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本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
82.本音を言えば
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『そうだよね、黛君はずっと唯が一番だもんね』
それはある意味七海の本音だった。
勿論恋心を自覚してしまった今では、黛が唯を一番に考えているのを目の当たりにすればグッサリと傷ついてしまう。
だけど唯は七海にとっても特別な存在である。
だから黛が唯から違う相手に目を向ける事は、彼自身の為を考えるとむしろ歓迎すべき良い事なのかもしれないが―――相手があの加藤だと思うと、何だかとても嫌な気持ちになってしまったのだった。
確かに唯より綺麗で、医師であれば頭も良く、身なりと言動からお金持ちの家に育ったのだと想像できる。
(でも全然素敵じゃない)と七海は思ったのだ。
黛は見る目がある奴だと―――好きだと認識する以前も七海は―――『顔』以外に少なくとも其処だけは彼の数少ない美点の一つとして評価していた。
だからこそ黛の付き合う相手に毎回、同情できたとも言える。
それに唯をずっと一番に思っていた黛を、七海は好ましく思っていた。
内側から滲みでる優しさ、自然に自分の信じる所を守れる所、誰かに悪意をぶつけられようとぶれない芯、更に最近知ったばかりの彼女の、本当の心の強さ―――そんな唯を選択した黛を好きだと思った。確かに嫉妬心は抱いたが、それが七海の真実だった。
けれど例え未来のある相手だとしても―――唯の代わりに加藤が選ばれたとしたら―――黛に対する七海の信頼も揺らぎそうな気がしたのだ。
だから自然と―――『良かった』と言う言葉が出た。
しかし黛が更に言葉を重ねようとした時、配膳された料理に注目する振りをして言葉を遮ってしまったのは―――やはり嫉妬以外の何物でも無い。
唯の事を選択する黛を評価はしているが、惚気話なんか絶対に聞きたくないっ……!と思ってしまった。
(面倒だなぁ)
と七海は、黒毛和牛の焼け具合と染み出す肉汁に舌鼓を打ちながらも思った。
『恋』は面倒だ。『友情』しか認識していない時は何でも無かった台詞が―――好きだと自覚した途端、自分の心を乱す地雷に変わってしまうなんて。
七海は何だか少し悲しい気持ちになった。
だからネットリと絡みつく面倒な思いを振り払うように、話題を変えた。
「唯に元気無かったって聞いたんだけど―――大丈夫?」
そもそもの目的に立ち戻る事にした。
何か力になれれば、と思った。恋の相手以前に、黛は七海の大事な友人なのだから。
「実は本田君に聞いたの。元気無かった理由。もしかしてそれで、メッセージに返信くれなかったのかなーって思って。でも顔見て少し安心したわ」
そう言って少し笑って黛を見れば。
驚いたように―――黛は七海の顔を凝視していた。
「な、なに?そんな変な事言った……?」
「いや……」
珍しく歯切れの悪い黛を、七海は訝しんだ。
「……余計な事だったかな?私黛君の力になりたくて……今日押し掛けちゃって」
「……」
「だって黛君も私を励ましてくれたでしょう?あれスッゴく嬉しかったの。それに助けられた。それは前にも言ったけど―――だから今度は私が恩を返す番かなって」
黛はポカンと、オズオズと話す七海を見ていたが―――やがて、額を押さえて顔を伏せてしまった。
「ま、黛君……?」
黛が黙って俯いてしまったので七海は何だか不安になって、彼の顔を覗き込もうとテーブルに沿うように顔を下げたのだった。
それはある意味七海の本音だった。
勿論恋心を自覚してしまった今では、黛が唯を一番に考えているのを目の当たりにすればグッサリと傷ついてしまう。
だけど唯は七海にとっても特別な存在である。
だから黛が唯から違う相手に目を向ける事は、彼自身の為を考えるとむしろ歓迎すべき良い事なのかもしれないが―――相手があの加藤だと思うと、何だかとても嫌な気持ちになってしまったのだった。
確かに唯より綺麗で、医師であれば頭も良く、身なりと言動からお金持ちの家に育ったのだと想像できる。
(でも全然素敵じゃない)と七海は思ったのだ。
黛は見る目がある奴だと―――好きだと認識する以前も七海は―――『顔』以外に少なくとも其処だけは彼の数少ない美点の一つとして評価していた。
だからこそ黛の付き合う相手に毎回、同情できたとも言える。
それに唯をずっと一番に思っていた黛を、七海は好ましく思っていた。
内側から滲みでる優しさ、自然に自分の信じる所を守れる所、誰かに悪意をぶつけられようとぶれない芯、更に最近知ったばかりの彼女の、本当の心の強さ―――そんな唯を選択した黛を好きだと思った。確かに嫉妬心は抱いたが、それが七海の真実だった。
けれど例え未来のある相手だとしても―――唯の代わりに加藤が選ばれたとしたら―――黛に対する七海の信頼も揺らぎそうな気がしたのだ。
だから自然と―――『良かった』と言う言葉が出た。
しかし黛が更に言葉を重ねようとした時、配膳された料理に注目する振りをして言葉を遮ってしまったのは―――やはり嫉妬以外の何物でも無い。
唯の事を選択する黛を評価はしているが、惚気話なんか絶対に聞きたくないっ……!と思ってしまった。
(面倒だなぁ)
と七海は、黒毛和牛の焼け具合と染み出す肉汁に舌鼓を打ちながらも思った。
『恋』は面倒だ。『友情』しか認識していない時は何でも無かった台詞が―――好きだと自覚した途端、自分の心を乱す地雷に変わってしまうなんて。
七海は何だか少し悲しい気持ちになった。
だからネットリと絡みつく面倒な思いを振り払うように、話題を変えた。
「唯に元気無かったって聞いたんだけど―――大丈夫?」
そもそもの目的に立ち戻る事にした。
何か力になれれば、と思った。恋の相手以前に、黛は七海の大事な友人なのだから。
「実は本田君に聞いたの。元気無かった理由。もしかしてそれで、メッセージに返信くれなかったのかなーって思って。でも顔見て少し安心したわ」
そう言って少し笑って黛を見れば。
驚いたように―――黛は七海の顔を凝視していた。
「な、なに?そんな変な事言った……?」
「いや……」
珍しく歯切れの悪い黛を、七海は訝しんだ。
「……余計な事だったかな?私黛君の力になりたくて……今日押し掛けちゃって」
「……」
「だって黛君も私を励ましてくれたでしょう?あれスッゴく嬉しかったの。それに助けられた。それは前にも言ったけど―――だから今度は私が恩を返す番かなって」
黛はポカンと、オズオズと話す七海を見ていたが―――やがて、額を押さえて顔を伏せてしまった。
「ま、黛君……?」
黛が黙って俯いてしまったので七海は何だか不安になって、彼の顔を覗き込もうとテーブルに沿うように顔を下げたのだった。
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