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最終章
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「あの。シェリアさん。」
フィオナがケルディから足跡の話を詳しく聞いている間にハンナがこそこそと耳打ちする様に喋りかけてきた。
「何かしら?」
彼女が私に話しかけるなんて珍しい。教室でも話した事がないのだが。
「あっ、その……。えっと。」
ハンナから話しかけてきたのに何故か渋り始める。怖がられているのだろうか。私はクラスでフィオナやルヴィナス以外あまり話さないし、クラスメイトとは距離があるのは感じるが。ここまで怯えられる様な事はした覚えはない。ちょっとショックだ。
「そんな怖がらなくても大丈夫よ?」
「あっ、違うの。そうじゃなくて……。」
安心させるようにそう言うと慌てて違うと否定するハンナ。では一体何なのだろうか?
「あの! この前放課後カーテン……ムグッ」
……私はカーテンという単語を聞いた瞬間に全てを悟った。
周りにバレる前に私は彼女の口を手で塞ぐと茂みに連れ込んだ。私の近くにいたルヴィナスがカーテンがどうしたんだと声をかけていたが、聞かないフリだ。ごめん。ルヴィナス。
「やっぱり、あれはシェリアさんだったのね!」
茂みの中で彼女の手を離すとハンナはキラキラとした目で詰め寄ってきた。
「いや、あの。そういうわけじゃ……。」
「シェリアさんてクラスの中でも大人っぽくて綺麗なのに浮いた噂がなかったから不思議だったの。でも、やっぱり恋人がいたのね。隠してるの? あっ、それとも」
「そんなんじゃなくて……」
「周りに言えない禁断の恋!? きゃーー! 私てっきり会長さんかなと思ってたんだけど、見た感じ、フィオナさんにゾッコンぽそうだったから、違うなって思って。でも他にシェリアさんの周りに男の人の影であんまりないし」
「ちょっ、人の話聞い……」
「となると普段は恋人関係なのを隠さなきゃいけない相手なのかなって。そうなるとやっぱり……」
「ストーーーップ!!」
マリアンとハンナはあまり似てない兄弟だと思っていたが、興奮すると人の話を聞かない所はそっくりだ。
「はっ……、ごめんなさい。私ったら興奮しちゃって。あ、勿論。私シェリアさんの恋応援するから。この事は誰にも言ってないから安心してね。」
「え、ええ……。」
何だか妙なことになってしまった。否定する間もなく、禁断の恋をしていると認識されてしまった。とはいっても、あんな場面を見られたのであれば言い訳もできない。恋人ではないと否定したなら、恋人以外とキスする様な人間だと思われそうだし……。
くそっ、全部キリトのせいだ。
「シェリア~、ハンナちゃんとお話し終わったのかな?」
場所の説明を受け終わったのだろうか。フィオナが茂みをかき分けこちらを覗いていた。
「ええ、終わったわ。」
これ以上ハンナに詮索されても困る。ハンナはまだ、聞きたりなさそうな顔をしていたが無理やり切り上げる。
「じゃあ、ハンナちゃん。私達行くね。足跡の事教えてくれてありがとう。」
フィオナがハンナにお礼を言う。
フィオナが良いタイミングで来てくれて助かった。このまま追求されていたら返答に困っていた所だ。
「じゃあ、ハンナさん。お互い試験頑張りましょうね。」
私もそう言ってフィオナの元へ向かう。
そう、試験だ。こんな話に戸惑っている場合じゃない。私はここで死ぬ事になるんだから。
……そう、フィオナと戦う事になるんだ。
私はラスボスとして立ち塞がるんだから当たり前のことだ。なのに、自分が死ぬことよりもフィオナと戦う事になる方が胸に重く落ちた。
ーーー
「足跡は湖畔周辺で見たんだな。この辺か。確かに足跡があるな。」
あれから四人で言われた場所に行くとそこには湖が広がっていた。結構な広さだ。湖の向こう岸が霞んで見える。
肝心な足跡は確かに湖畔の水際にあるのだが、ここから数歩進んだ先は足跡がなくなっていて恐らく飛び去ったと思われる。
「湖だけでも結構広いんだな。これは探すのに手間がかかりそうだぞ……。」
ルヴィナスが湖を見渡しながら言う。
確かに手間がかかりそうだ。あり以前使っていたサーチの呪文は使い手が捜す対象者と一度出会っていなければならず、この場合使えない。
「うーん……。しらみ潰しに探すしかないのかしら。」
ゲームではミニドラといつ遭遇するんだっけ……?
