平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎

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太っちょのポンちゃん 高校生編

黛君の彼女2

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唯の友達で黛の元カノ(?) 七海視点です。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 本田君のお兄さん、のぶさんに声を掛けて貰い今日は初めて本田家にお邪魔する事になった。

 確かこの辺りは高級住宅街の筈。大きくて立派な家が立ち並ぶ、閑静で落ち着いた雰囲気の街だ。辿り着いた本田家は拍子抜けするくらい普通のコンクリート住宅だったけど、敷地が広いし離れもあるようだから、きっとお金持ちなんだろうな……なんて下世話な事を考えてしまった。

 インターホンを押して勝手知ったる様子で唯が玄関をくぐる。そこには誰も立っていなかったけれど、ガチャリと鍵が開く音がしたから……もしかしてオートロックなのかな??
 マンションでも無いのに―――スゴイ!

「おはよー」
「いらっしゃい」

 唯がリビングのドアを開けると、ソファに座った信さんが振り返り立ち上がった。
 ん?隣にいるのは―――本田君より大分小柄な男がゲームコントローラーを握って、真剣に画像に見入っている。え?今日、まゆずみ君も来るんだったの?

「七海ちゃんも、いらっしゃい」

 うわぁ……。
 滅茶苦茶カッコイイ。

 ニコリと微笑まれ、名前を呼ばれて頭がクラクラした。
 本田君が少し大人びたような容貌。だから見慣れている筈なのに、ドキドキしてしまうのは何故だ?!
 ―――あ、そうか。本田君は唯以外に対して、真正面でじっと見つめたり甘く微笑んだり、思わせ振りな事はしない。どちらかって言うと寡黙で、彼女以外の女子に用も無いのに自分から話し掛けたりしないんだ。

 随分性格の違う兄弟だな。
 ドキドキしながらも頭の隅でそう冷静な判断をする。
 そうは思ってもときめいてしまうのはもう、しょうがない。だって、面食いなんだモン……!

「あの、これ大福です。近所の古いお店なんですけど『食べコム』でも上位なので、結構美味しいと思うんですけど」
「有難う、俺もこころも甘党なんで嬉しいよ。七海ちゃんは気が利くね、いいお嫁さんに成れるよ」

 うわぃっ出たっ!くすぐったい台詞。ひー、恥ずかしー!

 でも受け取ってすぐに嬉しそうに微笑んでくれたから、ホッとした。
 お餅大好きなんだけど、買ってから「和菓子苦手な人いたらどうしよう…!」って気になってオロオロしてしまった。唯は「大丈夫だよ」って言ってくれたけど、優しい唯の言葉は、ちょっと説得力に欠けるのだ。(ゴメンよ、唯)

「お茶、入れるね。―――麦茶、紅茶、緑茶、コーヒー、りんごジュース、牛乳……色々あるけど、どれが好き?」
「えっと、じゃあ…紅茶で」
「唯は?」
「七海と一緒がいいな。ところで信君―――ポンちゃんは?」
「離れに行ってる。もうすぐ帰って来ると思うけど」
「お祖母ばあちゃんもいる?」
「ああ」
「じゃあ、お祖母ちゃんに挨拶がてら、ポンちゃん呼んで来るね。七海、こっちで待ってて貰っていい?すぐ戻って来るから」
「うん」
「あ、そうだ唯。ばーちゃんに持って行って貰いたいものがあるんだけど」
「了解。じゃあ、七海は―――黛君とゲームでもしてる?」

 とうとうここで、ずっと存在を忘れられていたゲーマーの名前が挙がった。

「うん、そうだね」
「じゃあ、ソファに―――黛君!七海の事よろしくね~」
「……」

 ゲーマーからの返事は無い。
 しかし唯は全く気にせず「集中しているみたいだね」と笑って、信さんとキッチンへ歩いて行った。



 えっと……。



 これは、私をよろしくされたくない―――と言う無言の拒絶でしょうか……?

