乙女ゲームの悪役ボスに生まれ変わったけど、ヒロイン可愛すぎてつらい。

ファネシス

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第1章

9

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「思い出って言われたって、あんたが幽霊みたいに出てきたから気をとられちゃって何も思い出せてないんだけど。」

私は彼の提案に首を横に振った。何か思い出せそうだったのに幽霊騒ぎで全部吹っ飛んでしまった。

「君、そういうの苦手だもんね。気を取られてしまっても仕方がない。いいよ。僕が話してあげる。そう、あれは星が輝く夏の夜の事だ……。」

「え、ちょ、待ってよ。そんな空を仰いで、いかにもこれから過去編いきます。みたいなモノローグを始めないでよ!」

ゼノの無理やり持って行こうとする姿勢に驚いて、思わずツッコミを入れてしまう。それしてもさすがというべきか、変な奴だが腐っても攻略対象。
顔だけは一級品で超絶美形。少年の姿をしていた時も、とんでもなく美少年だったが大人の姿は街に出たらさぞやモテるだろう。
そんな奴がちょっとナルシストっぽい姿をして、天を仰ぎ見るポーズは妙に決まっていて腹がたつ。

「だって僕は君に早く思い出して欲しいんだもの。」

語る気満々だった気分に茶々を入れられて、不満だったのか頬を膨らませて拗ねるような仕草をする。

「今、あなた大人の姿なんだからそんな顔しても可愛くないわよ。」

「え、君。子供の方が好みだったのか。なるほど。学園では結界が邪魔で、仕方なく子供の姿になってたけど、君が望むなら子供の姿でいてあげるよ。」

「ちょっ、人をショタコンみたく言わないで。」

私が文句を言おうとすると、ゼノの姿が黒い光を放ち、思わず目を閉じると彼は子供の姿になっていた。

「ふふ。これでどう、シェリア。気に入った?」

わざとらしく声のトーンを上げ、上目遣いでこちらを見てくる。
私はショタコンでは断じてない。絶対に…。たぶん…。

「素直になればいいのに。」

ゼノはそう言ってクスクスと笑った。

「ともかく、あなた邪魔よ。あなたがいると気がそがれて思い出せるものも思い出せないじゃない!」

この部屋のドアを見つけた時は思い出せそうな気がしたのに、今はそんな気配ゼロだ。
もしかして、こいつわざとそうするように仕向けてるんじゃないだろうなあ。本当は思い出させたくないとか……?
だが、あんなに早く思い出してとせっついていたのだ。彼の真意がよくわからない。私はゼノの本心を探るように彼の目をじっと見てみた。

「なあに? 僕のことそんなに見つめて。」

だめだこいつは。全く読めない。
仕方がない。せっかくここまで来たのにもったいないが、帰ることにするしかなさそうだ。
もう日も沈み始めている。学校は明日も休日だが、さすがに今夜は宿で眠りたい。昨日はほぼ走り通しで、体力も限界に近くなってきている。

「ええ。ここまで来たのに帰るの?」

私が帰ろうとする気配でも伝わったのか。ゼノが不思議そうに顔をかしげる。その姿はとても愛らしい。だが、なんだろう。この違和感は。
わざと可愛こぶっているのだろうが、無駄だ。無駄。

「……帰っちゃうの?」

そんな子犬みたいな目をしても無駄だ。
くっ、顔がいいだけあって絆されそうになる。なんだか頭が麻痺してきて、彼の頭を撫でてあげたいような。抱きしめてあげたいような。ゆっくりと手を彼へと伸ばす。もう少しで触れるというところで、私の手は動きを止める。


……これは魅了系の魔法では!


