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太っちょのポンちゃん 高校生編
唯ちゃんと、クラスメイト
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唯の友達で黛の元カノ(?)、七海視点となります。
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「あの子って面食いだよね」
何気ない振りを装って呟かれた台詞だった。
だけど動機は嫉妬だと思う。その子は黛君に気があるらしいのだけど、ツンデレなのか素直に言わない。拗らせてしまったのか、幼馴染の唯に噛みつこうとした。
休み時間に黛君に呼び出され「よっこらしょっ」と言って腰を上げた唯の背中を見つめながら、加藤さんはそう呟いたのだ。
私の頭の中で小さい警報が鳴った。
唯のピンチだ。何かフォローせねばとオロオロしていると、加藤さんが私に視線を向けた。
「ねぇ、江島さんもそう思わない?」
「え?―――そんな事な……」
「だって、江島さんって黛と二週間で別れたんでしょ?鹿島さんの所為なんじゃない?」
何と言って良いのか戸惑う。
私はあまり頭が良い方では無いし、口が上手い訳では無い。
それは唯の所為と言えば唯の所為とも言えるかもしれないけれど―――そもそも前提からおかしかったのだ。私達の付き合いは。
それにどっちかって言うと、黛君の所為だ。唯の事が一番好きなのに、知らない女に告られて名前も知らないままOKする事自体、おかしい。
しかし彼は懲りずにそう言う事を繰り返していて、それが物凄い短いサイクルで繰り返された後―――黛が付き合っている『彼女』より小学生からの幼馴染、唯と本田君を優先するという事が、学年では周知の事実になった。
だから夏休みも間近に迫ったこの時期、とうとう黛君に告白する強者は同じ学年にはいなくなった。
それだけが理由では無いかな?
爽やかな顔に似合わず乱暴で不遜な物言いをするデリカシーの無さ。相手に合わせようとしないマイペースな、態度のデカい男だと言う事がクラスメイト以外の同学年の女子の間にも、1年間掛けて徐々に浸透していった所為でもあるだろう。
けれど隠れファンは根強く残っているのだ。
黛君はサッカー部のエース的存在になりつつあるし、目が合うとドキリとしちゃうくらいイケメンなのは変わらない。それに実は物凄く頭が良い。大して熱心に勉強している様子も無いのに、いつも学年順位は5位以内なのだ。超ハイスペック。似合い過ぎる。
女心を解しない筈の彼の、不意打ちイケメン行動(実際はただの親切)にうっかりトキめいちゃう子もいる。
すごく気持ちが分かる。分かり過ぎる。
中身を知っていても、自分の中に恋心も無いと自覚していてもいつも胸を撃ち抜かれる。本当に止めて欲しい。 無自覚なイケメン行動は、心臓に悪いのだ。
こんな時私は「自分ってトコトン面食いだなぁ」って改めて自覚してしまう。
「別に…唯の所為じゃ無いよ」
結局アレコレ考えを巡らせて、返事出来たのはこれだけだった。
私って役に立たねぇー!唯、ゴメン!
「彼氏の本田君だってカッコいいでしょ?それに黛とも仲良いしさ。いつもイケメンに囲まれてて―――やっぱ相当『面食い』って事じゃない?」
「そう言われれば、そうかもね」
加藤さんの言葉に、上田さんも同意した。
何か不穏な流れになって来た―――!
