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「ぶっ!!」
早朝、自室にて。
クロッサは眠気覚ましにと口に運んだブラックコーヒーを盛大に吐き出してしまった。
ぽたぽたと、だらしなく開いた口からさらにコーヒーが床に零れる。
しかし、クロッサの目は社会人として働き始めてから目を通すようになった国営新聞、その見出し記事を凝視していた。
(なにやってんだ、こいつら!?)
その見出しにはデカデカと、とある写真が掲載されていた。
それは近々、魔族領にあるリカシム王国へ嫁いでくる、人間領の国のひとつであるファルゲセル王国のミア姫に関する記事であり、写真だった。
記事は、人間領のあちこちの国に結婚の報告をしつつ、港について船に乗ったという内容だった。
写真は乗船時に、見送りに駆けつけた者たちへミア姫が手を振っている写真だった。
写真を一目見て、クロッサはそれが本物の姫ではないと見抜いた。
そして、これがコーヒーを吹き出した原因なのだが、写真の中の姫。
その中身が誰なのか、ということまで見抜いてしまった。
姫の中身は、八男の弟のクレイだ。
その横に立つ、護衛らしき女性は九男のフィリップである。
「旦那様、おはようございます。
お召し物を……」
ノックと共に現れたのは、卸たてのシャツを持ってきたラミアの女性、イルルだ。
しかし、クロッサはそんなこと気にせずに新聞をクシャクシャに丸めて、床に投げつけた。
「あの愚弟どもーー!!!!」
自分のことでは無いが、身内であるのでとても小っ恥ずかしい。
女装、正確には魔法による変身だが。
仕事を選ばないにもほどがある。
というか、女装癖に対してクロッサはあまりいい感情を持っていなかった。
脳裏に浮かぶのは、絶対に勝てない存在。
長男である。
長男は、男らしさとか羞恥という部分が壊滅している、とクロッサは信じて疑っていなかった。
こと、畑泥棒や盗賊退治の時に長男のウカノは、それはそれは楽しそうに美少女に姿を変え、どこで覚えたのかあまり教育にはよろしくない手練手管で、標的を骨抜きにして捕まえるという、方法を取っていた。
クロッサはそれに嫌悪感を示していたのだ。
ほかの兄、次男や三男は面白がっていたが、クロッサは全然面白くなかった。
むしろ、気持ち悪いと感じてしまうほどだった。
イライラと、クロッサは丸めた新聞を踏み潰した。
(母さんも母さんだ!!
弟や妹、兄貴達には甘くて全然注意しないじゃねーか!!!!
こういうこと叱れよ!!!!)
数年ぶりに実家への、というより母親への不満が爆発した。
というより、ぶり返した。
「あー!!!! むしゃくしゃする!!!!」
イルルは普段の冷静沈着な姿からは想像できない、というより初めてみるクロッサの姿に戸惑うばかりだ。
「イルル!!」
声をかけるべきか否か、イルルが迷っているとクロッサが怒鳴った。
「は、はい!!」
「俺宛に文は?
