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1章 義妹と書いて偽妹と読む
作戦を聞かない人は英雄か戦犯のどちらか
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元いた場所に戻ってきた。
ビルが建っていたはずの場所には残骸しか残っておらず、瓦礫の山には全身にヒビが入ったエネミーが瓦礫の上で佇んでいた。ただそこに立っているだけなのに、その雰囲気はまるで散っていた戦士たちに祈りを捧げているようにも見える。
エネミーがこの戦場に降り立った時もそうであった。
すぐに敵に襲いかかるわけではなく、しばらくその場で待機していた。
動き始めたのは、プレイヤーに攻撃を受けてからだった。
これらから二つの仮定が考えられた。
一つは反撃型のプログラムであること。
もう一つは、知性を持っていること。
どちらも記憶喪失などという非科学的なものが混ざると信憑性は落ちるが、その特性のいずれかを持っていると思って間違いなさそうだ。
エネミーの首が動き、近づいた俺を視界に収める。
そのまま空を切るように鉤爪を振るう。まるで「戦闘を開始する準備はできたか」とでも言っているかのようだった。
「お前さ、俺の言葉が理解できているのか?」
問いかけた。
エネミーは言葉を返すことはしなかったが、棒立ちに戻り、話を聞く姿勢を持ってくれた。
後者が正解だったようだ。
「記憶喪失者を大量に作ることが目的か? 俺の妹が目的か? 後者だったら戦う意志を見せてくれ」
エネミーは二度、三度、鉤爪を宙空に振るい、姿勢を低くする。
「……最悪だな」
次の瞬間、俺たちはぶつかった。
エネミーが目にも止まらぬ速さで眼前に移動し、横なぎするように鉤爪を振るう。
シールドを幾重にも張り、その全てを犠牲にして、その一撃を防ぐ。
同時に相手の胸部に餞別として譲り受けた刃を突き立てた。刃が触れると刀身全身が振動し、深く、より深くへ入り込んでいく。高周波カッター、いや高周波ブレードとも呼ぶべきものであると理解した。
桜庭の機転によってビル倒壊に巻き込まれ、ヒビだらけだった体。
そこに刃が突き刺さったことで胸部装甲が崩れ落ちていく。そこから現れたのは青白くゆらめくエネルギーの塊のようなものだった。
そこを破壊すれば勝てる。
確信めいたものがあった。
だが、それを確かめる前にもう片方の鉤爪が俺を襲う。
エネミーもなりふり構わなかったのか雑な一撃。爪ではなく手のひらがぶつかり、俺は遠く吹き飛ばされて壁に衝突する。どうにか一命を取り留めるダメージ。その程度で済んだ。
エネミーは刃が突き刺さったまま、俺にトドメを刺すため、眼前に移動する。
俺の手元に武器はない。吹き飛ばされた時に落としてしまったようだ。
エネミーはゆっくりと鉤爪を高く振り上げる。
俺は手で銃の形を作り、エネミーに向ける。
「俺の妹はな両親から愛されて育った。愛され過ぎて増長するぐらいには愛された」
エネミーは最後の言葉と思ってか、鉤爪は高い位置を維持したまま振り落とさない。
「だから俺の言うことなんて全く聞く気がない」
次の瞬間、俺とエネミーの間で爆発が起きた。
声が聞こえる。
どこぞで拾ったロケットランチャー担いだ妹が高台に見えた。。
「っしゃぁ! 倒したでしょこれ!」
アイドルがしてはいけない声がした。
気を取り直し、エネミーに視線を戻す。
装甲が剥がれた箇所にモロに爆風を喰らい、全身の装甲が崩れ落ち、刀は貫通していた。片膝立ちになり、体力の底も近そうであった。
「しぶとい! もう一発!」
妹がトドメを刺すため、ミサイルランチャーを構え直す。
だが、それが放たれることはなかった。