ど、どうしよう……何て言ったらいいんだろう。何となく「違う」って思う。だけど根拠は無い。ただ私のように『面食い』では無いのは、はっきりしている。日常的に唯と付き合って来て、雰囲気からそれはわかるのだけど何と説明して良いか判らない。
実際、唯は本田君って言うカッコいい彼氏に大事にされているし、中身はどうあれイケメンと言われる黛君がいつも周りをウロチョロしている。
「違うよ」
湯川さんの冷静な声が、浮足立った会話にストップを掛けた。
「鹿島さんは少なくとも面食いじゃないと思う―――だって、鹿島さんが本田君と付き合い始めた頃って、本田君全くモテなかったモン。イケメンでも無かったし」
そういえば湯川さんは唯と同じ小中学校出身だった。
「そりゃ、小学校の時と高校では見た目は多少変わるとは思うけど―――あんなに格好良いんだよ?子供の時からそんなに変わるかなぁ?」
加藤さんは湯川さんの話を、あまり信用していないようだった。きっと昔からの知り合いを庇っている、くらいに思っているのだろう。
「黛はあんまり変わらないけどね。前から美形だったし、デリカシーの無い単純な性格、全然治らないからね」
随分ヒドイ言われようだ。
でも当たってる。
私はウンウンと、納得を示して大きく頷いた。
「えー?じゃあ、本田君どんな風に変わったって言うのよ」
「本田君はもともと……」
「ポンちゃんが、どうしたの?」
話に夢中になっていた私達は、唯が戻って来た事に気が付かなかった。
慌てたのは、加藤さんだ。
「ほ『本田君って格好良いね』って言ってたの。鹿島さんが羨ましいナーって!」
「いやあのね、今、小学校の時の本田君の話を―――」
「ゆ、湯川さんっ…!」
嫉妬からか、やや悪口っぽく話題を出した加藤さんは、気まずげに話を遮った。
「ポンちゃんが小学生だった時の事?」
唯は目を丸くして、それからふわりと微笑んだ。
一瞬で場の雰囲気が柔らかくなるから、唯の笑顔は不思議なんだ。
「すっごくカッコ良かったよ!クラスで一番!ううん、学校で一番!だから私頑張ってアピールして、最後の年のバレンタインに告白して―――やっと付き合って貰ったんだぁ……」
こんな風に少し興奮気味に話す唯は、すごく珍しい。
加藤さんは少し当て擦るように、唯に向かって言った。
「へー、そんなにカッコ良かったんだぁ……」
「うん!」
湯川さんが複雑な表情で、二人を見ていた。ワザワザ唯の言葉を否定する気は無さそうだ。
そりゃそうだよね。自分の彼氏を「カッコいい」って言っている人に「そんな事無い」って口を出す人はいない。
湯川さんは少し大人びた雰囲気の女子で、唯と特に仲良しと言う訳では無かったが、悪いと言う訳でも無かった。嘘を吐くようには見え無いけれど、あの本田君なら小学校の頃不細工という程では無かっただろうと、私でも想像できる。
少し「何故そんな風に言ったのだろう」と気になったけれども、それから話題が切り替わったので、深く追及しないままその日は終わったのだった。
文化祭の日は暑くも無く心地の良い晴れた日だった。
私達のクラスの出し物は『メイド&執事喫茶』。超ベタな提案がそのまま通過してしまった。
軽食のメニューはドーナツ店から購入したドーナッツと輸入食料品店で大量購入したシナモンビスケット、飲み物は同じく輸入食料品店で大量購入した紅茶パックとインスタントコーヒーと言う適当さだ。労力は衣装制作と教室の飾り付けに殆ど費やされた。
何故か新選組の格好をした黛君が、本田君より早く現れ唯の写真を撮り始めた。序でに私と唯のツーショット、他の皆も交えた集合写真も撮影する。黛君は器用なので、この写真をカッコよく加工してくれる気なのだろう。以前唯と本田君、黛君と私で動物園に行ったときも、画像ソフトで幾つかの写真を組み合わせてラミネート加工した物を作って配ってくれた。
告った二週間後に自分を振った元カノにまで快く渡してくれるのだから、改めて裏心の無い黛君に感心してしまう。…他人に対する態度が酷いとか、自分勝手過ぎるとかって言う評価は変わらないけれど。
午後になってやっと、唯の彼氏、本田君が現れた。
本田君はバスケ部とクラスの手伝いが忙しく、黛君みたいに自由な性格じゃないので午前中は中々抜け出せなかったらしい。
本田君は軍服姿だ。日本じゃ無く何処か西洋風。
バスケで鍛えているからか、無駄に似合っている。黛君がいきなり現れた時もそうだったけど、何人か女子がぽーっとなって潤んだ瞳のまま動かなくなってしまった。
他のお客さんを放って置けないので、私は給仕のフォローに向かった。唯ほどでは無いけれども、私も本田君のイケメン振りには免疫が付いて来たようだ。
「信兄と新が来たから、抜け出せた」
「え?新も?」
唯が弾んだ声を上げた。
本田君の後ろから、お相撲さんみたいにぽっちゃりした男の子が顔を出した。
「新!」
唯が駆け寄って、その男の子の両手を取った。
「久しぶりだぁ、最近塾ばっかりだから会えなかったもんね」
貫禄のある男の子はニコリと笑った。
なんか落ち着いているなー、見た目の所為でそう見えるのかな?
