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 昼食を済ませた後。
 ウカノ兄ちゃんは、自分で不動産屋へと出向いていった。
 俺とエリィさんはといえば、冒険者ギルドからのゴリ押し依頼は片付けたので、時間が出来た。
 丁度いいので、この前見つけたあのダンジョンの事を話す。

 「ふむ、つまりお前はそのダンジョンを攻略したいのか?」

 エリィさんが、確認してくる。
 俺は勢いよく頷いた。

 「えぇ!」

 「珍しく乗り気だな」

 「そりゃそうですよ!
 だって、神様が作ったかもしれないって言われてるダンジョンですよ?
 一度探索してみたかったんですよ!」

 自分でもわかるほどハイテンションに返してしまう。
 エリィさんは、それをとても不思議に感じたようだ。

 「本当に珍しいな。お前がそんなにやる気を出すなんて。
 しかし、神様が作ったとはどういうことだ?
 まさか、邪神の話を信じてるのか?」

 「…………」

 「おい?」

 「そういうおとぎ話が好きなんですよ。
 それだけの事です。
 深い意味は無いですよ」

 【創世グレート・邪神オールド・ワン】の話は、この国の人間なら誰でも知ってるおとぎ話、昔ばなしだ。
 でもそれは、作り話だとされている。
 ほとんどの人が、信じてなんていない。
 アニキ達のような人間は、ずっと少ないのだ。
 それを俺はよく知っていた。
 エリィさんも、その話を信じていない。
 それが、普通だ。
 だから、

 「でも、そうですね。
 信じてると結構楽しいですよ」

 そう俺は返した。
 

 【創世グレート・邪神オールド・ワン】のおとぎ話。
 創世神話の一つだ。
 むかしむかし、まだこの世界が混沌の中にあった頃。
 そんな書き出しから始まる、子供の頃だれでもどこかで読み聞かせてもらったおとぎ話。
 だから、だれでも知っている。
 この世界のだれでも知っている。
 その話は、混沌の中から生まれ落ちた邪神から始まる。

 混沌からはいろんな神様が生まれていた。
 混沌から生まれた神様には役目があった。
 混沌から生まれた神様には仕事があった。

 それは世界を作ること。
 それは世界を創ること。
 それは世界を造ること。

 俺たちが生きるこの世界を作った邪神も、そんな神様の一柱だった。
 最初は、楽しんで世界を作っていた邪神は、でもその頃は邪神なんかじゃなかったらしい。
 いつしか、邪神は考えるようになった。

 なんで世界を作っているんだろう?
 なんで世界を創っているんだろう?
 なんで世界を造っているんだろう?

 そう考えること、それ自体が初めてだった邪神は、ほかの、先に生まれていた神様に相談して、そして。

 邪神は狂ってしまったそうだ。
 狂ったのは、自分たちが生み出したニンゲン達のように神の存在を疑い始めたから。
 自分自身の存在を疑ってしまったから。
 狂った邪神は、壊れてしまい。
 ほかの神様を食べてしまうようになってしまった。
 そして、喰って喰って、神様を喰らい続けた邪神は、とうとう正義を司る神様と力を司る女神様によって力を封印され、自分が作った世界、その地上へと堕とされてしまう。

 話はここで終わらない。

 邪神はいつか天へ戻るために力を蓄えよう。
 そう、考えた。
 そして、神殿を造ったらしい。
 
 その神殿こそが、このまえのお祭り騒ぎの時に俺が見つけた、あのダンジョンだ。 

 俺に【創世グレート・邪神オールド・ワン】のダンジョンにの話を教えてくれたアニキ達によれば、この邪神、一説には俺達のような農民にはとても関わりの深い神様と同一視できるらしい。
 どうしてそんな考えになるのか、当時の俺にはいまいち理解できなかったが、今ならちゃんとわかっている。

 それは、【創世グレート・邪神オールド・ワン】がこの世界に堕とされた後の話。
 所謂、異聞説になるのだが、【創世グレート・邪神オールド・ワン】は、この世界に堕ちた後、自分が生み出した存在に知恵を与えたのだそうだ。
 その最初の知恵が、食べ物の作り方だった。
 天からやってきたこの神様の言葉の通りに食べ物を作ると、あっという間に飢えていた皆に食べ物が行き渡り、餓死する人がいなくなったという話だ。
 そして、俺たち農民の間では五穀豊穣の神様が信仰されている。
 この五穀豊穣の神様と、【創世グレート・邪神オールド・ワン】は同一視できるらしい。
 共通点は天から、つまり神様の世界からやってきたこと。
 知恵を授け、飢えを無くしたこと。

 農民の間に伝わる五穀豊穣の神様の伝説には、こんなものがある。
 五穀豊穣の神様自ら作った作物を食べた農民には、伝説の英雄、あるいは勇者のような、一騎当千、あるいは一騎当万の力が備わり、外から来る悪いものを追い払うことが出来た、と。
 まぁ、ドーピング伝説だ。
 農民に伝わる話だと、その後五穀豊穣の神様と農民は末永く幸せに暮らした、となっている。

 俺の実家の近くにも、五穀豊穣神を祀った神殿がある。
 しかし、ずっと神殿だと信じていたそこは、実はダンジョンだったとアニキ達に聞かされた時は本当に驚いた。
 普通にかくれんぼして遊んでたもんなぁ。
 
 「実際、神話時代の貴重な武器とか見つかったりしますからね」

 それをメンテして使ってる冒険者は、箔が付く。
 それに、オーダーメイドもいいがそういう伝説の武器を所持してみたい欲は誰にでもあるものだ。
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