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2章 アンチもいれば信者もいる男

将来的に必要な素質だけどすぐには使わない素質

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 妹の方はというとネットアイドルとして波に乗り始めていた。

 生前からアバターの見た目も良く、トーク力もあって、それなりに人気があったらしい。だが盛り上がり方が今一つで流行らなかった。目ざとい人だけが今後来るのではないかと目をつけていた、というのは本人談。聞いた時は実際のところはどうだったのだろうかと疑った。もっとも現実の身体を失ったことで半年間のブランクが生まれて、配信者界からフェードアウトしたものだと思われていたらしく、数少ない視聴者からもチャンネル登録から外されていたりしたらしい

 それが半年ぶりの電撃復帰、復帰後第一回目の配信がプロゲーマーサクラバとのコラボ、その配信で数合わせと思われていた兄がリスナーに喧嘩を売って祭りが起き、仕方なく急遽行うことになった大会でエネミーが出現、それを倒し英雄となる。

 これで波に乗らない方が嘘というものだ。

 日々増える登録者数を気持ち悪い笑みを浮かべて俺に見せつけてくる妹は、以前のダル絡みしてくる妹のまんまだった。姿形が変わっても、ファンが増えても、何一つ成長を見せなかった。

 とまあ、ここまでならば盛り上がり方としては普通である。

 普通じゃない盛り上がり方もしていた。

 妹に現実の身体があった頃から目をつけていた有識者(どうやら本当にいたらしい)が、ここまで人気になったことが嬉しくて、ある動画を作った。

 それは大会のアーカイブから妹の見せ場を切り抜いたものだ。

 もっとも妹の見せ場は、シオミンを打ち抜いた所とエネミーにミサイルランチャーを打ち込んだ所の二つ。

 それをクールな音楽にのせて、ループする中毒性の高い動画だ。

 ぶっちゃけるとMADだ。

 さらに言ってしまうとミサイルランチャーを打ち込んだところが悪い意味で出来が良かった。

「っしゃぁ! 倒したでしょこれ!」

 この発言が流行り、ネットミームにまで発展した。

 敵を倒せば「っしゃぁ! 倒したでしょこれ!」

 敵が倒していないとわかっていても「っしゃぁ! 倒したでしょこれ!」

 ネット討論で論破も何もしてなくても「っしゃぁ! 倒したでしょこれ!」

 意味は分からずとも「っしゃぁ! 倒したでしょこれ!」

 妹を見かけたら「っしゃぁ! 倒したでしょこれ!」

 食傷気味な流行り方をしていた。

 さすがにネットアイドルとして、正統派な盛り上がり方をしていないことに危機感を覚えた俺は妹に「この流行語、どうにかした方がブランディング的によくないか?」と提言した。

 これに対し妹は「ネットアイドルなんて目立ってなんぼだし、気にしてないよ。てかこのブーム経験したおかげで一皮向けた気がすんね」と無い胸を張った。

 昔は人の背後に隠れがちだった妹が、いつのまに肝が据わっていた。

 そこらのアイドルにも負けない肝の据わり方であった。

 ただ、バラドル寄りな肝の座り方な気がした。
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