 いや、違うな。単にゲームに集中しているだけだな。
 黛君の性格で、人を無視するなんて有り得ない。
 しっかし、他人のうちで住んでいる人よりリラックスしているのってどうなんだ……。まあ、この人何処でもリラックス&マイペースだからしょうがないか。

 私はおそるおそるソファに回り込み、黛君の横に腰掛けた。
 画面ではブロックのようなものがドンドン積み上げられ、大きな建物が形造られて行く。

「ヨモギもある?」

 急に口を開くから、ソファから体がビクっと跳ね上がった。
 リアルに5mmほど。
 黛君は画面から目を離さず、コントローラーを巧みに操りながら話し掛けて来た。

「……あるよ」
「それ、俺用ね。残して置いて」

 相変わらず自分勝手だなぁ。
 本田君と唯が、普段から黛君に好き勝手させていると言う事が良く分かる。二人とも落ち着いていて優しいから、黛君と長く付き合う事が出来るのだろう。

「我儘だなぁ」
「褒めてんの?」
「褒めてるように聞こえる?」

 なんでそーなる?思考回路がよく分からん。

 暫く素晴らしい教会が建設されていくのを眺めていると、信さんが紅茶を持ってきてくれた。黛君の前にはリンゴジュースが。
 さっき黛君、何飲むとか言って無かったけど―――もしかして飲む物決まっていて、黙っていてもこれが出てくるって事なのだろうか。だとしたら信さんも優し過ぎる。

「唯たち戻ってきたら、七海ちゃんのお土産開けようか」
「あ、はい。お願いします」

 スマートだなぁ。これはモテそう。

 本田君もモテるんだけど、それに輪を掛けてモテそう。優雅に微笑む信さんの色気が半端なくてまたドキドキしてしまう。
 私と黛君が座っているテレビ真正面の席と直角に置かれているソファに、信さんが腰を掛けた。

「七海ちゃん達のこの間の衣装って、手作りなの?」
「あ…ハイ。だけど既製品に飾りを付けただけなので、最初から手作りって訳じゃ無いですけど」
「でも、完成度高かったよ。それに二人ともすごく可愛かった」

 じっと整った精悍な双眸に見つめられると、ものすごく落ち着かない。
 ましてや『可愛い』なんて面と向かって彼女でも無い女の子に言うなんて、スゴイ王子様スキル持ってるな……。信さんって、本当にあの真面目な本田君のお兄さん??性格違い過ぎっ!
 平々凡々女子の私は沸騰したみたいに真っ赤になってしまった。アチ、アチ。

 本田君と唯が戻って来たので、大福の箱を開けて皆で分けた。
 勿論黛君は、ヨモギ大福を手に取った。






 黛君の建物造りが一段落した後、皆で対戦ゲームなどをして遊んだ。太鼓を叩くやつとかスポーツカーのレースとか定番物が一杯あった。本田君のうちのゲーム機なのに、何故か黛君が自分のモノのように慣れた手付きでゲームを選んでいた。
 うーん……もう、家族?家族なのね?黛君は。そう言う事にしよう……一々驚いたり考えたりするの止めっ!

 暗くなる前に帰った方が良いと、夕方私と唯は帰る事になった。
 何故か黛君は帰るって言わない。

 やっぱり家族?と言うかもうここに住んでる?もしかして。

 唯を本田君が、私を黛君が送ってくれる事になった。
 というか黛君、私を送った後本田家に帰って夕飯食べるんだって。やっぱ家族だ。うん、もうスルーしよう。






 駅の方向へ少し歩いた処に、児童公園があった。
 夕方の所為か子供は少なく、ベンチに高校生くらいの女の子が二人で座っておしゃべりしているのが目に入った。
 黛君は考え事をしていて無口だったので、私は何とは無しにその子達を眺めていた。黛君は話し始めると弾丸トークが止まらないのだが、考え事に集中している時は一切周りをシャットアウトしてしまう。それでいて道に迷ったり事故に遭ったりしないのだから不思議なものだ。きっと体にセンサーかなんか埋まっているに違いない。最近の車についている事故を防ぐヤツ。あれが標準装備されているんだ。

 ベンチに座っている女の子と目があった。

 わ……可愛い。美少女だわ。

 などと呑気にぽやっと見惚れていた自分を、叱ってやりたい。
 その子はこちらをジッと見返し、隣の女の子と何やら頷き合うと少し先の横断歩道の方へ小走りで走って行った。

