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「2代目の闇の女王は死後も学園に現れた。彼女は自分が死んだことにも気がつかずに学園の中を彷徨っていてね。彼女は今でも"ユリウス"を、曽祖父を探しているんだ」
 マテウスは眉間にはしわが寄っている。エリーザベトを愛する彼にとって辛いことに違いない。
「彼女の出現とともに瞳の魔物も現れるから、学園は彼女を封印することで事態が好転すると考えた」
「だから、マテウス様が2代目闇の女王の封印を任されたというのですか」
「そうだ。俺は曽祖父によく似ているらしいから、彼女を騙して封印しろと。それが曽祖父のしたことの尻拭いだと言われたよ」
 マテウスはどうしてこんな重要なことを私に話したのだろう。シュヴァルツのことに何の関係があるのかしら。

「どうしてその話を私に?」
「君なら彼女の名前を知っているんじゃないかと思って」
「彼女って」
「決まっているだろう? 2代目闇の女王だよ」
 マテウスは真剣な眼差しで私を見た。
 ーー何が目的かしら。

 私は首を傾げた。ひとまず善良で無知なエマを演じる。
「私には何のことだか。それに、シュヴァルツとどういう関係があるのでしょう」
 マテウスは顔をしかめた。俯いて机を見て何も答えてくれない。
 ーー何を考えているの?

「マテウス様?」
「すまない、色々と考えていたんだ」
 彼は視線を私に戻した。
「彼女が言うんだよ。金色の瞳の魔物が君とアンナ嬢を襲ったことも、シュヴァルツがアンナ嬢を庇っていなくなるのもそういう運命なんだって」
「運命?」
 マテウスは頷いた。
「彼女は言うんだ。『私の夢見は外れないから』って。だから俺はマイヤー嬢から彼女の名前を教えてもらえるらしい。俺が彼女の名前を呼んだら、彼女がシュヴァルツを助けることができるとも言っていた」
 ーーどういうこと?
 エリーザベトの言っていることが理解できない。

「理解できないと言いたげだね。分かるよ」
 マテウスは苦笑した。
「マテウス様も2代目闇の女王の言っていることを理解できていないのですか」
「全部はね。でも、調べているうちに何となく分かった」
 そう言ってマテウスは立ち上がると本棚から黒い表紙の本を取った。背表紙には『禁忌魔法』と書かれていた。
 マテウスはページを捲った。そして、目当ての箇所を見つけると私に本を差し出してきた。

 "夢見(分類∶闇魔法)
 
 「夢見」は使用者が夢で"確定した"未来を見る魔法である。夢で見た事象は決して覆らず確実に引き起こる。予言の魔法。
 夢見は、闇魔法の中でも、謎の多い魔術だ。闇魔法の使い手の中でも、一部の人間にしか使えないとされている。能動的に行う魔術ではなく、受動的に、あるいは偶発的に引き起こるという。

「2代目の闇の女王は夢で、予知していると」
 マテウスは私の問いに頷いた。
「彼女は夢見で見ているんだ。君が俺に彼女の名前を教えるところを」
 にわかには信じられない。
 戸惑いを隠せないでいると、マテウスはため息を吐いた。

「俺ばかり要求していてもしょうがないね。君が知りたいことを教えてあげるから。それで俺の問いに答えてはくれないだろうか」
 マテウスはそう言って手を伸ばしてきた。
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