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イケアの街と面倒事
謝罪 1
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空が白み始めた頃、イケアのピレネー邸に戻って来た。馬車が止まる音で目が覚めたので何処にも立ち寄らずにイケアまで走り続けていたのだと思う。
結局、私が連れ去られた場所が何処なのかはまだ聞いていないけれど、空の様子から最低でも馬車で五、六時間は掛かる距離の場所だったんだろう。
隣に座っていたクリスが馬車の中で眠っていたのかどうかは分からない。でも私は殆ど眠っていたので割と元気だ。肩と頬の治療も馬車に同乗したレベッカさんがしてくれたので、顔にあった擦り傷も治っていて、ちょっと前まで攫われてた人とは誰も思わないんじゃないかなぁ。
騎士団の人たちはイケア領に入った後に、騎士団詰所へと向かったらしい。
ピレネー邸の玄関ホールに入るとアーニャさんが抱きついてきて『申し訳ありませんでした。』と何度も謝られて泣かれた。アーニャさんは悪くないしどちらかと言えば、勝手に屋台から離れた私が悪いのだ。
だから『大丈夫です。アーニャさんの所為では無いです。』を連呼している内に、私が戻って来た報告を受けたロイドさんとミリアさんが早足でやって来た。
ミリアさんはアーニャさんごと私を抱きしめてきて『良かった、、、。』と泣いている。
私は被害者だけれど、皆をこんなに心配させてしまって申し訳なかったなぁ、と思うと同時に私の事を心配してくれる人がいる事にほんの少し暖かい気持ちになった。
この世界でティアナが知人友人として付き合っていた人は多くは無い。ローズガーデン商会に関係する人たちくらいかな。それも商会が無かったら出会う事も無かった。
ピレネー家の人たちだって出会ってまだ十日経ったかな、ぐらいなのに罪悪感や申し訳ない気持ちがあったとしても、私を心配して無事なのを泣いて喜んでくれる事が嬉しかった。
「ご心配をお掛けしました。酷い事もされていませんし怪我なども無いので安心して下さい。」
漸く泣き止んだ二人や人の気配に気づいて出てきてくれた使用人んさんたちにぺこりと頭を下げて言った。
「ティアナさん、無事で本当に良かった。その、、、色々と話さなければならない事などがあるが、まだ夜明け前だ。ひと眠りしてから改めて話そう。」
安心した表情と少し気まずそうに言ったロイドさんに頷いて部屋に戻った。
馬車で眠ったから眠くはなかったので、部屋に戻ってから手紙を書いたり今回の事について考えていた。
朝食の席でロイドさんからピレネー邸に救出に関わった騎士団の人やレベッカさん、そしてラリーさんが来る事を聞いた。午後にはリサさんとダニエルさんが来る事も。
依頼完了なのか、クリスはもう執事見習いの格好ではなくて、普段着で朝食も私の隣だった。
どうも私が攫われた事が原因なのか、クリスはロイドさんに対して今まで以上に素っ気ない態度になっている。
内容を聞いた限りではそれも仕方ないかなぁ、と思う。私だって沸々とした怒りはあるもん。
部屋に戻る前にセバスさんに頼み事をして、関係者が揃うまで部屋で待つ。
朝食が済んでからそんなに時間が経たない内に騎士団の人たちがピレネー邸にやって来たので、呼びに来てくれたセバスさんの案内で、十五、六人が入れる会議室ぐらいの広さの応接室に入る。
七、八人用テーブルの対面にロイドさんとその隣には何故かラルフレッドさんが居て、その向かいに私とクリスが座る事になった。
左側には騎士団長さん、副騎士団長さんに昨夜の女騎士さんとレベッカさんが立ち、反対側には両手首を縄で縛られたラリーさん、その左右にセバスさんとアーニャさんが立っている。
「まずはティアナ嬢、今回の件は本当に申し訳なかった。」
ソファに座ってすぐにロイドさんに頭を下げられた。この部屋には限られた人しか居ないとはいえ、それでもロイドさんの部下である人たちも居る中で、貴族のロイドさんが平民の私に頭を下げたのだ。
まずは謝罪を、という気持ちも分かるけれど、他の人たちが居る前で頭を下げられると謝罪を受け入れないといけなくなるよねぇ。文句は言うつもりだけどさ。
クリスもロイドさんの謝罪を白けた目で見ているのでたぶん似たような事を考えているんじゃないかなぁ。
「兄のコーギー男爵が私の命を狙ったというのは、カントの商業ギルド長のチャーリーの企みだった。
コーギー男爵は関わっておらず、私の部下だった者が嘘の報告をしていたんだ。」
ロイドさんはすごく苦い顔をして言った。
「ティアナさんの誘拐を含めて全ての罪をコーギー男爵に被せるつもりだった様なんだ。
私はそうとも知らず、君を囮にしてコーギー男爵を誘き出してレシピ書類を盗ませてチャーリーもろとも捕縛する計画だったんだ。
