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8章 神と巫女

巫女契約

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「あの子達はあの子達で大変なことになっとる」

 樹神さんは遠く哀れむような目をして教えてくれた。

 あのライブのあと、観客たちに箝口令を敷いた。あの場であったことを口外しないように誓約書まで書かせた。だがその直後にメディアジャックが発生。ケイオスの襲撃を見ていた彼らのうちの誰かが「映像も流れたからもう隠す必要なくね?」と思ったらしくあの場であったことを漏らした。それが証言となって、ケイオスが流した情報は無加工だと知れ渡る。その事実は界隈に広がり、それを知ったまた別の観客の一人が「実は……」とさらに詳しく語る。それを繰り返し、あの場であったことはより鮮明に、情緒的に、センセーショナルに広まった。

 妹が神としては目覚めたこと。

 それは世界共通の事実となった。

 また、神として目覚めた妹と光の線で繋がった汐見とカレンさんも何かしらの神ではないかと考察がされていた。状況が加熱し、手を付けられなくなっては困ると考えた汐見が自己判断で「状況が落ち着くまで新たな情報の共有はできない」と矢面に立って盛り上がる界隈を牽制したともいう。

 汐見がそこまでする理由として、あの戦いを見た妹のファンがカルト宗教を立ち上げた情報をいち早く察知したからだという。何を持ってカルトとするかは議論が分かれるところであるが、あんなあんぽんたんを神として崇めようというのだからカルト宗教に違いない。

 汐見もファンクラブ以外でそういう私設団体は非公式であるといって、認めない声明を出した。

 だがあろうことかそういう団体は一つではないらしい。

 しかもファン以外でもそういう動きがあるという。

 誰がそういう動きをしているのかといえば信仰する対象の不在を知った宗教団体だ。

 古くから続く宗教も新興宗教も問わず新たな神にすがり始めた。

 妹に、舞香にすがり始めたのだ。

 彼らの救いを求める声は信仰となり、妹に集まる。

 妹は今までとは比べ物にならない信仰の量に、ライブ後からずっと取り込むのに必死でそれ以外のことをしている余裕はないらしい。

 加えて問題がもう一つ。いや、問題と呼ぶには敷居は低く、されど無視することもできない程度の厄介さを持つ話。

 汐見とカレンさんについてだ。

 あのライブの中、彼女らの身体が微光を発し、それが線になって妹に流れていた。あの現象がなんなのか。樹神さんは頭を抱えて教えてくれた。正確にはあの現象を引き起こせる関係性について。

 あれは神と巫女と呼ばれる神使が行える力の譲渡。

 ライブのあの場面は、妹が一人で受け止めきれない信仰を汐見とカレンさんを媒介にして妹に流していたらしい。皆が無我夢中でどうにかしようともがいたこと、妹が天性の才覚を使ってしまえたことが上手いこと一致して繋がったんだろうとのことだ。

「んで問題はここからやねんけど、いつ巫女契約したんや? どーせ何か知っとるんやろ?」

 人を真犯人みたいに言わないで欲しい。

 そもそも巫女契約とはなんのこっちゃである。

「互いを認めるとか、一生をかけた友だとかそういう精神的な繋がりとか、何かしらの決めごととかあったやろ? それがキッカケなんやけど」

 しばし考え込む。

 ここしばらくの間にあのユニット三人が集まる機会なんて――あった。

「ユニットを組む時、三人で一蓮托生とか言ってましたね……」

「……あーそれやろなぁ」

「あんな口約束で巫女になるなんてあっていいんですか」

「本来はないんやけど、ほら初心者だからテキトーなボタン押したらそれが巫女契約だった……みたいな感じやろなぁ」

「……でもあの二人が巫女で何か問題でも?」

「本当はよその神さんが将来巫女となるように育てたエリートを融通してもらう予定やったんや。そんなんでもせな、ぎょうさん飛んでくる信仰を捌ききれんから」

「あーつまりあの三人は今大変な目に遭っていると」

「汐見はたまにファン対応で抜けるからたまに二人のこともある」

「沢山の人に祈られているのに、祈られた側は地獄って救えないですね」

「神様を救ってくれる神様が欲しいわ、ホンマに」

「神様が一番救われないって酷い現実ですね」

「君ん中に住み着いた子が一番の勝ち組かもしれんな」

 から笑いの後、樹神さんはついにソファからずり落ちて床に横たわる。

「もうこのまま寝るから飯時なったら起こしてな」

 そう言ったら待機していた北御門にタオルケットを掛けられていた。

「あ、そうそう。良いライブだったって伝えておいて。ユニット名はヒマワリやっけ? あとで由来とか教えてな」

 そう言ってすぐに寝息が聞こえてきた。

 相当限界だったらしい。

 その後、小一時間は頑張ってくれた樹神さんにユニット名がヒマワリに至るまでのクソみたいな経緯を伝えるべきかどうかで頭を抱える羽目になった。

 半年後に備える日々の始まりはそんなどうでもいい悩みから始まったのであった。
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