 あれ、あんまり見てたから気持ち悪がられたのかな?逃げちゃった。

 なんて思っていたら、信号が変わった途端その美少女と友達らしき女の子がこちらに突進して来た。

「龍之介せんぱいっ」

 私達に立ちはだかったその美少女は強い口調で、黛君の名前を呼んだ。
 ちなみに黛君の名前は『黛 龍之介』と言う。多分名前の文字数でバランスを取ろうとしたのだと思う。

「なんでその人と一緒にいるんですか?本田先輩と約束があるって言っていたから、デートできなくても我慢してたのに……っ」

 ギロリと涙目でに睨まれる。お隣の友達はハラハラした様子で口を開かず美少女の隣で両手を揉むように立っていた。あ、付き合わされたクチだね、君。
 『先輩』と言う事は後輩なのかな?きっと黛君の彼女だ。同学年の女子達はすっかり黛君を諦めてしまっているのだが、下級生にはまだ本性がバレていないのだろう。見た目だけなら素晴らしくカッコ良いからね、この人。
あ、頭も良いし運動神経も良いか。……うん、モテるわ。口をきかなければ……。

 でも約束なんかしてたのか……?

 ただゲームしてただけだぞ。
 デートがあるって一言彼が言えば、本田君や唯は喜んで黛君を送り出すだろうに。

「本田んち行ってたよ。コイツも居たから今駅まで送るトコ」

 相手が涙目だろうが何だろうが、今日も黛君は通常運転です。全く悪いと思っていないな、こりゃ。
 私は何だか彼女が気の毒になって来た。いたたまれなくなって、一歩後退る。

「黛君、私一人で駅まで行けるから……」

 すると黛君は険しい顔で、振り向いた。

「何言ってるんだ。危ないだろ、お前は俺に黙って付いて来ればいーんだよ」

 ドッキーン!

 って、馬鹿ぁ!なんて事、彼女の前で言いやがるっ!
 ああっ……彼女の視線が益々厳しい物に……。どーしてくれるんだぁっ!

「……江島先輩…ですよね、元カノの。知ってます。もう別れたのに未練たらたらで、黛先輩に付き纏わないで下さい。幼馴染の鹿島さんの友達になったのだって、黛先輩の近くにいたいからじゃないですか?図々しいって自分の事、思わないんですかっ……!」

 いや、この状況見て、付き纏っているように見える……?

 見えないよね。

 チラリと美少女の隣のいい人そうな女の子と目が合った。戸惑ったような瞳に、私と同じ判断をしているだろうって察する事ができた。そして暴走気味の友達を心配しているのだろう……更にハラハラして挙動不審な様子が顕著になっている。

「あの……私、今日本田君の家に行くとき、黛君いるって知らなかったよ?」
「お前が買ってきた大福美味かったぞ。またヨモギのヤツ買って来いよ」

 おいっ!
 せっかくのフォローがっ!こぉの、天然がっ!

 空気を読まない黛君の言葉に、美少女がわっと泣きだした。
 両手で顔を覆って、しゃがみ込んでしまう。

 うっ……気持ちが分かるだけに、見ているのが辛い……。
 大人しそうな友達が慌ててしゃがみ込み、彼女の肩に手を置いた。
 無理も無い。本当に好きだったら、私だって号泣しちゃうだろう。

 すると黛君が、しゃがみ込む彼女に近づき腰を落とした。

「おい、泣くな。友達、ティッシュ持ってるか?」
「あっ…はい」

 黛君は美少女の頭を優しく撫で、少し嗚咽の落ち着いた頃を見計らって彼女の顎に手を掛けて、受け取ったティッシュで涙と鼻水を丁寧に拭ってやっていた。優しい仕草に彼女の涙もやがて止まった。

