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過去10

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 トールを殺すために、正妃が送り込んできた暗殺者の数は軽く三桁を超えていた。
 それは暗殺者を雇う資金だけで、下手な貴族なら破産しているほどの金額だ。

 正妃はそこまでして、第一王子を王位につけたいのだろう。その執念の凄まじさだけは賞賛に値すると、トールは思っている。

 しかし、正妃が雇った手練れ揃いの暗殺者百人以上を相手に、ヴァルナルとリナが無事でいるとは、トールはとてもじゃないが思えなかった。

 だけどヴァルナルはS級並みの剣士で、リナはA級の魔術師だ。二人の強さならもしかすると、暗殺者たちを倒せるかもしれない──! 

 正直なところ、トールはヴァルナルたちの生存を諦めていた。だが、ティナの一言がトールに希望を与えたのだ。

「ティナ、ヴァルナルさんたちのところに──……」

 ──戻ろう、と言いかけたトールは、すんでのところで押し黙る。

「トール? どうしたの?」

 きょとん、とした表情でティナがトールの顔を覗き込む。

「……何でもないよ。ティナは僕と近くの街に助けを呼びに行こう」

 トールは一瞬、ティナと一緒にヴァルナルたちの元へ戻りたい、と思ってしまった。しかしそれでは彼らとの約束を破ってしまうと考え直したのだ。

(とにかくティナを安全なところに預けないと。冒険者ギルドに行けば、ヴァルナルさんが友達だって言ってたベルトルドって人に会えるかな……?)

 ティナの安全さえ確保できれば、すぐにでもヴァルナルたちのところに戻ろう、とトールは考えた。自分一人なら見つからずに済むかもしれない、と思ったのだ。

(リナさんには全然及ばないけど、僕だっていくつか魔法を使えるし、それにヴァルナルさんから剣の扱い方を教えて貰ったし!)

 トールは離宮に閉じ籠もっていた間、退屈を紛らわすためにずっと本を読んで過ごしていた。
 その中には魔法書もいくつかあり、トールはその魔法書を手本にして独学で魔法を勉強した。珍しい魔法が載っていて興味深かったこともあり、魔法にのめり込んでしまった時期もあった。
 そしてヴァルナルと出会い、短い間ではあったが剣を教えて貰ったトールは、剣の楽しさを知ったのだった。

「……うん、わかった。じゃあ、早く行こう!」

 ティナはトールの言葉に素直に頷いた。両親たちのところに行きたいと駄々をこねるかと思ったが、幼いながらにも何を優先すべきか理解しているのだ。

 トールは改めてティナの頭の良さに感心した。ヴァルナルたちからたくさんのことを教えられて来たのだろう。

 そうしてトールとティナは、隠れていた場所から出て、街がある方向へと急ぐ。

 ──しかし子供の考えることなど、大人たちにはお見通しだったようで、ティナとトールは街までもう少し、というところで、ついに追っ手に捕まってしまう。

「やっと見つけたぜ……ったく、手間かけさせやがってよぉっ!!」

「こっちの小さい方はどうする? 言われた通り殺すか?」

 トールたちを捕まえたのは暗殺者ではなく、盗賊崩れの男たちだった。どうやらトールを探すために、暗殺者たちとは別に行動していたらしい。 
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