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6章 一転

名は体を表す。逆もまた真なり

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「あ、せや修行の方どやった?」

 樹神さんは背中から離れるとそう訊いてきた。

 俺の力が開闢の鬼道なのではないかということを伝えると、樹神さんは困った顔をする。

「それ知っとる人も神も、もう地上に残ってる人おらんのよ」

「……我流で頑張るしかないってことですか?」

 その問いに樹神さんは腕を組み、目を瞑る。

「やるしかないか……? いや、でもなぁ」などと一人口にしては自分で否定を行う。それを何度か繰り返し、覚悟を決めた顔をする。

「決めた! ウチが修行見たる!」

 その覚悟はありがたい。我流でどうにかするより百倍はマシだろう。ただ渋っていた分だけ不安に感じてしまう。その気持ちを感じていたのは北御門も同じだったようで、不安げな視線を向けていた。

「……会長、大丈夫ですか?」

 北御門の心配に、樹神さんの顔は渋くなるも耐えきって「なんとかなるやろ!」と強がってくれた。

「今から修行場行くで!」

 俺らの不安を払拭するべく樹神さんは俺の腕を引いて部屋から出た。北御門も仕方ないとゆっくり追いかけてくる。そんな北御門に樹神さんは「壊れていい修行用の道具持ってきてー」と別行動を命じた。

 修行場に戻る道の途中、樹神さんは「そういや、あのクソガキの身元判明したで」と唐突に話を切り出した。

 クソガキとはアンジェラを殺した奴のことである。

 禁忌を犯してから妖怪や精霊などへの聞き取り調査を行っていたのが、ようやく実を結んだらしい。決め手は討伐作戦が全国区で放送されたこと。これによって奴本人の姿が確認できたことが大きかった。

 奴は親しい友人にケイオスと名乗っていた。

 名乗り。

 それは自分の方向性を行為であり、己の在り方を縛る行為である。奴はカオス――混沌を自分の在り方に定めた。その親しい友人の推察では、神が直接統治に関わらない風潮をつまらなく感じていたのではないかという。大昔、神の気まぐれで人のほとんどが死に絶えたことがある時代を取り戻したいのではないかとのことであった。

 現在、電脳世界を用いていない国はない。

 それを掌握する神になるということは、文字通り気まぐれで人を殺せる存在になれるだろう。

 何故そうなりたいのかは不明だ。

 一つ確かだったのは、アンジェラのことを昔から敵視していたこと。

 それが友人の口から明らかになった。

「何故自身をケイオスと名乗ったのだと思いますか?」

 神としての意見を確認したかった。奴が目指すのが神ならば、その神の座に君臨している樹神さんなら、何か俺とは異なった視点で事件を俯瞰している可能性があったからだ。

「わからんなぁ」

 お手上げだと言わんばかりに肩を竦められた。

「……樹神さんはどうやって神になったのですか?」

 話題を変えてみる。神に至る経験談から何かに繋がる可能性を探ってみようと考えた。

 樹神さんはこちらの意図を察して訳知り顔をするも「なんも参考にならへんと思うけどな」と苦笑する。

「なら大丈夫です」

 無駄話しても仕方ないなと思い、そう返したらヘッドロックかけられて、握り拳で頭にぐりぐりと押し付けられる。

「そこは是非聞かせてください、やろ! 心の中でどう語ってやろうか考えてたんやで!」

 そして樹神さんは勝手に語り始めた。

 ヘッドロックをかけたまま。
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