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第1章
サブストーリー ~デート~
しおりを挟む「シェリアちゃん。俺とデートしようか?」
「は?何言ってるんですか?変態教師。」
放課後、一人で歩いているシェリアを見かけ俺は声をかけた。最近は放課後フィオナと別行動を取っているようで、少し寂しそうにしている。
俺が声をかけるとシェリアは間も開けずに毒舌を吐いた。うん。やっぱり、元気なさそうなのは気のせいみたいだ。
相変わらず口が悪いなと思いながらも俺は言葉を続ける。
「まあ、まって、話を聞いて。今度、魔法薬学の授業があるだろう?」
「確かにありますね。それが何か関係があるんですか?」
「うん、そうそう。その授業でマジックキャンドルを作るんだけど、ただキャンドルを作るだけじゃつまらないから、装飾を自分たちで選んで入れてもらおうと思うんだ。」
「その装飾を買いに行くのを手伝えと?他の方に頼んでくだ…」
「うんうん。さすがシェリアちゃん。話が早いね。じゃあ行こうか。」
「ちょ、ちょっと!」
俺は彼女の言葉を最後まで言わさずに手を掴むと引っ張った。
気のせいかと思ったが、やはり最近彼女は何かに脅えるような様子でどこか元気がない。この前の一件で俺を警戒しているのかと思ったが、俺に対して態度は変わらないし普通だ。
最初、俺は彼女をフィオナに害なすものとして警戒していた。だが、彼女の態度を見る限りそんなことはなさそうだ。俺は彼女への警戒を解きつつあった。
…この買い物で少しは気が晴れてくれるといいんだけれども。
俺はそんなことをふと思った。
ーーー
「うわー!こんな大きな町、見たの初めてです。」
テレポートを使って学園近くにある街へ着くと彼女は口を大きく開けてキョロキョロと辺りを見回しながら言った。
「あんまり、街に買い物はこないのかな?」
一応、彼女は令嬢だ。自分で買い物せずとも使用人に任せてしまえば済むことなので街にはこないのかもしれない。
彼女の性格からして使用人は使わなさそうだが…?
俺も一応、ルッサーレの当主。使用人に任せてしまう時もあるが、俺は自分の足で店に足を運ぶのが好きだった。
「ええ、まあ。両親が厳しい方なので…。」
彼女は気まずそうに少しいいごもった。
そういえば、彼女は養子だと入学書類に記載されていた。出かけるのも制限されるほどの家なのか。
「そうか、じゃあ今日は目一杯楽しんでいこうか。」
「いえ、飾りを買ったらすぐに帰ります!」
「シェリアちゃんは真面目だなあ。んじゃ、俺のお願いここで使っちゃおうかな。」
「へ?」
俺はシェリアに手首につけている腕輪を見せながら言った。
この前の交流会の契約リングだ。何となく願いが思い浮かばなくて保留にしていたがいい機会だ。使ってしまおう。
「キリト先生。それはずるいです。」
「あはは。大人はずるい生き物なんだよ。」
俺は笑って受け流す。
「じゃ、先に飾りを買いに行こう。そのあとシェリアちゃんがきになるお店回ろうか?」
そう言って俺は彼女の手を掴んで街へと繰り出した。
後ろから、何で手を握るの!とか文句が聞こえた気がしたが空耳としておこう。
「…キャンドルの飾り。これとかどうでしょうか?」
俺たちは女性が好むような可愛らしい雑貨店にいた。彼女が指さしたのは動物をデフォルメしたような置物の詰め合わせだ。
「女生徒はこういうの好むと思いますけど…?」
「君がそういうのなら、そうなんだろうね。俺も、いいと思うよ。」
「やけにあっさり決めてしまうんですね。」
「俺はこういう物のセンスがないからね。君に任せるよ。」
「さすがに男子が好むようなものは分からないので、全部任されると困るんですけど。」
じとっと彼女が睨むように俺を見る。
「あはは。んー、じゃこれにしようかな?」
俺は星型、ハート型、指輪のリング、丸い球体などたくさんの種類が入っている詰め合わせの物を手にとった。
数があればどれかは気にいるものがあるだろう。
「種類があるのに越したことはないですからね。無難でいいんじゃないですか?」
「よし、じゃあ決まり。これでお仕事は終了。」
俺はそう言うと会計を済ませて店を出た。
「どこか行きたいところはあるかい?」
「いえ、特にないです。早く帰りましょう。」
「ダメだよ。今日は目いっぱい楽しむ約束だろう?」
「ぐぬぬっ」
俺が腕輪を見せながら言うとシェリアは悔しそうに顔を歪めた。
いつも澄ましている彼女が表情を変えるのを見るのは面白い。
「じゃあ、本屋に行きたいです。」
「うん、いいね。じゃあ案内するよ。」
