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動乱

開戦

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 ジャックから遅れること丸1日

 マジョールが放った間者が城に戻ってきた

 ルイはジャックから話を聞いた翌朝には、女王にそれを伝えていたのだが、女王は間者からの情報を聞いてから決めると言って譲らなかった

 しかし、その間者からの話もジャックの話と殆ど変わらなかった

 女王はその話をもとに、まずは騎士団長のシーザーと開戦後の作戦を検討した後、その内容を議会にかけると、速攻、満場一致で了承された

 その日のうちに、マジョールはフローレンスへ戦線布告を行い、開戦の火蓋が切って落とされた

 今は、騎士団が出陣式を行なっている

 無事にウイッグが出来上がり、何とか出陣式に間に合った件の王女様は、今、得意だと言うピアノを騎士団の出陣式の中で、騎士を鼓舞するという理由から披露しているところだ

 腕前は元いた世界では、まあ、せいぜいソナチネ辺りだろう

 ピアノはもしかするとチェンバロかパイプオルガンかもしれないと思っていたが、意外にも私の知るピアノと変わらなかった。ペダルも2本あるし

 ルイと共に出陣する私は、そんな事をぼんやり考えていたために、私に話が振られている事に気付かなかった

 「ルイ様の戦闘パートナーであるこの平民にも、ピアノで皆様の無事を願って1曲弾いていただきたいですわ。陛下、かまいませんでしょ?」

 私に恥をかかせる気満々だな

 よし!受けてたとうじゃないか!

 「ひろ、エヴァがこう言っているが大丈夫か?」

 女王が心配そうに尋ねる

 「はい、わかりました。ご心配にはおよびません。お耳汚しになるかもしれませんが、皆様のために弾かせていただきます」

 「ひろ、いいのか?」

 ルイが心配そうに私を見るが、私は心配ないと笑顔で応える

 よし!出陣式だから、ショパンの英雄ポロネーズか軍隊ポロネーズ辺りかな

 個人的には英雄ポロネーズの方が好きなのだが、今の雰囲気からすると軍隊ポロネーズがいいだろう。私はそれを弾くことに決めた

 私が弾き終わると、会場から拍手の嵐で迎えられた

 ルイも驚きの表情をしている

 「ひろ、驚いたよ。ピアノ弾けたんだね。俺のひろは、何でもできるな。知らない曲だけど、あれはなんて言う曲?」

 「あれは、ショパンの軍隊ポロネーズだよ」

 「何か他にも弾ける?」

 「うん、まだたくさんの曲を覚えてるよ」

 「それなら全てが片付いたら、また弾いてくれ」

 「ええ、任せて」

 王女様は私の顔を見ると、悔しそうに顔を背けてしまった

 これしきの事では、負けないぞ

 元の世界で、親に強制され嫌々やっていたことが、こんなところで役に立つとは思わなかった
 
 芸は身を助ける、かな?

 それに、メンタルだって並みじゃないんだぞ

 毎日いらない子だって20年以上もの間言われ続けて、それに耐えて来た不屈のメンタルを舐めるなよ!

 これくらい、返り討ちにしてやる!

 こっちの世界に来て、私は強くなったなぁと自分でも思う

 きっとそれは、ルイという絶対の信頼を寄せる味方がいてくれるからかもしれない

 フローレンスへ向けて一歩を踏み出せば、多分もうあの王女様とは二度と会うこともないだろうが、一応警戒はしておく事にする

 ルイは渡さないからね

 ベーーーだ!!!




 マジョールの女王と騎士団長のシーザーが立てた計画では、フローレンス側の抵抗は少なく、あったとしても最小限に抑えられるだろうと予測して、王都とフローレンス城をルイ達が、各地にある砦、それに加えて、魔物に変身してしまったかつての重鎮たちの領地や、主要都市などを騎士団がそれぞれの部隊に分かれて叩く事になっている。しかし、今のフローレンスには抵抗することもままならない可能性もあるため、あらかじめシーザーが女王の親書を携えた上での行軍となった

 「出陣!!」

 シーザー率いるマジョール軍が出立した



 私達はマジョール軍とは別行動になる

 多分フローレンス城のある王都が、騎士などの抵抗が一番激しいと思われるため、ルイと私は持てる力を全て使い切る総力戦で臨む事にした

 今、私達の周りには、全ての従魔が取り囲み、焼け野原となった死の森を抜け、フローレンス王都へ向かっている

 久しぶりにこちらの世界にやって来た魔狼の子達は、幼年期から少年期に入り動きも活発になって来たが、まだまだ子供で、疲れるとメシアの上に乗せてもらっていた

 私はボスの肩の上に乗って、歌を歌っている

 その周りを子狼達が跳ね回り、グアンナ達がのんびりとした声で吠えている

 それは今から戦いに向かう光景には到底見えなかった

 「ルイ、この辺りは綺麗な花がたくさん咲いて、まるで神様のお庭みたいだね」

 「ああ、フローレンスはもともと農業国だ。野菜や穀物もよく採れる。花もジャムなどにしている。国民も穏やかな気質の者が多いのだが、王都の貴族の中には好戦的な輩が多いのかもしれないな。俺の父は穏やかな優しい人で、国民にも慕われていた。先の戦争は父の前の代の王、つまり俺の祖父の代に始まったもので、それを停戦に持っていったのが父なんだ。父と母は戦争を終わらせるために結婚する事になったが、俺の知る二人は、とても仲が良く愛し合っていたと思っている。父がまだ生きていた時は、俺は王子として、とても幸せな毎日を送っていた。いたずらもよくしたがな。懐かしいな。とても………」

 ルイはそう言うと、どこまでも高い空を見上げた


 その国の王様が、自分の国を攻める

 こんな事があっても良いのだろうか

 この世界はどうしようもなく理不尽だ




 
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