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10章 巻き込まれた兄の話

長男だから

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 それから妹と少しばかりの時間を話し、通話を終えた。

 妹の馬鹿さ加減に笑みが溢れ、ふと零した言葉に理解が得られ、心安らかな時間だった。この半年はいつも何かに追われているような焦燥感があった。

 だから、最期にこうして話せたのは良かった。無視しなくてよかった。

 妹が自分進むべき道を自覚でき、一人前になれる手助けができたのならもうこれ以上望むべくもない。

 この戦いは結果はどうであれ結末は決まっている。

 妹は神になる。

 だからこそ妹は日の当たる場所で綺麗に咲いて欲しい。

 それが兄としての望みであり、責務であった。

 こうして最期に話せ、それは叶った。

 心残りは活躍する姿を見られないことだろう。

 そう思ったら、なんだか可笑しくて笑ってしまった。

 元々妹を元の生活に戻すべく頑張っていたのに今では妹がアイドルで神様を努めることに違和感を覚えていない。才能を目の当たりにし、人として成長した妹ならばできると確信しているからだ。

 それに俺ら兄妹の名は世界中に知られた。もはやどうあっても普通の女子高生に戻れる情勢ではない。ならばこそ権威を身につけ、危険から遠ざかって欲しいと願うのは当然だろう。面倒ごとは権威があればあるだけ増えるだろうが、それで身を守れるのなら安いものだ。保険とか友達料みたいなものだろう。

 俺が以外で打算無しに妹を守ろうとする者がいればそいつに任せてもよかったのだが。

「せめて恋人の一人でもいればなぁ……」

 このボヤキは誰にも届かない。

「ま、アイドルデビューしたての奴が恋人作るのはさすがにマズいか」

 カレンさんには恋人と呼べるのか怪しい幼馴染はいたが。半年以上会ってないなら自然消滅として扱われ、他所で恋人作っても文句は言えないだろう。それもわかっているからこその先日の嘆きだったのだろうか。

 出撃準備室の宙空に三十秒のカウントダウンが表示された。

「……時間か」

 使う能力の選択が画面が表示される。

 以前は直前まで能力選択に悩み、妹が勝手に選択しようとするのを阻止しして、勢いで能力を選択していた。

 今回は余裕をもって選択。それも二つ。

 成長だ。

 妹の成長に比べると鼻で笑われるようなものだが。

 残り二十秒。

 そう言えば前は残り十秒でシオミンが大会の抽選に通ったかどうかを慌てて確認していた。我が女神が通っていないわけないと信じつつも、慌てて確認していた。今回は俺一人しか参加しないため気楽なものだ。

 そして抽選が通ったのを確認してシオミンに殺されようと画策していた。

 そのチャンスを自ら選択した能力で棒に振り、今や女神となろうとしている妹が我が女神を殺したのであった。

 今や笑い草である。

 残り十秒。

 似合わない震えが肌を走る。

 武者震いだと自らに言い聞かす。

 実態のない影が視界の中で陽炎の如く揺らめく。

 この戦いで解放せよと言わんばかりに鼓動が早くなる。

 残り三秒。

 深く息を吸い込む。

 残り二秒。

 軽く吐く。

 残り一秒。

 影に告げる。

「殺すつもりで来い」

 試合が始まった。
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