平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎

文字の大きさ
72 / 363
本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

59.彼氏ってどんな人?

しおりを挟む
 岬は暫く言い訳のような恨み言のような事を呟いていたが、キッパリと対応する伊達とやんわりと同意を避ける中村の気持ちを動かす事ができないと理解すると大人しくなった。そしてワインを二杯ほど続けて飲み干すと「すいません、帰ります」と言って数枚千円札を出してテーブルに置き、バッグを持って立ち上がった。

 中村が「真由……」と呼び止めると一時立ち止まったが、振り向かずそのまま店の出入口に向かって歩いて行った。

 田神が立川に「立て替えといて、明日払うから」と言って立ち上がる。
 立川は頷いてヒラヒラと手を振った。

 扉を押してフラフラと出て行った岬の後を追うように田神が店を出て行くと、その場の皆の緊張がドッと解放され、気が抜けた雰囲気が漂った。

「やっぱなぁ~、噂を聞いた時は『まさか』と思ったモンな。だけど意外過ぎて、返って真実っぽい雰囲気出てたよ」
「そ、そう……?」

 七海が戸惑うように返事をすると、営業部の小池が安心したように笑った。親しくは無いものの七海と同期入社の彼とは顔を合わせれば挨拶をする仲だった。

「田神さんの話って四割眉唾か御伽噺だよな」
「そんな事言ってて、お前が一番食い付いていたろ」

 調子の良い事を言う郡山を小池が小突いた。自分の噂話を話題にされているのに、思わず七海は笑ってしまった。

「それにしても伊達さん凄かったですねー!『姉御』って呼びたくなりました!」

 小池が嬉しそうに伊達を持ち上げた。伊達は肩を竦める。

「誰にでもあんな風に言うわけないじゃないわよ。真由はあれでいて結構次の日ケロッとしているから言い易いの。メンタル弱そうな人には言わないわよ」

 どうやら伊達にとっては岬は遠慮なく話せる相手であるらしい。
 七海にもそう言う相手はいるので、何となく関係性に想像が付いた。

「それにしても噂ってコワいね」

 原因を作った当人の中村が、そんな事もすっかり忘れて感心したように溜息を吐いた。
 すると郡山がケラケラ笑いながら言った。

「中村さんにも噂、ありますよ。スッゴイ年上の男の人と不倫してるって言う……」
「へえ、マジですか?」

 小池が食い付くと中村が口に含みかけたワインを少し噴き出した。
すかさず七海が手元の使い捨ておしぼりを差し出した。中村は礼を言いながら口元やワイングラスを拭ってから慌てて否定した。

「そんな訳ないでしょ!不倫なんかしてないわよ!……そりゃ、かなり年上だけどさ……」

 頬を染めて俯く中村を皆が囲み、彼女は嫌々スマホで相手の写真を皆に見せる破目に陥ってしまった。

「おお~」
「渋い!」
「中村さん、おじ様好きなんすねー」

 若い男性二人が中村の彼氏の写真に食いついているのを、他人事のように七海は眺めていた。自分が矢面に立たない位置は彼女の定位置で、安らぎの場所だった。
 ところが中村の影に隠れてニコニコ油断している七海に、立川が話を振って来たため、彼女はまたしても話題のテーブルに引き摺り出される事になってしまった。



「で……江島さんの彼氏って、どんな人?」



 柔らかい笑みを含んだような低音に振り向くと、立川が穏やかに微笑んでいた。



(もう誤魔化せない)



 七海はそう思った。



 正直に彼はいないと言うべきか。
 それとも仮の彼氏の写真を見せて話を終わらすべきか。
 数秒逡巡した後、七海は顔を上げて立川を見返したのだった。

しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

大切にしていた母の形見のネックレスを妹に奪われましたが、それ以降私と妹の運は逆転しました!

四季
恋愛
大切にしていた母の形見のネックレスを妹に奪われましたが、それ以降私と妹の運は逆転しました!

処理中です...