エネミー背後に虚空が現れ、吸い込まれていったからだ。
残された俺と妹に勝利のファンファーレが響き渡った。
ビルが建っていたはずの場所には残骸しか残っておらず、瓦礫の山には全身にヒビが入ったエネミーが瓦礫の上で佇んでいた。ただそこに立っているだけなのに、その雰囲気はまるで散っていた戦士たちに祈りを捧げているようにも見える。
エネミーがこの戦場に降り立った時もそうであった。
すぐに敵に襲いかかるわけではなく、しばらくその場で待機していた。
動き始めたのは、プレイヤーに攻撃を受けてからだった。
これらから二つの仮定が考えられた。
一つは反撃型のプログラムであること。
もう一つは、知性を持っていること。
どちらも記憶喪失などという非科学的なものが混ざると信憑性は落ちるが、その特性のいずれかを持っていると思って間違いなさそうだ。
エネミーの首が動き、近づいた俺を視界に収める。
そのまま空を切るように鉤爪を振るう。まるで「戦闘を開始する準備はできたか」とでも言っているかのようだった。
「お前さ、俺の言葉が理解できているのか?」
問いかけた。
エネミーは言葉を返すことはしなかったが、棒立ちに戻り、話を聞く姿勢を持ってくれた。
後者が正解だったようだ。
「記憶喪失者を大量に作ることが目的か? 俺の妹が目的か? 後者だったら戦う意志を見せてくれ」
エネミーは二度、三度、鉤爪を宙空に振るい、姿勢を低くする。
「……最悪だな」
次の瞬間、俺たちはぶつかった。
エネミーが目にも止まらぬ速さで眼前に移動し、横なぎするように鉤爪を振るう。
シールドを幾重にも張り、その全てを犠牲にして、その一撃を防ぐ。
同時に相手の胸部に餞別として譲り受けた刃を突き立てた。刃が触れると刀身全身が振動し、深く、より深くへ入り込んでいく。高周波カッター、いや高周波ブレードとも呼ぶべきものであると理解した。
桜庭の機転によってビル倒壊に巻き込まれ、ヒビだらけだった体。
そこに刃が突き刺さったことで胸部装甲が崩れ落ちていく。そこから現れたのは青白くゆらめくエネルギーの塊のようなものだった。
そこを破壊すれば勝てる。
確信めいたものがあった。
だが、それを確かめる前にもう片方の鉤爪が俺を襲う。
エネミーもなりふり構わなかったのか雑な一撃。爪ではなく手のひらがぶつかり、俺は遠く吹き飛ばされて壁に衝突する。どうにか一命を取り留めるダメージ。その程度で済んだ。
エネミーは刃が突き刺さったまま、俺にトドメを刺すため、眼前に移動する。
俺の手元に武器はない。吹き飛ばされた時に落としてしまったようだ。
エネミーはゆっくりと鉤爪を高く振り上げる。
俺は手で銃の形を作り、エネミーに向ける。
「俺の妹はな両親から愛されて育った。愛され過ぎて増長するぐらいには愛された」
エネミーは最後の言葉と思ってか、鉤爪は高い位置を維持したまま振り落とさない。
「だから俺の言うことなんて全く聞く気がない」
次の瞬間、俺とエネミーの間で爆発が起きた。
声が聞こえる。
どこぞで拾ったロケットランチャー担いだ妹が高台に見えた。。
「っしゃぁ! 倒したでしょこれ!」
アイドルがしてはいけない声がした。
気を取り直し、エネミーに視線を戻す。
装甲が剥がれた箇所にモロに爆風を喰らい、全身の装甲が崩れ落ち、刀は貫通していた。片膝立ちになり、体力の底も近そうであった。
「しぶとい! もう一発!」
妹がトドメを刺すため、ミサイルランチャーを構え直す。
だが、それが放たれることはなかった。
エネミー背後に虚空が現れ、吸い込まれていったからだ。
残された俺と妹に勝利のファンファーレが響き渡った。
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