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「魔族領に行く商隊、その護衛を依頼したい」
そんな依頼を、懇意にしている農業ギルドのギルドマスターから打診された。
「あー、まぁ、いいですけど。
なんで、俺なんです?」
そう返したのは、ヒュウガだった。
頭をポリポリと掻きつつ、ヒュウガはギルドマスターの言葉を待つ。
「いや、ほら、百姓一揆の時に君らのリーダーしてた子いたろ?
気にしてるかなって思って」
どうやら、この農業ギルドのギルドマスターも、この前のシンの資格剥奪に関しては思うところがあったらしい。
噂では、シンの取り調べをした刑事とその家族は、顔と名前を善意によってばら撒かれ、一家離散の危機に陥っているらしい。
というのも、シンがあちこちでこの刑事に対しての愚痴を言いふらしたことにあった。
英雄視、とまではいかないが、シンの行動はそれなりに農民出身者への待遇に影響を与えた。
それも、良くなる方向で。
少なからず恩義に感じていたもの達が、刑事とその家族のことを調べ、冷たく接するようになったのだ。
食べ物を買えたとしても、腐った生ゴミに近いものが出されるし。
外食しようとしても、まるで指名手配犯のような後ろ指をあからさまさに指される対応をされる。
モラハラとパワハラと村八分の合体技に、そうそう耐えられるものはいない。
やったことは返ってくるものだ。
そして、社会もそうだが、組織も彼に対して冷たかった。
詳しいことは臥せるが、トカゲの尻尾切りをされたのだ。
役所などに訴えても、役所と農業ギルドは繋がりがある。
だから、やろうと思えば別方向からこういった圧力と嫌がらせが出来るのである。
怖いのは、シンは一言もそれをやってくれ等と頼んでいないことだ。
彼の行動に恩を感じていたもの達が、善意で。
そして、元々この刑事に対して思うところがあったもの達は、これ幸いにと便乗した結果である。
そして、農業ギルド側も注意喚起と称して農業新聞を使って、シンがされた事を大々的に報じたのだ。
これによって、情報は一気に拡散されることとなった。
「気にしてるっちゃあ、まぁ、そうですけど。
でも、あの子、あのサートュルヌスの本家の子ですよ?
しかも、鬼神と称された伝説の狩人が嫁いで産んだ子供の一人だ」
「なんだ、知ってたのか」
「まぁ、最近知ったんですけど」
かつて、鬼神と呼ばれた少女がいた。
一人で、大量発生したドラゴンの群れを壊滅させ。
四十年前の王都が壊滅の危機に陥るほどの、スタンピードが起きた時にはわずか十歳でこれを壊滅させた。
さらに、当時魔族領のとある国が人間領へ戦争を仕掛けるために進撃してきた時には、兵によって実家の畑が無惨にも荒らされたために、村の者と結託して、この軍隊を全滅に追い込んだ。
十五歳で、家の都合でお見合いをさせられ、先祖に魔神がいたという眉唾な片田舎の、しかし、いろんな意味で有名なサートュルヌスの家に嫁入りした女性。
これがウカノやシンの母親である。
血筋と言ってしまえば、それまでだが。
シンはそんな、農民の間では、ある意味で有名な家の子だったりする。
「あそこの家はなぁ。
爺様と今の親父が、問題なんだよなぁ。
人間性が、ヤバいというか。
死んだ婆様も中々の豪傑だったけど。
この二人の手綱をそこそこ握ってくれたお陰で、余計なトラブルが減ったし」
「……盗賊しばき倒して、畑の肥料にしてたのは、消費者には伝えられませんしねぇ。
いえ、あの家だけじゃないですけど、それやってたの」
ちなみにドラゴン等の家畜の餌用の畑だ。
世の中、知らないでいれば幸せなことというのは、意外と多いのである。
「今の倅、ウカノさんに世代交代してからはだいぶマトモになったとは聞きましたけど」
「あー、ウカノ、ウカノなぁ。
うん、だいぶマシだな。
書類にはミスが無いし、野菜の質も向上した。
なによりも、爺様や親父のように怒鳴らないし、逆ギレしない。
けれど、絶賛家出して弟のところに転がり込んできたし」
「そんな家の子ですよ?
心配する意味は、無いですね」
「でも、気にはしてるだろ?」
「そこまでは」
「そうか、なら、この仕事はミナクに任せるか。
あの子は仕切りに気にしてたから、どうせなら三人でと考えてたんだ」
「あー、なるほど、引率をしろ、と。
そういうことですか。
それなら最初からそう言ってくださいよ」
そこまで言った時、ヒュウガは首を傾げた。
「三人??」
「そう、もう一人、かのドラゴン・スレイヤーのエリィ殿からも打診があってな。
農業ギルドから、自分のような高ランク冒険者向けの仕事は無いかって。
魔族領に行くような仕事がいい、と。
まぁ、ミナクを通しての打診だったが」
「あー、なるほど」
エリィは、高ランク冒険者故にここを離れることができない。
冒険者ギルドから高ランク冒険者向けの依頼を出されるためだ。
そして、彼女がシンに肩入れしてることは有名である。
なら他からの仕事を受けて、シンを追いかける大義名分を手に入れようとしたのだろう。
もしくは、ミナクがシンのことを気にしていた点から考えると、彼女がエリィを巻き込んだか。
「良いですよ。俺としても、魔族領には興味がありますし」
彼なりに色々考えた末、ヒュウガは依頼を受けることにしたのだった。
「魔族領に行く商隊、その護衛を依頼したい」
そんな依頼を、懇意にしている農業ギルドのギルドマスターから打診された。
「あー、まぁ、いいですけど。
なんで、俺なんです?」
そう返したのは、ヒュウガだった。
頭をポリポリと掻きつつ、ヒュウガはギルドマスターの言葉を待つ。
「いや、ほら、百姓一揆の時に君らのリーダーしてた子いたろ?