使者が来る予定は?」
「え、えと、今日はまだなにも」
イルルが答えた時だ。
屋敷の呼び鈴が鳴った。
クロッサが出てこいと、指示を出す。
イルルはすぐに玄関へと向かった。
そして、二分もしないうちに戻ってきた。
その手には、今しがた話題にした手紙があった。
クロッサはその手紙をイルルからひったくった。
そして、目を通す。
暗号文で書かれた、傍目には普通の時候の挨拶と近況報告が書かれているようにしか見えない手紙だ。
その本来の内容は、探させていた末弟、シンの行方についての報告だった。
そして、今しがた丸めて踏んづけた新聞の内容にも触れるものだった。
管轄と守秘義務の問題で、クロッサは知らなかったのだが。
どうやら、ミア姫に関してクロッサの上司である国王から暗殺の指示が出ているようだ。
そして、そのミア姫の護衛と影武者にクロッサの兄弟達が選ばれ、関わっているらしいことも書かれている。
あの、農民を人間とも思わない場所で、これは異例すぎることだった。
なによりも、クロッサの上司である帝国王。
その直属の暗殺者が送られたというのに、逆に返り討ちとなり死亡したというではないか。
暗殺者を返り討ちにしたのは、クロッサが最も苦手としている長男だ。
いや、まぁあの人ならそれくらいできるわ。
出来て当たり前だわ。
そう思ってしまった。
派遣された暗殺者は、運がなかったとしか言いようがない。
手紙によると、ウカノとシンは豪華客船に乗船し、とても大切な宝物を護衛中とのことだ。
下手に手を出せば上司に対する越権行為になりかねない。
様子見するしか無いだろう。
むしろ、シンに関しては、その仕事を終えて油断したところを誘拐してこいと指示を出すべきだろうか。
(無理だ)
なにしろ、シンの近くには長男がいる。
先日の件で、警戒していることは予想できる。
長男とタメを張れるのは、次男くらいだ。
次男なら、長男と喧嘩しても勝てる可能性が高い。
なぜなら、実家にいたころ2人が喧嘩して、次男が勝ったところを何度か見ているからだ。
家族旅行として、魔族領に招待するからと言えばたぶん、次男はクロッサのお願いを聞いてくれるはずだ。
次男は、新しい家族をとても大事にしている。
義姉の事も、そして子供たちのことも。
中々旅行にも連れて行けなくて、金がなくて、と婿に行ってから漏らしていたのも知っている。
「うぅ、嫌だけど。
兄ちゃんは頼りになるんだよなぁ、こういう時」
ちなみに、クロッサは、次男にさんざんっぱら泣かされていたのも忘れてはいない。
数年ぶりに、クロッサは次男へと普段は遮断している通信魔法を使って、連絡を取ったのだった。
その間、ずっと控えていてくれたイルルには下がるよう指示を出した。
イルルが下がってすぐのことだ。
『……どちらさまですか??』
警戒心丸出しの声が聞こえてきた。
「ぶっ!!」
早朝、自室にて。
クロッサは眠気覚ましにと口に運んだブラックコーヒーを盛大に吐き出してしまった。
ぽたぽたと、だらしなく開いた口からさらにコーヒーが床に零れる。
しかし、クロッサの目は社会人として働き始めてから目を通すようになった国営新聞、その見出し記事を凝視していた。
(なにやってんだ、こいつら!?)
その見出しにはデカデカと、とある写真が掲載されていた。
それは近々、魔族領にあるリカシム王国へ嫁いでくる、人間領の国のひとつであるファルゲセル王国のミア姫に関する記事であり、写真だった。
記事は、人間領のあちこちの国に結婚の報告をしつつ、港について船に乗ったという内容だった。
写真は乗船時に、見送りに駆けつけた者たちへミア姫が手を振っている写真だった。
写真を一目見て、クロッサはそれが本物の姫ではないと見抜いた。
そして、これがコーヒーを吹き出した原因なのだが、写真の中の姫。
その中身が誰なのか、ということまで見抜いてしまった。
姫の中身は、八男の弟のクレイだ。
その横に立つ、護衛らしき女性は九男のフィリップである。
「旦那様、おはようございます。
お召し物を……」
ノックと共に現れたのは、卸たてのシャツを持ってきたラミアの女性、イルルだ。
しかし、クロッサはそんなこと気にせずに新聞をクシャクシャに丸めて、床に投げつけた。
「あの愚弟どもーー!!!!」
自分のことでは無いが、身内であるのでとても小っ恥ずかしい。
女装、正確には魔法による変身だが。
仕事を選ばないにもほどがある。
というか、女装癖に対してクロッサはあまりいい感情を持っていなかった。
脳裏に浮かぶのは、絶対に勝てない存在。
長男である。
長男は、男らしさとか羞恥という部分が壊滅している、とクロッサは信じて疑っていなかった。
こと、畑泥棒や盗賊退治の時に長男のウカノは、それはそれは楽しそうに美少女に姿を変え、どこで覚えたのかあまり教育にはよろしくない手練手管で、標的を骨抜きにして捕まえるという、方法を取っていた。
クロッサはそれに嫌悪感を示していたのだ。
ほかの兄、次男や三男は面白がっていたが、クロッサは全然面白くなかった。
むしろ、気持ち悪いと感じてしまうほどだった。
イライラと、クロッサは丸めた新聞を踏み潰した。
(母さんも母さんだ!!
