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 さて、ハイラさんのことについて大家さんに話さなければならない。
 しかし、ただ話したところでウカノ兄ちゃんとは違い、完全に赤の他人である。
 どう話を優位に進めるか、それが問題だ。
 しかし、それは後で考えよう。

 「我が主、ここは私めにお任せを」

 なんて言って、当人がその場を離れてしまう。
 ダンジョン攻略、そしてスタンピード処理のお疲れ様会を兼ねてこの時期はその都度開催されているバーベキューパーティ。
 農業ギルド主催のパーティだ。
 開催場所は王都近くにある、農業ギルドが保有しているだだっ広い土地だ。
 大きな鉄板が四つ用意され、それぞれの鉄板に配置された農業ギルドの従業員が慣れた手つきで肉を焼いていく。
 肉だけでは無く、野菜も沢山焼かれている。
 鉄板の前で何人前が欲しいのか言うと、従業員さんがその分を皿に盛って手渡してくれる。
 ハイラさんは、その肉や野菜を取りに行ったのだった。
 食べる場所は特に決まっていない。
 それぞれ好きなところに腰を下ろして食べている。
 なので、俺達も適当な場所を見つけて、ウカノ兄ちゃんが実家から持ってきたゴザを敷いて腰をおろした。
 しばらく待っていると、ハイラさんが戻ってきた。
 手にした大皿二枚には、それぞれこんもりと焼かれた肉と野菜が盛られている。
 どうせ、味はついてるし。
 箸と小皿は受付で予め渡されている。
 大皿二枚をゴザに下ろし、渡されていた箸と小皿を配っていく。
 クレイ兄ちゃんとフィリップ兄ちゃんが我先にと、箸を渡されると同時に直箸で肉にがっつき始めた。
 さて俺も、と箸を伸ばそうとしたらハイラさんに、

 「ささ、どうぞ、我が主!
 アーンです!!」
 
 と、肉を差し出された。

 「いや、たしかに成人してるとは言ったけど、俺まだ介護されるほど歳とっちゃいないんだけど」

 俺が言った直後。
 クレイ兄ちゃんが、肉をもごもごごっくんと、食べてから言ってくる。

 「そっちのアーンじゃないと思うぞ」

 と、エリィさんが興奮気味にとある場所を指さして、

 「シン!シン! ドラゴンだ!!
 ドラゴンの丸焼きがあるぞ!!」

 なんて言ってきた。
 どうやら離れた場所で焼かれている、ドラゴンの丸焼きに気づいたようだ。

 「王の生誕祭でもないのに、こんなご馳走様が振る舞われるなんて、とても贅沢じゃないか!!」

 そういえば、王侯貴族でも滅多に食べられないんだったか?
 ドラゴンの丸焼き。
 
 「え、あー、はい。そうですね」

 どうしよう。
 わりと毎回誰かしらが仕留めたのが丸焼きにされるから、出てくるんだよなぁ。
 ちょっと反応に困ってしまう。

 「エリィさんって、ドラゴン好きなんですか?
 もう少ししたら焼けると思うので、一緒に取りに行きます?」

 俺がどう返したものか困っていると、クレイ兄ちゃんがそう提案した。

 「行く!!」

 エリィさん、即答か。
 
 「じゃあ、シン、ちょい行ってくるわ。お前はどの部位が食べたい?
 んー、じゃあ俺も尻尾かな」

 「部位もえらべるのか?!」

 エリィさん、ハイテンションである。
 クレイ兄ちゃんが答える。

 「選べますよー。
 エリィさんは今回初参加だから、希少部位のシャトーブリアンが食べられますよ」

 牛肉の希少部位と同じ名前がついているのだ。 
 ドラゴンのシャトーブリアンは、牛肉よりも希少である。
 あとめっちゃ美味い。
 口に入れた瞬間に溶けるという、グルメ雑誌でよく見る感想。
 それが体験出来るのだ。

 「シャトーブリアン!?!?
 ドラゴンの?!
 王室への献上品ですら、中々お目にかかれないものじゃないか!!」

 「えぇ、なにせ新鮮なうちに調理しないとあっという間に味が落ちますからねぇ。
 こういう場で無いと食べられないんですよ。
 初参加の人がいないと、食べたい人が総当たり戦バトルロイヤルやって最後に立ってた人がもらうってルールになってます」

 クレイ兄ちゃんがケラケラ笑いながら説明した。
 そして、エリィさんを連れ立ってドラゴンの丸焼きコーナーへ向かっていく。
 と、いつの間にかウカノ兄ちゃんとフィリップ兄ちゃんの姿が消えている。
 かと思えば、酒瓶を二ダース確保して戻ってきた。
 酒の種類は、ワインにビール、清酒。
 あ、農業ギルドで売ってる梅酒だ。
 イチゴ酒もある。
 ちなみに、全部アルコール度数がそれなりに高い酒である。

 「足りなければ、受付で樽貰えるぞ」

 ウキウキとウカノ兄ちゃんが言った。
 個人差もあるし下戸の人もいるので、ノンアルコールも準備されているが、とりあえず今日は飲兵衛しか参加していないようで、あちこちで酒盛りも始まりつつあった。

 「ハイラさんは、飲める方か?」

 ウカノ兄ちゃんがそう訊いて、さっそくビール瓶をラッパ飲みする。
 それを見ながらハイラさんは、

 「まぁ、そこそこですかねぇ」

 そう答えた。

 「お、じゃあこれとか飲んでみ??」

 ウカノ兄ちゃんがずいっと、邪神の眷属に一番高くて強い酒を勧めた。
 ウカノ兄ちゃん、基本ウワバミだからなぁ。
 まぁ、無理やり飲ませるとかは基本しないから大丈夫、かな?
 
 
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