情報が欲しいと思う時には記憶は浮かび上がってこない。出てくる時は勝手にスーッと頭に浮かぶのに。
「とりあえず、もう少し湖畔を見てみるか。他にも何かあるかもしれない。」
スウォンの言葉に一同は頷くと手分けして湖周辺を歩く。
……。
………。
…………。
「……。何も見つからないですね。」
フィオナがぐったりと肩を落とす。
周辺に何か痕跡がないか四人でぐるぐると回ったが最初に見つけた足跡以外何もなかった。
次第に日も暮れてきた。今回この試験は前にフィオナと話していた通り泊りがけで行われる。そろそろ安全な野営場所を探した方がいいかもしれない。
「仕方ない。完全に日が暮れる前に野営場所を探すしかないな。」
スウォンも疲れた様にため息をつき、今日の捜査はこれで終了する事となった。
「それなら、僕が探索していた場所の近くに丁度良さげな洞窟があったぞ。寝る分には良いんじゃないか?」
「そんな場所が? 本当にこの森は広いですね。」
「完全な外より安全そうだし良さげね。」
「なら、そこに行ってみるか。ルヴィナス、案内を頼むぞ。」
ルヴィナスが洞窟を見つけてくれた事で良い寝床を確保できそうだ。
それにしても貴族のお嬢さん、お坊ちゃんが多いこの学園で野営が含まれる試験なんていうよく承認されたと思う。昔から行われている方式の試験で学園の伝統行事みたいなものらしい。
ルヴィナスが見つけた洞窟はかなり奥に続いている様だった。まぁ、寝るだけなら奥に行く必要もないので、安全だけ確保すると私たちは洞窟の入り口付近で休む事にした。
「雨風が防げるのはありがたいわね。」
「そうだね。他の人はどうしてるんだろうね?」
「昨年の話だが。俺の班は良い場所が見つからなくて外で野宿だったな。他の奴らは文句ばかり言っていたが、中々良い体験だった。ルヴィナスはどうだったんだ?」
「え、僕か!? ええと、……参加していない。」
「は? お前、試験をサボったのか?」
「だ、だって、赤の他人と泊りがけで行うんだぞ。そんな長時間僕には耐えられない。」
「今年は大丈夫なの?」
そこまで人間嫌いのルヴィナスがよくこの試験に参加できたものだ。フィオナがルヴィナスのルートに入ってるならそれも改善されるはずだが、彼女はスウォンのルートに行っている。
「ん。今年は……。君達が良い奴らだったから……。最初の時、魔法練習に誘われた時も僕は断っていたのに君達は呆れずに何度も誘ってくれた。だから、その。……ありがとう。」
最後の方は照れた様子でそっぽを向いて言う。その様子は少し可愛らしいと思った。
「ふん。同じチームなんだから当然だ。」
「私もルヴィナスさんと同じチームで良かったですよ。」
ルヴィナスの言葉に二人がそう返し、周囲に和やかな雰囲気が流れる。
「シェリア、お前にはとても感謝しているんだぞ。」
「え、私貴方に何かしたかしら?」
ルヴィナスの言葉に首をかしげる。特に変わったことをした覚えはないのだが……?
