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新妻・卯月の仙台暮らし
55.休憩です。
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休憩を兼ねて、先ず道の駅『白うさぎ』へ向かうことにした。
「お詣りの前にお土産、先に買っちゃった方が良いよね?」
「そうだな。もう後は帰るだけだし」
白兎神社のお詣りが終わったら、そのまま鳥取空港から飛行機に乗る予定だ。それから羽田空港を経由し新幹線に乗って仙台に戻ることになっている。直行便が無いのが不便だけれど、やっぱり新婚旅行は『うさぎ』で締めたかった。道の駅の売店にはきっと色々なうさぎグッズにうさぎお菓子が並んでいるに違いない。事前にネットでもチェックしてはいるけれど、実際見てよーく吟味しないと。ああ、でも……
「買い過ぎちゃいそうで怖い……!」
「ハハハ、大袈裟だな」
両頬を抑え、切羽詰まって叫ぶ私を、丈さんは笑う。
いや、笑いごとじゃないですよ?
これが最後のうさぎ三昧だと思うと……理性が崩壊するような予感がするのよね。仙台からの交通アクセスを考えると、次いつ来れるか分からないし。そう思うと『アレもコレも』って、許容量を超えて欲張ってしまいそう。
だって、白兎神社の直ぐ傍にある道の駅、その名も『白うさぎ』だよ? 絶対うさぎグッズだらけだと思うのよね。もしそれが期待どおりだったらと想像すると……自分が抑えられる自信がありません!
「丈さん!……あまりに買い過ぎるようなら、私を止めてね」
私は丈さんの腕に、ガシっと縋った。ここはやはり人生経験の豊富な、大人な彼の理性に頼るしかない。
「幾らでも買えば良いじゃないか」
すると丈さんが、恐ろしいことを言う。私は両肘を抱えてブルブルと震えて見せた。
「丈さん……破産しても知らないよ?」
私の真顔の忠告に、丈さんがまた楽し気に笑う。
あ、冗談だと思っているな。見上げると、表情が余裕だ。
そっちがそう来るなら―――では、遠慮なく買わせていただきますよ!
「私のうさぎ欲を舐めてるね? 後悔しても後の祭りだよ?」
丈さんのゴーサインに、私はしっかりと念押しする。その私の言葉を聞き流すように、クツクツ笑う丈さん。
そんな些細なじゃれ合いも……また新婚旅行ならではの楽しみかもしれない。冗談みたいな遣り取りをしつつ、私達は道の駅に入った。そこで出会ったのは……
「うさぎ駅長! わぁ、良かった。会えた!」
入口からすぐの所にケージがあって、そこに白いオスうさぎが鎮座している。
そうなんです、この道の駅にはうさぎの名誉駅長がいるんです。
勤務時間は午前八時半から午後七時まで。そのうち四時間は休憩時間って書いてあったから、会えるかどうか分からなかったんだ。
私も小走りで駆け寄ったけど、丈さんもすぐにケージに近寄って来た。それから二人で背を屈め、この駅の名誉駅長である『みこと駅長』に挨拶する。
人に見られることは慣れているようで、彼は人が近付こうと覗き込もうと知らん顔だ。うん、その媚びない冷たさ、マイペースさが『うさぎ』って感じで良いよね。
「けっこう長生きなんだな」
丈さんが駅長のプロフィールを見て、感心するように言った。
「十歳かぁ……ご長寿うさぎだね」
ペットのうさぎの寿命は平均して七年ほどだって、何かで書いてあった。確か最近のウェブサイトでも五~十年って言っていたような。
だからうさぎを飼う者として、先ずうータンの健康を維持しつつ、無事五年目を迎えること目指している。五年以上のうさぎの飼い主が登録できる『長寿の会』って言うのが昔からあって、見事うータンが五歳を過ぎた暁には其処に登録したいなぁって密かな野望を抱いているのだ。
卯崎島でうさぎまみれになったものの、その後ずっとうさぎ成分を摂取してこなかった私達二人。暫し時を忘れ、そのまま丸くなって眠るうさぎの駅長をまったりと眺める。
「……うータン、元気にしてるかな」
「元気なんだろう?」
「うん」
毎日伊都さんが、うータンの様子を画像付きで報告してくれる。食欲もあって、よく眠れているようだ。何度か『うさぎひろば』の運動場に連れて行ったから、ひょっとしてあの場所に慣れてくれたのかな? うータンを安心して預けられる場所があるって、とっても有難い。じゃ、無かったら、こんなに長くて自由な旅行は実現しなかったから。
「……でも、私がもう、うータン不足かも。早く会いたくなっちゃった」
「俺もだ」
私達はそう言って、笑い合った。
うータンは、私達がいなくて寂しいとか……全く思わないかもしれないけど。帰って、あのトゥルットゥルの毛並みを思う存分味わって、うさぎ成分を再補充したい。
姫様、お留守番ありがとう。執事と侍女は、あとちょっとで貴方の元に馳せ参じますよ……!
