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そんな兄ちゃんに、魔族がまた一気に間合いを詰めて指を振るう。
首を落とそうとしたのだろう。
しかし、それをクレイ兄ちゃんは人差し指と中指で挟んで止めた。
「おおぅ、早いなぁ」
言って、魔族の腹を蹴りあげる。
そのまま魔族は天井にぶつかり、めり込んだ。
歴史的建造物に傷がつくが、兄ちゃんは気にしていない。
こういうことは、よくあるのだ。
他の冒険者とブッキングしたり、魔物との戦闘が起こるとよくあることだ。
「しかし、盗賊、盗賊ねぇ?」
クレイ兄ちゃんは呟いて、首を傾げている。
そうこうしているうちに、魔族が落ちてきた。
意識は、失ってねぇ?!
体を変化させて、兄ちゃんを殺そうと魔族は躍起になっているようだった。
むしろその状況を楽しんでいるのか、笑みさえ浮かべている。
猛攻とも言える魔族からの攻撃を、クレイ兄ちゃんはヒラヒラと避ける。
そして、今度は回し蹴りを魔族の顔に叩き込んだ。
そのままの勢いで、魔族は地面に叩きつけられる。
「シンは、魔族相手にするのこれが初めてだったか?
あ、実家で畑泥棒なら相手にしたことあるか。
まぁ、いい機会だから教えとくと、魔族でも体の構造は俺たち人間と変わらない。
強度は魔族の方があるけどな。
でも、構造が同じだからこそ身体強化させて脳みそを揺さぶるような、今みたいな一撃叩き込むと、ほれ、こんな感じで動けなくなるんだわ」
ぐったりと意識があるのか無いのかわからないが、動けない魔族の銀髪を掴んでグイッと持ち上げて、クレイ兄ちゃんは説明してくる。
そしてすぐにパッと掴んでいた髪を離す。
魔族の頭が、また地面に落ちる。
そして、魔族の体をあちこち触って物色し始めた。
武器を取り上げたりしながら、クレイ兄ちゃんは俺に言ってくる。
「でも今回は、荷物抱えてる状態だったから仕方ないか。
さて、それでこの盗賊、盗賊? さんはどうする?
役人にでも突き出すか?」
没収した武器、短剣だ。
短剣を検分しながらそう言ってくる。
さっきからなんで疑問形なんだろう。
そんなことを考えた時だった。
俺と兄ちゃんは、ほぼ同時に天井からの気配に気づいて今まで立っていた場所から飛び退いた。
天井が崩れ、落ちてくる。
ぽっかりと開いた穴からは太陽光と、そして人影が見えた。
その人影は言った。
「やけに遅いと思ったら、冒険者相手になにを手こずってるんだ」
落ちてきた天井に巻き込まれたかと思いきや、その瓦礫の中からクレイ兄ちゃんにボコボコにされた銀髪の魔族が立ち上がる。
「悪い悪い。でも、それはそもそもお前が結界を張ってなかったからだろ」
銀髪の魔族が、人影へ返す。
現れた人影も魔族だった。
こちらは、クレイ兄ちゃんと同じか少し上くらいの青年だ。
ヤギのような角は同じだが、肌は白いし茶髪である。
銀髪の言葉には返さず、青年は俺たちを見てそれから指を鳴らした。
たったそれだけ。
それだけで、俺が初めて攻略するはずだったダンジョンは爆散してしまった。
気づくと、俺はリュリュイさんとゴーイさんを抱えたまま、クレイ兄ちゃんと一緒にいつの間にかダンジョンの外にいた。
すぐ近くで、ダンジョンが破壊されたことによる煙が上がり、俺を呼ぶエリィさん達の声が聞こえてきた。
すぐには答えず、あの魔族の気配を探る。
どちらの気配も消えていた。
念の為に、周囲を鑑定してみる。
引っかからない、つまりあの魔族はここから去ったようだった。
俺はクレイ兄ちゃんに目配せして、兄ちゃんが頷くのを見て、声を上げた。
「あ、エリィさーん!!