「唯、可愛いじゃん」
「信君」
次に現れたのは本田君に似ている美男子だった。本田君よりやや、大人っぽい。そう言えば本田君には兄弟がいると聞いた事がある。もしかして本田君のお兄さんなのだろうか。
ぽっちゃりした男の子は―――近所の子?それとも親戚かな?全然二人と似ていないので、おそらく親戚だとしても、遠い親戚だろう。
「信君、新、私の友達の七海だよ」
三人をテーブルに誘導した唯が、給仕帰りで傍を通った私を引き留めて紹介した。
「よろしく。いつも心と唯が世話になってるね。心の兄の信です。こっちは弟の新」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「今度七海ちゃんも家に遊びにおいで」
わぁ、笑顔が眩しい。
本田君には慣れたけど、お兄さんは何だか色気があるって言うか、本田君よりずっと女慣れしている雰囲気があって妙にドキドキさせられてしまう。
「信兄、こんな処でナンパすんな」
本田君がギロリとお兄さんを睨んだ。真面目ですな。
「可愛い女子高生とお話するぐらい、良いだろう?ね、絶対遊びに来てね」
「あ……はい……」
面食いの私にはイケメンに逆らうなんて選択肢、ありません。
唯が嬉しそうに頷いたので、まあいっかと自分に言い訳した。
それから唯は切り替えてテキパキと給仕に移った。だけど新君って言う男の子の近くを通りかかる時は、嬉しそうに構って突いたりしている。唯って、子供好きなんだな。
ん?
あれ。
新君って―――本田君の弟?
うっそ。全然似ていないんだけど。
「ねぇ、ねぇ!本田君の横に座っているカッコいい人、もしかしてお兄さん?ソックリだね」
唯に反発心を持っているらしい加藤さんは、直接彼女に尋ねる事が出来ずに私の腕を引いてヒソヒソと囁いた。
「うん、そうらしい」
「鹿島さん、ズルいなぁ。本当に周り、イケメンばっかじゃん。ねぇ?」
私に同意を求めないで欲しい。
戸惑う私が返事をしない事も意に介さず、加藤さんは眉を潜めて訝し気に言った。
「それにしても、あの太っちょの子供は何?近所の子?」
「本田君の弟だよ」
応えたのは、湯川さんだった。
加藤さんが驚いたように振り返り、目を瞠った。
「小学校の時の本田君にソックリ。鹿島さんが猛アピールしていたの、思い出すわー」
「え……本田君って、あんな感じだったの……?」
『あんな感じ』って酷い言い方だな。
でも私も改めて唯の台詞を思い出し、実感した。
『すっごくカッコ良かったよ!クラスで一番!ううん、学校で一番!だから私頑張ってアピールして、最後の年のバレンタインに告白して―――やっと付き合って貰ったんだぁ……』
唯は新君が本当にお気に入りのようで、嬉しそうにまた突(つつ)いている。
「ね?『面食い』じゃないでしょう?」
「あ、うん……そうだね」
ぼんやりと加藤さんが頷いた。憑き物が落ちたような顔をしている。
黛君は小学校の頃から美少年だったと、湯川さんは証言している。
その黛君に目もくれず、お相撲さんみたいな弟の新君にソックリだった本田君を追いかけていたのだとしたら ―――確かに唯は『面食い』とは言えないだろう。