レシピ書類が狙われるだけなら君が危ない目には遭わないと思ったんだが、、、、本当に申し訳なかった。」
「僕も計画を知ってて協力をしてしまった。ティアナ嬢、本当に済まない。」
ラルフレッドさんも青ざめた顔をして頭を下げる。
「それって料理レシピの登録申請の許可や屋台販売の許可の件ですか?」
計画の為に申請の許可をごり押ししたり不正に許可が降りていたならショックだ。
「違うよっ!レシピ申請や許可については、多くは無いけれどギルド長権限で承認する事はあったんだ。屋台の許可だって問題ない。
君の料理は素晴らしかったし承認する事に手心なんて加えてないよ。それは誓って断言出来る。
僕が協力したのは、君の料理の素晴らしさとギルド長権限を使った事をチャーリーに聞かせに言った事なんだ。」
ラルフレッドさんが慌てて説明してくれたけど、レシピの承認については不正な事をしていないと聞いて安心した。
「それも私がラルフに持ち掛けた事だったんだ。カントの商業ギルドの不正やチャーリーについてよく愚痴を零していたから協力してくれるだろうと計画に巻き込んだ。だからラルフは悪くはないんだ。」
ロイドさんはラルフレッドさんには罪はない、というように言って話を続ける。
「まさか、料理レシピではなくティアナさん本人が狙われるとは思わなかったんだ。
いや、違うな。そういう可能性だって考えておかないといけなかったんだ。
だが、私は家族の為にも早くこの件を片付けたくて、料理レシピを囮にするなら問題無い、と浅はかにも考えてしまったんだ。
結果、君を危険な目に遭わせてしまった。無事だったから良かったものの、本当に申し訳無かった。
どうか私に償いをさせてくれ。私に出来る事なら何でもしよう。」
真剣な表情で言うロイドさんの言葉は本心なんだろう。今回は偶々、私を攫ったラリーさんが良い人だったから、間一髪、私の救出に間に合ったから、私は無事だった。
私の様子から救出現場に居た人たちは、私が何もされていないと理解してくれているけれど、普通は女性が誘拐されて一日半も経っていたら生きてはいても死にたくなる様な事をされた、と思うんだと思う。
だから私が攫われた事に関しても大事にはせずに最小限の人数で動いていたのだそうだ。救出に女騎士さんが居たのも万が一の場合に備えて、だ。
頭の良さそうなロイドさんが、私のレシピを囮にしておいて、私本人が狙われる可能性を予測出来なかったのかな、とは思うけれど、家族第一、で考えた時に頭が回らなかったんだろうね。家族の命が狙われた後だったし。
それは分かるけれどね。
でもこう見えて、私も怒っているんだよ?
相手が貴族だろうがなんだろうが、ここは遠慮せずに償ってもらおうじゃないか。
結局、私が連れ去られた場所が何処なのかはまだ聞いていないけれど、空の様子から最低でも馬車で五、六時間は掛かる距離の場所だったんだろう。
隣に座っていたクリスが馬車の中で眠っていたのかどうかは分からない。でも私は殆ど眠っていたので割と元気だ。肩と頬の治療も馬車に同乗したレベッカさんがしてくれたので、顔にあった擦り傷も治っていて、ちょっと前まで攫われてた人とは誰も思わないんじゃないかなぁ。
騎士団の人たちはイケア領に入った後に、騎士団詰所へと向かったらしい。
ピレネー邸の玄関ホールに入るとアーニャさんが抱きついてきて『申し訳ありませんでした。』と何度も謝られて泣かれた。アーニャさんは悪くないしどちらかと言えば、勝手に屋台から離れた私が悪いのだ。
だから『大丈夫です。アーニャさんの所為では無いです。』を連呼している内に、私が戻って来た報告を受けたロイドさんとミリアさんが早足でやって来た。
ミリアさんはアーニャさんごと私を抱きしめてきて『良かった、、、。』と泣いている。
私は被害者だけれど、皆をこんなに心配させてしまって申し訳なかったなぁ、と思うと同時に私の事を心配してくれる人がいる事にほんの少し暖かい気持ちになった。
この世界でティアナが知人友人として付き合っていた人は多くは無い。ローズガーデン商会に関係する人たちくらいかな。それも商会が無かったら出会う事も無かった。
ピレネー家の人たちだって出会ってまだ十日経ったかな、ぐらいなのに罪悪感や申し訳ない気持ちがあったとしても、私を心配して無事なのを泣いて喜んでくれる事が嬉しかった。
「ご心配をお掛けしました。酷い事もされていませんし怪我なども無いので安心して下さい。」
漸く泣き止んだ二人や人の気配に気づいて出てきてくれた使用人んさんたちにぺこりと頭を下げて言った。
「ティアナさん、無事で本当に良かった。その、、、色々と話さなければならない事などがあるが、まだ夜明け前だ。ひと眠りしてから改めて話そう。」
安心した表情と少し気まずそうに言ったロイドさんに頷いて部屋に戻った。
馬車で眠ったから眠くはなかったので、部屋に戻ってから手紙を書いたり今回の事について考えていた。