 あ、頬っぺたが真っ赤だ。目が違う意味で潤んでいる。
 あかん。あかんヤツだ、これ。

「おっし、涙止まったな。泣いたらせっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」

 ニッコリと微笑む美少年に、美少女は今度は耳まで真っ赤になる。
 黛君はポンポンと彼女の柔らかそうな猫っ毛を撫で、立ち上がった。

「ティッシュ、サンキュ。コイツの事、よろしく頼むな」

 そう言って呆然と佇む友達にティッシュの残りを返し、その子の頭もポンっと撫でた。
 序でに友達もユデダコみたいに真っ赤になった。

「じゃ、またな。おい七海行くぞっ」

 この雰囲気で何故未だに送ろうと考える??
 しかし黛君のイケメン行動に魂を抜かれた美少女はポーッとしてしまい、私の事など目に入らなくなってしまったようだ。それは助かったのだけれど……。

「いや……私一人で……」

 断りの言葉を言い掛けた私を、黛君はギロリと睨んだ。

「鹿島との約束、破らせる気か?」
「ああ、うん。そうね、そうだったね……唯に頼まれた事は黛君には『絶対』だもんね」
「分かっているなら、黙って付いて来い」

 だから、そのイケメン発言やめて~~!






 駅までの帰り道、思い切って聞いてみた。

「あの~~、ずっと不思議に思っていたんだけどさ」
「何だ?」
「何で唯の事が好きなのに、告白されたら断らないの?」
「は?鹿島は本田と付き合っているだろ?」

 意外と真面まともな返答に、私はちょっと驚いた。
 普段の無法者っぷりから、もっと自由な返答が帰って来ると思ったからだ。

「じゃ、じゃあさ。彼女できたのに何で唯に話しかけたり、唯を優先したりするの?」
「好きな相手に話し掛けちゃ駄目なのか?自分の大事な物を大事にしたら駄目なのか?」
「いや……そうじゃ無くて、彼女出来たらさ。彼女を優先しないと。唯とか本田君ばっかり優先してちゃ……彼女が嫉妬するでしょ?」
「自分の心に正直にならない奴はいつか、歪む」
「え?」
「お前は好きな物を、自分の理性で決められるのか?本能で好きだと感じた物を嫌いと思い込もうとして、心の中に押し込めてしまった結果―――かえってその要因になった、優先した相手を憎まない事が可能だと思うのか?」
「え……と……」

 何と返答して良いか判らなかった。
 以前も言ったが、私はあまり頭の良い方では無い。上手い理屈も適当な台詞も、思いつかない。

「もしかして―――そんな、経験があるの……?」

 何か悲惨な経験をした結果、こんな奇妙な人間になってしまったのだろうか?
 私は神妙な顔で黛君に向き直った。黛君も立ち止まり、真面目な顔で私をじっと睨んでいる。そんな表情さえ、息を呑むほどカッコ良い。くそ……自分の面食いという性質が憎い。



「いや?本にそう書いてあった」

 カクっ。
 ないんかいっ!

「でも真実だろ?自分の気持ちを無かった事にして、良い結果が得られると思うか?」

 黛君は首を傾げてまるで「困ったヤツだ」と言うように呆れた表情を作った。
 た、確かに……。

「いやいやいや……!おかしいからっ!話し戻っちゃうでしょ。じゃあ、何で唯じゃなくて違う子と付き合うのよ。しかも告白して来たら相手も知らないでOKしたりして、せめてちょっとは選びなさいよ」

 黛君の歴代彼女は、様々なタイプで統一感が無い。
 私みたいな平々凡々(ちなみに私は黛君の初カノだ!名ばかりだけど)なタイプ、さっきのような年下美少女、優等生の眼鏡っ子、陸上部のホープに、遊び慣れた大人っぽい先輩……。

 多分私と付き合ったのが、まずかったのかもしれない。
 あんな子で良いなら、私もっ!って、それまで彼は唯とつるんでいるから……と遠巻きにしていた女の子達が殺到するようになってしまったのだ。あれ?じゃあ、私の所為……?

 いや、違う!断じて!悪いのはコイツだぁ~。私じゃないってば。

「選んでるぞ?」
「え?でも私の時、名前も知らなかったでしょう?」
かんで」
「『感』ン~?」

 なんじゃ、そら。

「悪い奴じゃ無いなって、目を見たら分かる。そう言う奴としか、俺付き合わねぇもん」
「ちょっ……っ」

 う、わ~~!!
 何言ってくれちゃうの、何言ってくれちゃうのっ!