文化祭が終わった後、何故か加藤さんが唯の事を『勇者』と呼び出した。
二人を古くから知る女子達に、唯が嫉妬されないワケを加藤さんも理解したらしい。
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何気ない振りを装って呟かれた台詞だった。
だけど動機は嫉妬だと思う。その子は黛君に気があるらしいのだけど、ツンデレなのか素直に言わない。拗らせてしまったのか、幼馴染の唯に噛みつこうとした。
休み時間に黛君に呼び出され「よっこらしょっ」と言って腰を上げた唯の背中を見つめながら、加藤さんはそう呟いたのだ。
私の頭の中で小さい警報が鳴った。
唯のピンチだ。何かフォローせねばとオロオロしていると、加藤さんが私に視線を向けた。
「ねぇ、江島さんもそう思わない?」
「え?―――そんな事な……」
「だって、江島さんって黛と二週間で別れたんでしょ?鹿島さんの所為なんじゃない?」
何と言って良いのか戸惑う。
私はあまり頭が良い方では無いし、口が上手い訳では無い。
それは唯の所為と言えば唯の所為とも言えるかもしれないけれど―――そもそも前提からおかしかったのだ。私達の付き合いは。
それにどっちかって言うと、黛君の所為だ。唯の事が一番好きなのに、知らない女に告られて名前も知らないままOKする事自体、おかしい。
しかし彼は懲りずにそう言う事を繰り返していて、それが物凄い短いサイクルで繰り返された後―――黛が付き合っている『彼女』より小学生からの幼馴染、唯と本田君を優先するという事が、学年では周知の事実になった。
だから夏休みも間近に迫ったこの時期、とうとう黛君に告白する強者は同じ学年にはいなくなった。
それだけが理由では無いかな?
爽やかな顔に似合わず乱暴で不遜な物言いをするデリカシーの無さ。相手に合わせようとしないマイペースな、態度のデカい男だと言う事がクラスメイト以外の同学年の女子の間にも、1年間掛けて徐々に浸透していった所為でもあるだろう。
けれど隠れファンは根強く残っているのだ。
黛君はサッカー部のエース的存在になりつつあるし、目が合うとドキリとしちゃうくらいイケメンなのは変わらない。それに実は物凄く頭が良い。大して熱心に勉強している様子も無いのに、いつも学年順位は5位以内なのだ。超ハイスペック。似合い過ぎる。
女心を解しない筈の彼の、不意打ちイケメン行動(実際はただの親切)にうっかりトキめいちゃう子もいる。
すごく気持ちが分かる。分かり過ぎる。
中身を知っていても、自分の中に恋心も無いと自覚していてもいつも胸を撃ち抜かれる。本当に止めて欲しい。 無自覚なイケメン行動は、心臓に悪いのだ。
こんな時私は「自分ってトコトン面食いだなぁ」って改めて自覚してしまう。
「別に…唯の所為じゃ無いよ」
結局アレコレ考えを巡らせて、返事出来たのはこれだけだった。
私って役に立たねぇー!唯、ゴメン!
「彼氏の本田君だってカッコいいでしょ?それに黛とも仲良いしさ。いつもイケメンに囲まれてて―――やっぱ相当『面食い』って事じゃない?」
「そう言われれば、そうかもね」
加藤さんの言葉に、上田さんも同意した。
何か不穏な流れになって来た―――!