「うむ。中間試験の時、ゼノに攻撃された時お前は庇ってくれただろう。お前のとっさの判断で僕は命を助けられたんだ。それに……」
フィオナ達とはぐれた時の事だろうか。中間試験から今まで色々あったから忘れかけていた。そんな事もあったなぁと思い返していると、ルヴィナスが爆弾発言をした。
「事故とはいえ、お前の初めてを奪ってしまった後も変わらず優しく接してくれた……」
「ブフォッ……!!」
「……へ?」
スウォンが飲みかけていた水を吹き出した。
隣に座っていたフィオナも動きが硬直している。
先ほどまで和やかだった空気が一瞬にして凍りついた……。
フィオナがケルディから足跡の話を詳しく聞いている間にハンナがこそこそと耳打ちする様に喋りかけてきた。
「何かしら?」
彼女が私に話しかけるなんて珍しい。教室でも話した事がないのだが。
「あっ、その……。えっと。」
ハンナから話しかけてきたのに何故か渋り始める。怖がられているのだろうか。私はクラスでフィオナやルヴィナス以外あまり話さないし、クラスメイトとは距離があるのは感じるが。ここまで怯えられる様な事はした覚えはない。ちょっとショックだ。
「そんな怖がらなくても大丈夫よ?」
「あっ、違うの。そうじゃなくて……。」
安心させるようにそう言うと慌てて違うと否定するハンナ。では一体何なのだろうか?
「あの! この前放課後カーテン……ムグッ」
……私はカーテンという単語を聞いた瞬間に全てを悟った。
周りにバレる前に私は彼女の口を手で塞ぐと茂みに連れ込んだ。私の近くにいたルヴィナスがカーテンがどうしたんだと声をかけていたが、聞かないフリだ。ごめん。ルヴィナス。
「やっぱり、あれはシェリアさんだったのね!」
茂みの中で彼女の手を離すとハンナはキラキラとした目で詰め寄ってきた。
「いや、あの。そういうわけじゃ……。」
「シェリアさんてクラスの中でも大人っぽくて綺麗なのに浮いた噂がなかったから不思議だったの。でも、やっぱり恋人がいたのね。隠してるの? あっ、それとも」
「そんなんじゃなくて……」
「周りに言えない禁断の恋!? きゃーー! 私てっきり会長さんかなと思ってたんだけど、見た感じ、フィオナさんにゾッコンぽそうだったから、違うなって思って。でも他にシェリアさんの周りに男の人の影であんまりないし」
「ちょっ、人の話聞い……」
「となると普段は恋人関係なのを隠さなきゃいけない相手なのかなって。そうなるとやっぱり……」
「ストーーーップ!!」
マリアンとハンナはあまり似てない兄弟だと思っていたが、興奮すると人の話を聞かない所はそっくりだ。
「はっ……、ごめんなさい。私ったら興奮しちゃって。あ、勿論。私シェリアさんの恋応援するから。この事は誰にも言ってないから安心してね。」
「え、ええ……。」
何だか妙なことになってしまった。否定する間もなく、禁断の恋をしていると認識されてしまった。とはいっても、あんな場面を見られたのであれば言い訳もできない。恋人ではないと否定したなら、恋人以外とキスする様な人間だと思われそうだし……。
くそっ、全部キリトのせいだ。
「シェリア~、ハンナちゃんとお話し終わったのかな?」
場所の説明を受け終わったのだろうか。フィオナが茂みをかき分けこちらを覗いていた。
「ええ、終わったわ。」
これ以上ハンナに詮索されても困る。ハンナはまだ、聞きたりなさそうな顔をしていたが無理やり切り上げる。
「じゃあ、ハンナちゃん。私達行くね。足跡の事教えてくれてありがとう。」
フィオナがハンナにお礼を言う。
フィオナが良いタイミングで来てくれて助かった。このまま追求されていたら返答に困っていた所だ。
「じゃあ、ハンナさん。お互い試験頑張りましょうね。」
私もそう言ってフィオナの元へ向かう。
そう、試験だ。こんな話に戸惑っている場合じゃない。私はここで死ぬ事になるんだから。
……そう、フィオナと戦う事になるんだ。
私はラスボスとして立ち塞がるんだから当たり前のことだ。なのに、自分が死ぬことよりもフィオナと戦う事になる方が胸に重く落ちた。
ーーー
「足跡は湖畔周辺で見たんだな。この辺か。確かに足跡があるな。」
あれから四人で言われた場所に行くとそこには湖が広がっていた。結構な広さだ。湖の向こう岸が霞んで見える。
肝心な足跡は確かに湖畔の水際にあるのだが、ここから数歩進んだ先は足跡がなくなっていて恐らく飛び去ったと思われる。
「湖だけでも結構広いんだな。これは探すのに手間がかかりそうだぞ……。」
ルヴィナスが湖を見渡しながら言う。
確かに手間がかかりそうだ。あり以前使っていたサーチの呪文は使い手が捜す対象者と一度出会っていなければならず、この場合使えない。
「うーん……。しらみ潰しに探すしかないのかしら。」
ゲームではミニドラといつ遭遇するんだっけ……?