気にしてるかなって思って」
どうやら、この農業ギルドのギルドマスターも、この前のシンの資格剥奪に関しては思うところがあったらしい。
噂では、シンの取り調べをした刑事とその家族は、顔と名前を善意によってばら撒かれ、一家離散の危機に陥っているらしい。
というのも、シンがあちこちでこの刑事に対しての愚痴を言いふらしたことにあった。
英雄視、とまではいかないが、シンの行動はそれなりに農民出身者への待遇に影響を与えた。
それも、良くなる方向で。
少なからず恩義に感じていたもの達が、刑事とその家族のことを調べ、冷たく接するようになったのだ。
食べ物を買えたとしても、腐った生ゴミに近いものが出されるし。
外食しようとしても、まるで指名手配犯のような後ろ指をあからさまさに指される対応をされる。
モラハラとパワハラと村八分の合体技に、そうそう耐えられるものはいない。
やったことは返ってくるものだ。
そして、社会もそうだが、組織も彼に対して冷たかった。
詳しいことは臥せるが、トカゲの尻尾切りをされたのだ。
役所などに訴えても、役所と農業ギルドは繋がりがある。
だから、やろうと思えば別方向からこういった圧力と嫌がらせが出来るのである。
怖いのは、シンは一言もそれをやってくれ等と頼んでいないことだ。
彼の行動に恩を感じていたもの達が、善意で。
そして、元々この刑事に対して思うところがあったもの達は、これ幸いにと便乗した結果である。
そして、農業ギルド側も注意喚起と称して農業新聞を使って、シンがされた事を大々的に報じたのだ。
これによって、情報は一気に拡散されることとなった。
「気にしてるっちゃあ、まぁ、そうですけど。
でも、あの子、あのサートュルヌスの本家の子ですよ?
しかも、鬼神と称された伝説の狩人が嫁いで産んだ子供の一人だ」
「なんだ、知ってたのか」
「まぁ、最近知ったんですけど」
かつて、鬼神と呼ばれた少女がいた。
一人で、大量発生したドラゴンの群れを壊滅させ。
四十年前の王都が壊滅の危機に陥るほどの、スタンピードが起きた時にはわずか十歳でこれを壊滅させた。
さらに、当時魔族領のとある国が人間領へ戦争を仕掛けるために進撃してきた時には、兵によって実家の畑が無惨にも荒らされたために、村の者と結託して、この軍隊を全滅に追い込んだ。
十五歳で、家の都合でお見合いをさせられ、先祖に魔神がいたという眉唾な片田舎の、しかし、いろんな意味で有名なサートュルヌスの家に嫁入りした女性。
これがウカノやシンの母親である。
血筋と言ってしまえば、それまでだが。
シンはそんな、農民の間では、ある意味で有名な家の子だったりする。
「あそこの家はなぁ。
爺様と今の親父が、問題なんだよなぁ。
人間性が、ヤバいというか。
死んだ婆様も中々の豪傑だったけど。
この二人の手綱をそこそこ握ってくれたお陰で、余計なトラブルが減ったし」
「……盗賊しばき倒して、畑の肥料にしてたのは、消費者には伝えられませんしねぇ。
いえ、あの家だけじゃないですけど、それやってたの」
ちなみにドラゴン等の家畜の餌用の畑だ。
世の中、知らないでいれば幸せなことというのは、意外と多いのである。
「今の倅、ウカノさんに世代交代してからはだいぶマトモになったとは聞きましたけど」
「あー、ウカノ、ウカノなぁ。
うん、だいぶマシだな。
書類にはミスが無いし、野菜の質も向上した。
なによりも、爺様や親父のように怒鳴らないし、逆ギレしない。
けれど、絶賛家出して弟のところに転がり込んできたし」
「そんな家の子ですよ?
心配する意味は、無いですね」
「でも、気にはしてるだろ?」
「そこまでは」
「そうか、なら、この仕事はミナクに任せるか。
あの子は仕切りに気にしてたから、どうせなら三人でと考えてたんだ」
「あー、なるほど、引率をしろ、と。
そういうことですか。
それなら最初からそう言ってくださいよ」
そこまで言った時、ヒュウガは首を傾げた。
「三人??」
「そう、もう一人、かのドラゴン・スレイヤーのエリィ殿からも打診があってな。
農業ギルドから、自分のような高ランク冒険者向けの仕事は無いかって。
魔族領に行くような仕事がいい、と。
まぁ、ミナクを通しての打診だったが」
「あー、なるほど」
エリィは、高ランク冒険者故にここを離れることができない。
冒険者ギルドから高ランク冒険者向けの依頼を出されるためだ。
そして、彼女がシンに肩入れしてることは有名である。
なら他からの仕事を受けて、シンを追いかける大義名分を手に入れようとしたのだろう。
もしくは、ミナクがシンのことを気にしていた点から考えると、彼女がエリィを巻き込んだか。
「良いですよ。俺としても、魔族領には興味がありますし」
彼なりに色々考えた末、ヒュウガは依頼を受けることにしたのだった。
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面白いですね 新しい作品を今年、投稿されていますから、この作品が昨年で終わっていますが、更新される日を御待ちします
ありがとうございます(*^^*)
A・l・m
魔力アップは小さい頃、だいたい五歳前後までという裏設定があったりします。
なので、それまでに同じことをすれば誰でも魔力を上げることができます。
主人公たち農民に関しては、まぁ、異民族ってことにしといてください。(笑)
何せ、姓もサートュルヌスですからねぇ。