農民だからと冤罪をかけられパーティを追放されましたが、働かないと死ぬし自分は冒険者の仕事が好きなのでのんびり頑張りたいと思います。

５６

　負けじと俺もスピードを上げようとして、そ・れ・に気づいた。
　ダンジョンの奥から微かに感じた、殺気。
　そして、人とも亜人とも違う、独特な臭い、いや気配に。
　すぐさま俺はヒュウガとミナクさん、二人の腕を掴んで止める。
　エリィさんも不思議そうに立ち止まった。
　彼女もまだ気づいていない。
　しかし、そんなことに構っていられなかった。
　魔法の展開がおわるより動いた方が早いっ！

　「？」

　「？？」

　ヒュウガとミナクさんが不思議そうに俺を見た、直後。
　俺は、駆け出していた。
　先行していた、リュリュイさんとゴーイさん、それぞれの頭を掴んで地面に軽く叩きつける。
　リュリュイさんは女性で、顔に怪我をさせてしまうが、気にしていられない。
　そもそも二人とも冒険者なんだからこれくらいかすり傷だ。
　間に合った！
　少し遅れて、防御魔法も発動する。
　そして、見えない壁がダンジョンの奥から放たれたその攻撃を防いだ。

　「あーあ、だから先に結界張っとけって言ったのに。
　入ってきてんじゃん」

　ダンジョンの奥から、そんな男の声が聞こえてくる。
　若い声だ。
　現れたのは、頭にヤギのような角を生やした魔族だった。
　銀色の髪に、同系色の瞳、そしてダークエルフのような褐色肌の魔族である。
　エルフとはまた違った人外の美しさを宿した、まぁ、美少年だ。
　鑑定しなくてもわかる。
　ウカノ兄ちゃん程ではないけど、俺もそれくらいから嗅ぎ分けることができる。
　彼は魔族だ。

　「まぁ、うん、でも、こんな世の中じゃこうでもしないとニンゲンをぶっ殺すなんて出来ないし、なっ！！」

　それも、たぶんヤバい方の魔族だ。
　冒険者、いや、魔族側でも犯罪者の部類に入るだろう。
　一応、魔族領から流れてきた魔族の盗賊討伐も経験してるから俺は知っているんだ。
　彼は一気に俺たちとの間合いを詰めると、その枝のように伸ばした指を振り回してくる。 
　どうやら、さっきの攻撃はこの指から放たれた物のようだ。
　狙いは、後方にいるエリィさん含めた三人か？！
　間に合わんっ！
　ごめんなさいエリィさんっ！！
　俺は心のなかで謝って、一番ヤバそうだったエリィさんへ風魔法をぶっ放す。
　同時に、ヒュウガとミナクさんも巻き込んで三人が入口の外まで吹っ飛んで行った。
　魔族が俺に振り向く。

　「へぇ、ニンゲンにも器用なヤツがいるんだな」

　なんて言って、その目が怪しく光ったように見えた。
　瞬間、間合いを詰められる。
　はやっ？！
　なんなんだよコイツ！！？？
　俺は、顔面を地面に打ち付けたため意識が朦朧としているリュリュイさんとゴーイさんを両脇に持ち上げて、その場から飛び退る。

　「……荷物抱えてるわりに早いな」

　さっきは咄嗟だったから風魔法使ったけど、よくよく考えれば俺転移魔法使えるんだよな。
　いや、無理か。
　通常時ならまだしもこの状況だと展開するまえに殺されるかもしれない。

　と、こんな時に今度は通信魔法？！
　誰だよ！！

　「はい！？」

　キレ気味に通信魔法に出る。
　って、うわうわっ？！
　ちょ、たんま！！
　死ぬ死ぬ死ぬぅぅううう！？？
　俺が半ばパニクりながら、魔族の攻撃を避け続けていると通信魔法を介して、相手の声が届いた。
　それは、先日連絡をとったばかりのクレイ兄ちゃんの声だった。
　冒険者仲間に置いてけぼりをくらって、ヤマタノオロチに取り囲まれ袋叩きにあっていた、あの兄ちゃんである。

　『お、出たなぁ。
　シン、お前今暇か？
　実はさ臨時収入が入ってさ、この前手伝ってくれた礼にご飯奢ってやるよ。
　何食いたい？
　俺としては、肉が食べたいなぁ。
　あ！でも最近王都にできたっていうパンケーキも食ってみたいんだよなぁ。
　知り合いの冒険者の女の子がさ、美味しいし見た目も』

　そんな世間話を続けるクレイ兄ちゃんへ、俺は叫んだ。

　「兄ちゃん！　助けて！！　殺される！！
　なんか頭のおかしい魔族の盗賊に殺される！！」

　『おや、珍しく大ピンチ？
　んじゃ、兄ちゃん、この前のこともあるし頑張っちゃおっかなぁ』

　愉快そうな声と共に、転移魔法陣が俺と俺たちを襲ってきた魔族の間に展開する。
　魔族も、警戒して距離を取る。
　そうして、クレイ兄ちゃんが魔法陣から現れた。

　「おおぅ、ダンジョン攻略中だったのか。
　シンも稼ぐねぇ。
　で、盗賊、それも魔族とブッキングとは運が無いな」

　なんて言って、ヘラヘラとクレイ兄ちゃんは笑って見せた。