31 / 43
【番外編】
理人⑭
しおりを挟む
月曜日、社長の退任が発表され、社内は大騒ぎとなった。
葉月と俺に一躍注目が集まる。
ひっきりなしに電話やメール、来客がある上、社長を兼任することになった会長は取引先への挨拶に俺を連れ回した。
その合間に、俺を試すように質問してきたり、工場に行かされたりした。
多忙を極めて、葉月とも禄に話ができなくて、ストレスが溜まる。
(だが、気を抜けないな)
会長の観察する視線を常に感じる。
彼が不在のときにはその秘書が俺に付いて、いろいろレクチャーしてくれ、会長の指示を伝えてくれた。
そんな時、アポなしで理恵子社長が来社した。
会いたくはないが、取引先だから、無下にもできない。
仕方なく応接室に通した。
お茶が出て、二人きりになると、理恵子社長は俺の横に座り、肩に手をかけてきた。
「昔から好みだったけど、あなた、本当に私好みに育ったわね」
真っ赤な唇で艶やかに笑う。
それを官能的だと思う男は多いとは思うが、俺はなにも感じない。
身じろぎして、それとなくその手を振り払う。
それでも、理恵子社長は気にすることもなく、話を続けた。
「社長になりたいんだったら、私と結婚して、共同経営しましょうよ。私もそろそろ子どもを欲しいし。水鳥川家なんて、上をがっつり押さえ込まれてるから窮屈よ? 肇さんもそれで潰れたんじゃないの?」
勝手なことを言ってくれる。
この人は悪い人ではないが、昔から独断的で人の話を聞かない。
当時は客として世話にはなった。
理恵子社長も父親の急死で二十五歳にして社長になり、そのストレスをホスト通いで発散させていた。
同伴しまくり、金をせっせと落としてくれた。
もちろん、要求もすごかったし、俺は対価を支払った。
以前、葉月には言ったが、どちらかというと忘れたい過去だった。
しかし、それも十年前のことだ。
もう関係性は変わった。
あれ以来、連絡は取っていなかった。それなのに、どうしてそれがわからないのだろうと不思議に思う。
「俺は社長になりたいわけじゃありません。葉月が欲しいだけです」
真正直に言うと、理恵子社長は不機嫌そうに眉を上げた。
「本気なの? あんな堅そうなお嬢様に?」
「本気ですよ。心底、惚れてます。葉月は可愛い」
「嘘でしょ?」
「本当です。……理恵子社長、用件はそれだけですか? 申し訳ありませんが、次のアポの時間が迫っているんです」
葉月を貶すような口調に腹が立って、彼女を早々に追い返すことにした。
(あんたの何百倍も葉月の方が可愛いし、魅力的だ)
実際、この後、会長から流通倉庫の視察に行くように言われていた。
渋る理恵子社長をエレベーターホールに誘導する。
「本当に本気なの?」
「だから、そう言ってるじゃないですか」
「考え直した方がいいと思うけど」
「だから、何度も言いますけど、誰が社長なんてしち面倒くさいことをやると思うんですか? 葉月がいなければ、葉月のためじゃなかったら、少しも興味はないですよ」
敢えて面倒くさそうなのを隠さずに言う。
不満そうな理恵子社長をなんとか追い返して、倉庫の視察に向かった。
葉月と俺に一躍注目が集まる。
ひっきりなしに電話やメール、来客がある上、社長を兼任することになった会長は取引先への挨拶に俺を連れ回した。
その合間に、俺を試すように質問してきたり、工場に行かされたりした。
多忙を極めて、葉月とも禄に話ができなくて、ストレスが溜まる。
(だが、気を抜けないな)
会長の観察する視線を常に感じる。
彼が不在のときにはその秘書が俺に付いて、いろいろレクチャーしてくれ、会長の指示を伝えてくれた。
そんな時、アポなしで理恵子社長が来社した。
会いたくはないが、取引先だから、無下にもできない。
仕方なく応接室に通した。
お茶が出て、二人きりになると、理恵子社長は俺の横に座り、肩に手をかけてきた。
「昔から好みだったけど、あなた、本当に私好みに育ったわね」
真っ赤な唇で艶やかに笑う。
それを官能的だと思う男は多いとは思うが、俺はなにも感じない。
身じろぎして、それとなくその手を振り払う。
それでも、理恵子社長は気にすることもなく、話を続けた。
「社長になりたいんだったら、私と結婚して、共同経営しましょうよ。私もそろそろ子どもを欲しいし。水鳥川家なんて、上をがっつり押さえ込まれてるから窮屈よ? 肇さんもそれで潰れたんじゃないの?」
勝手なことを言ってくれる。
この人は悪い人ではないが、昔から独断的で人の話を聞かない。
当時は客として世話にはなった。
理恵子社長も父親の急死で二十五歳にして社長になり、そのストレスをホスト通いで発散させていた。
同伴しまくり、金をせっせと落としてくれた。
もちろん、要求もすごかったし、俺は対価を支払った。
以前、葉月には言ったが、どちらかというと忘れたい過去だった。
しかし、それも十年前のことだ。
もう関係性は変わった。
あれ以来、連絡は取っていなかった。それなのに、どうしてそれがわからないのだろうと不思議に思う。
「俺は社長になりたいわけじゃありません。葉月が欲しいだけです」
真正直に言うと、理恵子社長は不機嫌そうに眉を上げた。
「本気なの? あんな堅そうなお嬢様に?」
「本気ですよ。心底、惚れてます。葉月は可愛い」
「嘘でしょ?」
「本当です。……理恵子社長、用件はそれだけですか? 申し訳ありませんが、次のアポの時間が迫っているんです」
葉月を貶すような口調に腹が立って、彼女を早々に追い返すことにした。
(あんたの何百倍も葉月の方が可愛いし、魅力的だ)
実際、この後、会長から流通倉庫の視察に行くように言われていた。
渋る理恵子社長をエレベーターホールに誘導する。
「本当に本気なの?」
「だから、そう言ってるじゃないですか」
「考え直した方がいいと思うけど」
「だから、何度も言いますけど、誰が社長なんてしち面倒くさいことをやると思うんですか? 葉月がいなければ、葉月のためじゃなかったら、少しも興味はないですよ」
敢えて面倒くさそうなのを隠さずに言う。
不満そうな理恵子社長をなんとか追い返して、倉庫の視察に向かった。
3
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果
汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。
あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。
各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。
*☼*――――――――――*☼*
佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳
文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務
仕事人間で料理は苦手
×
各務 尊(かがみ たける) 30歳
実花子の上司で新人研修時代の指導担当
海外勤務から本社の最年少課長になったエリート
*☼*――――――――――*☼*
『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。
――――――――――
※他サイトからの転載
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※無断転載禁止。
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。