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後日談 黛家の妊婦さん1
(118)翔太と一緒
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久し振りに七海の弟、翔太が登場します。ちょっとした小話です。
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出産後は十分に寝る暇もないほど忙しいと、七海は既に知っている。
と言う訳で、出産後は出来ないであろう事をリストアップして、出来る限りやってしまおうと心に決めたのだ。
夫である黛は研修先が変わってから更に多忙になってしまい、ゴールデンウィークもお仕事は平日同様、通常運転となる。一緒に何処かに出掛ける予定など立てようもない。体の空いてしまうその間、だから七海は弟の翔太を構い倒す事にした。祖母が友人と温泉旅行に出掛ける予定になっているゴールデンウィークの後半まるまる五日間、小学校に入学したばかりの翔太を黛家に泊まらせて、序でに両親に自由な時間をプレゼントする事にした。
心配だったのは常に忙しい義父の龍一だ。ひょっとすると騒がしい子供を泊める事を敬遠するかもしれないと思ったのだが―――確認すると二つ返事で頷いてくれた。黛によると龍一は周りに頓着せず自分のペースで生活できるのでそれ程気にならないらしいとの事だった。最近はあまり無いそうだが、玲子が外国から招いた自分の知合いを泊める事もよくあったようだ。どうやら黛家に宿泊した事があるのは赤毛のサックスプレーヤー、メグだけではないらしい。
初日は近所のショッピングセンターで行われているイベントに翔太を連れて出かけた。段ボールで作られたゾウの滑り台やワニ、乗り物などが所狭しと並べられたイベントスペースに翔太を放ち、スマホで楽しそうに遊ぶ様子を撮影する。それからショッピングセンター内を歩き子供のおもちゃを冷やかしたり、ゲームコーナーで一緒に単純な金魚すくいゲームに興じたり。疲れるとレストランやカフェに入って美味しい物を食べてひたすら遊んだ。
七海は悪阻があまり重い方ではなかったらしく、急に凶暴な眠気に襲われる以外、安定期に入ってからは特に妊娠前と目立って体調が違うと感じる所はなかった。あるとすれば締め付けがキツイ服を着るのが辛くなったくらいだろうか。それほどお腹が目立っている訳では無いのに、何故だか堅い生地やゴムなどが当たると居心地悪くて仕方が無いのだ。最近はデニム生地のジーパンなどはクローゼットから出される機会が無く、ニット生地のストンとした服やシャツワンピースなど着心地の良い服ばかり着ている。
だからまだまだ翔太と遊ぶのは、それほど大変と言う訳では無かった。いや、大変ではある。小学生になったばかりの男の子の運動量や興味を抱いた物への集中力と言うのは並々ならぬものがあると久し振りに思い知らされ、家に辿り着く頃にはすっかりヘトヘトになってしまったのだった。
黛は夜勤、龍一は仕事で遅くなるため夕飯は不要と聞いていた。簡単な夕食の後、七海は翔太と一緒にお風呂に入った。先に翔太の髪を乾かし、自分の仕度を整える為に翔太にタブレットを渡して、少しの間動画を見て貰う事にする。
居間に翔太を残し、温かさが残る内にお風呂の掃除を簡単に済ませ、序でに洗濯物を選別して洗濯機に放り込みスイッチを入れた。洗面台もサッとキレイにして浴室を出ると―――居間に翔太がいない。タブレットだけがテーブルに放り出されている。
「探検しているのかな」
そう呟いて七海は客室や自分達の部屋を覗いた。玄関にもいないし、食料庫にもいない―――念のため確認したが玄関の鍵は閉まっていた。
「もしかしてお義父さんの寝室かなぁ?防音室は扉が重いから無理だろうし……」
と思いつつ先ず距離の近い防音室を覗いてみる事にした。力を込めるとボシッと枠に密着した重い扉が開く。するといつもは聞こえない筈の弾んだ音が聞こえて来て、七海は驚きに両目をパチパチと瞬かせる事になった。
聞こえて来たのは七人の小人がお仕事に行くときに歌う、楽し気なあの曲だ。
ゆっくりと音を立てないように踏み込むと、ピアノの向こうにあるソファーに寝そべっている大きな体が目に入る。
そしてその上にダラリと乗っかっている―――小さな体も。
「わぁ……」
思わず七海は感嘆の声を上げてしまった。
ソファには翔太をお腹の上に乗っけたまま目を伏せている龍一がいた。
いつの間にか帰宅した龍一が、居間で翔太と遭遇し―――何がどうなったかよく分からないが―――つまりは一緒に子供用の音楽を聴きながら眠ってしまったらしい。
七海は物音を立てないよう扉を閉めた。
そしてスヤスヤ眠る二人が風邪をひいてしまうのを防ごうと。少し大きめのタオルケットを取りに行くため、小走りでクローゼットに向かったのだった。