朝食の席でロイドさんからピレネー邸に救出に関わった騎士団の人やレベッカさん、そしてラリーさんが来る事を聞いた。午後にはリサさんとダニエルさんが来る事も。
依頼完了なのか、クリスはもう執事見習いの格好ではなくて、普段着で朝食も私の隣だった。
どうも私が攫われた事が原因なのか、クリスはロイドさんに対して今まで以上に素っ気ない態度になっている。
内容を聞いた限りではそれも仕方ないかなぁ、と思う。私だって沸々とした怒りはあるもん。
部屋に戻る前にセバスさんに頼み事をして、関係者が揃うまで部屋で待つ。
朝食が済んでからそんなに時間が経たない内に騎士団の人たちがピレネー邸にやって来たので、呼びに来てくれたセバスさんの案内で、十五、六人が入れる会議室ぐらいの広さの応接室に入る。
七、八人用テーブルの対面にロイドさんとその隣には何故かラルフレッドさんが居て、その向かいに私とクリスが座る事になった。
左側には騎士団長さん、副騎士団長さんに昨夜の女騎士さんとレベッカさんが立ち、反対側には両手首を縄で縛られたラリーさん、その左右にセバスさんとアーニャさんが立っている。
「まずはティアナ嬢、今回の件は本当に申し訳なかった。」
ソファに座ってすぐにロイドさんに頭を下げられた。この部屋には限られた人しか居ないとはいえ、それでもロイドさんの部下である人たちも居る中で、貴族のロイドさんが平民の私に頭を下げたのだ。
まずは謝罪を、という気持ちも分かるけれど、他の人たちが居る前で頭を下げられると謝罪を受け入れないといけなくなるよねぇ。文句は言うつもりだけどさ。
クリスもロイドさんの謝罪を白けた目で見ているのでたぶん似たような事を考えているんじゃないかなぁ。
「兄のコーギー男爵が私の命を狙ったというのは、カントの商業ギルド長のチャーリーの企みだった。
コーギー男爵は関わっておらず、私の部下だった者が嘘の報告をしていたんだ。」
ロイドさんはすごく苦い顔をして言った。
「ティアナさんの誘拐を含めて全ての罪をコーギー男爵に被せるつもりだった様なんだ。
私はそうとも知らず、君を囮にしてコーギー男爵を誘き出してレシピ書類を盗ませてチャーリーもろとも捕縛する計画だったんだ。
レシピ書類が狙われるだけなら君が危ない目には遭わないと思ったんだが、、、、本当に申し訳なかった。」
「僕も計画を知ってて協力をしてしまった。ティアナ嬢、本当に済まない。」
ラルフレッドさんも青ざめた顔をして頭を下げる。
「それって料理レシピの登録申請の許可や屋台販売の許可の件ですか?」
計画の為に申請の許可をごり押ししたり不正に許可が降りていたならショックだ。
「違うよっ!レシピ申請や許可については、多くは無いけれどギルド長権限で承認する事はあったんだ。屋台の許可だって問題ない。
君の料理は素晴らしかったし承認する事に手心なんて加えてないよ。それは誓って断言出来る。
僕が協力したのは、君の料理の素晴らしさとギルド長権限を使った事をチャーリーに聞かせに言った事なんだ。」
ラルフレッドさんが慌てて説明してくれたけど、レシピの承認については不正な事をしていないと聞いて安心した。
「それも私がラルフに持ち掛けた事だったんだ。カントの商業ギルドの不正やチャーリーについてよく愚痴を零していたから協力してくれるだろうと計画に巻き込んだ。だからラルフは悪くはないんだ。」
ロイドさんはラルフレッドさんには罪はない、というように言って話を続ける。
「まさか、料理レシピではなくティアナさん本人が狙われるとは思わなかったんだ。
いや、違うな。そういう可能性だって考えておかないといけなかったんだ。
だが、私は家族の為にも早くこの件を片付けたくて、料理レシピを囮にするなら問題無い、と浅はかにも考えてしまったんだ。
結果、君を危険な目に遭わせてしまった。無事だったから良かったものの、本当に申し訳無かった。
どうか私に償いをさせてくれ。私に出来る事なら何でもしよう。」
真剣な表情で言うロイドさんの言葉は本心なんだろう。今回は偶々、私を攫ったラリーさんが良い人だったから、間一髪、私の救出に間に合ったから、私は無事だった。
私の様子から救出現場に居た人たちは、私が何もされていないと理解してくれているけれど、普通は女性が誘拐されて一日半も経っていたら生きてはいても死にたくなる様な事をされた、と思うんだと思う。
だから私が攫われた事に関しても大事にはせずに最小限の人数で動いていたのだそうだ。救出に女騎士さんが居たのも万が一の場合に備えて、だ。
頭の良さそうなロイドさんが、私のレシピを囮にしておいて、私本人が狙われる可能性を予測出来なかったのかな、とは思うけれど、家族第一、で考えた時に頭が回らなかったんだろうね。家族の命が狙われた後だったし。
それは分かるけれどね。
でもこう見えて、私も怒っているんだよ?
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