「お詣りの前にお土産、先に買っちゃった方が良いよね?」
「そうだな。もう後は帰るだけだし」
白兎神社のお詣りが終わったら、そのまま鳥取空港から飛行機に乗る予定だ。それから羽田空港を経由し新幹線に乗って仙台に戻ることになっている。直行便が無いのが不便だけれど、やっぱり新婚旅行は『うさぎ』で締めたかった。道の駅の売店にはきっと色々なうさぎグッズにうさぎお菓子が並んでいるに違いない。事前にネットでもチェックしてはいるけれど、実際見てよーく吟味しないと。ああ、でも……
「買い過ぎちゃいそうで怖い……!」
「ハハハ、大袈裟だな」
両頬を抑え、切羽詰まって叫ぶ私を、丈さんは笑う。
いや、笑いごとじゃないですよ?
これが最後のうさぎ三昧だと思うと……理性が崩壊するような予感がするのよね。仙台からの交通アクセスを考えると、次いつ来れるか分からないし。そう思うと『アレもコレも』って、許容量を超えて欲張ってしまいそう。
だって、白兎神社の直ぐ傍にある道の駅、その名も『白うさぎ』だよ? 絶対うさぎグッズだらけだと思うのよね。もしそれが期待どおりだったらと想像すると……自分が抑えられる自信がありません!
「丈さん!……あまりに買い過ぎるようなら、私を止めてね」
私は丈さんの腕に、ガシっと縋った。ここはやはり人生経験の豊富な、大人な彼の理性に頼るしかない。
「幾らでも買えば良いじゃないか」
すると丈さんが、恐ろしいことを言う。私は両肘を抱えてブルブルと震えて見せた。
「丈さん……破産しても知らないよ?」
私の真顔の忠告に、丈さんがまた楽し気に笑う。
あ、冗談だと思っているな。見上げると、表情が余裕だ。
そっちがそう来るなら―――では、遠慮なく買わせていただきますよ!
「私のうさぎ欲を舐めてるね? 後悔しても後の祭りだよ?」
丈さんのゴーサインに、私はしっかりと念押しする。その私の言葉を聞き流すように、クツクツ笑う丈さん。
そんな些細なじゃれ合いも……また新婚旅行ならではの楽しみかもしれない。冗談みたいな遣り取りをしつつ、私達は道の駅に入った。そこで出会ったのは……
「うさぎ駅長! わぁ、良かった。会えた!」
入口からすぐの所にケージがあって、そこに白いオスうさぎが鎮座している。
そうなんです、この道の駅にはうさぎの名誉駅長がいるんです。
勤務時間は午前八時半から午後七時まで。そのうち四時間は休憩時間って書いてあったから、会えるかどうか分からなかったんだ。
私も小走りで駆け寄ったけど、丈さんもすぐにケージに近寄って来た。それから二人で背を屈め、この駅の名誉駅長である『みこと駅長』に挨拶する。
人に見られることは慣れているようで、彼は人が近付こうと覗き込もうと知らん顔だ。うん、その媚びない冷たさ、マイペースさが『うさぎ』って感じで良いよね。
「けっこう長生きなんだな」
丈さんが駅長のプロフィールを見て、感心するように言った。
「十歳かぁ……ご長寿うさぎだね」
ペットのうさぎの寿命は平均して七年ほどだって、何かで書いてあった。確か最近のウェブサイトでも五~十年って言っていたような。
だからうさぎを飼う者として、先ずうータンの健康を維持しつつ、無事五年目を迎えること目指している。五年以上のうさぎの飼い主が登録できる『長寿の会』って言うのが昔からあって、見事うータンが五歳を過ぎた暁には其処に登録したいなぁって密かな野望を抱いているのだ。
卯崎島でうさぎまみれになったものの、その後ずっとうさぎ成分を摂取してこなかった私達二人。暫し時を忘れ、そのまま丸くなって眠るうさぎの駅長をまったりと眺める。
「……うータン、元気にしてるかな」
「元気なんだろう?」
「うん」
毎日伊都さんが、うータンの様子を画像付きで報告してくれる。食欲もあって、よく眠れているようだ。何度か『うさぎひろば』の運動場に連れて行ったから、ひょっとしてあの場所に慣れてくれたのかな? うータンを安心して預けられる場所があるって、とっても有難い。じゃ、無かったら、こんなに長くて自由な旅行は実現しなかったから。
「……でも、私がもう、うータン不足かも。早く会いたくなっちゃった」
「俺もだ」
私達はそう言って、笑い合った。
うータンは、私達がいなくて寂しいとか……全く思わないかもしれないけど。帰って、あのトゥルットゥルの毛並みを思う存分味わって、うさぎ成分を再補充したい。
姫様、お留守番ありがとう。執事と侍女は、あとちょっとで貴方の元に馳せ参じますよ……!
応援ありがとうございます!
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