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 * * * * * *




 深い眠りから目が覚めると、夜はすっかり明けていて、穏やかな太陽の光が森の中を照らしている。

 まるで昨日の出来事が夢のように、森の中は静寂に包まれていた。

 ふと、腕の中にある心地よい温もりに目を向けると、ずっと眠っていたティナがもぞもぞと動き出した。そろそろティナの目が覚めるようだ。

 トールはこの状況をティナにどう説明しようかと思い悩む。
 まだ何も知らないティナに、ヴァルナルとリナの話をするべきかどうか躊躇っていると、魔法の効果が切れたのだろう、ティナが目を覚ました。

「……ん、トール……?」

 ティナの綺麗な緑の瞳が、トールをまっすぐ見つめてくる。

 トールはティナにヴァルナルたちの話を聞かせ、その澄んだ瞳を曇らせてしまうことを想像すると、胸が押しつぶされそうに痛んだ。

「?! どうしたのトール?! どこか痛いの?!」

 ティナがトールの顔を見て驚きの声を上げる。気を付けていたつもりが、つい表情に出てしまったらしい。

「……ティナ、僕は大丈夫だよ。だけど……っ」

 言い淀む様子のトールと、今いる場所に気がついたティナは、この状況がとてつもなく悪い状況なのだと、本能的に気がついた。
 そして自分が知らない間に、トールがとても大変だったことも。

「……っ、ぐす……っ、ぐすっ、うぅ、うゔ~~~~~っ……」

「ティナっ?!」

 音を立てないように、声を押し殺して泣くティナをトールはぎゅっと抱きしめる。

 こんなに幼くても、正確な状況判断と行動が出来るティナは確かに、ヴァルナルとリナの子供なのだと、トールは強く実感する。

「……お父さんとお母さんは……おじちゃんたちは、どうなったの……?」

 しばらく泣いていたティナであったが、だいぶ落ち着いたのだろう、トールに両親たちのことを問い掛けてきた。
 ちなみにティナが言う「おじちゃんたち」とは、護衛と商団の人たちのことだ。

「……ごめん、あの時たくさん暗殺者が襲って来て……僕とティナはリナさんに逃がしてもらったんだ、だから……僕にも皆んながどうなったかは、わからないんだ……」

「そっか……お父さんとお母さん、大丈夫かな? 怪我してないかな? わたし怪我を治せるんだよ。本当は内緒なの。でもトールは特別だから……」

「えっ……!」

 トールはヴァルナルからティナが神聖力を持っていると聞かされてはいたが、まさかこの歳にして<治癒>の能力が発現しているとは思わなかった。

「皆んなが怪我をしていたら、治してあげられるのに……」

 ティナがしょんぼりと呟いた。
 ヴァルナルとリナは生きている、と信じて疑っていないのだ。

 しかしその呟きは、トールの心の中に相反する感情を生んでしまう。

 ──リナは逃げろと言った。だけど、ヴァルナルたちが生きていてくれているのなら、もしかして──!

 トールの心が、ヴァルナルたちとの約束と、わずかな希望の間で揺れ動く。
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