しっかりしろ、シェリア。
魔法ではないかと意識した瞬間、頭が鮮明になる。私は更に意識をはっきりさせるために、声高に自分の意思を叫ぶ。
こう言った、意識を操る系の魔法は己の意思を明確にする事で暗示がとける。

「ええ。帰るのよ! 思い出せないんじゃ、意味がないもの。」

「だから、僕が思い出話しようっていったのに。」

「あなた、信用ならないのよ。学園では私が質問しても誤魔化したりしていたのに。急にここに来てあなたから話し出すなんて怪しい事極まりないわ!」

私ははっきり言い切った。意識がはっきりしてきて、考えがまとまる。

そうだ。ここには記憶を取り戻して、奴の狙いをハッキリさせて先手を打つ事が目的だった。なのに、いつの間にか流されそうになっていた。

「……うむ。シェリア。君は中々、懸命な判断をするみたいだね。魅了魔法も跳ね返してしまったし。」

途端に可愛こぶっていた雰囲気をなくし、どこか落ち着いた雰囲気を出す。ゼノはふむふむといった感じで二回首を縦に頷くと、そう言った。
やはり、先程のは魅了魔法が使われていたのか。危ないところだった。

「そんなもの使っていたのね! あんたいう事やる事めちゃくちゃよ。男ならする事は一貫性を持ちなさいよ!」

「なるほど。一理あるね。では、僕も行動に一貫性とやらを持とうか。」

子供の姿をとった時と同じような光が彼を包むと、また大人の姿になっていた。
なんだか嫌な空気を感じるのに、風になびく黒髪が綺麗だなと場違いな事を思ってしまった。

「じゃあ、シェリア。随分前にもに言った事を果たそう。……さあ、僕の花嫁になってね?」

………。

「はぁっ!? ふざけた事ぬかすんじゃないわよ!」

一瞬思考が停止してしまった。何を突拍子のない事を言っているのだろう。

いや、でも…。何だか聞き覚えがある。

『ねぇ、あなたは何でここに来たの?』

『君を花嫁に迎えるためだよ。早く大きくなって、僕の花嫁になってね? シェリア。』

そうだ。こいつは初めて会った十数年前にもそんな事を言っていた。まだ、私が五~六才の頃に。私が閉じ込められていたこの塔に訪れてそんな事を話していた。

「その様子だと……。少しは思い出してくれた?」

「あの時のロリコン!?」

「え?」

逃げなきゃ。こいつは変質者だ!

「ロリコンはないだろう……。」

少し傷ついた様子でゼノは言う。

「でも、いいさ。約束を思い出してくれたなら。」

そう言ってゼノは手を前に振りかざす。彼の周りに黒い霧のようなもの現れる。何か魔法を仕掛ける気だ。
ゼノは相当の魔法の使い手だ。何か仕掛けられてからは手遅れになる。
そう判断した私は部屋の入り口のピンクのドアに体当たりする勢いで螺旋階段へ転がり出た。
直後に私がいた部屋には灰色のシールドらしきものが貼られる。きっと、結界だろう。あと一瞬でも判断が遅れたら、部屋の中で捕まっていたかもしれない。危なかった。

ともかく長居は無用だ。私は階段をどんどんと下っていく。幸い、追ってくる気配はない。……諦めたのか?

ーーーー

「あらら、逃げられちゃった。中々すばしっこいな。」

部屋の中に外界との接触を断つ結界を張って捕まえようとしたが、一瞬の差で逃げらた。

「捕まえたら、たっぷり愛でてやろうと思ったのに。」

彼は赤い舌をペロリと唇に這わせる。
どこか妖艶で美しいが、その黒い目は狂気を感じる。

「ここで飼うのもいいと思って首輪も用意したのにな。残念。」

ゼノは持っていたピンクのリボンがついた首輪を指でクルクルと回し、そのまま飛ばすように床へ転がした。

「そろそろ彼女も魔法が使いづらくなるはず。その隙間をぬって取り込もうと思ったけど、まあいいや。少し様子を見ようじゃないか。」

彼女はどこまで頑張れるのか?
楽しみだ。

ゼノはそう一人呟くように言い、その瞳は獲物を捕まえる獣のようにギラギラと輝いていた。
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