ど、どうしよう……何て言ったらいいんだろう。何となく「違う」って思う。だけど根拠は無い。ただ私のように『面食い』では無いのは、はっきりしている。日常的に唯と付き合って来て、雰囲気からそれはわかるのだけど何と説明して良いか判らない。
実際、唯は本田君って言うカッコいい彼氏に大事にされているし、中身はどうあれイケメンと言われる黛君がいつも周りをウロチョロしている。
「違うよ」
湯川さんの冷静な声が、浮足立った会話にストップを掛けた。
「鹿島さんは少なくとも面食いじゃないと思う―――だって、鹿島さんが本田君と付き合い始めた頃って、本田君全くモテなかったモン。イケメンでも無かったし」
そういえば湯川さんは唯と同じ小中学校出身だった。
「そりゃ、小学校の時と高校では見た目は多少変わるとは思うけど―――あんなに格好良いんだよ?子供の時からそんなに変わるかなぁ?」
加藤さんは湯川さんの話を、あまり信用していないようだった。きっと昔からの知り合いを庇っている、くらいに思っているのだろう。
「黛はあんまり変わらないけどね。前から美形だったし、デリカシーの無い単純な性格、全然治らないからね」
随分ヒドイ言われようだ。
でも当たってる。
私はウンウンと、納得を示して大きく頷いた。
「えー?じゃあ、本田君どんな風に変わったって言うのよ」
「本田君はもともと……」
「ポンちゃんが、どうしたの?」
話に夢中になっていた私達は、唯が戻って来た事に気が付かなかった。
慌てたのは、加藤さんだ。
「ほ『本田君って格好良いね』って言ってたの。鹿島さんが羨ましいナーって!」
「いやあのね、今、小学校の時の本田君の話を―――」
「ゆ、湯川さんっ…!」
嫉妬からか、やや悪口っぽく話題を出した加藤さんは、気まずげに話を遮った。
「ポンちゃんが小学生だった時の事?」
唯は目を丸くして、それからふわりと微笑んだ。
一瞬で場の雰囲気が柔らかくなるから、唯の笑顔は不思議なんだ。
「すっごくカッコ良かったよ!クラスで一番!ううん、学校で一番!だから私頑張ってアピールして、最後の年のバレンタインに告白して―――やっと付き合って貰ったんだぁ……」
こんな風に少し興奮気味に話す唯は、すごく珍しい。
加藤さんは少し当て擦るように、唯に向かって言った。
「へー、そんなにカッコ良かったんだぁ……」
「うん!」
湯川さんが複雑な表情で、二人を見ていた。ワザワザ唯の言葉を否定する気は無さそうだ。
そりゃそうだよね。自分の彼氏を「カッコいい」って言っている人に「そんな事無い」って口を出す人はいない。
湯川さんは少し大人びた雰囲気の女子で、唯と特に仲良しと言う訳では無かったが、悪いと言う訳でも無かった。嘘を吐くようには見え無いけれど、あの本田君なら小学校の頃不細工という程では無かっただろうと、私でも想像できる。
少し「何故そんな風に言ったのだろう」と気になったけれども、それから話題が切り替わったので、深く追及しないままその日は終わったのだった。
文化祭の日は暑くも無く心地の良い晴れた日だった。
私達のクラスの出し物は『メイド&執事喫茶』。超ベタな提案がそのまま通過してしまった。
軽食のメニューはドーナツ店から購入したドーナッツと輸入食料品店で大量購入したシナモンビスケット、飲み物は同じく輸入食料品店で大量購入した紅茶パックとインスタントコーヒーと言う適当さだ。労力は衣装制作と教室の飾り付けに殆ど費やされた。
何故か新選組の格好をした黛君が、本田君より早く現れ唯の写真を撮り始めた。序でに私と唯のツーショット、他の皆も交えた集合写真も撮影する。黛君は器用なので、この写真をカッコよく加工してくれる気なのだろう。以前唯と本田君、黛君と私で動物園に行ったときも、画像ソフトで幾つかの写真を組み合わせてラミネート加工した物を作って配ってくれた。
告った二週間後に自分を振った元カノにまで快く渡してくれるのだから、改めて裏心の無い黛君に感心してしまう。…他人に対する態度が酷いとか、自分勝手過ぎるとかって言う評価は変わらないけれど。
午後になってやっと、唯の彼氏、本田君が現れた。
本田君はバスケ部とクラスの手伝いが忙しく、黛君みたいに自由な性格じゃないので午前中は中々抜け出せなかったらしい。
本田君は軍服姿だ。日本じゃ無く何処か西洋風。
バスケで鍛えているからか、無駄に似合っている。黛君がいきなり現れた時もそうだったけど、何人か女子がぽーっとなって潤んだ瞳のまま動かなくなってしまった。
他のお客さんを放って置けないので、私は給仕のフォローに向かった。唯ほどでは無いけれども、私も本田君のイケメン振りには免疫が付いて来たようだ。
「信兄と新が来たから、抜け出せた」
「え?新も?」
唯が弾んだ声を上げた。
本田君の後ろから、お相撲さんみたいにぽっちゃりした男の子が顔を出した。
「新!」
唯が駆け寄って、その男の子の両手を取った。
「久しぶりだぁ、最近塾ばっかりだから会えなかったもんね」
貫禄のある男の子はニコリと笑った。
なんか落ち着いているなー、見た目の所為でそう見えるのかな?
