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 意気揚々とダンジョン探索を始めようとしたのだが、なんと先客がいた。
 それは、四人組のパーティだった。
 四人のうち二人は知らない顔だが、残りの二人は知っている人たちだった。
 ヒュウガとミナクさんである。

 「あん? なんだ、お前ら?」

 俺たちのことに気づいた、知らない顔の一人がそう訊いてくる。
 オーガ種族の男性で、少し粗暴そうに見えた。
 ヒュウガが俺に気づいて、オーガ種族の人と、もう一人エルフ種族の女性へ説明をしてくれた。
 その間に、ミナクが俺たちへの説明役となってくれた。
 それによると、彼らはこのダンジョンの調査依頼を受けてきたらしい。

 見つかってたのか、残念。

 「そっか、独占調査はできないか」

 俺の呟きにミナクが返す。

 「見つけてたんだ」

 「えぇ、まぁ」

 「リーダーがここを見つけたのは、あの勝負の日?」

 「そうですよ。
 あ、俺のことは呼び捨てで良いですよミナクさん」

 なんてやり取りをしている間に、ヒュウガの方も説明が終わったようだ。
 こちらへエルフの女性とオーガの男性が近寄ってきたかと思うと、エリィさんに挨拶をした。
 まず最初に、乱雑に切られていながらも、素晴らしい金髪を持ったエルフが恭しくエリィさんへ頭を下げた。

 「ドラゴン・スレイヤーにお会いできるとは光栄です。
 私は、リュリュイ・エーフェンゲルトと申します」

 続いて、オーガの男性も名乗る。

 「俺は、ゴーイ。よろしくな!」

 二人とも、俺のことは視えていないようだ。
 ヒュウガが俺のことを紹介しようとするが、二人とも俺に少しだけ視線をやっただけで終わりだった。
 
 「いやいや、そんな態度はいくら何でも酷いんじゃないか?」

 ヒュウガが言うが、しかし二人とも話を聞く気がないようだった。
 その理由はすぐにわかった。
 リュリュイさんが息を吐き出してわざわざ説明してくれたのだ。

 「彼のことならよく知ってますよ。
 風の噂で耳にしました。
 ヒュウガさんとミナクさん達、農民の地位向上のために声を上げた人ですよね?
 えぇ、えぇ、それについては感謝しています。
 おかげで貴方方のような優秀な人材に巡り合えるきっかけを作ってくれた方ですから。
 でも、それだけ、ですよね?
 その後、Aランク、いいえ今はSSSランクに昇給したんでしたっけ?
 それも、ズルで」

 クスクスと、実に意地の悪い笑みが俺へ向けられる。

 「元仲間達を脅し、新しく仲間になってくれたヒュウガさんやミナクさん達を口車に乗せて、昇給したズル野郎ってもっぱらの噂ですよ?」

 あー、なるほど。
 そういう風に伝わってるのか。

 ゴーイさんもそれに追従するように口を開いた。

 「そうなのか?
 俺が聞いたのは、王族の前でサクラを使って大々的な狩りのショーを見せて取り行ったって話だが」

 なるほど、そんな噂も出てたのか。
 
 「私も聞いたわ、その話」
 
 クスクスと笑みはそのままで、リュリュイさんがエリィさんへ言う。

 「エリィ様。
 お節介であることは重々承知ですが、言わせてください。
 SSSランクともあろう方が、このような下賤の者とパーティを組むのはお勧めしません。
 彼がヒュウガさんや、ミナクさん達のような実力者であるならまだしも、そうでないなら今すぐパーティを解消すべきです」

 何気にヒュウガとミナクさんのことは評価してるから、きっと悪い人ではないんだろうなぁ。
 あーあー、エリィさんイライラしてるな。
 そろそろ爆発しそうだ。
 ヒュウガも、さすがに口を挟もうとした時だった。
 それよりも早くミナクさんが口を開いた。

 「リーダーはたぶん、ここにいる誰よりも強い」
 
 しかし、それをリュリュイさんは一笑する。
 
 「ミナクさん、彼に恩を感じているのはわかりますが、貴方と彼は違うんですよ」

 今度こそ、エリィさんが怒鳴りそうになったので、俺が口を出した。

 「えぇ、そうですね。
 貴方のおっしゃる通りです」

 まさか俺があっさりとリュリュイさんの貶しを認めるとは、その場の誰も考えていなかったのだろう。
 全員が全員、ぽかんとした顔で俺のことを見ている。
 しかし、俺もちょっとイラっとしちゃったので言い返しておこう。
 こういうタイプはまさか言い返されるとは露ほども考えていないので、面白い顔をするのだ。
 
 「でも、ズルだなんだとイチャモンつけてる暇があるなら、さっさと中に進めばいいじゃないですか。
 こんなところで、ズル野郎のこといびるより健全だと思いますよ?」

 悪いが、言われたら言い返す時は言い返す程度の気の強さはあるんだ。
 めんどくさいほうが先にきて滅多に言わないけど。
 今日は、俺の初めてのちゃんとしたダンジョン攻略記念日になる予定だったのに邪魔されたのだ。
 偶然だとはわかってはいるが、その上色々苦労をした昇給試験に、何気に頑張ったあのお祭り騒ぎまでケチをつけられたのだ。
 俺だってイライラするしやり返したくもなる。

 さて、俺の返しにリュリュイさんが顔を真っ赤にしているが無視する。
 ゴーイさんは、ありゃ、嫌味に気づいてないっぽい。
 なんせ、
 
 「それもそうだな、さっさと攻略しちまおう」

 とリュリュイさんに言ってるくらいだ。
 うん、この人もきっと悪い人ではないんだろう。
 まぁ、基本悪くない人であっても人を人前で貶すようなことしちゃいけないよなぁ。
 マナーとして。
 まぁ、そのマナーが純粋な町育ちの人の場合、農民には何をやっても許されるってなっているのがなんとも言えないのだが。
 
 「あー、なんていうか悪かったな」

 ヒュウガが言ってくる。
 その横でミナクさんも、むすっとしている。

 「リーダーはちゃんと強いのに」

 ミナクさんの言葉に、エリィさんがうんうん頷いている。
 俺は、そんなヒュウガとミナクさん、二人だけに聞こえるように小さく返す。

 「いえ、ちょっとすっきりしましたし、気にしないでください。
 ありがとうございます」

 そして、エリィさんへ、

 「それじゃ、ダンジョン攻略は早い者勝ちなので行きましょうか!」

 そう言って、誰よりも早く先へ一歩を踏み出した。
 そのことにリュリュイさん達も気づき、走り出してしまう。
 そして、あっという間にリュリュイさんとゴーイさんは俺たちを追い抜いて行った。
 二人の後に、ヒュウガとミナクさんが続く。
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