できるだろう。
「そうね。相変わらずのお人好しだわ」
王女殿下は呆れ顔で、でもどこか誇らしげに返事をした。
「そういえば、イアン卿の絵の件はどうなったの?」
「折角なのでお願いすることにしました」
イアンは私が湖に落ちたのを見て、咄嗟に飛び込んで救助してくれたそうだ。彼とアーサー様の介助がなければ、私は湖で溺れ死んでしまっていただろう。
事件から数日後、イアンから謝罪の手紙が届いた。手紙には、「助手としてミランダを連れてきたがゆえにこんな事になってしまって申し訳ない」と謝罪の言葉がびっしりと綴られていた。そして、直接謝罪に赴きたかったけれど、風邪を引いてしまったからひとまず手紙で許してくれと書いていた。
後日、私達のもとへと謝罪に訪れたイアンは、ひどく憔悴していた。ミランダとの共犯を疑われて取り調べが続いた結果、絵を描く時間がなくなって、納期の日が迫っていると言っていた。そして、早く絵を描かないといけないのは分かっているけれど、どうしても筆が進まないと落ち込んでいた。
事件のせいで精神的に参っているイアンがかわいそうだった。だから、私とアーサー様は、イアンのお客様たちのもとに行って事情を話し、期日の延期と謝罪の品を渡してきた。
そのことを知ったイアンは、私達にとても感謝してくれた。そして、彼は私達の絵を描くことを提案してきた。
「自分にできる最大限のお礼は絵を描いて渡すことです。もし二人がよろしければ、お二人の肖像画を描かせて下さい」
誠実な目でそう言ったイアンの提案を一度は保留したけれど。結局は描いてもらうことにした。
ミランダ・サリューナは、王族及び高位貴族に対する殺人未遂の罪、並びに平時に使用を禁止されている魔法を使った罪で極寒の地にある監獄に生涯幽閉されることとなった。
ミランダがやったことに対して罰が軽いとの声もあった。しかし、司法部は、彼女は精神に異常をきたし錯乱していたと判断したようだ。
この判決に対して、司法部は貴族に対しては弱腰だと批判があったけれど。
「あの監獄に行くくらいなら、死んだ方がマシだと思うけど」
ローズ王女殿下はお茶を飲みながらそう言った。
「私もそう思いますわ」
極寒の監獄は、満足に暖を取ることもできず、食料の調達も滅多にないらしい。おまけに暗くて汚くて隙間風が常に入ってくると聞いた。
貴族としての贅沢な暮らしをしてきた人間なら。・・・・・・いや。例え前世の特別に裕福とはいえない中流家庭の私だったとしても、そんな場所は耐えられないだろう。
「それにしても、ミランダの両親がかわいそうです」
ミランダの両親とは、学生時代に会ったことがある。彼らはミランダとは違って素朴で穏やかで優しそうな人達だった。
ミランダがあんなことをしなければあの両親は今も男爵夫妻で、小さいけれど領土を持つ貴族だったのに。
「爵位と領土は失ってしまったけれど。ミランダと同じ監獄送りにならなかったからいいじゃない」
王女殿下は言った。
ミランダは王族に対する殺人未遂を犯したわけだから、その家族と親戚たちは監獄送りになるか最悪、死刑になってもおかしくなかった。
でも、ミランダの両親は領民たちにとても愛されていたらしい。「サリューナ男爵夫妻は優れた名君であり、今回の事件とは全く関与していないから恩情を与えてほしい」と領民たちが署名運動を行ったのだ。結果、サリューナ男爵領の全ての領民たちと、隣接する地域の領民たちの名前の書かれた嘆願書が司法部に届けられた。
「知ってる? サリューナ男爵夫妻の罰が軽くなったのは、お兄様のおかげだって」
「どういうことでしょう?」
「お兄様が嘆願書のことを知って司法部に意見したのよ。『本当に男爵夫妻が今回の事件に関与していないのなら、罰をなるべく軽くするべきだ。そうしないと領民たちが暴動に発展するかもしれないから』って」
「アーサー様は、やっぱりお優しい方ですね」
アーサー様は分かっているはずだ。田舎の男爵領の人々が暴動を起こす可能性は低いことを。例え起こったとしても、軍隊を派遣すれば数日も経たずに鎮圧できるだろう。
「そうね。相変わらずのお人好しだわ」
王女殿下は呆れ顔で、でもどこか誇らしげに返事をした。
「そういえば、イアン卿の絵の件はどうなったの?」
「折角なのでお願いすることにしました」
イアンは私が湖に落ちたのを見て、咄嗟に飛び込んで救助してくれたそうだ。彼とアーサー様の介助がなければ、私は湖で溺れ死んでしまっていただろう。
事件から数日後、イアンから謝罪の手紙が届いた。手紙には、「助手としてミランダを連れてきたがゆえにこんな事になってしまって申し訳ない」と謝罪の言葉がびっしりと綴られていた。そして、直接謝罪に赴きたかったけれど、風邪を引いてしまったからひとまず手紙で許してくれと書いていた。
後日、私達のもとへと謝罪に訪れたイアンは、ひどく憔悴していた。ミランダとの共犯を疑われて取り調べが続いた結果、絵を描く時間がなくなって、納期の日が迫っていると言っていた。そして、早く絵を描かないといけないのは分かっているけれど、どうしても筆が進まないと落ち込んでいた。
事件のせいで精神的に参っているイアンがかわいそうだった。だから、私とアーサー様は、イアンのお客様たちのもとに行って事情を話し、期日の延期と謝罪の品を渡してきた。
そのことを知ったイアンは、私達にとても感謝してくれた。そして、彼は私達の絵を描くことを提案してきた。
「自分にできる最大限のお礼は絵を描いて渡すことです。もし二人がよろしければ、お二人の肖像画を描かせて下さい」
誠実な目でそう言ったイアンの提案を一度は保留したけれど。結局は描いてもらうことにした。
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