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伸ばされた手の意味が分からなくて考えあぐねていると彼は言葉を続けた。
「魔法石だよ。持ってるんでしょ?」
「どうしてそれを?」
ポケットの中には昨日ヴェルナーが置いていった魔法石が入っているけれど。私はそれを誰にも見せていないし、話してもいなかった。
「やっぱり持っていたんだ」
マテウスは苦笑した。そして、少し戸惑っているようにも見えた。
「彼女が言っていたんだよ。君の魔法石を俺が鑑定しているところを夢で見たって。そのタイミングは今しかないかと思って聞いてみたら、やっぱり持っていたんだね」
なるほど。ヴェルナーは半信半疑ながらもエリーザベトの夢見に従ったらしい。
私は迷った末にポケットから魔法石を取り出した。マテウスに手渡すと、彼は天井照明に向けて魔法石をかざした。彼は手首を捻って角度を変えながら魔法石を眺めた。
「風の力が見事なまでに集約されている。これはヴェルナーが作ったものだね?」
ここで誤魔化してしまったら話がややこしくなるだろう。私は正直にヴェルナーからもらったことを言った。
「ヴェルナーがこれを作って君が受け取った経緯については聞かないでおくけど。これは魔法石で間違いないよ。婚約の誓いに贈るものとしても、何ら恥にならないものだよ」
マテウスはそう言うと私を見た。
「この魔法石には誓いが立てられているけど、ヴェルナーと婚約の誓いをしたのかい?」
私は慌てて否定した。
「違います! ヴェルナー様を信用できないと言ったら、嘘を吐かないと言って、彼が誓いを立てたんです。でも、魔法石について私は何も知らなくて・・・・・・。嘘か本当か分からなかったんです」
「嘘を吐かないと誓いを立てたの? ヴェルナーが?」
マテウスは目を見開いた。日頃から常に冷静で落ち着き払っている彼がひどく驚いている。
「この魔法石を前に誓いを破ると、罰を受けるんだよ? 多分、これは風の力が大きいから誓いを破ると風がナイフとなってヴェルナーを襲うはずだ」
思ったよりも過激な罰に私は思わず引いてしまった。
「だから、この魔法石の前でヴェルナーはマイヤー嬢に対して嘘を吐けないよ。誓いを立ててからヴェルナーと話した内容に嘘はないはずだ」
マテウスはそう言って魔法石を返してきた。
「ヴェルナーは思った以上に君を気に入っているんだね」
私は何も言わずにポケットの中に魔法石をしまった。
「ヴェルナーを受け入れるかどうかは君が決めることだから何も言わないけど。その魔法石は肌身離さず持っていた方がいい。ヴェルナーが作ったというだけあって守りの魔法具としてかなり出来がいいから」
「はい。そうします」
マテウスに言われなくとも、手放す気はなかった。この間はヴェルナーの作った魔法石のおかげで命拾いをしたんだから。
「君の聞きたいことはそれだけかな?」
「ええ。鑑定していただいてありがとうございます」
「それなら、約束をしたわけではないけど。俺の質問に答えてはくれないだろうか?」
私はマテウスを見据えた。
「私が彼女の名前を知っていることを誰にも言わず、知っている理由を追及しないと約束できますか」
闇の女王の名前は禁忌扱いされている。名を奪うことが彼女たちに取っての罰であるとされた。だから、彼女たちの名を呼ぶことも思い出させることも禁止されている。それを破れば重罪に当たると小説版に書いてあった。
「勿論。君には迷惑をかけないよ」
マテウスは私の目をじっと見た。彼の目はとても真剣で、約束を破るとは思えなかった。
「エリーザベトです。彼女の名前はエリーザベト・ケラー」
「ありがとう」
そう言うとマテウスは立ち上がった。
「俺はもう行かないといけないから」
「分かりました。ここを出ましょう」
私も立ち上がるとすぐさまこの部屋を出た。
「魔法石だよ。持ってるんでしょ?」
「どうしてそれを?」
ポケットの中には昨日ヴェルナーが置いていった魔法石が入っているけれど。私はそれを誰にも見せていないし、話してもいなかった。
「やっぱり持っていたんだ」
マテウスは苦笑した。そして、少し戸惑っているようにも見えた。
「彼女が言っていたんだよ。君の魔法石を俺が鑑定しているところを夢で見たって。そのタイミングは今しかないかと思って聞いてみたら、やっぱり持っていたんだね」
なるほど。ヴェルナーは半信半疑ながらもエリーザベトの夢見に従ったらしい。
私は迷った末にポケットから魔法石を取り出した。マテウスに手渡すと、彼は天井照明に向けて魔法石をかざした。彼は手首を捻って角度を変えながら魔法石を眺めた。
「風の力が見事なまでに集約されている。これはヴェルナーが作ったものだね?」
ここで誤魔化してしまったら話がややこしくなるだろう。私は正直にヴェルナーからもらったことを言った。
「ヴェルナーがこれを作って君が受け取った経緯については聞かないでおくけど。これは魔法石で間違いないよ。婚約の誓いに贈るものとしても、何ら恥にならないものだよ」
マテウスはそう言うと私を見た。
「この魔法石には誓いが立てられているけど、ヴェルナーと婚約の誓いをしたのかい?」
私は慌てて否定した。
「違います! ヴェルナー様を信用できないと言ったら、嘘を吐かないと言って、彼が誓いを立てたんです。でも、魔法石について私は何も知らなくて・・・・・・。嘘か本当か分からなかったんです」
「嘘を吐かないと誓いを立てたの? ヴェルナーが?」
マテウスは目を見開いた。日頃から常に冷静で落ち着き払っている彼がひどく驚いている。
「この魔法石を前に誓いを破ると、罰を受けるんだよ? 多分、これは風の力が大きいから誓いを破ると風がナイフとなってヴェルナーを襲うはずだ」
思ったよりも過激な罰に私は思わず引いてしまった。
「だから、この魔法石の前でヴェルナーはマイヤー嬢に対して嘘を吐けないよ。誓いを立ててからヴェルナーと話した内容に嘘はないはずだ」
マテウスはそう言って魔法石を返してきた。
「ヴェルナーは思った以上に君を気に入っているんだね」
私は何も言わずにポケットの中に魔法石をしまった。
「ヴェルナーを受け入れるかどうかは君が決めることだから何も言わないけど。その魔法石は肌身離さず持っていた方がいい。ヴェルナーが作ったというだけあって守りの魔法具としてかなり出来がいいから」
「はい。そうします」
マテウスに言われなくとも、手放す気はなかった。この間はヴェルナーの作った魔法石のおかげで命拾いをしたんだから。
「君の聞きたいことはそれだけかな?」
「ええ。鑑定していただいてありがとうございます」
「それなら、約束をしたわけではないけど。俺の質問に答えてはくれないだろうか?」
私はマテウスを見据えた。
「私が彼女の名前を知っていることを誰にも言わず、知っている理由を追及しないと約束できますか」
闇の女王の名前は禁忌扱いされている。名を奪うことが彼女たちに取っての罰であるとされた。だから、彼女たちの名を呼ぶことも思い出させることも禁止されている。それを破れば重罪に当たると小説版に書いてあった。
「勿論。君には迷惑をかけないよ」
マテウスは私の目をじっと見た。彼の目はとても真剣で、約束を破るとは思えなかった。
「エリーザベトです。彼女の名前はエリーザベト・ケラー」
「ありがとう」
そう言うとマテウスは立ち上がった。
「俺はもう行かないといけないから」
「分かりました。ここを出ましょう」
私も立ち上がるとすぐさまこの部屋を出た。
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