弟や妹、兄貴達には甘くて全然注意しないじゃねーか!!!!
こういうこと叱れよ!!!!)
数年ぶりに実家への、というより母親への不満が爆発した。
というより、ぶり返した。
「あー!!!! むしゃくしゃする!!!!」
イルルは普段の冷静沈着な姿からは想像できない、というより初めてみるクロッサの姿に戸惑うばかりだ。
「イルル!!」
声をかけるべきか否か、イルルが迷っているとクロッサが怒鳴った。
「は、はい!!」
「俺宛に文は?
使者が来る予定は?」
「え、えと、今日はまだなにも」
イルルが答えた時だ。
屋敷の呼び鈴が鳴った。
クロッサが出てこいと、指示を出す。
イルルはすぐに玄関へと向かった。
そして、二分もしないうちに戻ってきた。
その手には、今しがた話題にした手紙があった。
クロッサはその手紙をイルルからひったくった。
そして、目を通す。
暗号文で書かれた、傍目には普通の時候の挨拶と近況報告が書かれているようにしか見えない手紙だ。
その本来の内容は、探させていた末弟、シンの行方についての報告だった。
そして、今しがた丸めて踏んづけた新聞の内容にも触れるものだった。
管轄と守秘義務の問題で、クロッサは知らなかったのだが。
どうやら、ミア姫に関してクロッサの上司である国王から暗殺の指示が出ているようだ。
そして、そのミア姫の護衛と影武者にクロッサの兄弟達が選ばれ、関わっているらしいことも書かれている。
あの、農民を人間とも思わない場所で、これは異例すぎることだった。
なによりも、クロッサの上司である帝国王。
その直属の暗殺者が送られたというのに、逆に返り討ちとなり死亡したというではないか。
暗殺者を返り討ちにしたのは、クロッサが最も苦手としている長男だ。
いや、まぁあの人ならそれくらいできるわ。
出来て当たり前だわ。
そう思ってしまった。
派遣された暗殺者は、運がなかったとしか言いようがない。
手紙によると、ウカノとシンは豪華客船に乗船し、とても大切な宝物を護衛中とのことだ。
下手に手を出せば上司に対する越権行為になりかねない。
様子見するしか無いだろう。
むしろ、シンに関しては、その仕事を終えて油断したところを誘拐してこいと指示を出すべきだろうか。
(無理だ)
なにしろ、シンの近くには長男がいる。
先日の件で、警戒していることは予想できる。
長男とタメを張れるのは、次男くらいだ。
次男なら、長男と喧嘩しても勝てる可能性が高い。
なぜなら、実家にいたころ2人が喧嘩して、次男が勝ったところを何度か見ているからだ。
家族旅行として、魔族領に招待するからと言えばたぶん、次男はクロッサのお願いを聞いてくれるはずだ。
次男は、新しい家族をとても大事にしている。
義姉の事も、そして子供たちのことも。
中々旅行にも連れて行けなくて、金がなくて、と婿に行ってから漏らしていたのも知っている。
「うぅ、嫌だけど。
兄ちゃんは頼りになるんだよなぁ、こういう時」
ちなみに、クロッサは、次男にさんざんっぱら泣かされていたのも忘れてはいない。
数年ぶりに、クロッサは次男へと普段は遮断している通信魔法を使って、連絡を取ったのだった。
その間、ずっと控えていてくれたイルルには下がるよう指示を出した。
イルルが下がってすぐのことだ。
『……どちらさまですか??』
警戒心丸出しの声が聞こえてきた。
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