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 アンナが立ち去ると、当然、アイゼンと取り残されることになる。この世界でアイゼンと二人でいることは初めてだから少し気まずい。
 どうしていいのか分からなくて、とりあえずエマの微笑みで誤魔化したら、アイゼンもにこりと微笑んだ。

「エマ様」
「はい」
「ポケットにしまっているものは何です?」
 言われてドキリとした。
 ポケットの中には昨日ヴェルナーからもらった魔法石が入っている。昨日は話に夢中になって返しそびれたから今日会ったら渡そうと思っていたのだけれど。なぜアイゼンは気がついたのかしら。

「もしかして、人にむやみに見せてはいけないものですか?」
「ええ、まあ。大したものじゃないんですよ?」
「そんなことはないでしょう? とても強くて、それでいて優しい風の力を感じます」
 うっとりとした表情でアイゼンは言った。
 ヴェルナーのくれた魔法石はそんなにすごいものなのかしら?

「エマ様、そのポケットにしまってあるものを、いつでも、どこでも、しっかりと持って、下さい」
 アイゼンは私の手を握った。
「"瞳の魔物"は、あなたを狙っているみたいです。どうか気をつけて」
「どういう、意味?」
 アイゼンは首を振った。
「私の口からは、詳しく、言えないです。ごめんなさい。でも、覚えておいて下さい。"愛の形"を、間違えないで」
 そう言うとアイゼンは立ち上がった。
「今のお話、二人だけのナイショですよ」
 アイゼンはにこりと笑うと返事も聞かずカフェテリアを後にした。

 アイゼンが嘘を吐いているようには思えない。彼女がそんなことをしても何の得にもならないだろう。

 ーーまた、あの魔物と遭うことになるの?

 図書館での出来事が頭によぎって思わず身震いをした。
 ・・・・・・だめだ。怖がっているだけじゃ、何にもならない。少しでも、アイゼンが言っていたことの意味を考えないと。

 アイゼンはフドウと同じくトウコクからの留学生だ。彼女も闇の女王の呪いを解くためにやって来た。それなら、あの魔物は闇の女王と関係あるのかもしれない。
 闇の女王と関係するのなら、闇の女王イベントの続きということかしら。それなら、避けては通れないことだけど。・・・・・・遭わないで済むのなら遭いたくないわ。でも、アイゼンの口振りからしてまた出会うことになりそうだ。

 そういえば、ゲームの中で、エマが危機的な状況に陥った時、攻略対象からの助けが入った。マテウスのトゥルーエンディングルートでは、彼にもらった魔晶石によって、魔物から守られたんだけど。それと似たようなことが今後起こるのかしら。
 ポケットにしまっていた魔晶石を取り出す。淡い緑色の宝玉は手に取ってみると不思議と安心感が訪れる。
 ヴェルナーに返そうと思っていたけど。命の危機が訪れる可能性があるならもらっておいた方がいいのかもしれない。
 私は魔晶石をそっとポケットの中にしまった。
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