こっちです!!」
俺の声に気づいて、エリィさん達がこちらへやってきた。
いまだに、意識が朦朧としているリュリュイさんとゴーイさんはその場で寝かせておく。
一緒にいたクレイ兄ちゃんに、エリィさん達が警戒を露わにするがすぐに俺は兄ちゃんを紹介した。
クレイ兄ちゃんも、ヘラヘラ笑いながら三人へ挨拶した。
事態が事態なためと、そもそもエリィさん達も何が起こったのかよく理解出来ていなかったため、その場で簡単に俺は一連の流れを説明した。
「魔族?」
エリィさんが、返す。
続いて、ヒュウガさんが難しそうに呟いた。
「なんで魔族がこんなところに」
魔族領からの移住者もいるし、なんならこちら側で冒険者をしている魔族も少なからずいる。
だから、魔族と遭遇するのは不思議なことではない。
しかし、数が極端に少ないのだ。
偶然と言われればそうなのだが、やはり、なんで? という考えになってしまう。
「完全に気配を消してた。
肉食獣だったらとっくに食べられてた」
ミナクさんもそう呟く。
そう、気をつけているが農民でも魔物や害獣の討伐中にミスをして食べられてしまう事故、事件はそれなりにある。
全員、油断はしていなかったはずだ。
でも、誰もそれに気づけていなかった。
俺が先に魔族の気配に気づいたのも、運が良かっただけだろう。
でもこの運の良さが命運をわけるのは、これまたよくある話だ。
「まぁ、考えてもどうにもならないし、ダンジョンが無くなったったこととか冒険者ギルドに報告した方がいいんでない?」
クレイ兄ちゃんがそう口を挟んできた。
たしかにそうだ。
ここで考えたところで仕方ない。
とりあえず、ヒュウガ達は依頼を受けていたということもあり今回のことを冒険者ギルドへ報告することにした。
そこでようやく、リュリュイさん達の意識も戻った。
ヒュウガ達から一連のことを説明してもらったものの、納得していない表情だった。
しかし、実際にダンジョンが破壊されている光景を目にしてはなにも言えなかったようだ。
俺の初体験は、初体験を楽しむ間もなくこうして終わったのだった。
首を落とそうとしたのだろう。
しかし、それをクレイ兄ちゃんは人差し指と中指で挟んで止めた。
「おおぅ、早いなぁ」
言って、魔族の腹を蹴りあげる。
そのまま魔族は天井にぶつかり、めり込んだ。
歴史的建造物に傷がつくが、兄ちゃんは気にしていない。
こういうことは、よくあるのだ。
他の冒険者とブッキングしたり、魔物との戦闘が起こるとよくあることだ。
「しかし、盗賊、盗賊ねぇ?」
クレイ兄ちゃんは呟いて、首を傾げている。
そうこうしているうちに、魔族が落ちてきた。
意識は、失ってねぇ?!
体を変化させて、兄ちゃんを殺そうと魔族は躍起になっているようだった。
むしろその状況を楽しんでいるのか、笑みさえ浮かべている。
猛攻とも言える魔族からの攻撃を、クレイ兄ちゃんはヒラヒラと避ける。
そして、今度は回し蹴りを魔族の顔に叩き込んだ。
そのままの勢いで、魔族は地面に叩きつけられる。
「シンは、魔族相手にするのこれが初めてだったか?
あ、実家で畑泥棒なら相手にしたことあるか。
まぁ、いい機会だから教えとくと、魔族でも体の構造は俺たち人間と変わらない。
強度は魔族の方があるけどな。
でも、構造が同じだからこそ身体強化させて脳みそを揺さぶるような、今みたいな一撃叩き込むと、ほれ、こんな感じで動けなくなるんだわ」
ぐったりと意識があるのか無いのかわからないが、動けない魔族の銀髪を掴んでグイッと持ち上げて、クレイ兄ちゃんは説明してくる。
そしてすぐにパッと掴んでいた髪を離す。
魔族の頭が、また地面に落ちる。
そして、魔族の体をあちこち触って物色し始めた。
武器を取り上げたりしながら、クレイ兄ちゃんは俺に言ってくる。
「でも今回は、荷物抱えてる状態だったから仕方ないか。
さて、それでこの盗賊、盗賊? さんはどうする?