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お読みいただき、有難うございました。
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出産後は十分に寝る暇もないほど忙しいと、七海は既に知っている。
と言う訳で、出産後は出来ないであろう事をリストアップして、出来る限りやってしまおうと心に決めたのだ。
夫である黛は研修先が変わってから更に多忙になってしまい、ゴールデンウィークもお仕事は平日同様、通常運転となる。一緒に何処かに出掛ける予定など立てようもない。体の空いてしまうその間、だから七海は弟の翔太を構い倒す事にした。祖母が友人と温泉旅行に出掛ける予定になっているゴールデンウィークの後半まるまる五日間、小学校に入学したばかりの翔太を黛家に泊まらせて、序でに両親に自由な時間をプレゼントする事にした。
心配だったのは常に忙しい義父の龍一だ。ひょっとすると騒がしい子供を泊める事を敬遠するかもしれないと思ったのだが―――確認すると二つ返事で頷いてくれた。黛によると龍一は周りに頓着せず自分のペースで生活できるのでそれ程気にならないらしいとの事だった。最近はあまり無いそうだが、玲子が外国から招いた自分の知合いを泊める事もよくあったようだ。どうやら黛家に宿泊した事があるのは赤毛のサックスプレーヤー、メグだけではないらしい。
初日は近所のショッピングセンターで行われているイベントに翔太を連れて出かけた。段ボールで作られたゾウの滑り台やワニ、乗り物などが所狭しと並べられたイベントスペースに翔太を放ち、スマホで楽しそうに遊ぶ様子を撮影する。それからショッピングセンター内を歩き子供のおもちゃを冷やかしたり、ゲームコーナーで一緒に単純な金魚すくいゲームに興じたり。疲れるとレストランやカフェに入って美味しい物を食べてひたすら遊んだ。
七海は悪阻があまり重い方ではなかったらしく、急に凶暴な眠気に襲われる以外、安定期に入ってからは特に妊娠前と目立って体調が違うと感じる所はなかった。あるとすれば締め付けがキツイ服を着るのが辛くなったくらいだろうか。それほどお腹が目立っている訳では無いのに、何故だか堅い生地やゴムなどが当たると居心地悪くて仕方が無いのだ。最近はデニム生地のジーパンなどはクローゼットから出される機会が無く、ニット生地のストンとした服やシャツワンピースなど着心地の良い服ばかり着ている。
だからまだまだ翔太と遊ぶのは、それほど大変と言う訳では無かった。いや、大変ではある。小学生になったばかりの男の子の運動量や興味を抱いた物への集中力と言うのは並々ならぬものがあると久し振りに思い知らされ、家に辿り着く頃にはすっかりヘトヘトになってしまったのだった。
黛は夜勤、龍一は仕事で遅くなるため夕飯は不要と聞いていた。簡単な夕食の後、七海は翔太と一緒にお風呂に入った。先に翔太の髪を乾かし、自分の仕度を整える為に翔太にタブレットを渡して、少しの間動画を見て貰う事にする。
居間に翔太を残し、温かさが残る内にお風呂の掃除を簡単に済ませ、序でに洗濯物を選別して洗濯機に放り込みスイッチを入れた。洗面台もサッとキレイにして浴室を出ると―――居間に翔太がいない。タブレットだけがテーブルに放り出されている。
「探検しているのかな」
そう呟いて七海は客室や自分達の部屋を覗いた。玄関にもいないし、食料庫にもいない―――念のため確認したが玄関の鍵は閉まっていた。
「もしかしてお義父さんの寝室かなぁ?防音室は扉が重いから無理だろうし……」
と思いつつ先ず距離の近い防音室を覗いてみる事にした。力を込めるとボシッと枠に密着した重い扉が開く。するといつもは聞こえない筈の弾んだ音が聞こえて来て、七海は驚きに両目をパチパチと瞬かせる事になった。
聞こえて来たのは七人の小人がお仕事に行くときに歌う、楽し気なあの曲だ。
ゆっくりと音を立てないように踏み込むと、ピアノの向こうにあるソファーに寝そべっている大きな体が目に入る。
そしてその上にダラリと乗っかっている―――小さな体も。
「わぁ……」
思わず七海は感嘆の声を上げてしまった。
ソファには翔太をお腹の上に乗っけたまま目を伏せている龍一がいた。
いつの間にか帰宅した龍一が、居間で翔太と遭遇し―――何がどうなったかよく分からないが―――つまりは一緒に子供用の音楽を聴きながら眠ってしまったらしい。
七海は物音を立てないよう扉を閉めた。
そしてスヤスヤ眠る二人が風邪をひいてしまうのを防ごうと。少し大きめのタオルケットを取りに行くため、小走りでクローゼットに向かったのだった。
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