情報が欲しいと思う時には記憶は浮かび上がってこない。出てくる時は勝手にスーッと頭に浮かぶのに。
「とりあえず、もう少し湖畔を見てみるか。他にも何かあるかもしれない。」
スウォンの言葉に一同は頷くと手分けして湖周辺を歩く。
……。
………。
…………。
「……。何も見つからないですね。」
フィオナがぐったりと肩を落とす。
周辺に何か痕跡がないか四人でぐるぐると回ったが最初に見つけた足跡以外何もなかった。
次第に日も暮れてきた。今回この試験は前にフィオナと話していた通り泊りがけで行われる。そろそろ安全な野営場所を探した方がいいかもしれない。
「仕方ない。完全に日が暮れる前に野営場所を探すしかないな。」
スウォンも疲れた様にため息をつき、今日の捜査はこれで終了する事となった。
「それなら、僕が探索していた場所の近くに丁度良さげな洞窟があったぞ。寝る分には良いんじゃないか?」
「そんな場所が? 本当にこの森は広いですね。」
「完全な外より安全そうだし良さげね。」
「なら、そこに行ってみるか。ルヴィナス、案内を頼むぞ。」
ルヴィナスが洞窟を見つけてくれた事で良い寝床を確保できそうだ。
それにしても貴族のお嬢さん、お坊ちゃんが多いこの学園で野営が含まれる試験なんていうよく承認されたと思う。昔から行われている方式の試験で学園の伝統行事みたいなものらしい。
ルヴィナスが見つけた洞窟はかなり奥に続いている様だった。まぁ、寝るだけなら奥に行く必要もないので、安全だけ確保すると私たちは洞窟の入り口付近で休む事にした。
「雨風が防げるのはありがたいわね。」
「そうだね。他の人はどうしてるんだろうね?」
「昨年の話だが。俺の班は良い場所が見つからなくて外で野宿だったな。他の奴らは文句ばかり言っていたが、中々良い体験だった。ルヴィナスはどうだったんだ?」
「え、僕か!? ええと、……参加していない。」
「は? お前、試験をサボったのか?」
「だ、だって、赤の他人と泊りがけで行うんだぞ。そんな長時間僕には耐えられない。」
「今年は大丈夫なの?」
そこまで人間嫌いのルヴィナスがよくこの試験に参加できたものだ。フィオナがルヴィナスのルートに入ってるならそれも改善されるはずだが、彼女はスウォンのルートに行っている。
「ん。今年は……。君達が良い奴らだったから……。最初の時、魔法練習に誘われた時も僕は断っていたのに君達は呆れずに何度も誘ってくれた。だから、その。……ありがとう。」
最後の方は照れた様子でそっぽを向いて言う。その様子は少し可愛らしいと思った。
「ふん。同じチームなんだから当然だ。」
「私もルヴィナスさんと同じチームで良かったですよ。」
ルヴィナスの言葉に二人がそう返し、周囲に和やかな雰囲気が流れる。
「シェリア、お前にはとても感謝しているんだぞ。」
「え、私貴方に何かしたかしら?」
ルヴィナスの言葉に首をかしげる。特に変わったことをした覚えはないのだが……?
「うむ。中間試験の時、ゼノに攻撃された時お前は庇ってくれただろう。お前のとっさの判断で僕は命を助けられたんだ。それに……」
フィオナ達とはぐれた時の事だろうか。中間試験から今まで色々あったから忘れかけていた。そんな事もあったなぁと思い返していると、ルヴィナスが爆弾発言をした。
「事故とはいえ、お前の初めてを奪ってしまった後も変わらず優しく接してくれた……」
「ブフォッ……!!」
「……へ?」
スウォンが飲みかけていた水を吹き出した。
隣に座っていたフィオナも動きが硬直している。
先ほどまで和やかだった空気が一瞬にして凍りついた……。
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