 さっきの美少女みたいに。私も真っ赤になっている自覚はある。
 コイツは~~!そんな台詞、付き合っている時に言いやがれっ!

「それに鹿島と付き合えって言われても―――鹿島は本田が好きなんだ。本田と付き合っている幸せそうな鹿島が好きなんだ。その幸せを俺が壊すなんて―――できるワケないだろ?それこそ、泥沼一直線で誰も幸せにならない。無駄の極致じゃねぇのか?」

 うっ、それはそうだけど……。

「俺、元々さ。鹿島の事落ち着いてて常識あっていい奴だなーって思ってて、気付いたら好きになっていたんだ。だけど鹿島が本田を好きになって―――そん時ますますアイツの事好きになった。本田はすげえヤツだよ、それを見抜いている鹿島はやっぱすげえって」
「……」
「だから良さそうな子から告白されたら、全部OK。あれ以上好きになれる女は、世の中にはもういないのかもしれないけど―――必ずしもそれが絶対とも言い切れないしな。先の事は俺に判らんし。鹿島より好きになるかどうかわは判らんけど……彼女とただ仲良く付き合えれば、別にいいんじゃね?」



 この時不覚にも。

 私は感動して泣いてしまった。

 感動して嗚咽が止まらない私を……黛君は決して突き放す事無く、駅のベンチに誘導し泣き終わるのをずっと待っていてくれた。

 私、黛君にヒドイ事を言ってしまった。
 人の気持ちはどうにもならない。それを黛君は十分に分かっていたのだ。
 分かっていて、どうにもならない気持ちのまま平常心を貫こうとしている人に対して、私は……。
 本気で異性を好きになった経験も無いのに偉そうに―――。




 黛君の言っているのは正論だ。
 それを貫ける彼に―――私は不覚にも感動してしまったのだ。



 私が泣き止んでから、黛君は改札まで付いて来てくれた。
 改札を通る時、

「お前ってホント、いい奴だよな」

 背中に黛君の声が掛かった。私は驚いて振り返る。
 黛君は綺麗な綺麗な顔で、ふっと笑って手を振っている。
 何だかまた泣きそうになったけど、こらえて手を振り返した。

「黛君もね」

 そう言うとちょっと驚いたように眉を上げ「じゃ、またな」そう言って、彼はその場を立ち去った。





 学校で美少女と黛君が仲良さそうに話しているのを、見かけた。
 今度こそ唯より好きな相手に、彼女がなってくれれば良いのに。
 あんな想いをずっと抱き続けるなんて―――やっぱり切な過ぎるよ……。






 ―――なんて、しんみり考えていた時もありました。

「えー!また別れたのか?」
「うん、振られた」

 久しぶりに公園で待ち合わせをして四人で帰った帰り道、黛君は何でもなさそうな顔で報告した。

「今度は上手く行くかと思ったのにねぇ」

 唯が溜息を吐いた。相手に同情しているのかもしれないし、黛君の将来を憂えているのかもしれなかった。

「本田と鹿島と遊ぶのが月三つきさんで、自分と会うのが月イチじゃ少な過ぎる。やっぱり貴方には付いて行けないって言われた」
「―――そりゃ、ダメだろ」
「な?ちょっと無理だろ?月四で本田達と会う予定を月三に減らしたんだぜ?ちょっとこれ以上は譲歩出来ねぇよなぁ?」

 本田君は呆れたように溜息を吐いた。

「駄目なのは、お前だ……」
「なんで??」
「もう、知らんっ!」
「良く分かんないな?本田…なんでだ?」

 キョトンとしている黛君に、唯は「何でわかんないの……」と小さな声で呟いた。

 私もそう思う。
 あの時は黛君の唯と本田君への愛情に、うっかり感動したけれど―――






 正論だからって、何をしても良いわけじゃなーい!
 やっぱ、彼女を優先しろよ!
 本能が何だとか理性が何だとか理屈ばっかり捏ねてないで、彼女を好きになる努力をしろっ……!!



 と、すっかり彼への同情は吹き飛んだのでした。

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