「唯、可愛いじゃん」
「信君」
次に現れたのは本田君に似ている美男子だった。本田君よりやや、大人っぽい。そう言えば本田君には兄弟がいると聞いた事がある。もしかして本田君のお兄さんなのだろうか。
ぽっちゃりした男の子は―――近所の子?それとも親戚かな?全然二人と似ていないので、おそらく親戚だとしても、遠い親戚だろう。
「信君、新、私の友達の七海だよ」
三人をテーブルに誘導した唯が、給仕帰りで傍を通った私を引き留めて紹介した。
「よろしく。いつも心と唯が世話になってるね。心の兄の信です。こっちは弟の新」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「今度七海ちゃんも家に遊びにおいで」
わぁ、笑顔が眩しい。
本田君には慣れたけど、お兄さんは何だか色気があるって言うか、本田君よりずっと女慣れしている雰囲気があって妙にドキドキさせられてしまう。
「信兄、こんな処でナンパすんな」
本田君がギロリとお兄さんを睨んだ。真面目ですな。
「可愛い女子高生とお話するぐらい、良いだろう?ね、絶対遊びに来てね」
「あ……はい……」
面食いの私にはイケメンに逆らうなんて選択肢、ありません。
唯が嬉しそうに頷いたので、まあいっかと自分に言い訳した。
それから唯は切り替えてテキパキと給仕に移った。だけど新君って言う男の子の近くを通りかかる時は、嬉しそうに構って突いたりしている。唯って、子供好きなんだな。
ん?
あれ。
新君って―――本田君の弟?
うっそ。全然似ていないんだけど。
「ねぇ、ねぇ!本田君の横に座っているカッコいい人、もしかしてお兄さん?ソックリだね」
唯に反発心を持っているらしい加藤さんは、直接彼女に尋ねる事が出来ずに私の腕を引いてヒソヒソと囁いた。
「うん、そうらしい」
「鹿島さん、ズルいなぁ。本当に周り、イケメンばっかじゃん。ねぇ?」
私に同意を求めないで欲しい。
戸惑う私が返事をしない事も意に介さず、加藤さんは眉を潜めて訝し気に言った。
「それにしても、あの太っちょの子供は何?近所の子?」
「本田君の弟だよ」
応えたのは、湯川さんだった。
加藤さんが驚いたように振り返り、目を瞠った。
「小学校の時の本田君にソックリ。鹿島さんが猛アピールしていたの、思い出すわー」
「え……本田君って、あんな感じだったの……?」
『あんな感じ』って酷い言い方だな。
でも私も改めて唯の台詞を思い出し、実感した。
『すっごくカッコ良かったよ!クラスで一番!ううん、学校で一番!だから私頑張ってアピールして、最後の年のバレンタインに告白して―――やっと付き合って貰ったんだぁ……』
唯は新君が本当にお気に入りのようで、嬉しそうにまた突(つつ)いている。
「ね?『面食い』じゃないでしょう?」
「あ、うん……そうだね」
ぼんやりと加藤さんが頷いた。憑き物が落ちたような顔をしている。
黛君は小学校の頃から美少年だったと、湯川さんは証言している。
その黛君に目もくれず、お相撲さんみたいな弟の新君にソックリだった本田君を追いかけていたのだとしたら ―――確かに唯は『面食い』とは言えないだろう。
文化祭が終わった後、何故か加藤さんが唯の事を『勇者』と呼び出した。
二人を古くから知る女子達に、唯が嫉妬されないワケを加藤さんも理解したらしい。
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