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5章 平等な戦い

時代を超えても語り継がれる逸話

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 アンジェラを再び部屋にあげた。もっとも最初は不法侵入なため、招く形は初となる。

 妹は再度邂逅したアンジェラに「塩まけ! 塩!」などと騒ぎ出す。たしかにオカルト的な存在ではあるが、神様になろうという存在に清めの塩は効くのだろうか。むしろ、穢れがさっぱり落ちてより神性が増しそうな感はある。寝起きに馬乗りするような穢れなら落ちてくれた方がいいまである。

「アンジェラ、どうやって俺が呼ぼうとしたタイミングがわかったんだ?」

 本題に入る前に訊いた。

「乙女の秘密……と言いたいところだけど、妹さんの機嫌をこれ以上損ねるのはよくないわね」

 騒ぐ妹をアンジェラがちらりと見てそう言った。

「昨日の戦いの前におでこに指をあてたでしょう。戦う力を与える以外にもあたしの在り方を変えたの。有り体に言うと、魂で繋がったってことね。だから、近くにいて欲しいと願われればそれがあたしにすぐ伝わるのよ」

 妹がそれを聞いて怪訝な顔をする。

「無断でやったってことはそれ盗聴器仕掛けたようなもんじゃん」

「せめて防犯カメラって呼んでほしいわ」

「知ってる? 防犯カメラもプライベートを守る必要があるんだけど」

「神に人の理屈なんて関係ないわ」

「その人様が作ったものの神になろうとしてるくせによく言えますねぇ!」

 画面越しのやり取りでなければ今にも取っ組み合いを始めそうな二人。半神同士の二人からすると対立するのは真っ当であるのだが、その内容があまりにも幼稚過ぎる。どうせ争うのならば人類の今後とかで対立して欲しい。

「二人ともストップだ。喧嘩ならあとでやってくれ」

 不毛な議論に疲れたのか二人は俺の言葉に従う。

「アンジェラ、樹神さんから会って相談したいと連絡があった。会ってくれるか?」

 嫌そうな顔をされる。

「嫌なのか?」

 そう問いかけるとアンジェラは頷いた。

「好き勝手やってる手前、顔を合わせにくいの」

 妹と冗談で話していた「優等生だった子がグレて、恩師に顔を合わせにくいから逃げ回ってる」説がまさかの正解だった。

 妹に視線を遣ると悪いことを思いついた顔をしていた。これはアンジェラにやり返す起点を見つけた顔であった。悪意がある顔であった。ここでまた騒がれては進む話も進まない。機先を制するために先に口を開く。

「メインはエネミー討伐作戦のことだと思うが、他にも気になることがあるとも言っていた。俺に聞かなかったことを見るとアンジェラじゃないとわからないことだったりするんじゃないか?」

 妹がじっとりとした視線で何かを訴えてくる。せっかくのチャンスを潰されたことを訴える目だ。その視線を睨んで打ち返し、「邪魔するな」という言葉も添えた。

 アンジェラは指に金髪を巻く。しばし考え込み、嘆息を漏らす。

「わかったわ。天樹会に行くときは呼んでね」

「ああ、感謝する」

「仕方ないわ。神様から御指名を受けたと思うことにするわ」

 そう言ってアンジェラは強がった。

 嫌々というのが伝わるぐらいの強がりようであった。

 それは俺の話が終わったことを告げるもので、妹という名の狂犬が「待て」から解き放たれるものであった。

 今日何度か目となる口喧嘩大会が始まるのであった。

 俺は我関せずを突き通す。そこで小腹が空いたことに気付き、素パスタを作り、それを喧嘩する二人を眺めながら食した。

 気分は愛人同士の殴り合いを眺めながらゲルニカを描くピカソのようであった。
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