役人にでも突き出すか?」
没収した武器、短剣だ。
短剣を検分しながらそう言ってくる。
さっきからなんで疑問形なんだろう。
そんなことを考えた時だった。
俺と兄ちゃんは、ほぼ同時に天井からの気配に気づいて今まで立っていた場所から飛び退いた。
天井が崩れ、落ちてくる。
ぽっかりと開いた穴からは太陽光と、そして人影が見えた。
その人影は言った。
「やけに遅いと思ったら、冒険者相手になにを手こずってるんだ」
落ちてきた天井に巻き込まれたかと思いきや、その瓦礫の中からクレイ兄ちゃんにボコボコにされた銀髪の魔族が立ち上がる。
「悪い悪い。でも、それはそもそもお前が結界を張ってなかったからだろ」
銀髪の魔族が、人影へ返す。
現れた人影も魔族だった。
こちらは、クレイ兄ちゃんと同じか少し上くらいの青年だ。
ヤギのような角は同じだが、肌は白いし茶髪である。
銀髪の言葉には返さず、青年は俺たちを見てそれから指を鳴らした。
たったそれだけ。
それだけで、俺が初めて攻略するはずだったダンジョンは爆散してしまった。
気づくと、俺はリュリュイさんとゴーイさんを抱えたまま、クレイ兄ちゃんと一緒にいつの間にかダンジョンの外にいた。
すぐ近くで、ダンジョンが破壊されたことによる煙が上がり、俺を呼ぶエリィさん達の声が聞こえてきた。
すぐには答えず、あの魔族の気配を探る。
どちらの気配も消えていた。
念の為に、周囲を鑑定してみる。
引っかからない、つまりあの魔族はここから去ったようだった。
俺はクレイ兄ちゃんに目配せして、兄ちゃんが頷くのを見て、声を上げた。
「あ、エリィさーん!!
こっちです!!」
俺の声に気づいて、エリィさん達がこちらへやってきた。
いまだに、意識が朦朧としているリュリュイさんとゴーイさんはその場で寝かせておく。
一緒にいたクレイ兄ちゃんに、エリィさん達が警戒を露わにするがすぐに俺は兄ちゃんを紹介した。
クレイ兄ちゃんも、ヘラヘラ笑いながら三人へ挨拶した。
事態が事態なためと、そもそもエリィさん達も何が起こったのかよく理解出来ていなかったため、その場で簡単に俺は一連の流れを説明した。
「魔族?」
エリィさんが、返す。
続いて、ヒュウガさんが難しそうに呟いた。
「なんで魔族がこんなところに」
魔族領からの移住者もいるし、なんならこちら側で冒険者をしている魔族も少なからずいる。
だから、魔族と遭遇するのは不思議なことではない。
しかし、数が極端に少ないのだ。
偶然と言われればそうなのだが、やはり、なんで? という考えになってしまう。
「完全に気配を消してた。
肉食獣だったらとっくに食べられてた」
ミナクさんもそう呟く。
そう、気をつけているが農民でも魔物や害獣の討伐中にミスをして食べられてしまう事故、事件はそれなりにある。
全員、油断はしていなかったはずだ。
でも、誰もそれに気づけていなかった。
俺が先に魔族の気配に気づいたのも、運が良かっただけだろう。
でもこの運の良さが命運をわけるのは、これまたよくある話だ。
「まぁ、考えてもどうにもならないし、ダンジョンが無くなったったこととか冒険者ギルドに報告した方がいいんでない?」
クレイ兄ちゃんがそう口を挟んできた。
たしかにそうだ。
ここで考えたところで仕方ない。
とりあえず、ヒュウガ達は依頼を受けていたということもあり今回のことを冒険者ギルドへ報告することにした。
そこでようやく、リュリュイさん達の意識も戻った。
ヒュウガ達から一連のことを説明してもらったものの、納得していない表情だった。
しかし、実際にダンジョンが破壊されている光景を目にしてはなにも言えなかったようだ。
俺の初体験は、初体験を楽しむ間もなくこうして終わったのだった。
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