「ありがとうございます。…ところで、いつまで手を掴んでるつもりですか?」
「え?ああ、そういえばそうだね。なんか君ってすぐ逃げちゃうイメージがあるから。つい、捕獲しておかなきゃって思うんだよね。」
「私は野生動物か何かか!…逃げませんよ。こんな所で離されたら学園まで戻る自信がありません。」
「あはは。まー、でも人も多くなってきたしはぐれないようにってことで。」
時刻は夕方。仕事から帰る人などで街は人が多くなってきていた。
彼女は文句をぶつぶつ言っていたが、おとなしく付いてきてくれた。
「すごい本の数!」
シェリアは本屋に着くなりそう言って目を輝かせて、俺の手を振り払いあっという間に店の奥に入ってしまった。
そんなに本が好きだったのか。
俺は離された手を見つめ苦笑した。
「わー!懐かしい。この本。小説版もあるのね!」
彼女を追いかけて中に入るとシェリアは一冊の本を手に取っていた。
「何の本?」
俺は彼女の横に行くと手の中にあるだろう本を覗き込みながら尋ねた。そこには…
『エクスペリアルの魔女』
「!」
俺は驚いた。いやただの偶然という可能性も高いが。幼い時、フィオナが持ってきた絵本が脳によぎった。
「有名な話だし、先生も知っているんじゃないですか?」
「…ああ、知ってるよ。」
「よし、これ買っちゃおう~」
彼女はウキウキと本を胸に抱えながらレジへと向かった。
『あのこはむつかしいご本ばかりよんでいるの。』
『友達かい?』
『ちがうわ。わたしのおねーちゃんよ。』
古い昔のフィオナとの会話の記憶が思い出される。
まさかな。
ーーー
「先生、今日はありがとうございました。」
あれから数軒、本屋を巡った。すっかり陽は傾き辺りは暗くなっていた。
学校の寮の前までシェリアを送って行くと、ぺこりと頭を下げながら彼女は礼を言った。
「いや、こちらが無理やり連れてったんだからね。お礼を言う必要はないよ。」
「無理やりという自覚はあったんですね。さすが、変態教師さん。」
「うん。怒るよ?」
彼女がクスクスと声を立てた後
「冗談です。…ありがとう。」
目を細めてふわりと微笑んだ。どことなくフィオナを思い出させる笑い方だ。
彼女のこんな笑顔を見たのは初めてだ。
…少しは息抜きになれたのだろうか?
バキッ
「腕輪が割れた?」
「契約が満了したから、割れたんだろうね。これで自由だよ。よかったね、シェリアちゃん。」
「そうですね」
「じゃ、また学校でね。今日はゆっくり休んで。」
「はい。さようなら。お気をつけて!」
俺は学生寮を後にした。
ーーーー
「キリト先生!大変です!」
俺が職員室へと荷物を置きに戻ると、数人の先生が集まっていた。そのうちの一人、リィナ先生は俺に気づくと切羽詰まった様子で声をかけた。
「リィナ先生?どうかされましたか?」
「それが…!」
「学園を包む結界に穴があったのですよ。」
「校長先生!」
リィナが口にする前に、初老の髭を蓄えたおじいさんが現れ口を挟んだ。
この学園の校長だ。
「結界に穴。誰かがこじ開け、侵入したということでしょうか?」
この学園には敷地内を覆う巨大な結界魔法が施されている。悪意ある者から生徒たちを守るためだ。
この結界は破ることがとても困難で今まで破られたことはないという話だ。
「恐らくは…。破られたのはここ数日の間みたいです。今は修復が完了しています。」
リィナ先生が現状を報告してくれる。
「この結界を破る奴がいるなんてなあ。」
「誰か侵入しているのであれば、何が目的なんでしょう。」
「破られて数日が経過してるのに音沙汰がない。犯人の目的はいったい…」
口々に教師が騒ぎ始める。
「お静かに。」
校長が持っていた杖を床にトンと鳴らす。どこか威圧感があり、たちまち静かになった。
「犯人の目的は分かりませんが、生徒たちに無闇に不安を煽るのもいただけません。生徒たちには水棲モンスターがまだいるらしいと知らせて警戒を促しましょう。」
「はい」
「皆さん、何か不審な点など見つけましたら、教師間で情報をすぐに伝達するようにお願いしますね。見回りもいつも以上に強化して下さい。」
…学園内で何かが起こっている。
得体の知れない何かが。
生徒たちに危険が及ぶようなら厳重に注意しなければ。
ふと、シェリアの顔が浮かんだ。
「?」
自分でもよくわからなかった。俺が幼い頃から守りたいと思っていたフィオナの顔が一番に思い浮かばなかった。
俺は自分の心の変化に気づいていなかった。
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